英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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第91話
リベール通信社に着いたエステルとヨシュアはナイアルがいる2階に上がって行った。
~リベール通信社・2階~
「おーい、ナイアル。」
「お邪魔します。」
「……おお、やっと来たか。ドロシーのヤツ、珍しくちゃんと伝言できたみたいだな。」
階段の入口にいたエステルとヨシュアはナイアルに近付いた。
「そういえばお前ら、今日も勝ったそうじゃねえか。ドロシーのヤツがはしゃぎながら帰って来たぞ。」
「えへへ、まあね。」
ナイアルの言葉にエステルは得意げに答えた。
「それでナイアルさん。例のことなんですけど……」
「おっと、さっそく本題かよ。ほれ……主だった連中の経歴は集まったぜ。」
ヨシュアに尋ねられ、ナイアルは一冊の黒いファイルをエステル達に差し出した。
「これって……王国軍の?」
差し出されたファイルを見て、エステルは驚きながら尋ねた。
「ああ、機密度は高くないが一応持ち出し禁止の書類らしい。無理を言って軍の知り合いに借りたんだから、他言無用だぜ。」
「了解しました。」
「それじゃあ、ここで読ませてもらうわね。」
そしてエステル達はファイルを読み始め、最初にリシャールの経歴を読み始めた。
~リシャール大佐について
アラン・リシャール大佐。七耀暦1168年、リベール王国、ルーアン地方で生まれる。士官学校を首席で卒業した後カシウス・ブライト大佐率いる独立機動部隊に配属される。
1192年の『百日戦役』においてカシウス大佐の部下として反攻作戦で多大な戦功をあげる。カシウス大佐が退役した後、軍作戦本部のスタッフに抜擢され組織改革に多大な功績を残した。
1201年、情報部の設立を提案。アリシア女王陛下の承認を得て情報部の初代司令に就任する。
「何というか……エリートっていう感じねぇ。首席だって、首席。」
リシャールと自分達が辿っている道のりが全然違う事にエステルは溜息を吐いた。
「確かにキレ者って感じだからね。シード少佐から聞いたとおり、10年前の戦争で、父さんの部下だったのは間違いなさそうだ。」
ヨシュアはエステルの言葉に頷きながら、シードから聞いた情報を思い出して口にした。
「うーん、父さんってホントに大佐だったんだ……。そんなに偉かったのに何で辞めちゃったのかしら……」
カシウスが軍の重鎮であった事にエステルは驚き、何故カシウスが軍をやめたのか気になったが、あまり考え込むのはやめて、次の人物――カノーネについての情報を読み始めた。
~カノーネ大尉について
カノーネ・アマルティア大尉。七耀暦1175年、リベール王国、王都グランセルに生まれる。士官学校を優秀な成績で卒業後、軍作戦本部のスタッフに抜擢される。
1201年、情報部の設立と同時にリシャール大佐の推薦で情報部に異動。以後、リシャール大佐の副官として作戦指揮の補佐をする立場にある。
「『優秀な成績で卒業』ってこれまたエリートって感じねえ。」
「任官されてから、リシャール大佐の下でずっと働いてきたみたいだね。忠誠心は堅いみたいだな……」
カノーネの経歴を読み終わったエステルは自分達にとって嫌みに感じ、ヨシュアはリシャールに対するカノーネの忠誠心はかなりのものだと感じた。そして最後にロランスについての情報を読み始めた。
~ロランス少尉について
ロランス・ベルガー少尉。年齢、国籍不明。傭兵部隊『ジェスター猟兵団』に所属していたところを、リシャール大佐の招きに応じて情報部の一員となった。それ以前の経歴は不明。
「あの仮面のヤツって……リベールの人間じゃないんだ。しかも元傭兵で経歴不明ってどーいうことよ?」
ロランスがリベール出身でない事や経歴すらわからない事にエステルは驚いた。
