英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
外伝~因縁の再会~前篇
~レウィニア神権国・王都プレイア~
「…………………………」
”神殺し”セリカ・シルフィルの第一使徒であり、かつてはレスぺレント地方最大の勢力の王族であり、『姫将軍』という2つ名で恐れられていたカルッシャの王女――エクリア・フェミリンスは心あらずな様子で買物をしていた。
「あの……お客様?」
エクリアの様子を不思議に思った店の主人はエクリアに話しかけた。
「!すみません、なんでしょうか?」
「いえ……あの、お会計がまだなのですが………」
驚いているエクリアに店の主人は遠慮気味に言った。
「申し訳ございません。今、払いますので………」
店主に謝ったエクリアは代金を払って、店を出た。
「ハア………イリーナ…………」
店を出たエクリアは溜息を吐いて、かつてその身に宿る”姫神”フェミリンスに身を任せて、殺してしまった末妹であり、リウイの愛妻であったイリーナの名を呟いた。
(……2人は神の墓場のような場所にイリーナの魂が彷徨っているって言ってたけど………貴女は今、どうしているの?)
実は以前セリカの使い魔であり、今は冥き途の門番であるリタとナベリウスが遊びに来た時、エクリアにリウイ達が自分達にイリーナの魂の行方を尋ねに来た事、そしてイリーナの魂の行方を2人に教えられたエクリアはその日からずっと、心あらずな様子であり、
主であるセリカに尋ねられても、誤魔化す一方だった。溜息を吐いていたエクリアだったが、気を取り直しセリカの屋敷に帰ろうとしたその時
「あの……すみません。一つ、お尋ねしたい事があるのですがよろしいでしょうか?」
ある女性がエクリアの背後から話しかけた。
「?…………はい、なんでしょうか?」
話しかけられたエクリアはどこかで聞き覚えのある声に首を傾げた後、声がした方向に向き直って女性を見た。
「え……………………」
女性――メンフィル大使館で働いているメイド、イリーナ・マグダエルを見たエクリアは驚いて、手に持っていた回復薬等が入った袋を落とした。
「え…………(何?この懐かしい気持ちは……?)」
一方エクリアの顔を見たイリーナもエクリアを見て感じる気持ちに思わず声を上げた。
「イ、イリーナ!?」
エクリアは信じられない様子で声を上げた。
「あの……どうして私の名前を知っているのですか……?どこかでお会いした事があるのでしょうか?」
「え…………」
自分の事を全く知らない様子のイリーナの答えを聞いたエクリアは驚いた。
「………申し遅れました。私、さる御方に仕えているイリーナ・マグダエルと申します。」
「イリーナ……マグダ……エル……?」
イリーナの本名を聞いたエクリアは首を傾げた後、イリーナの顔をよく見た。
(別人……?でも、あまりにも”あの娘”と似すぎているし、感じられる雰囲気も”あの娘”そのもの……!)
エクリアはイリーナの容姿や感じられる雰囲気で、自分が知っているイリーナとそっくりな事を心の中で思った。
「あ、イリーナさん。道を尋ねられそうな方を見つけたのですか?」
そこにプリネとツーヤがイリーナ達に近付いて来た。
「プリネ様。それにツーヤちゃんも。……はい。今からこの方に聞こうとした所です。」
「そうですか。どなたかは知りませんが、お手数をかけてすみま……」
イリーナの答えを聞いたプリネはエクリアを見て、謝罪をする途中で固まった。
「なっ!?あ、貴女は!『姫将軍』エクリア・テシュオス!!」
「!!」
今はもう、限られた人物達しか知らないはずの過去の自分の二つ名と百数十年前に捨てたかつての王族として名乗っていた名をプリネが口にした事にエクリアは驚いた。
「ご主人様?この方を知っているのですか?」
エクリアを知っていそうなプリネを見て、首を傾げたツーヤは尋ねた。
「………ええ。直接会ったのはこれが初めてだけどね。………神殺しが住む王都――プレイアに神殺しの使徒である貴女がいても、特におかしくありませんね、エクリア様。」
「………貴女は何者ですか?」
エクリアは自分の正体や過去を知っているプリネに、プリネ自身の正体を尋ねた。
「……申し遅れました。私の名はプリネ・マーシルン。この娘はツーヤ。よろしくお願いします。」
「……ツーヤと言います。イリーナさんと同じく、ご主人様に仕えております。」
警戒している様子のエクリアにプリネは礼儀正しく自己紹介をし、ツーヤもプリネに続くように自己紹介をした。
「マーシルン!?ま、まさか……リウイ様の……縁の方ですか……!?」
一方プリネの名を聞いたエクリアは驚き、震えながら尋ねた。
「……父は初代メンフィル皇帝、リウイ。母はアーライナの神格者、ペテレーネです。」
「!!リウイ様とリウイ様の側近の方の……ご息女……ですか……道理で私の事を……知っている訳ですね……」
プリネがリウイの娘と知ったエクリアは驚いた後、寂しげに笑った。
「あの、プリネ様。宿屋の事は聞かなくていいのですか?」
そこにイリーナが遠慮気味に申し出た。
「そうね。あまりにも驚いてしまって、すっかり忘れてしまったわ。……エクリア様、今お時間はよろしいでしょうか?」
