英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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第2話
~ロレント郊外・ブライト家~
「へ~。ここがエステルちゃんの家か。なんちゅうか、あったかそうな雰囲気の家やね。」
ブライト家に到着したケビンは家から漂う雰囲気に感心した。
「えへへ、そうでしょ?あたしと、父さんと、お母さん、パズモ……それにヨシュアとの思い出がいっぱいに詰まった場所なんだから。」
「なるほどな~。ん?パズモって誰や?妹かなんかか?」
エステルの説明を聞いていたケビンは首を傾げて尋ねた
「ううん。パズモはあたしの友達。……ちょうどいいわ。パズモを含めてあたしの友達を会わせてあげる!みんな、出て来て!」
そしてエステルはパズモ達を召喚した。
「んな!?なんや、これは!?」
召喚されたパズモ達を見てケビンは驚いた。
「えへへ……”契約”っていって、みんなあたしの魔力に同調していて、普段はあたしの身体の中で休んでいるんだけど、あたしを護るためにこうやって、呼べば出て来て一緒に戦ってくれるんだ!」
「は~………よくわからんが、凄いねんな~……」
エステルの説明を聞いたケビンは感心したような声を出してパズモ達を見た。
(…………よろしく。……………)
「………こんにちは。」
ケビンに見られたパズモとテトリはエステルをチラチラ見ながら会釈をした。
「よろしゅうな。そっちの狐君やそっちの羽の生えたお穣さんも………って、天使!?」
パズモ達に会釈をしたケビンはサエラブを見た後、ニルに気付き、ニルを一目見て天使とわかり、驚いた。
「えへへ、驚いたでしょ?異世界には天使もいるんだよ!」
「ほ~……………まあ、神が現存しているんだから、天使がいてもおかしくないか………」
エステルの説明にケビンは納得した。
(……………………こ奴、何者だ?隠してはいるが、ヨシュアに負けないぐらい、強烈な負の気配がするぞ…………)
(……それと、魔力とは別のとてつもないエネルギーを感じるわ。……それも人間が扱えないような強烈な負の。)
サエラブやニルはケビンから感じられた雰囲気で、お互い念話で話し、ケビンを警戒した。
「それより、そのヨシュア君ってのが一足先に帰ってきているわけか?」
「うん、間違いないわ。ついて来て、紹介するから。」
ケビンの言葉に頷いたエステルは家の中へ入って行った。
((…………………))
「「………………………」」
その様子をパズモ達は痛ましそうな表情で見ていた。
「どんな野郎か知らんが、罪作りなやっちゃ。ふう……しゃあないな。君達も一緒に行くか?」
ケビンは真剣な表情で呟いた後、溜息を吐き、パズモ達を見た。
((…………………))
「「………………………」」
ケビンに見られたパズモ達はそれぞれ首を縦に振った後、ケビンと共に家の中に入った。
「ただいま~、ヨシュア!ねえ、帰って来てるんでしょ!?」
家の中に入ったエステルは返事を待った。
「あら、エステル。お帰りなさい。フフ、前より女らしくなったわね。」
そこに別の部屋からレナが出て来て、微笑ましそうな表情でエステルを見た。
「あ、お母さん!ただいま~!ねえ、ヨシュアはどこ?」
「ヨシュア?一緒に帰って来たんじゃないの?」
エステルに尋ねられたレナは不思議そうな表情で尋ね返した。
「……………………あはは、帰って来てるに違いないじゃない!お母さんに帰って来た連絡もしないなんて、薄情な奴ね~。全く、ここはお姉さんとして叱ってあげなくちゃね!」
レナの答えを聞いたエステルは笑顔が固まった後、気を取り直して2階に上がって行った。
「エステル……?」
エステルから感じる違和感にレナは首を傾げた。そしてエステルが2階に上がった頃にケビン達が家の中に入って来た。
「……そうだ。あたしの部屋にいる可能性もゼロじゃないよね……?やばっ、下着とか出しっぱなしにしてたかも……」
ヨシュアの部屋に行こうとしたエステルは自分の部屋に入った。
「………………………………。よかった……。出しっぱなしにしてなくて。まあ、ヨシュアだったら、あたしの下着なんか見たって平然としてるだろうけど……。………………………………」
フラフラしながらエステルは自分の部屋を出た後、ヨシュアの部屋のドアの前に立った。
コンコン
「ヨシュア……入るね?」
ノックした後、エステルはヨシュアの部屋に入った。
「………………あ。」
誰もいないヨシュアの部屋を見て、エステルはようやくヨシュアがいなくなったという現実に戻った。
「あは……そっか…………あたし……バカだ……」
現実に戻ったエステルはその場で崩れ落ちた。
「カレシ……おらんみたいやな」
「エステル………………」
そこに真剣な表情のケビンと悲しそうな表情をしているレナが入って来た。さらに廊下からはパズモ達が部屋の様子を見守っていた。