「……判らない。『猟兵団』といえば最高ランクの傭兵部隊にのみ与えられる称号のはずだけど……」
「へー、そうなんだ。戦闘のエキスパートとして大佐が引き抜いたのかしら?」
ヨシュアの説明を聞き、エステルは首を傾げながらロランスが情報部に来た経歴を推測した。
「うん……そうかもしれないね。『ジェスター猟兵団』……どこかで聞いたことがあるような………」
エステルの推測に頷きながらヨシュアは、聞き覚えのある猟兵団の名前に首を傾げていた。そして読み終わったファイルを閉じて、ナイアルに返した。
「ありがと、ナイアル。何となく敵の姿が見えてきたわ。」
「お役に立てて何よりだぜ。こちらも、資料を調べているうちに面白いことが色々と判ってな。」
「面白いこと……ですか?」
ナイアルが言った”面白い”という情報にヨシュアは首を傾げた。
「たとえば指名手配されている親衛隊のユリア中尉だが……。士官学校で、カノーネ大尉と同学年だったらしいぞ。」
「へえ~、そうだったんだ。」
「そのわりには、あの2人、あまり仲が良さそうには見えませんでしたけど……」
カノーネとユリアの以外な共通点にエステルは驚き、ヨシュアはルーアンの空港で2人の会話等を思い出し、あまり仲が良くなかった事に首を傾げた。
「何でも、お互い主席を争うライバル同士だったらしくてな。文のカノーネ、武のユリアと好対照な2人だったらしい。」
「なるほど……何となく想像できますね。」
「ユリアさん、凛としてて昔の騎士みたいだったもんね。」
具体的な理由をナイアルから説明され、2人は納得した。
「それから……これは軍とは関係ないんだが。お前ら、『クローディア姫』という名前は聞いたことはあるか?」
「クローディア姫……。どこかで聞いたことあるわね?」
「確か、海難事故で亡くなった王太子夫妻の忘れ形見ですね。女王陛下のお孫さんにあたる……」
ナイアルが尋ねた人物――クローディア姫について尋ねられたエステルは聞き覚えのある名前に首を傾げ、ヨシュアはナイアルに確認した。
「ああ、あまり有名じゃないが、直系中の直系ともいえる女性だ。いつもは、グランセル城の女王宮で暮らしてるらしいが……。その姫殿下の見合い相手をある人物が捜しているらしい。」
「見合い相手かぁ……。お金持ちの家は、そういうのも珍しくないっていうけど……。何だかちょっと気の毒よね。リフィア達みたいに女王様自らが断ってくれたらいいのにねぇ……」
「エステル、論点はそこじゃないよ。この場合、『ある人物』というのが問題なのですよね?」
「フフ、さすが鋭いじゃねーか。」
ヨシュアに尋ねられたナイアルは口元に笑みを浮かべた。
「え、その人物って……リシャール大佐のこと?」
「ほう、なかなか鋭いな。実際に、他国に人を派遣して有力候補を捜そうとしているのはリシャール大佐らしいんだな。」
エステルの指摘にナイアルは感心しながら説明した。
「やっぱり……。でも、おかしくない?なんでリシャール大佐がお姫様の結婚相手を探すわけ?」
「だから面白そうな匂いがプンプンするんじゃねえか。というわけで……そのあたりの事は頼んだからな。」
「へ……?」
いきなりナイアルに頼まれた事にエステルは首を傾げた。
「……明日の試合に勝ってお城の晩餐会に招待されたらそのあたりの情報を探ってこい。つまり、そういうことですね?」
「あ、なるほどね……。まったく、道理で気前よく色々と教えてくれるわけだわ。」
ヨシュア尋ねた事で納得したエステルはいつもなら難癖をつけるナイアルがあっさり情報を自分達に開示した理由がわかり、呆れた。
「これだけ調べてやったんだ。ギブ・アンド・テイクは当然だろ。」
「確かに、色々と助かりました。」
「仕方ないわね~。何か判ったら教えてあげるわよ。」
「へっ、そう来なくっちゃな。まあ、お前らに頼らなくてもうまく行けば今日中にも……」
ナイアルがエステル達に何かを言いかけようとしたその時、通信機が鳴った。
ジリンジリン!ジリンジリン!
