英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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第9話
ル=ロックルでの訓練を終えたエステル達はリベールの王都――グランセルに到着した。
~グランセル国際空港~
「ふ~。半日以上、飛行船に乗ってたらさすがに疲れちゃったねぇ。早速、訓練終了と帰還の報告をギルドにしに行こっか?」
定期船から降りたアネラスはエステルとミントに提案した。
「………………………………」
「ママ?」
「エステルちゃん?」
放心状態になっているエステルを見て、ミントとアネラスは首を傾げて尋ねた。
「う、うん……。そうよね。エルナンさんに挨拶しなきゃ。」
2人に声をかけられたエステルは我に返って答えた。
「えっと……もしかして。エステルちゃん、緊張してる?」
「う、うん、何でかな……。訓練に行く前はそんなこと感じなかったのに……。これから本格的に正遊撃士として動くと思うと何だか落ち着かなくって……」
アネラスに尋ねられたエステルは恥ずかしそうにしながら答えた。
「そっか。多分それは……武者震いなんじゃないかな。」
「む、武者震い?」
「エステルちゃんはこの一月の訓練で強くなった。それは、力だけじゃなくて知識とか慎重さとか判断力とかそういうものも含めてだと思う。謎の組織の陰謀を暴いてヨシュア君を連れ戻す……。たぶん、そのことの大変さが前より見えてるんじゃないかな?」
「あ……。うん。言われてみればそうかも。はあ……マヌケだわ。登ろうとする山の高さが見えてなかった登山者みたい。」
「ママ…………」
アネラスの説明を聞き溜息を吐いているエステルを見てミントは心配した。
「登る気、無くしちゃった?」
「ううん!やる気だけは前以上かも。どんな山だって、結局は一歩一歩登るしかないんだし。たとえ這ってでも頂上を目指してやるんだから!」
「ミントも一緒にがんばるね!ママ!」
「ありがとう、ミント。」
「ふふっ、その意気だよ。それじゃあ、ギルドに報告に行こうか?」
「うん、了解!」
「はーい!」
そして3人はギルドに向かった。
~遊撃士協会・グランセル支部~
「そうですか……。3人ともご苦労さまでした。では、訓練の評価と合わせて報酬をお渡ししましょう。」
3人の報告を聞き、頷いたエルナンは以外な事を言った。
「え?訓練なのに報酬なんてもらっていいの?」
訓練をしただけで報酬をもらった事にエステルは首を傾げて尋ねた。
「ええ、これも仕事の一環ですからね。もちろん、その分の活躍は期待させてもらいますよ。」
「あはは……頑張ります。」
「ミント、ママ達に早く追いつくよう、一杯頑張るね!」
そして3人は査定を受け、報酬を受け取った。
「どうやら、充実した訓練期間だったようですね。」
「うん!本当に勉強になっちゃった。」
「また機会があったらぜひとも利用したいですね。」
「ミント、遊撃士に必要な事、一杯覚えたし前より強くなったよ!」
エルナンの言葉にエステル達はそれぞれ自分自身が成長した事を実感している事を嬉しそうに話した。
「ふふ、それは何よりです。そういえば、クルツさんたちは訓練場に残ったそうですね?」
「うん、カルナさんたちと上級者向けの訓練をするらしいわ。しばらく帰って来れないみたい。」
「でも、正遊撃士が3人も国外に行ったきりだもんねぇ。これから猛烈に忙しくなりそう。カシウスさんも、もう本格的に王国軍で働いているんだったよね?」
