英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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外伝~動き出す陰謀、漆黒の決意~ (序章終了)
~同時刻・リベール王国某所~
エステル達がル=ロックルでの訓練を終えた同時期、リベールのある場所に建造されている研究所に一機の赤い飛空艇が着陸し、そこからスーツ姿の少年が現れた。
「ふぅん。なかなか良い所じゃない。教授もいい趣味してるよね。」
「遅かったな、カンパネルラ。」
少年――カンパネルラに銀髪の青年――ロランスが近付いて来た。
「やあ、『剣帝』。ずいぶん久しぶりだねぇ。君がいない半年間、寂しくてたまらなかったよ。」
「フッ、心にもないことを。帝国遊撃士協会の襲撃はお前が担当したと聞いている。カシウス・ブライトの相手はさぞかし楽しかっただろう?」
カンパネルラの言葉を無視したロランスは不敵な笑みを浮かべて言った。
「なあんだ、知ってたのか。いや~、あのオジサン、ホントとんでもない人だよね。僕の存在は知らないはずなのに次々と的確な対策を取られてさぁ。おかげで手持ちの猟兵団をひとつ潰されちゃったよ。」
自分の部下達が潰された割には、カンパネルラは楽しそうに答えた。
「『ジェスター猟兵団』か。一度、稽古は付けてやったがどうにも凡庸な連中だったな。『剣聖』の相手は少々、荷が重かっただろう。」
「あはは……そういう君は”剣皇”に”戦妃”、おまけに”空の覇者”やあの”姫の中の姫”を相手にしたじゃないか♪そっちと比べたら天と地ほどの差だよ♪ずいぶん手酷くやられたんだってね?」
「ああ。噂通りとんでもない存在だよ、剣皇達は。剣皇の娘である”姫の中の姫”でさえ俺が敵わなかったのだからな。小娘と侮っていたら、痛い目に会うから気をつけておけよ。………彼らと対抗できるとしたら、”鋼の聖女”殿ぐらいだと思うぞ?」
「あー………あの方なら剣皇達と対抗できてもおかしくないよねぇ………(ただ、あの方……剣皇達の話が出ると、いつもと様子が少しだけおかしいように感じるんだよね………)でもま、君の工作完了まで足止めできたから十分かな。あ、そうえいば君ってば彼との対決が愉しみだったとか?」
ロランスの話を聞いたカンパネルラはある人物の事を思い浮かべて苦笑した後、尋ねた。
「フフ……少しな。だが、野に放たれた虎も軍務という名の鎖に繋がれた。もはや、正攻法で我らを止めることは叶うまい。」
「ふふ、教授の計画が見事、図に当たったみたいだね。それじゃあ、他のメンバーはもうリベールに来てるのかい?」
ロランスの言葉に頷いたカンパネルラは尋ねた。
「ああ、昨日集結したばかりだ。もっとも、ブルブランのやつは前から下見していたようだが。『怪盗紳士』、『痩せ狼』、『幻惑の鈴』……。それと『博士』も少しだけ、手を貸すと聞いている。揃いも揃って、クセのある連中ばかりが集まったものだ。………それと一部の作戦には『西風の旅団』と『赤い星座』を雇うと聞いている。」
「わお。よりにもよってその2つの猟兵団を使うんだ♪………ふふっ。それにしてもまあ、そういう君だって相当クセが強いと思うけどね。そういえば『彼』……行方をくらましたんだって?」
「………………………………」
カンパネルラからある人物の事が出ると、ロランスは口を閉ざした。
「うふふ、愉しみだな。僕たち『執行者』の中でも隠密行動はピカイチだったしね。『剣帝』と『白面』相手にどこまで頑張ってくれることやら。」
「………………………………。所詮、何年も前に『結社』から足を洗った人間だ。大した脅威になるはずがない。」
「いやいや。そんな事はないと思うよ。」
そこにワイスマンがロランス達に近付いて来た。
「やあ、カンパネルラ。わざわざご苦労だったね。見事、カシウス・ブライトを足止めしてくれて助かったよ。」
「うふふ、愉しい仕事だったよ。しかし、教授の計画書を拝見させてもらったけど……いやはや、ずいぶんと愉しいことを考えてるじゃない。」
「ははは、道化師たる君にそう言ってもらえるとは光栄だ。しかし、実際の計画ではもっと楽しんでもらえると思うよ。何しろ、今回協力してくれる諸君は皆、個人的な目的を持っている。私も、そしてこちらの彼もね。」
「……否定はしないさ。あなたの思わせぶりに仄めかされる筋合いはないがな。」
「やれやれ、つれない事を。」
ロランスの言葉を聞いたワイスマンは溜息を吐いた。
「ふふ、なーるほど。色々と事情がありそうだ。まあいいや、教授の悪趣味はまはや芸術的とすら言えるからね。存分に楽しませてもらうよ。」
「フフ……。悪趣味とは聞こえが悪い。まあいい、心ゆくまで今回の計画を見届けるがいい。我らが『盟主』の代理としてね。」
カンパネルラの言葉を聞いたワイスマンは醜悪な笑みを浮かべて言った。
「うふふ、任せておいてよ。執行者No.0―――『道化師』カンパネルラ。これより、使徒ワイスマンによる『福音計画』の見届けを始める。」