「おっと……」
そしてナイアルは受話器を取った。
「もしもし。こちら『リベール通信社』……。おお、お前か!ずっと連絡を待ってたんだぜ。なに……今から?ああ、わかった。これからそっちで落ち合おう。」
「なになに、どうしたの?」
通信の内容が気になったエステルは尋ねた。
「ちょっとしたヤボ用でな。今から人に会うことになった。」
「大変ですね。もう日が落ちるのに……」
夕方から仕事に入るナイアルにヨシュアは驚いた。
「もともと俺は夜型でね。それを、あのマイペース娘の新人研修をしてるうちに、朝型に変えられちまったんだ……。って、そんな事はどうでもいいか。俺はこれから出かけるが、お前らはゆっくりしていけよ。」
「ん、わかったわ。お仕事、がんばってね」
「お前らも明日の試合、相手があの”戦妃”だろうと絶対に負けるんじゃねーぞ!」
エステル達に応援の言葉を贈ったナイアルは出かけて行った。
「さてと……あたしたちはどうしよっか?」
「そうだね……。とりあえずギルドに寄ってからホテルに帰るとしようか。ナイアルさんが調べてくれたことを報告しておいた方が良さそうだ。」
「ん、りょーかい。」
その後エステル達はギルドに向かって、エルナンに試合の事やナイアルから手に入れた情報を報告してギルドを出るとすでに日が暮れていた。
~グランセル南街区~
「わっ……。もうこんな時間だわ。」
「早くホテルに帰ったほうがよさそうだね。」
ギルドを出た時、すでに夜になっている事にエステルは驚き、ヨシュアは早くホテルに帰るよう提案した。
「おい、そこの君たち!」
その時、兵士達がエステル達に近付いて声をかけた。
「あれ……兵士さんたちどうしたの?」
兵士に声をかけられ、エステルは首を傾げて尋ねた。
「我々は巡回中の者だ。テロリスト対策の一環として本日から、夜間のパトロールを強化することになってな。」
「それに伴って、夜間は外出はなるべく控えてもらう事になった。君たちも、早く家に戻りたまえ。」
「夜間の外出を控えろって……ちょっと不便すぎるんじゃない?」
兵士達の言葉にエステルは顔を顰めて、文句を言った。
「これも上の決定なのでね。」
「申しわけないが従ってもらおう。ところで……君たちはどこに住んでいるのかね?」
「僕たちは、北街区にあるホテルに滞在しています。武術大会の期間中、そこに泊まっているので……」
「武術大会の期間中……。待てよ、君たちの顔、どこかで見たような気が……」
ヨシュアの説明を聞き、兵士の一人がエステル達の顔が見覚えのある顔と気付き、よく見た。
「ああっ!この子たち、武術大会の決勝に勝ち進んだ出場者じゃないか!」
「言われてみれば……」
そしてもう一人の兵士がエステル達が武術大会の決勝戦で出る出場者だと気付き、声をあげ、もう一人の兵士も片方の兵士の言葉を聞きエステル達の顔を見て頷いた。
「あ、兵士さんたち、見物してくれてるんだ?」
「はは、警備のついでにね。特に今日の試合は白熱の展開で興奮させられたよ。」
「明日は決勝戦なんだろう?ホテルまで送っていくからゆっくり休まなきゃだめだぜ。」
「え、えっと……」
「わかりました。お言葉に甘えます。」
好感的になった兵士達の態度にエステルは戸惑ったが、ヨシュアが代わりに答えた。そしてエステル達は兵士達にホテルのフロントまで送られた。
~ホテル・ローエンバウム~
「えっと……送ってくれてありがとう。」
「どうもお世話様でした。」
ホテルのロビーまで送ってくれた兵士達にエステル達はお礼を言った。
「なあに、自分たちは君たちのファンだからな。」
「いくら同盟国の英雄の一人とはいえ、毎年彼女に優勝されているからな。リベールで生まれた者として、同じリベール人である君達には勝ってほしいのだよ。」
「そうそう、モルガン将軍でさえ勝てなかったもんな。でも、今年はそっちは4人で向こうは1人だ。もしかしたら勝てるかもしれないし、期待しているぜ。」
「まあ、そんなわけで君たちの活躍には期待してるよ。」
「明日の試合、頑張ってくれよな!」
「あはは……どーも。」
「精一杯頑張ります。」
兵士達の応援の言葉にエステルとヨシュアは笑顔で受け取った。そして兵士達はホテルを出て行って、巡回に戻った。
「じゃあ、部屋に戻ろうか。多分、リフィア達も戻っているだろうし。」
「そうね。ミントも首を長くして待っているだろうから、一端部屋に戻ってその後、プリネ達の所に行ってミントを迎えにいきましょうか。」
そしてエステル達は自分とヨシュア、ミントが泊まっている部屋に向かった。
~202号室~
コトン!!……パタパタパタ……………
エステルが部屋を開けようとすると、中から何か音が聞こえてきた。
「あれ……。今、何か物音がしなかった?」
「………………………………」
部屋の中から聞こえて来た物音にエステルは首を傾げ、ヨシュアは厳しい目つきで扉を見ていた。
(……部屋に入ると同時に臨戦態勢のまま状況確認を。)
(えっ……!?)