エステルの説明に頷いたアネラスはカシウスに対しての事情を一番知っているエステルとミントを見た。
「あ、うん。確か、レイストン要塞勤務になるって聞いたけど……」
「お祖父ちゃん、前より偉くなったってミントに自慢してたよ!」
「へ?何それ??初耳よ。…………全く父さんったら、あたしには言わない癖にミントには話すってどういう了見よ………」
ミントの話を聞いたエステルは驚いた後、呆れて溜息を吐いた。
「カシウスさんは、准将待遇で軍作戦本部長に就任されました。実質上、現在の王国軍のトップとも言えるでしょうね。」
「ぐ、軍のトップ!?それって今だとモルガン将軍じゃないの!?」
エルナンの話を聞いたエステルは軍でのカシウスの待遇に驚いた。
「当初はその予定だったそうですが将軍ご自身の意向で、カシウスさんに権限が集中する体制になったそうです。将軍としては、若いカシウスさんに王国軍の未来を託したいんでしょうね。」
「うーん……。あんまり実感湧かないわねぇ。」
「ふわ~…………お祖父ちゃんって、本当に凄いね!」
エルナンの話を聞き、普段のカシウスの姿を知っているエステルはカシウスが軍のトップである姿が思い浮かべず唸り、ミントははしゃいだ。
「あはは、カシウスさんならそれもアリって感じがしますけど。ただ、これでますますギルドの戦力が低下しますねぇ。」
「まあ、以前よりもさらに軍の協力は得られそうですが……。ただ、今の我々には新たに警戒すべき事があります。」
「え……」
「それって……。やっぱり『結社』のことよね。もしかして、何か動きがあったの?」
気になる情報が出て来て、エステルは真剣な表情で尋ねた。
「いいえ、今のところは。ただ、ここ1ヶ月の間、奇妙なことが起こっていましてね。たとえば……各地に棲息する魔獣の変化です。」
「魔獣の変化……」
「具体的にはどういう事ですか?」
「…………………」
エルナンの話を聞いたエステルは驚き、アネラスは尋ね、ミントは手帳に聞いた情報を書く準備をした。
「まず、今まで見たことのないタイプの魔獣が各地で現れました。さらに、既存の魔獣も今までよりはるかに手強くなっているそうです。今のところ、原因は判明していません。」
「そ、そんな事があったなんて……。『結社』っていうのが何かしたって事なんですかっ!?」
「いや、結論するのは現時点では早計でしょうね。ただ、女王生誕祭を境にして何かが起こり始めている……。それは確実に言えると思います。」
「そんな……」
「やっと、平和になったのに………」
「………………………………」
これからが本番である事にエステル達は暗い表情をした。
「実は、その件について対応策を立てることになりまして。エステルさんとアネラスさん、そしてミントさんにも是非、協力をお願いしたいんです。」
「へっ……?」
エルナンの提案にエステルが首を傾げたその時
「なんだ、もう到着してたのね。」
シェラザードとアガット、そしてエステルの契約した使い魔達が入って来た。
「あ、シェラ先輩!?」
「こんにちは~。シェラお姉さん、アガットさん!」
「シェラ姉!?それにアガットも……みんなも久しぶり!」
シェラザード達を見たアネラスは驚き、ミントは無邪気に挨拶をし、エステルは驚いた後、パズモ達を見て嬉しそうな表情をした。
(フフ……本当に久しぶりね、エステル。)
(どうやら以前と比れば各段に見違えたようだな…………だが、その程度で浮かれるなよ?)