そしてカンパネルラはその場でうやうやしく礼をして、ある事を宣言した…………
~同時刻・エレボニア帝国南部・リベール王国の国境線より約120セルジュ北部~
「………………………………」
一方同じ頃、黒髪の少年が墓石の前で花束を抱えていた。
「カリン姉さん……帰ってきたよ。」
そして少年は花束を墓前に置いた。
「不思議な事があったよ………僕達とは何の関係もないメンフィルの皇女が姉さんに見えた事が何度かあったよ………”星の在り処”も弾けたから、きっと姉さんと気が合ったんだろうな………姉さんが生きていた頃に、ぜひ会ってほしかったよ………」
少年は墓前でかつての旅の仲間であったある少女の話を話していた。
「お、おーい……。どこ行っちゃったのさぁ!?」
その時、少女の声が聞こえて来た。そして少女は同行者の兄達を連れて、少年を見つけた。
「よかった……ここにいたんだ。」
少女――ジョゼットが少年を見つけて安堵の溜息を吐いた。
「もう、ビックリさせないでよ!1人でさっさと奥に行くんだもん。」
「ふう……どうして来たんだ。個人的な用事だから付き合う必要はないと言ったはずだよ。」
ジョゼットの言葉を聞いた少年――ヨシュアが冷たい口調で言った。
「か、可愛くないヤツ!人がせっかく心配して探しに来てやったのにさ!」
ヨシュアの言葉を聞いたジョゼットは頬を膨らませて怒った。
「それにこの有様は興味を持つなって方が無理さ。見たところ、廃墟になったのはここ10年くらいの間みたいだな。」
「俺たちは3年前まで北部の領地に住んでいたが……。南部が廃村になったなんて今まで聞いたことがなかったぞ。何ていう名前の村だったんだ?」
そしてジョゼットの兄達――キールとドルンは周囲の風景の事について尋ねた。
「………………………………。……『ハーメル』。かつてそう呼ばれていた村さ。」
キール達の疑問にヨシュアはしばらく言うのを戸惑ったが、ジョゼット達に背中を向けて言った。
「ハーメル……。聞いたことのない名前かも。キール兄、知ってる?」
「いや……。俺も聞いたことがないな。兄貴はどうだい?」
ジョゼットとキールは村の名前に首を傾げた後、ドルンを見た。
「んー、待てよ……。かなり前に、帝国政府から何かの通達があったような……。……駄目だ、思い出せねえ。」
「なんだよ~、それ。」
肝心な事を覚えていないドルンを見て、ジョゼットは呆れて溜息を吐いた。そしてヨシュアはジョゼット達に振り向いて言った。
「……僕の用事は終わりだ。貴方たちには関係ないのに付き合わせて済まなかったね。」
「別にそれはいいんだけどさ……。アンタ、最初に会った時と態度が違いすぎるんじゃない?ボクたちを舐めてるわけ?」
ジョゼットは以前のヨシュアの態度を思い出し、ヨシュアを睨みながら尋ねた。
「……君にそんなことを言われる筋合いはないな。最初に会った時、ずいぶん堂に入った演技をしてくれたじゃないか。僕の態度もそれと同じさ。」
「うっ……。そ、それじゃあそれがアンタの本性ってわけかよ!?」
図星をつかれたジョゼットは叫びながらヨシュアに尋ねた。
「ふう……何だか知らんが色々と事情があるみたいだな。まあ、本性を出してくれた方がこちらとしては信頼はできる。上辺を取り繕われるよりはな。」
「………………………………」
キールの言葉を聞いたヨシュアは何も言わず、黙っていた。
「それに、おめぇには王国軍に追われていたところを助けてもらった借りもあるしな。そのクソナマイキな態度も少しは大目に見といてやらぁ。」
「……大目に見る必要はない。貴方たちを助けたのはあくまで利用できる駒が欲しかっただけだからね。貸しに見合う働きを期待させてもらうだけさ。」
「ぐっ、口の減らねぇガキだな。だがまあ、おめぇの提案は俺たちにとっても渡りに舟だ。せいぜい俺たちの方もおめぇを利用させてもらうぜ。」
「……それでいい。僕と行動するのはかなりの危険が付きまとう。その危険に見合うだけの協力はさせてもらうつもりだ。」
ドルンの挑発とも取れる言葉をヨシュアは淡々と答えた。
「ほ、ほんと可愛くないヤツ!なんでこんなヤツのことをあの時一瞬でも……」
「……?」
ジョゼットの様子を見て、ヨシュアは首を傾げた。
「なんでもないっ!不思議そうな目でボクを見るな!」
「どうどう、ジョゼット。ま、いずれにしてもお互いの目的を達成するまでは俺たちが仲間ってのは確かだ。よろしく頼むぜ、ヨシュア。」
怒っているジョゼットを宥めたキールはヨシュアを見て言った。
「………………………………。わかった、よろしく頼む。」
「ヘッ……。そろそろ出発するかよ?」
「ああ……戻ろう。リベールへ―――見えざる影に覆われた大地へ。」
そしてヨシュア達はそれぞれの目的の為に、リベールへ向かった………………
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