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英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク

作者:sorano
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第44話

翌日、拘束されたカノーネはエルベ離宮の一室にてシード中佐とユリアから尋問を受けていた。



~エルベ離宮~



「―――カノーネ君。頼むから話してくれないか?あの少女はどういう形で君達に接触してきたんだ?そして君達は、どの程度”結社”の存在を知っている?」

「………………………………」

「カノーネ……。意地を張るのもいい加減にしろ。このままではお前はおろか、お前の部下たちの罪も重くなる。それは本意ではあるまい?」

シード中佐の問いかけに固く口を閉ざして何も言わないカノーネにユリアは静かな口調で問いかけた。

「フン、彼らもわたくしもとっくに死ぬ覚悟は出来ている。その程度の脅しに屈するものですか。」

「軽々しく死ぬなど言うな!お前も見ただろう!あの巨大な人形兵器を!あんなものを使う連中が王国に潜入しているのだぞ!?事態の深刻さがわからないお前ではあるまい!?」

「………………………………」

「カノーネ君……。リシャール大佐はある意味、高潔な愛国者だった。何者にもリベールの自主独立を脅かされないことを望んでいた。その事だけは私も真実だと思う。そして今、リベールに新たなる暗雲が忍び寄ろうとしている……。彼がその事を知ったらどう思うか考えてもらえないか?」

