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おっぱい

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3部分:第三章


第三章

「ただ。何だ?」
「面白いかしらと思って」
 そのくすりとした笑みで夫に語るのである。
「それもそれで」
「御前な、人事だと思って」
「確かに人事よ」
 それは自分でも認める。確かに自分が同じことになれば、と思うのは確かだがそれでもこう思うのも事実だった。相反するものだがこうも思うのであった。
「それでもね。思うんだけれど」
「何だよ」
「触っていい?」
 夫の顔を覗き込みながら問う。
「その胸。触っていいかしら」
「俺の胸をか」
「そうよ。どうかしら」
 それをまた問うのである。
「嫌かしら、それは」
「それはまあ別に」
 康友もそれには別に拒もうとはしなかった。顔はそのまま困惑したものではあったが。
「いいけれどさ」
「いいのね。それじゃあ」
 その言葉を受けて早速胸を触る。するとその感触は女のものと全く同じだった。
 前から鷲掴みにしてぷにぷにと揉む。揉んでみると確かに女のものと同じだが同時に心では違和感を感じるのだった。それはやはり相手が男だからだった。
「何か不思議ね」
 あらためてこう言うのだった。
「こんな感触って」
「そう言いながら触り続けてるんだな」
 シャツの上から揉み続ける妻に対して言った。
「離そうとしないじゃないか」
「だって面白いし」
 その違和感を楽しんでいたのである。
「それに」
「それに?」
「何か楽しみにも思えてきたのよ」
「楽しみ!?どうしてだよ」
「夜だけれど」
 話を夜のものに移してきた。
「どうかしら、久し振りに」
「久し振りにか」
「ええ」
 胸を掴んだまま身を乗り出してその胸を掴んでいる相手である夫に対して問う。
「いい?」
「そうだな」
 最初はそのつもりはなかった。しかし胸を揉まれているうちにその気持ちが変わってきていた。彼はじっと妻の顔を見ながら答えるのだった。
「それもいいな」
「その気になったのね」
「何か胸を揉まれてるとな。いや」
「いや?」
「秘密を言って。すっきりしたし」
 それが大きかった。彼にとっては。
「あらためて。何かな」
「何か?」
「悪かったな」
 今度は申し訳なさそうに謝ってきた。
「今までな」
「いいわよ。仕方ないし」
 しかし幹枝は夫のその謝罪の言葉を笑って受けるのだった。
「いきなりこんなことになったら。私だってね」
「そうなのか」
「そうよ。だから」
 さらに笑って夫に告げた。
「仲直りも兼ねてね。いいわよね」
「ああ、いいよ」
 胸はまだ妻に揉まれていたがそれを心地よく受け入れて頷くのだった。とんでもない出来事だったがいざ打ち明けてみるとどうということはない気持ちにもなっていた。その気持ちを心で感じながら妻に対して微笑み返す。胸は大きく柔らかくなってしまったが心は温かくなったのだった。


おっぱい   完


                 2008・3・8
 
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