「……はい。」
そしてプリネはエクリアに宿屋を探している事を説明して、そこまでの道を尋ねた。
「………もしよろしければ、私がご案内いたしましょうか?」
「……よろしいのでしょうか?」
エクリアの申し出に驚いたプリネは尋ねた。
「はい。……その代わりといってはなんですが、教えて欲しい事があるのですが……」
プリネに答えたエクリアはイリーナに一瞬目を向けた後、言った。
「……わかりました。ただ私が説明するより、もっと適任な方がいらっしゃるので宿屋までお願います。」
エクリアの意図を理解したプリネは真剣な表情で頷いた。
「では、こちらです……」
そしてエクリアはプリネ達を宿までの道を案内し始めた。
「………そう言えば、リフィア様はご健勝でしょうか?」
宿屋への道を歩きながら、エクリアは尋ねた。
「ええ。実は一緒に来ていたのですが、プレイアに着くなり『セリカとマリーニャに会いに行って来る!』と言って、エヴリーヌお姉様や妹のレンを連れて、止める間もなく行ってしまったんです。」
「そうなのですか………それにしても、何故メンフィルからレウィニアに?」
「実はセテトリ地方に用がありまして、レウィニアによったのは旅の休憩をするためによったのです。」
「そうだったのですか………あの、リウイ様は……」
プリネの説明に頷いたエクリアが尋ねかけたその時
「あ……もしかして、この建物が宿屋ではありませんか?」
イリーナが宿屋のマークがある建物を見て、言った。
「そのようですね。……道案内、ありがとうございました。」
「「ありがとうございました。」」
エクリアにお礼を言うプリネに続くようにツーヤやイリーナも頭を下げてお礼を言った。
「いえ……それほど、大した事はしていないので……あの……」
プリネ達のお礼を謙遜しながら受け取ったエクリアがある事を再度尋ねようとしたその時
「はぐれたと思ったが、こんな所にいたか、3人共。」
「よかった……」
「心配しすぎよ、ペテレーネ。プリネももう、18歳じゃない♪」
「そうよ。気持ちはわかるけど、貴女はちょっと過保護すぎだわ。」
なんとカーリアン、ファーミシルス、ペテレーネを引き連れたリウイがプリネ達の後ろから声をかけ、プリネ達に近付いて来た。
「お父様。……その……こちらの方に案内してもらいました。」
「ほう……ならば娘が世話になった礼をしないとな。」
プリネの答えを聞いたリウイはエクリアを見た。
「!!」
「え!」
「嘘!?」
「なっ!貴様は!」
エクリアを見たリウイは目を見開いて驚き、ペテレーネやカーリアンは声を上げて驚き、ファーミシルスは驚いた後連接剣を構えた!
「!!……やはり、一緒に旅をしておいででしたか……」
一方エクリアも驚いた後、覚悟を決めたような表情で呟いた。
「何故、貴様がプリネ様達と一緒にいる!……姫将軍!!」
「やめろ。騒ぎを起こしてレウィニアに我等が滞在している事を悟られる訳にはいかん。……こんな所で足を止められる訳にはいかん。」
「ハッ!」
今にも攻撃しそうなファーミシルスだったが、リウイに制されて構えを解いた。
「あ、あの、プリネ様。もしかして私、尋ねてはいけない人に尋ねたのでしょうか?」
リウイ達の様子を見たイリーナは恐る恐るプリネに尋ねた。
「…………いえ。確かにかつては敵対していましたが、今はそうではないでしょう?お父様。」
「……………ああ。」
「…………………」
プリネに言われたリウイは複雑そうな表情をしながら答えた。また、ペテレーネは心配そうな表情でリウイとエクリアの顔を何度も見た。
「…………俺はこの者に娘達が世話になった礼をする。お前達は先に宿屋で休んでいてくれ。」
「ハッ!」
「承知しました。」
「リウイこそ、騒ぎを起こさないでよ~。」
リウイの言葉にファーミシルスとペテレーネは頷き、カーリアンはエクリアを一瞬見た後、宿屋に入って行った。
「お父様。リフィアお姉様達はどうしましょう?」
「……その内帰って来るだろう。神殺しの屋敷に泊まって来るかもしれんが、あいつらの分の部屋も一応取っておいてくれ。」
「わかりました。行きましょう、2人とも。」
リウイの言葉に頷いたプリネはツーヤやイリーナにも宿屋に入るよう促した。
「はい、ご主人様。」
「………はい。」
プリネの言葉にツーヤは頷き、イリーナはエクリアを気にしながらプリネ達と宿屋に入った。
「………………………」
「………………………」
カーリアン達が宿屋に入り、2人だけになったリウイとエクリアはそれぞれ黙っていた。
「……………………」
何かを考えるように両目を閉じて黙っていたリウイだったが、やがて目を見開いて踵を返してエクリアに背中を見せて言った。
「…………その様子だと”イリーナ”の事が知りたいのだろう?……プリネ達を道案内した礼だ。………知りたいのなら、ついて来い。」
そう言ってリウイは歩き出した。
「……………………」
歩き出すリウイを見て、目を閉じて考えていたエクリアだったが、やがて目を見開き、決意の表情になってリウイの後を追った。
今ここに”闇王”と”姫将軍”の因縁の再会の時が来た…………!
ページ上へ戻る