ユリアの叫びに対し、何も答えないカノーネに見かねたシード中佐は静かな口調で問いかけた。



「……るさいですわ……」

「なに?」

そしてカノーネの呟きの一部が聞こえたシードが首を傾げたその時

「……うるさい、黙れ!」

カノーネは怒鳴ってシード中佐を睨んだ。

「リシャール閣下のお気持ちをもっともらしく語ったりするな!閣下を追い落とすことによってその地位を手に入れた輩がっ!」

「………………………………」

「カノーネ、貴様!」

カノーネに睨まれ罵られたシードは何も返さず、その様子を見たユリアはカノーネを注意しようとしたが

「貴女もそうよ、ユリア!昔からのライバルが落ちぶれたさまを眺めるのじゃさぞかし愉快でしょう!?ならば笑いなさい!いい気味だと嘲笑(あざわら)うがいいわ!」

カノーネは矛先をユリアに変えてユリアを睨んで叫び

「……カノーネ…………」

カノーネの様子を哀れと思ったユリアは痛ましそうな表情をしていた。



「わたくしが今まで泥をすすって生きてきたのは閣下を助けるため!それが叶わなくなった今、わたくしが生きる意味などない!さっさと銃殺にでもするがいいわ!」

「おいおい……。馬鹿なことを言いなさんな。」

カノーネが叫んだその時、カシウスが部屋に入って来た。

「准将……!?」

「ど、どうしてこちらに……」

「今回に事件について陛下と相談したいことがあってな。それとは別の用事があって先ほど王都に到着したばかりだ。」

「そうでしたか……」

「ご多忙の中、お疲れ様です!」

「カシウス・ブライト……。諸悪の根源が現れたわね……。貴方もわたくしを……嘲笑いに来たというのかしら?」

シード中佐とユリアが敬礼している中、カノーネは憎々しげな様子でカシウスを睨んだ。



「やれやれ、嫌われたものだ。これでもリシャールに負けないくらいの男前だと自負してるんだがなぁ。」

「ふ、ふざけるなアアッ!貴方さえいなければ……閣下は……リシャール閣下は……」

溜息を吐いて自分の事を語るカシウスをカノーネは睨んで、大声で怒鳴り、悔しそうな表情で語ろうとしたその時

「コホン、准将……。あまり彼女をからかわないでもらえませんか?」

部屋内の人物達ではない男性の声が部屋の入口付近から聞こえて来た。

「え……」

「今のは……」

「ま、まさか……」

男性の声を聞いたその場にいる全員が驚いて入口を見つめたその時、かつてのクーデター事件の首謀者であったリシャールが服役姿で部屋に入って来た。



「…………あ………………」

「リ、リシャール大佐!?」

「……お久しぶりです。」

リシャールの登場にカノーネは呆け、ユリアは驚き、シードは懐かしそうな表情で挨拶をした。

「久しぶりだね。シード中佐、シュバルツ大尉。それに……カノーネ君もな。」

「あ……ああ……」

リシャールに微笑みかけられたカノーネは身体中を震わせていた。

「服役中の身であるが准将にわがままを言ってここに連れてきていただいた。どうしても君と直接、会って話がしたかったんだ。」

「……わたくし……と?」

リシャールの話を聞いたカノーネは信じられない表情でリシャールを見つめた。

「ああ……。―――すまない、カノーネ君。私の傲慢と視野の狭さが君たちを巻き込んでしまった。前途有望で有能な若者たちを犯罪行為に荷担させてしまった。そのことをずっと謝りたくてね。」

「おやめください、閣下!わたくしたちは自分の意志で……」

謝罪するリシャールにカノーネは恐縮しながら答えようとしていた。



「いいや、これは私の責任だ。君たちは、私の方針の元、動いてもらっていたに過ぎない。その意味では今回の事件も私の責任と言ってもいいだろう。」

「そ、そんな……」

リシャールの話を聞いたカノーネは目を伏せた。

「だから……ここに改めて宣言しよう。―――只今をもって王国軍情報部は解散する。以後、その任務は軍司令部に引き継がれることになるだろう。カノーネ君……今まで本当にご苦労だったね。」

「……あ…………」

「これでもう……君が無理をする必要はない。私など助けるために命を賭けなくてもいいんだ。だから死ぬなどと……哀しいことを言わないでくれ。」

「リシャール……閣下……。……ううっ……あああっ……。うああああああああッ……!」

リシャールの言葉にカノーネはしばらくの間、大声で泣き続けた。



「な、なんだあっ!?」

「あら……この声は情報部のオバサンじゃない。一体何があったのかしら?」

一方カノーネが尋問されている部屋の隣の部屋にいたルークは隣から聞こえてくる泣き声に驚き、レンは首を傾げた。

「何……ちょっと裏ワザを使わせてもらったようなものだ。」

「父さん。」

その時カシウスが部屋に入ってきた。

「うふふ、あのオバサンを泣かせるなんて、さては服役中のリシャール大佐と合わせたのかしら?」

「へっ!?」

「やれやれ……相変わらず恐ろしい程勘が冴えているな。」

小悪魔な笑みを浮かべて尋ねたレンの質問を聞いたルークは驚き、カシウスはレンの鋭さに脱帽した。



「――――それよりパパ、レンは一体どうなるのかしら?――――まさかとは思うけどリベール中で暗躍をしている”結社”の手先である”執行者”と血縁関係があるからと言って、拘束や行動の制限、後は監視はしないわよね?」

「当たり前だ。第一”今は”俺の娘で、幼い頃から遊撃士として俺達と共に頑張ってきた事を知っているこの俺がそんな事を許す訳がないだろうが。今回お前を呼んだのは形式的な”事情聴取”だ。俺達がお前は悪くないと言っても、軍として”犯罪者”と血縁関係にある者には事情聴取をしておかないとまずいからな。」

「そう。まあ、そうだと思っていたわ。それにしても予想していたとはいえ、レンにとっては大迷惑な事をしてくれたわね……血縁者が”犯罪者”だから、”血が繋がっているという理由だけ”でレンが”犯罪者の家族”として見られて、今まで積み上げてきた信用がなくなっちゃうかもしれないし。」

「…………………」

「え、えっとレン……?それ以外に何も思う事はないのか……?」

血縁者を”犯罪者”と言いきって、不愉快そうな表情をしているレンを見たカシウスは目を伏せて黙り込み、ルークは不安そうな表情で尋ねた。

「別に。双子の姉のレンを捨てて、どこかに行った妹なんて、今更どうでもいいし、レンの家族じゃないわ。レンの本当の家族はパパやルークお兄様達なんだから。むしろレンの潔白を示す為にレン自身の手でレンに大迷惑をかけているユウナを始末したいぐらいよ。」