「それともアレか。いったん帰って来てからまた街にでも出かけたとかか?」
「……ううん…………」
ケビンの言葉にエステルは首を横に振った。
「ふう……。やっと目ぇ、醒めたみたいやね。」
エステルの答えを聞いたケビンは安堵の溜息を吐いた。
「………………………………。そうよ、ホントはね、ちゃんと分かってたんだ……。ヨシュアは行っちゃったって……。家に戻ってるはずないってちゃんと分かっていたんだよ……」
「そっか……」
「でもね……この部屋が最後だったから……。他に、ヨシュアの居場所なんてあたしには思いつかなかったから……。だから……ここでおしまい。あたしはもう……二度とヨシュアに会えないんだ……」
「エステル………!」
絶望に陥っているエステルを見てレナは思わずエステルを抱きしめた。
「お母さん……!ヨシュアと会えなくなっちゃったよ……!う、ううっ………」
抱きしめられたエステルは涙を流し始めた。
「………そう………………」
泣き始めているエステルを慰めるように、レナはエステルを強く抱きしめ、エステルの背中を優しく撫でた。
「………………………………。諦めるの、早ないか?」
その様子を見たケビンはしばらくの間黙って考えた後、言った。
「…………?」
ケビンの言葉の意味がわからなかったエステルはレナから離れて、立ち上がってケビンを見た。
「所詮、運命なんちゅうもんは女神にしか見えへんシロモンや。そんなもんに縛られた気になって諦めるのは早すぎるで。大事なんは、エステルちゃんが何をどうしたいって事とちゃうか?」
「で、でも……。ヨシュアを捜そうにも何の手がかりもないし……」
ケビンに尋ねられたエステルは戸惑いながら答えた。
「いや、そうでもないやろ。そのカレシがどんなヤツかオレは知らへんけど……。何のきっかけもなしに姿を消すヤツなんておらんで。」
「……え…………」
「最近、カレシの言動や態度で何かおかしなことはなかったか?もしくは、カレシに関係ありそうな奇妙な出来事が起こったりとかな。ずっと一緒にいたキミにしかわからんことやで。」
「……あ……!」
ケビンに言われたエステルは頭の中に思い当たる節を思い出し、声を上げた。
「ああっ……!ヨシュアがおかしくなったのはあの休憩所に戻ってから……。……うそ……どうして?なんであたし……あの時あった人が思い出せないの?」
一部の記憶が思い出せない事にエステルは青褪めた。
「エ、エステルさん!?」
廊下で見守っていたテトリはエステルの言葉を聞き、青褪めた。
(……ちょっと待って。確かあの時、エステルが会った人って……!)
(アルバと名乗っていた考古学者………あの男が黒幕という訳か……!)
「人の記憶を、しかもエステルの記憶を弄るなんて外法、絶対に許せませんわ……!」
一方エステルの身体の中で見守っていた為、記憶に影響を受けなくエステルが思い出せない人物の事を覚えていたパズモが言い出し、その答えをサエラブが答えた後、エステルの記憶障害を起こさせた人物――アルバ教授にサエラブとニルは怒りを抱いた。
「だ、大丈夫か?めっちゃ顔色悪いで。」
「エステル?どこか具合が悪いの?」
「う、うん……大丈夫……」
一方パズモ達の様子に気付いていないケビンやレナは青褪めているエステルに声をかけた。
「そっか……。ヨシュアの目的は悪い魔法使いを止めること……。あの時、あたしがあった人がその魔法使いだとするなら……。それがクーデターを影から操っていたのと同じ人物なら……。悪い魔法使いは、まだリベールで何かをしようと企んでいるはず……。
じゃあ、あたしが遊撃士として魔法使いの企みを阻止できたら……。……ひょっとしたら……」
「……よく気付いたな。」
エステルが呟いたその時、カシウスとシェラザードが入って来た。
「父さん、シェラ姉!?ど、どうしてここに……?」
カシウス達の登場に驚いたエステルは声を上げた。
「……悪い、エステルちゃん。定期船を降りる時、ギルドの王都支部に連絡させてもらったわ。」
「え……」
ケビンから来た意外な答えにエステルは驚いて、ケビンを見た。
「まったく驚いちゃったわよ。あんたを捜してギルドに行ったらちょうど連絡が入ってくるんだもの。で、あわてて先生と……そしてあの娘と一緒に出発直前の貨物飛行船に乗ったわけ。ほら、何か言いたい事があるなら、出て来て遠慮なく言っちゃいなさい。」
そしてシェラザードは廊下に声をかけた。するとミントが部屋に入って来た。
「あ……ミント………」
「ママ………!」
エステルを見たミントはエステルに抱きついた。
「うっ……ヒック!ヨシュアさんがいなくなって、それでママまでいなくなったって聞いて……ミント……もう、ママに会えないと思って…とっても、心配したんだよ!」
エステルに抱きついたミントはエステルの服を強く握って、涙を流しながら泣きそうな表情を顔を上げてエステルに見せた。
「ミント……!ゴメンね……!貴女にまで心配をかけちゃって……!」
