英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク
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外伝~ジェニス王立学園占拠事件~前篇
~遊撃士協会・ルーアン支部~
「やあ、何かお困りの事でも―――あれっ……!?」
ギルドに入って来たエステル達に気づいたジャンは驚いた。
「どうも、ジャンさん。」
「……ご無沙汰しています。」
「エステル君……それにヨシュア君も……!そうか……みんな無事で何よりだよ。君たちが”塔”に行ってる時に例の現象が起こったからさすがに大丈夫か心配だったんだ。」
「あはは……心配してくれてありがと。」
「こちらは何とか大丈夫です。ルーアンの方こそなかなか状況は厳しそうですね。」
ジャンの話を聞いたエステルは苦笑し、ヨシュアは状況を訊ねた。
「ああ……かなり混乱している最中さ。あの貝殻みたいな巨大な物体が湖の上に現れたかと思ったら全ての導力器が動かなくなったんだ。新市長のノーマン氏もさすがに対応しきれなくてね。正直、”レイヴン”のメンバーや各宗教の教会の人たちがいなかったら市内はパニックに陥っていたと思う。」
「え”……」
「”レイヴン”の連中が……何だってぇ?」
ジャンの口から出た驚愕の事実にエステルは呆け、アガットは信じられない表情で声を上げた。
「例の導力停止現象の直後、パニックが起こりそうになった時に率先して混乱を収拾してくれたんだ。今も有志としてギルドに協力してくれているよ。」
「マジかよ……」
「そっか……やっとやる気を出したんだ。」
”レイヴン”が更生しつつある事にアガットが信じられない思いでいる中、エステルは嬉しい気持ちになっていた。
「さらに面倒なことが1つ。よりにもよって跳ね橋が上がっている時に例の異変が起きてしまってね……。おかげで手漕ぎのボートでしか街区の移動ができなくなってしまったんだ。」
「そうなんだ……。確かにそれしか方法はないもんね。」
「ただまあ、いつまでもこの状況が保つとは思えない。各地の支部や王国軍と協力して対策を立てていきたいんだけど……。通信器も使えないから連絡が滞っている有様でね……」
「安心して、ジャンさん!あたしたちが良い物を持ってきてあげたから!」
溜息を吐いたジャンにエステルは明るい表情で答えた。
「良い物……?」
「はい、実は……」
そしてエステルたちはジャンに”浮遊都市”が現れた経緯と『零力場発生器』について説明した。
「そうか……。やはり巨大な物体は”結社”の仕業だったんだな。でも、通信器が使えるのはとんでもなく助かっちゃうよ!さっそく設置してくれるかい?」
「はい、それでは」
ジャンにせかされたヨシュアは通信器に『零力場発生器』を付けた。
「……これで設置は完了です。」
「おお~!?」
再び光が点灯した通信器を見たジャンは嬉しそうな表情で声を上げた。
「これで通信器は使用可能になりました。ただし、先方の通信器が直っていることが前提ですが。」
「いや~、それでも大助かりさ!この状況で、情報があるのとないのとでは天地の差だからね。ラッセル博士と君たちにお礼のキスをしたい気分だよ!」
「あはは……気持ちだけ受け取っておくわ。」
ジャンの大げさな言葉を聞いたエステルは苦笑しながら答えた。
「まあ、この調子で残りのギルドの通信器を直していくつもりだが……他に手伝うことはあるか?」
「そうだね……。一応、掲示板に出ている仕事をチェックしておいてくれないか?それと、ルーアン近郊で民間人がいそうな場所の様子を確かめに行ってくれると助かるよ。」
「確かに、こんな状況だしパトロールは必要かもね。」
「できる限り気を付けて回ってみることにします。」
「ああ、よろしく頼むよ。」
その後通信器でボース支部に待機していた仲間達を呼び寄せた後同行メンバーにティータ、ジン、シェラザード、アーシアを選んだエステルとヨシュアはルーアン以外にも人が住む場所――ジェニス王立学園やマノリア村のパトロールをするためにルーアン市を出た。
~ヴィスタ林道~
まずジェニス王立学園に向かう為に学園に向かう林道にエステル達が入ったその時、誰かの悲鳴が聞こえた。
「うわあああああ~~っ!!」
「今のは……!?」
「急ごう、エステル!」
突然の悲鳴に驚いたエステル達は悲鳴が聞こえた方向に急いだ。
「あうっ……。く、くそ……どうしてこんな事に……。は、早く報せなくちゃ。」
一方その頃悲鳴の主である一人の王立学園の男子生徒が逃げるのに必死で、思わずこけてしまい、すぐに立ち上がって再び走ろうとしたが
「グルルルル…………」
何かの唸り声が聞こえると、結社の装甲獣が数体、生徒に迫っていた。
「ひっ……」
「グル!」
「はあああっ!!」
そして装甲獣の一匹が生徒に襲い掛かったその時、エステルが飛び込んで、棒で弾いた!
