高嶺の花
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第二章
「同じ植物でも」
「ジャガイモは美味いだろ」
これがマルティンの反論だった。
「それもかなりな」
「それはそうだけれど」
「また言うけれどな、同じ人間だからな」
「そんなに違わないっていうんだ」
「そうだよ」
まさにという返答だった。
「というか御前がな」
「僕が?」
「あの娘を一方的に高く見過ぎなんだよ」
「そうかな」
「それで御前自身を低く見過ぎだよ」
自分自身をというのだ。
「勝手に高嶺の花って思ってるんだよ」
「ああ、そうだよな」
「ハンス自分を卑下してるな」
「それでヒルダちゃんを高く見てるな」
「不自然にな」
「そうかな、けれどあの娘は」
そのヒルダはというのだ。
「凄く奇麗だよ、頭もいいし優しいし」
「それは事実でもな」
「御前が思っているより凄い娘じゃないぞ」
「そんな高原のエーデルワイスとかな」
「物語のヒロインじゃないんだぞ」
「御前だってな」
ハンス自身もというのだ。
「土の中のジャガイモとか言うけれどな」
「卑下する程悪くないぞ」
「性格いいしな」
「親切で思いやりがあってな」
「人の悪口も言わないし意地悪なんて絶対にしない」
「いじめなんて大嫌いでな」
「かなりいい奴だと思うぜ」
こう他ならぬ彼自身に言うのだった。
「学校の成績も普通で」
「絵なんかかなり上手だろ」
「それならな」
「そんなに悪いことないぜ」
「釣り合わないとかな」
「そんなのないからな」
これが友人達のハンスへの言葉だった。
「自信持てよ」
「御前低くないぞ」
「あの娘を高嶺の花と思うとかな」
「そこまでいかないからな」
「そうは思わないけれど」
「そこまで言うんならな」
ここでだ、マルティンがまたハンスに言った。
「努力しろ」
「自分自身を磨けっていうんだね」
「勉強してボランティアとかに参加してな」
そうしたことに励んで、というのだ。
「教会に行ったり。あとスポーツもしてな」
「そうして努力して」
「自分自身を高めろ」
ハンスに顔を向けてだ、マルティンは強い声で彼に言った。
「高嶺の花って言うんならな」
「僕がその高嶺の花に近付く」
「そうしろ、いいな」
「うん、それじゃあね」
ハンスはマルティンの言葉に頷いた、そのうえでこう言ったのだった。
「立派な人間になって」
「ああ、それでどうするんだ」
「告白しようかな」
「それ出来るのか?」
マルティンは告白と聞いてだ、眉を顰めさせて問い返した。
「御前に」
「無理っていうのかな」
「ああ、御前の性格だとな」
どうにもというのだ。
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