「………その事なんだが、レン。もしかしたら”執行者”―――”殲滅天使”ユウナは自分の意志でお前から離れた訳じゃないかもしれないぞ?」

レンの答えを聞いたカシウスは静かな口調で問いかけたが

「そうね。でも今までレンに会いに来なかったという事はレンを憎み、レンから離れた……そういう事じゃないのかしら?実際ユウナ自身もレンの事を”元おねえちゃん”って言って、”ニセモノの家族”扱いしていたし。」

「………………………」

「レン………」

レンの問いかけを聞いて黙り込み、その様子をルークは複雑そうな表情で見つめていた。

「それじゃあ事情聴取をさっさと始めましょう?こんな事はさっさと終わらせて、早くエステル達と合流して、今後の”結社”の動きに備えるべきだしね。」

そしてカシウスはルークに付き添ってもらっているレンに事情聴取を始めた。



一方その頃エステル達はグランセル支部に集まり、軍からの報告を待っていた。



~遊撃士協会・グランセル支部~



「そうですか……。ええ……わかりました。それでは宜しくお願いします。」

「どうだった、エルナンさん?」

通信器を置いて、自分達に振り返ったエルナンにエステルは尋ねた。

「ええ、カノーネ元大尉が事情聴取に応じたそうです。詳しい事情が分かったらギルドにも教えてくれるでしょう。」

「そっか……」

「あの強情そうな女が話をする気になったなんてね。どんな手を使ったのかしら?」

エルナンの説明にエステルは安堵の溜息を吐き、シェラザードはカノーネの事を思い出して、カノーネに口を割らせた方法が気になった。

「ま、そっちの調査は王国軍に任せておくとしよう。俺たちは俺たちで情報を整理したいところだ。」

「そうだな。………ちなみにレン嬢ちゃんの方はどうなんだ?」

「いくら”殲滅天使”と血縁関係にあるからと言って、拘束や監視はされないと思うのだけれど……」

「レンちゃん………」

フレンとアーシアの質問を聞いたティータは心配そうな表情をし

「そちらの方は問題ありません。レンさんのブライト家に来てからの動向は全てルークさんやエステルさん、それにカシウスさんや私達―――リベール各支部の受付達が把握していますからね。あくまで形式的に事情聴取をしているだけです。事情聴取が終われば、付き添いのルークさんと共にすぐにこちらに戻らせるとの事です。」

「そっか……」

「よ、よかった~。」

レンが犯罪者扱いされない事にエステルとティータは安堵の溜息を吐いた。

「まずは今回の仕事の報酬をお渡しするとしましょう。細々とした依頼への対応も併せて査定しておきましたよ。」

そしてエルナンはエステル達に報酬を渡した。



「あの、エステルさん。本当にユウナちゃんは”結社”の……」

「うん……”執行者”の一人で”殲滅天使”って名乗ってた……本人が言ってたから間違いないわ。」

「そうですか……………」

「………………………」

当たってほしくない話を聞いたクローゼはティータと共に不安そうな表情をしていた。

「で、でもあんな女の子が”結社”の手先だなんて……しかも”執行者”ってものすごい使い手なんだよね?何かの間違いなんじゃないかな?」

「――そんな事はないわ。”特例”扱いで正遊撃士になり、幼い頃に武術大会でモルガン将軍を降して優勝した上、”八葉一刀流”の皆伝者になったレンという例がいるのだから、他にいてもおかしくないわ。」

(……まさかあの”事件”に”結社”が介入していたとはな……)

