どっちが誰だか
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1部分:第一章
第一章
どっちが誰だか
「本当に似てるわよねえ」
「ねえ」
秋葉朋子と晶子の二人はテレビを観ながら話をしていた。
「このカメレオン脇坂の物真似ね」
「そっくりじゃない」
晶子は朋子の言葉に頷く。
「特徴よく捉えてるわよね」
「そうね。特に」
テレビの前でタレントが楽しそうにコントを行っている。見れば彼はその髪をリーゼントにしてギターを手に取って歌を歌っている。
「この名倉信太郎の真似ね」
「十八番だけはあるわね」
「全く」
感心する言葉であった。
「よく見たらさ」
ここで朋子が言う。
「カメレオンの顔って名倉さんに似てない?」
「似てる?」
「ほら、よく見てよ」
晶子にテレビの中にいるそのカメレオン脇坂の顔を見るように言う。
「細面で目も細いじゃない」
「ええ」
「しかも顔が浅黒くて。背も高いし」
「そういえば痩せてるわね」
「それもあるわ」
そこも話されるのだった。
「何から何までそっくりなのよ」
「ううん、言われてみれば」
晶子は朋子のその言葉に頷いた。
「そうかも。確かに」
「そうでしょ?本当に似てるのよ」
「そういえば」
ここで晶子はあることを思い出した。
「この前名倉さんに女性問題あったじゃない」
「ああ、あれね」
朋子は晶子のその言葉で同じことを思い出した。
「あの騒ぎね。名倉さんが若い女の人と一緒に歩いていたっていう」
「あれカメレオンさんだったんだって」
「っていうと」
それを聞いて朋子はあることを想像した。
「あれなの?カメレオンさんの女性問題になるの?」
「ところがそれともまた違うのよ」
「?じゃあ誰なの?」
「その女の人、カメレオンさんの娘さんなんだって」
「あの人娘さんいたの」
「女の子が三人ね」
そこまでチェックしている晶子だった。
「いるらしいわ」
「そうだったの」
「逆に名倉さんは男の子三人」
「あべこべなのね」
「そういうこと。だからカメレオンさんが娘さんと一緒に歩いていただけなんだって」
「何だ、そうだったの」
真相がわかればどうということはない話であった。
「そんな話だったの。何だ」
「案外呆気無い話だったでしょ」
「ええ」
朋子はその言葉に頷いた。
「何だって話ね。本当に」
「それでも。それだけそっくりってことよね」
晶子はあらためてこのことを言う。
「二人って」
「もしかしたらね」
朋子はまたふとした感じで述べた。
「今歌ってる人本物だったりして」
「カメレオンさんじゃなくて名倉さんってこと?」
「だって本当にわからないじゃない」
テレビ画面を指差して晶子に告げる。
「ここまでそっくりだと」
「確かに。もう何が何だか」
「わからないわよね」
「全くよ」
そんな話をしながらテレビを見ている。テレビに映るカメレオン脇坂はどう見ても名倉信太郎にしか見えない。もうどっちがどっちかわからなくなってきていた。
この話から暫く経って晶子と朋子は名倉のコンサートに行った。コンサート会場はドーム球場だった。そこで元気に応援をしていた。
「やっぱりドームはここよね」
「ええ、全くよ」
笑顔で言い合う二人だった。
「あんな卵がどうとかって場所なんかね」
「ああ、あそこ駄目なんだって」
朋子はあっさりとその球場は否定した。
「サービスも悪いし食べ物もまずくて」
「そうなの」
「全然駄目らしいわ」
随分と酷評である。
「やっぱり巨人は駄目よ」
「そうね。私野球はあまり興味はないけれど」
晶子はこう前置きしながらも言う。
「巨人は嫌いよ」
「私もよ」
そしてそれは彼女も同じだった。
「あの帽子見ただけで不機嫌になるわ」
「何時までも球界の盟主だなんて言ってね」
「紳士だなんて大違い」
野球にあまり興味がないと言いながら随分と言う。
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