「お久しぶりです、エステルさん。」
「ようやくニル達の本来の役割に戻れるわね………」
パズモ達もそれぞれ懐かしそうな表情でエステルに言った。
「えへへ………今までご苦労さま。久しぶりにあたしの中で休んで!」
(ええ。)
(戦があれば、我等を呼ぶがいい。)
「また何かあればいつでも呼んで下さいね。」
「あなたをサポートするのがニル達の使命だからね。いつでも気軽なく呼びなさい。」
エステルの言葉に頷いたパズモ達は光の玉になってそれぞれエステルの身体の中に入った。
「お帰り、エステル、アネラス、ミント。」
「ヘッ、思ったよりも早く帰ってきやがったな。」
「シェラ姉、ただいま!アガットも、お久しぶりだね?」
「ああ、生誕祭の時以来だな。……ヨシュアのことはオッサンから聞かせてもらった。ヘコんでたみてぇだが……どうやら気合い、取り戻せたみてえじゃねえか。」
エステルの様子を見て、アガットは口元に笑みを浮かべた。
「えへへ、まあね。それよりも……どうして2人が一緒にいるの?」
「うーん、確かに。珍しいツーショットですよね。」
「うん。ミントもそう思う。」
「あら、そうかしらね?」
「ま、確かに一緒に仕事をすることは少ないかもしれんな。」
エステル達の言葉を聞いたシェラザードは以外そうな表情をし、アガットは逆に頷いていた。
「実は、シェラザードさんとアガットさんには、特別な任務に就いてもらうことになりましてね。そのために来てもらったんですよ」
「特別な任務?」
エルナンの話を聞いたエステルは首を傾げた。
「ええ……。『身喰らう蛇』の調査です。」
「えええええ~!?」
「『結社』の調査!?」
「そ、それってどういう……!?」
エルナンからシェラザード達の任務を知ったミントやエステルは声をあげて驚き、アネラスは驚きながら尋ねた。
「調査と言っても、具体的に何かをするってわけじゃないわ。なにせ、実在そのものがはっきりしない組織だしね。」
「各地を回って仕事をしながら、『結社』の動向に目を光らせる……。ま、地味で面倒な任務ってわけだ。」
驚いているエステル達にシェラザードとアガットはそれぞれ詳細な内容を説明した。
「な、なるほど……。でも、現時点ではそれくらいしか手はないのかも。それじゃあ、あたしたちに協力して欲しい事って……」
「ええ、2人のお手伝いです。王国各地で情報収集するためにアガットさんとシェラザードさんには別々に行動してもらうのですが……。得体の知れない『結社』相手に単独行動は危険かもしれませんから。………本来、準遊撃士になったばかりのミントさんには荷が重いかもしれないのですが、
クーデター事件の最後まで関わった数少ない人物でもありますから、ミントさんの事情も考えて今回の件のメンバーに入れたんです。」
「じゃあ、私たちの誰かがシェラ先輩のお手伝いをして……。もう一方がアガット先輩のお手伝いをするってわけですね?ちなみにミントちゃんは……」
「もちろん、エステルさんと一緒になります。……彼女はエステルさんの傍にいないといけない事情がありますし。」
「えへへ………ママと一緒に仕事ができるんだ。やった~。」
エルナンからエステルと一緒に仕事をしていい事を聞いたミントは嬉しそうにしていた。
「ただ、ミントさんは準遊撃士ですから正遊撃士昇格のために別の仕事を1人でしてもらう時もありますからね?」
「はーい!」
「さて………どうでしょう。協力していただけませんか?」
念を押し、ミントの返事に頷いたエルナンはエステルとアネラスを見た。
「あたしはもちろん!元々、『結社』の動きについては調べるつもりだったから渡りに舟だわ。」
「私も協力、させてください。そんな怪しげな連中の暗躍を許しておくわけにはいきませんよ!」
「ありがとう、助かります。」
2人の力強い返事を聞いたエルナンはお礼を言った。
「さて、そうなるとチームの組み合わせが問題ね。あたしとしてはどちらがパートナーでもいいわ。」
「互いに面識はあるわけだしな。自分たちの適性を考えて3人で相談して決めてみろや。」
「うっ……。なかなか難しいこと言うわねぇ。アネラスさん、ミント、どうしよう?」