不安そうな表情でユウナの正体を否定するアネラスの言葉を聞いたアーシアは真剣な表情で呟き、フレンは真剣な表情で黙り込み

「それにヨシュアも同じくらいの歳で”執行者”だったみたいだから……」

「……あ…………」

アーシアとエステルの話を聞いたアネラスは不安そうな表情で黙り込んだ。



「しかし徹底的に振り回してくれたわね。カノーネに”ゴスペル”を渡して戦車を使った再決起を唆したのもあの子だったみたいだし……」

「各方面に脅迫状を送ったのもあのガキだったらしいな……。一体何のためだったんだ?」

「なんとなく、だけど……。そうした方が面白そうだったからじゃないかな?」

「なに……?」

唐突に呟いた自分の疑問に答えたエステルの言葉にアガットは首を傾げた。

「ユウナは今回の実験を『お茶会』に見立ててたわ。そしてあたしたちを含めた大勢の人間を参加させるために色々と準備して招待した……。そんな気がするのよね。」

「……マジかよ。脅迫状の一件があったから王都に来たのは確かだが……」

「ユ、ユウナちゃんって一体………」

「姉妹揃って、とんでもない奴等だな……」

「姉は遊撃士、妹は執行者という真反対の存在。しかも二つ名は二人とも”天使”を冠する名。これも女神(エイドス)による運命の悪戯なのかしら……?」

エステルの推測を聞いたアガットやティータは信じられない表情をし、フレンは疲れた表情で溜息を吐き、アーシアは目を伏せて考え込んでいた。

「ふむ、あの仔猫ちゃんならそのくらいはやりかねないね。ボクたちを眠らせた睡眠薬の量もコントロールしていたみたいだし。」

「ちょうど俺たちがあのタイミングで波止場に到着できるようにだな……。ふざけたマネしやがって……」

「えっと、やっぱりみんなあの子に眠らされちゃったわけ?」

オリビエの推測を聞き、怒りを抑えている様子のアガットを見てエステルは仲間達に尋ねた。



「ええ……恐らく。ユウナちゃんが百貨店で買ってきたクッキーを頂いた直後でしたから……」

「しかし……痛い失態だったな。彼女が殺すつもりで毒でも使われていたら全員死んでいたのかもしれん。」

「あ……」

「いえ、それに関しては私の失態です。皆さんをバックアップする身としてもう少し気を付けるべきでした。本当に申しわけありません。」

真剣な表情で語るジンの言葉を聞いたエステルは呆け、エルナンはエステル達に謝罪した。

「や、やだな、エルナンさん。今回ばかりはあたしたち全員の責任だと思う。まさか”結社”があそこまでとんでもない連中だったなんて……」

「あの大きな人形兵器……あんなの、おじいちゃんでも造るのは難しいと思う……造れたとしても……あんな風に動かせるなんて……しかも……あのユウナちゃんが………え、えっとエルナンさん。レンちゃんはユウナちゃんの事について、事情聴衆で何も言ってないんですか……?」

悲しそうな表情で呟いた後ある事に気付いたティータはエルナンに尋ね

「それなんですがカシウスさんが聞いた所、『血縁者が現れた所で今更どうでもいいし、レンの家族じゃないわ。』と言っていたそうで。更に血縁者が”犯罪者”だから、自分が”犯罪者の家族”として見られ、今まで築き上げた信用が全て崩れるかもしれない可能性がある為、”殲滅天使”の存在が大迷惑で、自分が潔白である事や”殲滅天使”と自分が無関係である事を示す為にも”殲滅天使”を自分の手で排除したいような事も言っていたそうです。」

「血縁者―――それも双子の妹を”他人”扱いしたどころか唯の”犯罪者”扱いかよ……」

「そんな………血が繋がっている家族―――それも双子の妹なのに、どうしてそこまで嫌うんでしょう……?」

エルナンの話を聞いたアガットは信じられない表情をし、クローゼは辛そうな表情をし

「レンちゃん……………」

ティータは悲しそうな表情で黙り込んでいた。

「ティータ……もう、元気出しなさいよ!今度会ったら、絶対にあの子を”結社”から抜けさせるんだから!」

悲しそうな表情で黙り込むティータを見かねたのか、エステルは笑顔でその場にいる全員を驚かせる事を言った。



「ふえっ!?」

「ちょ、ちょっと待て!」

「5年前、父さんはヨシュアを”結社”から抜けさせた……だったら、娘のあたしが同じことが出来ないはずがない!首根っこを掴んでも絶対に抜けさせてやるんだから!それに……血が繋がった姉妹同士で争うなんて、あまりにも悲しすぎるわ。そんなのあたしがレンの姉としても絶対にさせないわ!」