ヨシュアの囁きにエステルは驚いた。
(たぶん、侵入者だ。爆発物が仕掛けられている可能性もあるから気を付けて。)
(ちょ、ちょっと……冗談でしょ?)
ヨシュアの忠告にエステルは信じられない表情で尋ねた。
(頼むから僕の言うとおりにして……。何だったらここで待っていてくれても構わない。)
(じょ、冗談!覚悟はできているからとっとと中に踏み込みましょ!)
(……了解。)
そしてエステル達は武器を構えて、部屋に突入した。
「あ……」
「逃げられたみたいだね。でも、おかしいな……。人のいた気配がない……。トラップも……仕掛けられてないみたいだ。」
しかし部屋の中には誰もいなく、部屋自体も散らかっている様子はなく綺麗なままだった。
「そ、そんな事までわかるの?」
部屋の現状を見て、トラップが仕掛けれていない事にまで気付いているヨシュアにエステルは驚いた。一方ヨシュアは窓の下に手紙が落ちているのを見つけ、それを拾った。
「……どうやら置き土産はこれだけみたいだ。」
「それって……手紙?」
ヨシュアは手紙の封を切って、文面を読んだ。
「『―――今夜10時。大聖堂まで来られたし。くれぐれも他言無用のこと。』」
「……って、それだけ?大聖堂って、西街区にある大きな教会のことよね。今夜10時っていうことはもうすぐか……」
文面の少なさにエステルは驚き、部屋にある時計を見て、指定している時間がかなり近付いている事に気付いた。
「………………………………」
一方ヨシュアは目を閉じて考え込んでいた。
「うーん、あやしさ大爆発だけど虎穴に入らずんばとも言うし……。ねえ、ヨシュア。ここはお誘いに乗ってみない?」
「……駄目だ!」
エステルの提案を聞いたヨシュアは目を開けて、大声で否定した。
「ど、どうしたの?」
急に大声を出したヨシュアにエステルは驚いて、尋ねた。
「ごめん、大声を出して……。ほら、さっき兵士たちが夜のパトロールを強化してるって言ってただろう?西街区までは離れているし、見咎められる可能性が高いよ。」
「あ、忘れてた。うーん、だからといって放っておくのも気持ち悪いし……」
ヨシュアの説明を聞き、街には兵士達が巡回している事を思い出したエステルはどうするか考え込んだ。
「だから、僕一人で行ってくるよ。」
「へっ……?」
そしてヨシュアの提案にエステルは呆けた声を出した。
「こういう時は、2人よりも1人の方が行動しやすいからね。兵士達をやり過ごしながら大聖堂までたどり着けると思う。」
「………………………………」
「様子を確かめるだけなら僕一人で充分だと思うんだ。だから君はここでミントと待ってて……」
「コラ。」
ヨシュアの説明を黙って聞いていたエステルだったが、ヨシュアを睨んで話を遮った。
「え……」
「あたしだって遊撃士のはしくれよ。自分のことは自分で面倒見れるし、足を引っ張らない自身だってあるわ。もっともらしいこと言ってもごまかされないんだからね。」
「エステル……僕はそういうつもりじゃ。」
「あたしを信用してないワケじゃないのは分かってる。心配してくれているんだろうけど多分、それだけでもない……。何か心当たりがあるってトコ?」
「………………………………。そんな素振りを見せてないのにどうしてそこまで分かるんだい?」
ヨシュアは図星を刺されたかの表情でエステルに尋ねた。
「そりゃあ、あたしはヨシュア観察の第一人者だもん。何となく分かっちゃうんだってば。」
「………………………………。(……ここまで、か………)」
ヨシュアはエステルに聞こえないような声で呟いた。
「えっ?」
「わかった、もう止めないよ。指定の時間までもうすぐだし、急いで大聖堂に向かうとしよう。」
「あ……うん!」
「でも、約束して欲しいことがある。何かあったら必ず僕の指示に従ってほしいんだ。一瞬のミスが命取りになるかもしれない。」
「うん……わかった。それじゃあ急ぎましょ。」
そしてエステル達はプリネ達に事情を話して、エステル達が戻って来るまでミントを預かってもらい、ホテルの外に出て巡回の兵士達の目を掻い潜って大聖堂に向かった………
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