英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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序章~乙女の決意~ 第4話
~レマン自治州・遊撃士協会・ル=ロックル訓練場~
遊撃士達の訓練所であるル=ロックル。そこでエステルはアネラスと特訓をしていた。
「いくわよ、アネラスさん!烈破―――無双撃ッ!」
エステルはSクラフトをアネラスに放った!
「わわっ、さすが強烈だね。でも……今度はこっちの番だよっ!剣技―――八葉滅殺ッ!」
エステルの攻撃を刀で防ぎきりながらも、最後の一撃で後退してしまったアネラスは驚いた後、猛烈な連撃のクラフト――八葉滅殺をエステルに放った!
「くっ……!」
アネラスの猛烈な連撃をエステルは防御するだけで精一杯だった。そしてアネラスはさらに連撃を続けた!
「まだまだ~っ!」
(くっ……このままじゃ持たない……。それなら……!)
アネラスの攻撃を防御しながら自分の劣勢を悟ったエステルはアネラスが刀を振り下ろした瞬間、横にずれて回避した!
「え、うそっ……」
「もらったああっ!」
攻撃を回避され、驚いているアネラスの隙をついて、エステルが強烈な一撃をアネラスに放った!
「きゃうっ……」
エステルの攻撃を寸前で刀で防御したアネラスはその場で跪いた!
「あいったあ~っ……」
「だ、大丈夫、アネラスさん?治癒魔術、かけようか?」
痛みに顰めているように見えるアネラスを見て、エステルは慌ててかけよって声をかけた。
「あはは、大丈夫だよ。何とかガードも間に合ったしね。」
エステルの言葉にアネラスは苦笑しながら平気な顔で立ち上がった。
「はー、でも参っちゃったな。とうとうエステルちゃんにあの技を返されちゃったか~………」
「えへへ、まぐれよ、まぐれ。今までコテンパンにされた分、ちょっとくらいは返せないとね。」
「ふふっ。やる気だね、エステルちゃん。それなら、ついでだからもう1セット付き合ってくれる?」
「うん、望むところよ!」
そして2人がまた特訓を始めようとしたその時
「あらあら、2人とも元気ねぇ。」
一人の女性がエステル達に声をかけた。
「あ、管理人さん。お早うございま~す!」
「管理人さん、おはよう!」
女性――ル=ロックルの管理人であるフィリスにエステル達は朝の挨拶をした。
「はい、おはよう。エステルちゃん、アネラスちゃん。朝ゴハンができたから呼びにきたんだけど……。うーん、お邪魔だったかしら?」
「あ、そうなんだ。アネラスさん、どうしよう?」
「うーん、そうだね。ゴハン冷めたらもったいないし、今朝はこれで上がりにしよっか。管理人さん、クルツ先輩はどうしてます?」
「クルツさんならミントちゃんの朝のお勉強を終わらせた後、演習の準備があるって先に済ませちゃったわよ。何でも今日の演習はかなりハードなんですってね?」
「え……」
「そ、そんな風に先輩が言ってたんですかっ?」
フィリスの言葉にエステルとアネラスは身震いした。
「うん、朝食はしっかり取っておくようにとの伝言よ。2人とも、いっぱい食べてしっかりスタミナをつけてね♪」
そして2人は宿舎に戻って、ミントと朝食をとり始めた。
~ル=ロックル・宿舎~
「はあ……。けっこうお腹いっぱい。訓練前にこんなに食べたらまずいような気がするけど……」
「えへへ……ミント、つい朝ごはんの目玉焼きを4つも食べちゃった!」
満腹になり、後の事を考えたエステルは苦笑し、ミントは無邪気な笑顔で大好物の卵料理をたくさん食べた事を嬉しそうに言った、
「ふふ、管理人さんの料理ってホントおいしいもんね。でも、訓練と違って途中でバテるわけにもいかないし、ちょうどいいんじゃないかな?」
「うん、確かに。やっぱりスタミナは基本よね。それにしても……。ここに来てからもう3週間か。正直、あっという間だったな。」
アネラスの言葉に頷いたエステルは時間が経つ速さに驚いていた。
「ふふ、エステルちゃんとミントちゃん、ものすごく頑張ってたもんね。私も一緒に訓練しててホント、いい刺激になったよ。特にミントちゃんは、あの厳しいクルツさんが褒めていたよ?『こんな優秀で賢い娘が遊撃士になってくれるとは思わなかった』って。」
