英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク
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第71話
~紅蓮の塔・屋上~
「ジンさんとソフィの二人がかりでも、倒せないなんて……!」
「さすがに手強いな……」
仲間達と共に駆け寄ったエステルとヨシュアはジンとソフィと戦ったにも関わらず、未だ決定打を与えられた様子がないヴァルターを警戒した表情で見つめていた。
「(クク……俺としたことがガキだからといって油断しちまったぜ。しかも格闘技まで使うとは面白れぇじゃねぇか……!)……どうやら功夫だけはそれなりに練っていたようだな。だが、動きが愚直すぎるぜ。古ぼけた”泰斗流”なんぞにいつまでも固執してるからだ。」
ヴァルターはエステル達と共にいるソフィを興味ありげな表情で見つめた後、油断なく構えているジンに視線を向けた。
「ふふ……」
「……何がおかしい?」
しかし突然急に笑い出したジンを見たヴァルターは眉を顰めて尋ねた。
「あんたは確かに天才だが、肝心な事が分かっていないな。師父もさぞや無念だっただろう。」
「ほう……。てめぇ、ジジイの代わりに俺に説教しようってのか?」
「そんな大それた事は考えちゃいないさ。だが、拳を交えてみて一つ分かったことがある。今の俺が、あんたに勝つのは難しいだろうが……代わりに負けもしないだろう。あんたの拳じゃ俺は倒せんよ。」
「………………………………。クク……面白れぇ。まさかてめえの口からそんな台詞を聞けるとはな。ヒマつぶしに味見するだけのつもりだったが、気が変わった。」
ジンの説明を聞いたヴァルターは少しの間黙った後不敵な笑みを浮かべ、そして身体全体に凄まじい闘気を練り始めた!
「構えろ、ジン……。格の違いってヤツを思い知らせてやる……」
「………………………………」
ヴァルターの言葉に応えるかのようにジンも同じようにその場で身体全体に凄まじい闘気を練り始めた!
(ど、どうしよう!?)
(これは……入り込めなさそうだ。)
二人の様子をエステル達が見守っていると、2人は1対1の戦闘を始めた!2人の戦闘は凄まじい攻防が繰り広げられ、周りの柱も破壊されるほど2人は常人では決して見えない”達人”同士の戦いを繰り広げていた。
「クク……でかい口を叩くだけあってなかなか粘るじゃねえか……」
「あんたこそ……それだけの天賦の才を持ちながらどうして武術の闇に引きずられた!そのまま師父の元で励めば正道の極みに至れただろうに!」
油断なく戦闘の構えをして不敵な笑みを浮かべているヴァルターをジンは睨みながら怒鳴った。
「フッ、てめぇがそれを言うか。どうやらジジイの死んだ原因がてめぇだと分かっていねえようだな。」
「……な……!?」
しかしヴァルターの話を聞いたジンは驚いた。
「クク、顔色が変わったな。万が一、お前が勝ったらそのあたりの話をしてやろう。賭けるのはてめぇ自身の命だ。」
「………………………………。……いいだろう。この命、賭けさせてもらうぞ。」
互いの命を賭ける覚悟をした二人はそれぞれ全身に更に凄まじい闘気を練り始め
(ジ、ジンさん……)
(だめだエステル……これは止められない。)
(うふふ、だったら勝負が終わった後に向けての行動をするべきね♪)
(だから何でお前はそんな腹黒い事をすぐに思いつけるんだよ……)
(かつての同門同士の決闘を汚すような事をしたら後々ジンさんとの間に”しこり”ができるから、止めなさい……)
ジンを心配しているエステルにヨシュアが警告している中、双銃の銃口をヴァルターに向けていつでも攻撃できるようにしているレンの様子にルークは呆れ、アーシアは疲れた表情でレンの行動を諫めた。
「コオオオオオオッ……!」
「はああああああっ!」
そして2人が激突しようとしたその瞬間、何かの武器が2人の間に割って入り、何かの武器はその場で廻っていた!