涙を流し、今にも泣きそうな表情を見たエステルはミントを強く抱きしめた。
「ヒック!うわあああああああああん!」
エステルに抱きしめられたミントはついに大声で泣き出した。
「ゴメン……!ゴメンね、ミント……!」
大声で泣いているミントを抱きしめて、エステルは涙を流しながら何度も謝った。
「…………ケビン神父といったか?連絡してくれて本当に助かった。礼を言わせてくれ。」
「……ありがとうございます。」
エステルとミントの様子を見たカシウスは安堵の溜息を吐いた後、ケビンにお礼を言った。また、レナもカシウスに続くようにお礼を言った。
「いや~、とんでもない。部外者が出しゃばったりしてホンマ、すんませんでしたわ。」
お礼を言われたケビンは謙遜しながら答えた。そしてミントが泣き止んだ後、エステルはカシウスを見て言った。
「あ、あの……。父さん、あたしね……」
「判っている。……深入りするなと言ったのはただの俺のエゴだ。男としての、父親としての論理をお前に押し付けただけにすぎん。そう、シェラザードに叱られてな。」
「シェラ姉……」
「ふふ、あたしも今回は全面的にあんたの味方よ。」
エステルに見られたシェラザードはウインクをした。
「フフ、私もシェラちゃんと一緒でもちろん貴女の味方よ?エステル。」
「お母さん…………」
「……それとあなた?」
「な、なんだ?レナ。」
レナに呼ばれたカシウスは表面上は穏やかなレナの声に突如恐怖感が襲って来て、微妙に手を震わせた。
「………後で私からも言いたい事や聞きたい事がい・ろ・い・ろと!あるので、忘れないで下さいね?ア~ナ~タ~?」
「…………ハイ、わかりました…………」
そしてレナは凄味のある笑顔をカシウスに見せ、レナの凄味のある笑顔を見たカシウスは身体中を震わせて全身に冷や汗をかき、縮こまりながら答えた。
(………な、何やろ?オレが怒られた訳やないのに、こっちにまで震えが来てしまう……!ってこの感覚はルフィナ姉さんが怒った時と同じ感覚やんけ!…………というか下手したらルフィナ姉さんの上を行く怖さや………!とんでもない人や……!)
(さ、さすがレナさんね…………先生、ご愁傷様です………)
一方ケビンやシェラザードはカシウスに向けているレナの怒りの余波を受け、それぞれ体を震わせた。
「覚悟はしていたが……あいつが居なくなったことが思っていたよりも堪えたらしい。だから、せめてお前だけは危険な道を歩かせたくなかった。命と引き替えにお前を救おうとしたレナのようになって欲しくなかった。……だが、そういう風に考えるのはお前にも、レナにも失礼だったな。今更ながらに思い知らされたよ。」
気を取り直したカシウスはエステルとレナを見た。
「父さん……」
「フフ……そうね。……でもあなた?私は今でもこうして生きているのだから、命と引き換えにこの娘を救ったなんて事を言わないで頂戴。」
「………そうだな。リウイ殿達には本当に感謝しているよ………」
レナに優しい微笑みを向けられたカシウスは口元に笑みを浮かべた後、レナの命を救ったリウイ達に改めて心の中で感謝した。そしてカシウスは表情を真剣にして、話を続けた。
「……軍を立て直すため俺はしばらく身動きが取れん。おそらく奴等の狙いはそこにもあったのだろうが……。今度こそ、俺はお前のことをロクに手助けもできんだろう。それでも、決意は変わらないか?」
「……うん。あたし、まだまだ未熟だけど、それしか方法はなさそうだから……。だからあたし、やってみる。『身喰らう蛇』の陰謀を阻止してきっとヨシュアを連れ戻してみせる!」
「ミントもママと一緒にヨシュアさんを連れ戻すお手伝いをする!」
カシウスに尋ねられたエステルは胸を張って答え、ミントも続いた。
(私達の事も忘れないでよ?エステル。)
「精一杯エステルさんがヨシュアさんと再会できるように、私も頑張ります!」
(……お前がそう決めたのなら、我等は全力でお前をサポートしよう。……それが我等の役目だ。)
「短期間でよく立ち直ったわね、エステル………貴女を”守護”する者として、誇らしいわ。」
「みんな……ありがとう!」
ミントやパズモ達の協力の言葉を受けたエステルはミント達にお礼を言った。
「そうか……。ならば何も言うことはない。遊撃士として……それから1人の女として。お前は、お前の道を行くといい。」
「……父さん……」
そしてエステルはカシウスに抱きついた。
「あたし……あたし……」
「そうだ……。大事なことを言い忘れていた。」
「え……?」
カシウスの言葉を聞いたエステルは首を傾げた。
「エステル、どうか頼んだぞ。ヨシュアを―――あの馬鹿息子を連れ戻してくれ。」
「……あ…………。うん……わかった……。またこの家で……みんなで一緒に暮らすためにも……。絶対にヨシュアを連れ戻すから……!」
こうしてエステルはヨシュアを連れ戻す決意をした……………!
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