「えへへ………」
「えへへ……。そう言ってもらえると嬉しいな。」
アネラスの言葉にミントとエステルは、親娘揃って照れていた。
「でも、クルツさんが訓練教官として来てくれたのも驚いたけど……。まさかアネラスさんがあたしと同じ訓練を受けるとは思ってもみなかったわ。」
「んー、私も正遊撃士になってから半年くらいの新米だからねぇ。シェラ先輩からエステルちゃんとミントちゃんの話を聞いて渡りに船だと思ったんだ。前々からこの訓練場のことは先輩たちに聞いて興味があったし。」
エステルの言葉にアネラスは訓練に来た経緯を思い出し、言った。
「そっか……。でも、こんな場所があるなんてギルドも結構大きな組織なのね。最初、父さんたちから話を聞いたときはあまりピンとこなかったんだけど………まさか、仕事用の服もついでに変える事になるとは思わなかったわ。」
そう言ってエステルは正遊撃士になった祝い代わりに新しい仕事服をシェラザードに買ってもらい、すでに着こなしている自分自身を見た。
「なるほど……。その服って、シェラ先輩のお祝いプレゼントだったんだね。いいな~。可愛い服を買ってもらえて。」
「とっても似合っているよ、ママ!」
「う、うーん……。丈夫な生地を使っているし、動きやすくっていいんだけど……。こういう女の子っぽい服ってあたしには似合わないかも……」
アネラスとミントに褒められたエステルは苦笑しながら答えた。
「そんなことないとミントは思うけどな……」
「うんうん!ミントちゃんの言う通りそんなことない!とってもよく似合ってるってば。それに遊撃士でも女の子にオシャレは必要だよ。否、遊撃士だからこそオシャレには気を使わなくちゃ!」
ミントの言葉にアネラスは何度も頷いた後、熱弁を始めた。
「ア、 アネラスさん?(あっちゃ~……スイッチが入ったみたいね………)」
真剣な表情になっているアネラスを見て、エステルは心の中で溜息を吐いた。
「そうだ、エステルちゃん。リボンとか付けてみる気ない?すごく似合うと思うんだけどなぁ。」
「あ、賛成!ミントとお揃いのリボンにしよう?ママ!」
「え、遠慮しときます。ていうか……相変わらず、アネラスさんって可愛いものに目がないわね。」
アネラスとミントの提案をエステルは苦笑しながら答えた後、アネラスに言った。
「もちろん!可愛いことは正義だもん!シェラ先輩みたいな格好いいお姉さまにも憧れるけど……。やっぱり可愛く着飾った年下の女の子に勝るものなし!ぬいぐるみなんか抱いてたらぎゅっと抱きしめたくなるよ~♪ミントちゃんもすっごく可愛いし、不謹慎だけど私、この訓練に来てよかったと思っているよ?毎日ミントちゃんに会えるしね!」
「えへへ……ありがとう、アネラスさん!」
「ねえねえ、エステルちゃん。今夜もミントちゃんを貸してもらってもいい?また、一緒に寝たいのよね~。」
「ダメよ~!昨日一緒に寝たばかりでしょ?今夜からはあたしのベッドに戻ってもらうんだから!」
「ぶー……エステルちゃんのケチ。」
「えへへ………」
エステルとアネラスの会話を見ていたミントは思わず、可愛らしい笑顔で笑った。
「ミント?どうしたの?」
「えへへ……ママ、以前と同じようにとっても明るくなったなって思って、ミント、とっても嬉しいんだ!」
「ミント…………あ~ん、もう!この娘ったら本当になんて素直で健気で、可愛い娘なのかしら!」
ミントの言葉に感動したエステルは思わず、自分の横に座っていたミントを抱きしめた。
「えへへ……苦しいよ~、ママ。」
抱きしめられたミントは口とは正反対に嬉しそうに抱きしめられていた。
「あー!エステルちゃんばっかり、ズルイ!私にも抱きしめさせてよ~!」
「残念でした~。これはミントの隣に座っている人だけの権限よ~♪」
「むう……じゃあ次は私がミントちゃんの隣に座るんだから!」
エステルに言われたアネラスは頬を膨らませた後、次の食事の時はミントの隣に座る事を決めた。
「フゥ、それにしても……。初めて会った時と較べるとエステルちゃん、変わったよね。」