自分達に選択を与えた事に迷ったエステルはアネラスとミントに意見を求めた。
「うーん、そうだね。無責任かもしれないけど……ここはエステルちゃんが決めちゃうのが一番いいと思う。」
「アネラスさんに賛成~!ミント、ママが決めてくれるのなら大丈夫と思っているもの!」
「ええっ!?」
しかし完全に自分任せにして来たので、エステルは驚いて声を上げた。
「やっぱりエステルちゃんは正遊撃士になったばかりだもの。遊撃士としての自分のスタイルがまだまだ見えてないと思うんだ。だから、これを機会に自分がどういう風になりたいのか考えてみるといいんじゃないかな?」
「アネラスさん……」
「ふふ、アネラス。いつの間にか、いっちょまえな口を利くようになったじゃない?」
アネラスの言葉を聞いたエステルはアネラスを尊敬の眼差しで見て、シェラザードは口元に笑みを浮かべた。
「ふふん、任せてくださいよ♪」
シェラザードの言葉を聞いたアネラスは胸を張って答えた。
「ま、言うことはもっともだ。例えば、俺とシェラザードは遊撃士のランクは同じくらいだが、戦闘スタイルのクセはかなり違う。俺はアーツは補助程度で重剣を使った攻撃がメインだが……」
「あたしは機動力と鞭の射程、そしてアーツも活用するタイプ、極めつけは魔術よ。確かに、そのあたりはどちらを選ぶかの基準にはなるわ。ただ、遊撃士の仕事っていうのは何も戦闘だけじゃないからね。自分なりに考えて選ぶのが一番よ。」
「う、うーん。えっと、それじゃあ……。アガット。協力してくれる?」
アガットとシェラザードの助言を聞いたエステルは少しの間考えた後、アガットを指名した。
「そうか、わかった。正遊撃士になったからにはこれまで以上に厳しく行くからな。覚悟しとけよ。後、そこのチビもだ。チビとは言え、テメエも遊撃士の一人だからな。」
指名されたアガットは頷いた後、ミントにも忠告した。
「えへへ………大丈夫だよ!だってアガットさん、本当は優しいもんね!」
「はいはい、判ってますって。ホント、予想通りの憎まれ口を叩くんだから。」
「む……」
ミントとエステルに図星を指されたアガットは顔を顰めた。
「はいはい、ケンカしないの。それじゃあ、あたしはアネラスとコンビか。訓練の成果、見せてもらうわよ。」
「はいっ。ふふ、久しぶりに先輩とコンビを組めて嬉しいなぁ。」
シェラザードと組める事になったアネラスは嬉しそうにしていた。
「さてと、これでようやくこの問題はケリがついたが……。具体的にどういう風に各地を回るかってのが問題でだな。」
「エルナンさん。そのあたりはどうかしら?」
メンバーが決まり、エステル達はエルナンに今後の方針を尋ねた。
「そうですね……。当面は、忙しい地方支部の手伝いに行くのが良いでしょう。実は、ロレント支部とルーアン支部から応援要請が来ているんですが……」
「あちゃあ、さすがにロレントを留守にしすぎたか。ここは、アイナを助けるためにもあたしが行った方がいいのかな。」
「そうですね、私も賛成です。うーん、アイナさんに会うのは久しぶりだな~。」
エルナンの話を聞いたシェラザードは気不味そうな表情で溜息を吐いた。また、アネラスはアイナに会うのを楽しみにしていた。
「だったら俺たちはルーアン支部に行くとしよう。エステル、チビ、それでいいな?」
「うん、もちろん。ルーアン地方か……。みんな、どうしてるのかな。」
「む~……さっきから気になっていたんだけど、ちゃんとミントの事も名前で呼んでよね!けどルーアンか……えへへ……先生やクラム達に会えるかもしれないな……」
アガットの言葉に頷いたエステルはルーアンで出会った人達の事を思い出していた。また、ミントはアガットの自分に対する呼び方に頬を膨らませていたが、テレサ達に会えるかもしれない嬉しさに怒っていた事をすぐに忘れた。
「各支部への連絡は私の方からやっておきます。それでは皆さん。気を付けて行ってきてください。」
そしてエステル達はそれぞれの地方に向かうために空港に向かった……………
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