「話は後で!こいつらを追い払うから!」
「下がってて。巻き込まれると危険だ。」
「後は私達に任せて!」
「ど、どうしてこんな所に”結社”の装甲獣が……!」
「とにかくまずは奴等を撃破するぞ!」
エステルとヨシュア、アーシアは男子生徒に警告し、ティータは不安そうな表情で装甲獣達を見つめ、ジンは厳しい表情で声を上げ
「……来るわ!」
シェラザードの警告を合図にエステル達は装甲獣達との戦闘を開始し、協力して装甲獣達を撃破した。
「ふう……さすがに手強かったわね。」
「ああ……何とか間に合って良かった。」
「た、助かった……。エステル……それにヨシュアだったな。すまねえ……危ない所を助けてくれて……」
エステル達が装甲獣達を撃破すると男子生徒は安堵の表情で溜息を吐いた後エステル達に話しかけた。
「ま、それがあたしたちのお仕事みたいなもんだから。」
「それよりも……いったい何があったんだい?今の魔獣、このあたりで普通にいるヤツじゃないよ?」
「そ、それが……。学園が……王立学園が襲われたんだ!」
「なっ……!?」
「何ですって………!?」
「……詳しく話してくれ。」
男子生徒の口から語られた凶報にエステルとシェラザードが驚いている中、ジンは真剣な表情で話の続きを促した。
「あ、うん……。俺……いつものように校舎裏で授業をサボってたんだけど。紅い装甲の兵士たちがいきなり正門から入ってきたんだ。用務員のオッサンが止めようとしたんだけど……。そ、そいつらが銃で……オッサンを、う、撃って……」
「……っ……!」
「そ、そんな……」
「襲撃した猟兵達は間違いなく”結社”の猟兵達ね……」
人が撃たれたという話を聞いたティータとエステルは不安そうな表情をし、アーシアは厳しい表情で襲撃犯を推測した。
「それを見て俺……頭が真っ白になっちゃってさ……。何とか助けを呼ぼうとここまで逃げてきたんだけど……」
「……事情は分かった。このままルーアンに行ってギルドに伝えてくれるかい?僕たちはこのまま学園の近くまで行ってみるから。」
「わ、分かった……。あいつら、今の魔獣以外にもでかい人形みたいなのを連れてた……。くれぐれも気を付けてくれ!」
その後エステル達は仲間達を呼び寄せた後、占拠されている学園に向かった。
~ジェニス王立学園前~
エステル達が学園の近くに到着すると、学園内では結社の猟兵達が見回りをし、学園の入口付近では人形兵器の部隊が居座っていた。そしてエステル達は物陰に隠れて、様子をうかがっていた。
「話を聞いて飛んできちゃあみたが……かなりヤバイ状況みたいだな。」
「一応ジャンが王国軍に連絡したが……。すぐには応援に来れないそうだ。」
「そっか……」
アガットは厳しい表情で学園を睨み、バダックの話を聞いたエステルは残念そうな表情をした。
「どの道、導力兵器が動かない以上、軍の部隊はアテにならないだろう。白兵戦に慣れている俺たちでケリをつけるしかなさそうだ。」
「で、でも、学園の人達が捕まっているみたいだし……どーすればいいんでしょうか?」
フレンは真剣な表情で答え、ティータは不安そうな表情でエステル達を見回して訊ねた。
「確かに……。何とか内部の状況が分かるといいんだけど……」
「………………………………。……少しだけ待ってて。学園内の様子を調べてくるよ。」
エステルが溜息を吐いたその時、真剣な表情で考え込んでいたヨシュアが驚愕の提案をした。
「ヨ、ヨシュア!?」
「……どういうこと?」
「偵察などの隠密行動は僕が最も得意とする分野です。敵戦力と人質たちの状況を一通り調べられると思います。」
「なるほどな……」
「ふむ、それが可能なら是非ともやってほしいところだが。」
「で、でも!それって危険なんじゃ!?」
「大丈夫、もっと厳しい状況で潜入活動をしたこともあるから。心配はいらないよ。」
「で、でもでも~っ!」
「ふふっ、どうやら私の手が必要のようだな?」
ヨシュアの提案にティータが反対していたその時、何と銀がエステル達の背後の空間から姿を現した!