「お、お姉ちゃん……うんっ、そうだよね!」

「ふふ……さすがエステルさん。」

「ハハ、お前なら本当にいつかできるだろうよ。」

「うんうん、その意気だよ!」

「フッ、気持ちのいい位のあっぱれな前向きさだねぇ。」

「ふふ、私もエステルの前向きさを見習わないとね。」

「ったく……軽く言ってんじゃねえぞ。」

「ふふ、いいじゃないの。これがエステルなんだから。」

「こういう前向きさは旦那以上かもしれんなぁ。」

”執行者”のユウナを”身喰らう蛇”から抜けさせるというとてつもない偉業を為そうとしているエステルに周りの人物達は感心した様子でエステルを見つめていた。



「エステルさん。今までずっと気になっていたんですが、レンちゃんは一体どういう経緯でブライト家に養子入りしたんですか?」

「あ、うん。ヨシュアが来る1年前くらいかな?父さんとお母さんから妹ができるって話を聞いてね。その翌日にルーク兄がレンを連れてきて、そのままレンが家の子になったの。」

「ルークがだと?」

「……もしかしたら、レンの詳しい事情を知っているかもしれないわね。」

クローゼの疑問に答えたエステルの話を聞いたアガットは眉を顰め、シェラザードは真剣な表情で呟き

「「………………………」」

ジンとエルナンはそれぞれ複雑そうな表情で黙り込んでいた。

「そう言えばエルナンさん。ユウナ―――ううん、レンとユウナの両親って、やっぱりわからないまま?」

「その事なんですが……―――申し訳ありません。”ヘイワーズ”―――レンさんの本当のご両親のファミリーネームが出た時点で”殲滅天使”の正体を怪しむべきでしたのに数年前の事ゆえ、すっかり忘れていました。今朝クロスベル支部に確認した所、ヘイワーズ一家の所在地等は以前の調査―――レンさんの本当のご両親を探した際に全て判明しています。現在レンさんと”殲滅天使”の本当の父親―――ハロルド・ヘイワーズ氏は貿易商として営み、妻のソフィア・ヘイワーズやレンさん達にとっては弟に当たる息子のコリン・ヘイワーズと共にクロスベル市に住んでいます。」

エステルに尋ねられたエルナンは申し訳なさそうな表情で答えた。



「え……………」

「レ、レンちゃんとユウナちゃんに弟もいたんだ………」

「何で居場所もわかってんのに、あのガキはオッサンやエステルの家族のままなんだ?」

エルナンの説明を聞いたエステルとティータは目を丸くし、アガットは眉を顰めて尋ね

「それにレンちゃんとユウナちゃんはどうして本当のご家族から離れたんでしょう……?」

「―――もしかして。二人は捨て子なのかしら?」

クローゼは不安そうな表情をし、シェラザードは複雑そうな表情で呟いた。

「………事情は特殊ですが、シェラザードさんの推測はある程度当たっていると思われます。調べによるとヘイワーズ一家は昔、危険な相場に手を出して多額の債務を背負って行方を眩ませていたとの事でして………当事者であるレンさんの話から推測すると、借金取りの魔の手からレンさん達を守る為に信頼できる知り合いの方に預けたと思われます。」

「それは………」

「だからレンちゃん、自分と血が繋がっている家族をあんなにも嫌っているんだ……」

「チッ、危険な相場に手を出して借金を背負うなんざ自業自得の上、子供を守る事まで人任せかよ。親として最低じゃねえか。」

(――なるほどね。そこに運悪くあの”事件”に巻き込まれたのね……)

(ここでもあの”教団”が関わってくるとはな……)

エルナンの説明を聞いたクローゼとティータは複雑そうな表情をし、アガットは不愉快そうな表情をし、心当たりがあるアーシアは真剣な表情をし、フレンは厳しい表情で黙り込んでいた。



「で、でも所在地がわかっているって事は借金を返し終えたって事ですよね?それにエルナンさんの話だとレンちゃんは両親を嫌っても、同じ境遇であった妹のユウナちゃんを嫌うのはちょっとおかしいですよね?一体どうして……」

そして話を聞いてある事に気付いたアネラスが不思議そうな表情で尋ねたその時

「その事なのですが………運の悪い事にレンさん達がヘイワーズ一家の知り合いの方達に預けられた際、当時大陸全土で流行っていた大規模な誘拐事件にお二人が巻き込まれたのです。」

(ん?まさか例の”教団”の事件なのかな?)

