三度目で
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第三章
「そうした輩は相手にせぬもの」
「いや」
ここでだ、張良自身がだった。
前に出てだ、こう言ったのだった。
「拾おう」
「よいのですか」
「うむ」
力士にも答えた。
「拾う」
「それでは」
力士は不承不承といった顔で張良に応えた、そして。
張良は靴を拾ってだ、そのうえで。
老人のところに持って行ったがだ、老人は彼にさらに言った。
「履かせるのじゃ」
「何っ!?」
力士はぞんざいな態度で言う老人に思わず顔を顰めさせて言った。
「ご老人、大概にされよ」
「おやおや、御主には言っておらぬぞ」
「それがしの主に言っておるではないか」
だからだというのだ。
「それが人にものを頼む態度か、それに自分で放り投げた靴を拾えだの履かせろだの」
「無礼だというのか」
「それにも程があろう」
実際にというのだ。
「貴殿は何様か」
「まあ待て」
怒る力士にだ、張良はまた言った。
「私はいい」
「よいのですか」
「うむ、ではご老人」
張良はあくまで礼を守って老人に応えた。
「これよりです」
「それではな」
老人はぞんざいな態度のままで張良が恭しく靴を履かせるのを受けた、そうして履き終わってからだった。
張良にだ、こう言ったのだった。
「御主見所があるな」
「そう言われますか」
「これならなよいやもな」
「よいとは」
「五日後早くに来るのじゃ」
こう言うのだった。
「この橋のところにな」
「五日後にですか」
「そうじゃ、早くにじゃ」
老人は早くという言葉をあえて強く言った。
「よいな」
「五日後に」
「そうじゃ、よいな」
こう言ってだ、そのうえで。
老人は橋のところを後にした、そうしてだった。
その老人の背が消えてからだ、力士は張良に言った。
「あの老人早くにと言いましたな」
「五日後にな」
「はい、あの無礼な態度といい何でしょうか」
「わからぬ、しかしな」
「それでもですか」
「うむ、五日後の朝に行こう」
ここにというのだ。
「そうしよう」
「ですか、それでは」
「うむ、五日後な」
張良はこう言って彼も今は家の中に身を隠した、力士も彼に続いた。
そして五日後だ、彼は。
朝に力士と共に橋に来た、だが。
老人はもういてだ、橋のところに来た張良に言った。
「遅いのう」
「申し訳ありませぬ」
「早くにと言ったが」
「朝ですぞ」
力士は張良を咎める老人に対して強く言った。
「何処が遅いのか」
「わしは早くにと言ったのじゃ」
老人は力士の言葉を軽く流した、そのうえでの言葉だった。
「また五日後に来い、よいな」
「早くにですか」
「そうじゃ、ここに来るのじゃ」
こう言ってだった、老人はまた去った。老人の姿が見えなくなってからだった。力士はこう張良に言った。
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