「!?」
「へ………」
「何者……!?」
「全然気配がしなかったぞ……!?」
銀の登場に驚いたヨシュアは呆けているエステルを庇うようにエステルの前に出て双剣を構え、アーシアとフレンは厳しい表情で銀を睨んだ。
「―――我が名は”銀”。そちらの東方の遊撃士達ならば私の噂ぐらいは聞いた事があるだろう?」
「”銀”だと!?」
「……………………伝説の凶手が俺達に何の用だ?」
名乗り上げた銀に視線を向けられたジンは厳しい表情で声を上げ、バダックは銀を警戒しながら銀に問いかけた。
「”銀”??」
「ジンさんとバダックさんは知っているようだけど………一体何者なのかしら?」
「”伝説の凶手”という言葉からして、間違いなく裏世界の奴だろうな……」
「!!」
初めて聞く名前にエステルは首を傾げ、シェラザードはアガットと共に銀を睨みながらジンとバダックに訊ね、銀の正体がわかったヨシュアは目を見開いた。そして二人は”銀”について説明をした。
「カ、カルバード共和国に伝わる伝説の暗殺者~~~!?」
「おいおいおい……何でそんな奴までよりにもよってこのややこしい時にリベール入りしているんだよ……」
銀の事を知ったエステルは驚き、フレンは疲れた表情で呟いた。
「……”銀”。先程貴方は『私の手が必要のようだな』と言っていたが、まさか僕達に力を貸してくれるのか?」
一方ヨシュアは冷静な様子で銀に訊ねた。
「ふふっ、”依頼人”からお前達が必要なら一度だけ私の力を貸してやってくれとの指示があったからな。お前達が望むのならば、学園を猟兵達から奪還するまでの間だけ力を貸してやってもいいぞ。」
「”依頼人”だと?一体誰がそのような依頼を出したのだ?」
銀の話が気になったバダックは真剣な表情で訊ねた。
「クク、お前達は今ある人物の依頼によって”西風の旅団”がリベール入りしている事は知っているか?」
「”西風の旅団”って………―――ちょ、ちょっと待って!?まさか貴方の依頼人ってレ――――いえ、”Ms.L”なの!?」
銀の答えを聞いて呆けたエステルだったがある事に気づくと信じられない表情で銀に訊ねた。
「ほう、今の話だけで全て気づくとはさすがは”剣聖”の娘と言った所か。―――ご名答だ。私は”西風の旅団”がレナ・ブライトの護衛の依頼を請け負っていなかった場合の”保険”としてのレナ・ブライトの護衛として雇われていてな。”西風の旅団”が依頼を請け負っている事を確認した後は”戦天使の遊撃士(エンジェリック・ブレイサー)”に接触して指示を仰げという事だったのだが……その”戦天使の遊撃士(エンジェリック・ブレイサー)”から自分の代わりにお前達に一度だけ私の力を貸してやって欲しいとの要請があった為、私の力を必要としている様子になったお前達に接触したという訳だ。」
「………………」
「あ、あのクソガキ……!猟兵達どころか、暗殺者まで雇っていたのかよ!?」
「レ、レンちゃ~ん……」
「ハア……頭痛がして来たわ……」
「やれやれ……暗殺者を護衛にするなんて誰も思いつけないような事をよく思いついたもんだな、あの嬢ちゃんは……」
「まあ、普段は”狙う側”の暗殺者を護衛にする事は理にはかなっているけど……」
「母親を守る為だけに合法的に最高ランクの猟兵団に所属している猟兵達どころか伝説の暗殺者をも雇った事を知ったら、さすがのカシウスさんも度肝を抜かれるんじゃねぇのか?」
銀の話を聞いたエステルは驚きのあまり口をパクパクさせ、アガットは厳しい表情で、ティータとシェラザード、ジンとアーシアはそれぞれ疲れた表情でレンの顔を思い浮かべ、フレンは苦笑していた。
「あの娘は~~っ!”結社”の件が終わったら猟兵達を雇った事がバレた時に何で銀さんの事も話さなかった事も含めて絶対に叱ってやるんだから!」