「なに……!」
「偃月輪……まさか!」
目の前に現れた武器にヴァルターは驚き、同じように驚いたジンは攻撃が来た方向に視線を向けるとそこには東方に伝わる武器――偃月輪を片手に持ったキリカがいた。そしてジンとヴァルターの間に回っている偃月輪はキリカのもう片方の手に戻った。
「キ、キリカさん!?」
「どうしてここに……」
「よ、様子を見に来たって……」
「あの『裏の塔』を1人で登ってきたんだ……」
「フン、それ程の使い手でありながらギルドの受付を務めているとは酔狂な女だ。」
「つーか、それなら最初から俺達に合流して手を貸してくれよな……」
キリカが一人で”裏の塔”を登って来た事にエステルは引き攣った笑みを浮かべ、ソフィは目を丸くし、リオンは感心した様子でキリカを見つめ、ルークは疲れた表情で呟いた。
「キリカ、お前……」
「クク……相変わらずだな。様子を見に来たついでにジジイの仇を討ちに来たのか?」
自分達に近づいて来るキリカをジンは真剣な表情で見つめ、ヴァルターは不敵な笑みを浮かべて尋ねた。
「まさか……。勝負の結果だったのでしょう。どうして私が父の決意を踏みにじらなければならないの?」
「………………………………」
「キリカ……」
キリカの答えを聞いたヴァルターは黙り込み、ジンは複雑そうな表情をした。
「私がここに来たのは6年前、居なくなった誰かに伝えるべき言葉があったから。ただ、それだけのためよ。」
「伝えるべき言葉……だと?」
「ええ……。……ねえ、ヴァルター。どうして私を私として見てくれなかったの……?」
「!!!」
キリカに問いかけられたヴァルターは目を見開いて驚き
「貴方が父に何を言われたのか詳しいことは分からない。でも、それは私たちの付き合いに何の関係もなかったはずだわ。ましてや、ジンには尚更ね。」
「!?」
「………………………………」
更にキリカの口から語られた話を聞いたジンは驚き、一方のヴァルターは黙り込んでいた。
「……やっぱりそうだったのね。ヴァルター……馬鹿なひと。父がそういうことを考える人だとでも思ったの?」
「ジジイは関係ねぇ……俺自身のケジメの問題だ」
「ちょ、ちょっと待て……。ヴァルター!師父に何を言われたんだ!?それと俺と何の関係がある!?」
二人の会話の内容に訳がわからなかったジンはヴァルターに尋ねたが
「るせえ……てめえに教える義理はねえ。」
「ええ、ジンには関係ない。でも……私に話す義務はあったはず。そうしないで消えたのは怠慢以外の何物でもないわ。」
ヴァルターとキリカはそれぞれ答えを誤魔化し、キリカはヴァルターに視線を向けて話を続けた。
「私は……私を私として見られない人に未練なんてない。何処へなりと消えればいいし、堕ちるなら堕ちればいい。私はあくまでギルドの人間として対処させてもらうわ。」
「……ククッ……。アーッハッハッハッ!」
そしてキリカに睨まれたヴァルターが突如声をあげて笑い始めたその時”翡翠の塔”の時と同じように装置の機能も止まった。
「あ……!」
「戻るのか……!」
エステルとヨシュアが声を上げたその時、結界は解けた。
「クク……今回のお役目は完了か。……キリカ。最後に会えて嬉しかったぜ。」
「私は嬉しさ半分、憂鬱半分ね。もう会うこともないでしょう。」
「ああ……後は俺とコイツの問題だ。しかしお前、こんな時くらいしおらしく振る舞えねぇのか?最後までキツく当たりやがって。」
「ふふ……そこに惚れていたのでしょう?」
「クク……違いない。」
キリカとの会話に満足したのか口元に笑みを浮かべたヴァルターは素早い動きで屋上の手すりの近くまで移動した。
「お、おい!?」
ヴァルターの行動に驚いたジンはヴァルターに近づこうとしたが
「……ジン。どうして俺とジジイが死合うことになったのか……それが知りたければ俺を打ち負かしてみせと。ジジイがてめぇに遺した『活人拳』をもってな。」
何とヴァルターは塔から飛び降りた!