「えっ?」
気を取り直したアネラスの言葉にエステルは首を傾げた。
「最初はいかにも新人君で初々しい印象しかなかったけど……。今は、初々しさを残しながらぐっと頼もしくなった気がする。それって結構スゴイことだよ?それにミントちゃんも最初はとっても可愛い後輩ができたなって思ったけど、今では一人前の準遊撃士になったなと感じているよ。」
「や、やだなぁ……。アネラスさん、おだてないでよ。」
「そうだよ~。ミント、まだ依頼はちょっとしか受けた事ないのに。」
アネラスの言葉にエステルとミントは照れた。
「そういえば、アネラスさん。そろそろ演習の時間じゃない?」
「あ、そうだね。いったん部屋に戻ろうか。それじゃあ、また後でね~!」
エステルの言葉に演習が近い事に気付いたアネラスは準備をするために自分が泊まっている部屋に戻って行った。
「そういえば……今日はミントはどうするの?」
「うん!クルツさん、朝ご飯が終わったら、ママ達と一緒に来てほしいって言われたよ?」
「そうなんだ………じゃあ、一緒に戻って準備をしましょうか!」
「はーい!」
そしてエステルとミントは2人が一緒に泊まっている部屋に戻って行った。
「さてと、演習と言うからには一通りの装備が必要になりそうね。実戦と同じで何が起こるか分からないし……ミントは大丈夫かしら?」
「うん!剣やオーブメントもバッチリだよ!」
「そう。…………」
ミントの言葉に頷いたエステルはベッドの上に置いてある鞄からハーモニカを取り出した。
「………………………………。うん、今日も頑張らなくちゃ!」
ハーモニカを見て気合を入れたエステルは装備を確認した。
「これでよし。……それじゃあ、玄関に行くとしますか!」
「はーい!」
そして2人は部屋を出た。
エステルとミントが1階に降りると食事をしたテーブルにアネラスとクルツが座っていた。
「来たか、エステル君、ミント君。向かいの席についてくれ。」
クルツに言われたエステルとミントは空いている席に座った。
「本日の演習は遺跡探索だ。この宿舎の西にある『バルスタール水道』に入ってもらう。」
「『バルスタール水道』……。古めかしい名前だけどやっぱり訓練用の施設なの?」
「ああ。中世の遺跡を改築した施設でね。昔の仕掛けも残っているし、危険な魔獣も多く徘徊している。」
「ねえねえ、クルツさん。ミントはどうすればいいの?」
訓練の内容をエステルとアネラスに説明するクルツにミントは首を可愛らしく傾げて尋ねた。
「ミント君もエステル君達と同じ演習を受けてもらう。だから、説明をしっかり聞いていてくれ。」
「はーい!」
クルツに言われたミントは元気良く返事をした。
「フフ……ミントちゃんも一緒に受けれるなんて今日はついているわ♪それじゃあ早速、その水道に出発するんですか?」
ミントが自分達と同じ訓練に参加する事を嬉しく思ったアネラスはクルツに尋ねた。
「いや、その前に……。3人とも、これを見てくれ。」
そしてクルツは見慣れぬ戦術オーブメントをテーブルに置いた。
「あれ、これって……」
「もしかして……戦術オーブメントですか?」
「ああ、その通りだ。導力魔法の使用を可能にする戦術オーブメントを造っているのは『エプスタイン財団』というが……。これは先月、財団から納入されたばかりの新型でね。スロットの数は1つ増えて7つ。今までのアーツに加えて新型のアーツも組むことができる。」
「へ~、凄いじゃない!」
「わあ………クオーツも前より一つ多くつけれるし、使えるアーツも増えるから、お得だね!」
クルツから新たな戦術オーブメントについての説明を聞いたエステルとミントははしゃいだ。
「うんうん!かなり期待できそうだね。で、クルツ先輩。私たちも貰えるんですか?」
「ああ、希望するならギルドから無償で提供される。ただし……」
アネラスの言葉に頷いたクルツは、一端言葉を切り、そして以外な事実を言った。
「難点が一つあってね。新型は、基本的アーキテクチャが大幅に変更されてしまったんだ。だから、互換性の問題で以前のクオーツが装着できない。新規格のクオーツが必要になる。」
「ええ~っ!?そ、それってつまり……」