「まあ、今はその話は置いて……ここは彼の申し出を素直に受けた方がいいと思う。僕にすら悟られずに僕達に近づいた彼の隠密能力を考えると彼の隠密能力は確実に僕より上だし、戦闘能力も恐らくだけど”執行者”クラスだと思うから、戦力不足の僕達にとっては心強い戦力なのは間違いないと思う。」
「そうだな………学園を解放する為には今は一人でも戦力が欲しいというのが現状だしな。」
ヨシュアの意見にバダックは静かな表情で頷いて銀を見つめ
「うっ……えっと……銀さん、だっけ?あたし達としても今は猫の手も借りたいくらいだから、正直銀さんの申し出もありがたいんだけど……一つだけ守ってもらう必要がある約束があるのだけどいいかしら?」
図星を突かれたエステルは唸った後気を取り直して真剣な表情で銀を見つめた。
「ほう……?何を守って欲しいのか言ってみるがいい。」
エステルの要求に興味を持ったのか銀はエステルに続きを促した。
「学園から猟兵達を追い出す時は非合法な事をしないであたし達の指示に従って行動する事を約束して。あたし達は遊撃士だから、幾ら民間人を守る為とはいえ非合法な事は見逃せないわ。」
「クク、”民間人の安全を守る為ならどのような事もする”お前達にそれを言われる筋合いはないと思うがな。―――特にカルバードでは遊撃士達は民間人の保護の為ならば相当無茶な手段を取る事もあり、時には殺し合いにまで発展する事もあると聞いているが?」
「やれやれ……耳が痛いねぇ。」
「……”民間人の安全を守る”時に限っては俺達も猟兵や暗殺者と同類かもしれんな。」
エステルの要求に口元に笑みを浮かべて答えた銀に視線を向けられたジンは疲れた表情で溜息を吐き、バダックは重々しい様子を纏って答えた。
「―――まあ、よかろう。”依頼人”からもお前の母を護衛している”西風の旅団”の猟兵達同様、遊撃士協会の規約に触れずにお前達に力を貸してやって欲しいとの要望だからな。」
「うん、短い間だけどよろしくね!―――あ、学園の様子を偵察するのは結局どうしよう?せっかくだから、そう言った事が得意な銀さんに任せる?」
銀の言葉に頷いたエステルはある事を思い出してヨシュアを見つめて訊ねた。
「―――――いや、彼と僕の二手に分かれて偵察してくるよ。その方が効率的だし、もしハンス達と接触できた時に初対面の彼より面識がある僕の方がハンス達も内部の情報を教えてくれると思うしね。」
「同感だ。普通に考えたらこんな全身黒づくめで仮面までしている怪しい野郎を自分達を救助しに来た奴だと信じないだろうしな。」
「ア、アガットさん~。手伝ってくれる銀さんに失礼ですよ~。」
ヨシュアの意見に頷いたアガットの言葉を聞いたティータは疲れた表情で指摘し
「そっか……。……1つだけ確認。あの時の約束……ちゃんと覚えているよね?」
一方エステルは静かな表情でヨシュアを見つめて訊ねた。
「最後まで一緒に歩いていく、だね。大丈夫―――絶対に忘れないから。」
「うん、それならよし!ヨシュア、銀さん……くれぐれも気を付けてね。」
「うん、分かってる。それでは行ってきます。―――銀。」
「ああ。―――行くぞ。」
そしてヨシュアと銀はそれぞれ近くの木に跳び移った後、学園の潜入を開始した。
「おい……いいのか?」
「……うん。この状況で付いていったらかえって足手まといになるし。それに……ヨシュアを信じているから。」
二人を見送ったアガットに尋ねられたエステルは頷き
「お姉ちゃん……」
「ふふ……いい女になったじゃない。」
「ま、伝説の暗殺者もいるから、心配はいらないだろう。」
「ふふ、確かにそうね。」
エステルの答えを聞いたティータとシェラザードは微笑み、フレンとアーシアはそれぞれ苦笑していた。
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