豚とトリュフ
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4部分:第四章
第四章
「それでじゃ」
「ああ」
「まずは話してみるんだよな」
「その通りじゃ。それではのう」
こうして豚達と話してみる老婆だった。彼女が豚達の前にしゃがみ込むと豚達がその周りであれこれと鳴く。彼女はその話をふんふんと聞くばかりである。
そうして話を聞き終わったと見えると。立ち上がって自分以外の人間達に対して告げるのであった。
「原因がわかったぞ」
「おお、そうなのか」
「それで何なんだい?」
「食わせろとのことじゃ」
人間達に顔を向けての言葉であった。
「食わせろとの。こう言っておるぞ」
「食わせろ?餌だったらな」
「ああ、随分やってるしな」
「それこそ余る程な」
餌はたっぷりやっているつもりだった。だからそう言われてもまずは何なのかわからなかった。彼等は首を傾げてそのロマニの老婆の話を聞いていた。
そしてそのうえで。また言うのであった。
「餌じゃないのか?」
「違うのかね」
「ああ、餌ではないぞ」
ここでまた言う老婆であった。
「餌ではないのじゃ。他のものじゃ」
「他のもの?」
「じゃあ何なんだ?」
そう言われてもわからない。彼等は皆首を傾げることになった。
「そう言われても何が何だか」
「何を食いたいんだ?」
「鈍いのう、豚達は何を探しておるのじゃ?」
ここでこう彼等に対して問うた老婆であった。
「一体。何を探しておるのじゃ」
「んっ!?トリュフだけれど」
「ということは」
「そうじゃ。トリュフじゃよ」
そのトリュフだというのであった。豚達が食べたいのは。まさにそれだというのである。
「わかったかのう。豚達はトリュフを食べたいのじゃよ」
「おい、トリュフをか」
「また贅沢だな」
彼等はそれを聞いて一様に言った。
「そんなの豚が食べるなんてな」
「あれは人間様の食べ物だよ。いい筈ないだろう」
「いやいや、よく考えるのじゃ」
だがここで老婆はその彼等に対して静かに告げた。
「トリュフを見つけるのは誰じゃ?」
「豚だけれどな」
「それはな」
「では豚が食べてもよかろう」
老婆は豚達の主張を代弁していた。あえて言うのである。
「違うかのう。それは」
「豚が見つけるからか」
「だからか」
「それでは少し位豚達が食べてもいいじゃろう」
また豚達の言葉を代弁してみせたのであった。
「そうじゃろう?見つけてくれるのじゃからな」
「そういうものか」
「それでか」
「そうじゃ。見つけたのならば食べる資格はある」
老婆はこうも言ってみせた。やはり豚達に寄っている。
「何でも独り占めはよくないぞ」
「そうだな。じゃあな」
「それでいいか」
彼等はそれで納得するのだった。それでだった。
「じゃあこれからは豚達にもトリュフをやるか」
「そうするか」
これで話は決まった。彼等は豚達にもトリュフを分けるようになった。その餌の中に混ぜるようにしたのだ。その日採れたトリュフの一つをである。
トリュフを食べるようになった豚達はそのことに満足してまたトリュフを見つけるようになった。彼等は今そのトリュフの入った餌を食べながら口々に言うのだった。
「話が収まってよかったよな」
「全くだよ」
満足している顔で餌を食べながら話す。今彼等は自分達の舎の中にいる。そこで食べているのである。
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