「今まで合成したクオーツが無駄になるってことですかっ!?」
「最初から一杯クオーツを付ける事ができないんだ…………」
新しい戦術オーブメントの欠点を聞いたエステルやアネラスは驚き、ミントは残念そうな表情をした。
「残念ながらそうだ。面倒だろうが、また最初から1つずつ揃えてもらうしかないな。」
「そ、そりゃないわよ~。」
「ママ、元気出して!」
今まで苦労して集めたクオーツが無駄になった事にエステルは肩を落とし、その様子を見たミントが慰めた。
「うーん……。確かに迷っちゃうよね。このまま今のオーブメントを使い続けたらダメなんですか?」
「ダメじゃないが、推奨はしない。新型オーブメントは、全ての面で以前のものより性能が高いんだ。最大EPも大幅にアップするし、最新型のクオーツにも対応できる。将来的には、さらなる身体能力の向上が期待できるということだ。それに何と言っても以前のオーブメントになかった新しいアーツが組めるのが大きい。……エステル君、ミント君。ロランス少尉を覚えているか?」
アネラスの質問に難しそうな表情で答えたクルツは意外な人物の名前を出した。
「え!?」
「ふえ!?」
クルツの口から出た以外な人物の名前を聞いたエステルとミントは驚いて声を出した。
「う、うん。忘れるなんて出来っこない相手だけど……」
「そうだよ~。ミント、あの人の事、絶対忘れられないもん!」
「シェラ君から聞いたが、彼は未知のアーツを使ったそうだな。複数の相手を一度に攻撃しながら混乱効果を与える上位アーツ……。実は、新型オーブメントではそのアーツを組むことも可能なんだ。名前を『シルバーソーン』という。」
「『シルバーソーン』……」
「あ……そういえば、そんな名前でいっていたね………」
「そ、それじゃあ……。あの赤い隊長さんは新型を使っていたんですね!?」
クルツの説明を聞いたアネラスは驚いて尋ねた。
「その可能性は高そうだ。さて、君たちはどうする?」
アネラスの質問に真剣な表情で頷いたクルツはエステル達に尋ねた。
「………………………………。あたしは……新型を使いこなしてみたいな。」
少しの間だけ考えたエステルだったが、すぐに答えを出した。
「え?」
「ママ?」
短時間で答えを出したエステルを見てアネラスとミントは驚いた。
「あの時、あたしはあの銀髪男に全く歯が立たなかった。カーリアンのお陰で勝てたようなものだし………オーブメントを変えたからって自分が強くなるわけじゃないけど……。それでもあたし、より大きな力を使いこなせるようになってみたい。だから……」
「エステルちゃん……。……うん、確かにそうだね。クルツ先輩。私も新型、使わせてください!」
「ミントもお願いします!」
エステルの言葉に頷いたアネラスとミントは自分達の答えを出した。
「いいだろう。それでは受け取ってくれ。」
そしてクルツは3人にそれぞれ、戦術オーブメントを渡した。
「あと、これを渡しておこう。」
また、各属性のセピスも渡した。
「それだけあれば基本的なクオーツは揃うだろう。演習に行く前に、そこの工房でロベルト君に合成してもらうといい。新しい結晶回路と導力魔法のリストはブレイサー手帳に追加しておいた。工房に行くときは自分たちで確認しておくように。」
「うん、了解です。」
「はーい!」
クルツの言葉にエステルとミントは頷いた。
「さらに……。今日の演習は長丁場になるはずだ。いざという時に備えて、食料も用意した方がいいだろう」
「うーん、食料ですか……。それはフィリスさんにお願いすればOKですよね?」
「ああ、そうだな。ロベルト君とフィリス管理人……2人に相談して準備を整えるように。………それでは自分は宿舎の出口で待っている。準備が終わったら来てくれ。」
アネラスに尋ねられ、答えたクルツは立ち上がって先に外に出て行った。
「それじゃあ、エステルちゃん、ミントちゃん。早速、演習の準備を始めようか。」
「うん、フィリスさんとロベルトさんの所に行って話を聞いてみなくちゃね。」
「うん!」
そしてエステル達は準備を始めた………
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