「なっ……!」
「ちょ、ちょっと!?」
ヴァルターの行動に驚いたエステル達はヴァルターが飛び降りた所にかけより
「………………………………」
エステル達がヴァルターを探している中ジンはその場で黙り込んでいた。
「じょ、冗談でしょ!?”執行者”ってこの高さから落ちても平気なの!?」
「あら、”剣帝”も女王宮で同じ事をしたんだから、平気なんじゃないかしら?」
「全員が全員じゃないけど……彼ほどの使い手なら無事でいても不思議じゃない。」
「ああ、外壁を抉ることで落下速度を落としやがった。凄まじい硬功と化勁だぜ。」
「まったく……人騒がせにも程があるわね」
驚いているエステルと納得している様子のレンにヨシュアは説明し、ジンの説明にキリカは頷いた。
「キリカ……。どうしてヴァルターがここに来てると分かった?」
ジンは不思議そうな表情でキリカに訊ねたが
「分からないとでも思った?まったく……貴方といいヴァルターといい。男っていうのはどうしてこんなに不器用なんだか。」
「うぐっ……」
キリカに図星を突かれると返す言葉を亡くした。
「………………………………(じー)」
一方エステルはジト目でヨシュアを睨み
「……反省してるからそんな目で見ないで欲しい。」
エステルに睨まれたヨシュアは疲れた表情で答えた。
「うふふ、エステルの言う通りね♪リオンお兄さんもマリアンお姉さんの事を本当に大切にしているのなら、ヨシュアと共に反省した方がいいわよ♪」
「何故そこで僕とマリアンを引き合いに出す……!」
「ま、まあまあ……レンに悪気はな………いえ、あるでしょうけど、レンの言っている事も間違ってはいないと思うわよ?」
(全く持ってそうですね!それに坊ちゃんはマリアンの事だけでなく、僕の事に対しても反省して欲しいくらいです!)
そしてレンに指摘され、レンを睨むリオンをアーシアは苦笑しながら諫めようとし、シャルティエは二人の意見に賛成した様子で答え
「何故お前に対してまで僕が反省しなければならない!?」
リオンはシャルティエを睨んで怒鳴った。
「フフ……」
「やれやれ……それにしても結局バルバトスの奴は出て来なかったようだな?」
その様子をソフィと共に微笑ましく見守っていたルークはある事を想い出した。するとその時!
クク……どうやら今の貴様らなら、俺と戦う資格はあるようだな……!
突然男の声が聞こえた後装置の前にバルバトスが現れた!
「あ……っ!」
「バルバトス……!」
「フン、僕達とさっきの男との戦いを高見の見物をした上で、さっきの戦いで僕達が疲弊していると判断して現れるとは卑劣な所も相変わらずのようだな。」
バルバトスの登場にエステルは声を上げ、ソフィは警戒の表情でバルバトスを睨み、リオンは鼻を鳴らした後バルバトスを睨んだ。
「……ッ!何て凄まじい邪気だ……!奴がエステル達の話にあったバルバトス・ゲーティアか……!」
「なるほど……確かにあの男から感じる邪気はヴァルターですら足元にも及ばないレベルだから、あのヴァルターが圧倒されたというのも納得が行くわね。」
バルバトスから感じる凄まじい邪気を感じたジンとキリカは厳しい表情でバルバトスを睨んだ。
「ククク……僅かな時間とはいえ、この俺を相手に一人でやり合えたあの男を退けるとはな……加えてジューダスにソフィ・ラント、そして黒髪の双剣使い……貴様らもいるとは俺は運が良い………全員纏めて俺の”糧”となってもらうぞ!」
「フン、運が良いのは僕達の方だ。今度こそ貴様を殺す!」
「アルス達の為にも貴方はここで討つ!」
バルバトスの叫びに対して鼻を鳴らしたリオンはソフィや仲間達と共に武器を構え
「キリカ、お前は下がっていろ!」
「―――何を寝ぼけた事を言っているのかしら?」
ルークはキリカに視線を向けて警告したが、キリカは自身も戦う意思を示すかのように偃月輪を構えた!
「あら。」
「もしかして加勢してくれるのかしら?」
「ギルドの人間として”結社”とは別の意味で危険な人物を撃破できる絶好の機会を逃す訳がないでしょう?」
キリカの行動にレンは目を丸くし、アーシアの問いかけにキリカは静かな表情で答えた。
「だが奴はあまりにも危険な相手だぞ……!?幾らお前でも分が悪すぎる……!」
一方ジンはキリカの身を心配したが
「それは貴方達も同じでしょう?それにあれ程の使い手を撃破するには即戦力は一人でも多い方がいいでしょう?」
「うぐっ。」
キリカの正論によって唸り声をあげて返す言葉を無くした。
「という訳だから私も手を貸させてもらうわよ、エステル、ヨシュア。」
「うん……!」
「よろしくお願いします……!」
「全員構えろ!―――来るぞ!」
「アルセイユで打ち合わせた通り、アイテムの使用は極力控えてそれ以外の特定の行動をする時も細心の注意を払いなさい!」
キリカの加勢の申し出にエステルとヨシュアが頷くと、武器を構えたバルバトスを見たルークとアーシアが警告し
「さぁ!全員纏めてかかって来い!俺の乾きを癒せ!ぶるあああああぁぁぁぁぁっ!!」
そしてバルバトスは咆哮を上げてエステル達に戦闘を仕掛けた!
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