「!おい、エルナン。そいつを話すのはさすがにまずいんじゃないか?」

ある事件の説明を始めようとしたエルナンの話を聞いたオリビエは目を丸くし、話を聞いて驚いたジンが真剣な表情で忠告した。

「ジンさん?」

「何か知っているのかしら?」

ジンの様子にエステルは首を傾げ、シェラザードは真剣な表情で尋ねた。

「…………………………」

二人に尋ねられたジンは複雑そうな表情で黙り込み

「―――すみません、みなさん。これ以上その事件に関してみなさんに話す事はできないんです。あの事件の秘匿性はとても高く、遊撃士の場合はA級でないと開示されない情報ですので……」

「そっか………」

エルナンの説明を聞いたエステルは疲れた表情で溜息を吐いた。



「―――俺から教えられる事は唯一つ。レン嬢ちゃんと”殲滅天使”の嬢ちゃんは俺達や”結社”が助け出すまで誘拐犯達によってこの世で味わえるとは思えない”地獄”を味わされ、そしてそんな地獄絵図を助け出されるまでずっと見続けていた。恐らく、本当の両親の元に帰らない理由の一つは自分達をそんな”地獄”に放り込んだ原因となった両親を恨んでいるからかもしれん。そして同じ境遇であった姉妹が互いに憎むのもその”地獄”が関係しているのだと思う。だから直接レン嬢ちゃんに過去や本当の両親の事について聞くのは止めたほうがいい。本人にとっては恐らくトラウマにもなっていると思われる辛い過去だろうしな……」

「クソ野郎どもが………!」

「じ、”地獄”………レンちゃんとユウナちゃんが……」

複雑そうな表情で語ったジンの説明を聞いたアガットはまだ見ぬ犯罪者達の所業に怒りを感じ、ティータは不安そうな表情をしたが

「……だったら。だったらあたしがA級正遊撃士になって、その事件の事を教えてもらうわ。レンの姉として……そしてユウナを連れ戻す為にも。」

「エステルさん………」

「おねえちゃん………」

「ふふっ、エステルならすぐにA級になれるわよ。」

「確かに今までの活躍を考えたら俺もそう思うぜ。」

エステルの決意を知り、クローゼと共に明るい表情をし、アーシアとフレンは微笑みながら感心していた。

「うーん、ええなあ。ますます惚れてしまいそうや。」

するとその時ケビンがイオン達と共にギルドに入ってきた。



「あ……!」

「ケビン神父。それにイオン神父達も。お待ちしていましたよ。」

ケビンの登場にエステルは驚き、エルナンは笑顔で出迎えた。

「やー、遅れてスンマセン。今までカラント大司教にこっぴどく説教されてましてなぁ。それで遅れてしまったんですわ。」

「ケビンのせいで、アリエッタ達まで、説教されました。」

「まあまあ。”オルグイユ”を止める為の緊急措置だったのだから仕方ありませんよ。」

(この人達がヨシュアがお世話になっていた………)

苦笑しながら説明するケビンをジト目で睨むアリエッタをイオンが諌め、ステラはエステル達を見回していた。



「………………………………」

「どした?オレの顔に何かついとる?」

エステルにジッと見つめられたケビンは目を丸くして尋ねた。

「あのー、今更といえば今更な質問なんですけど……。結局ケビンさんって何者なの?やっぱりアリエッタさん達と同じ”星杯騎士”なの?アリエッタさん達と顔見知りのようだし。」

「ええ、それがあったわね。あたしたちも結局、はぐらかされたままだわ。」

「もちろん普通の神父さんじゃないんですよね?」

ジト目のエステルの質問に続くようにシェラザードとアネラスもそれぞれケビンを見つめて尋ね

「そやな……。改めて自己紹介しようかな。―――七耀教会『星杯騎士団』に所属するケビン・グラハム神父や。以後、よろしく頼みますわ。」

尋ねられたケビンは頷いて自己紹介をした。



「―――では、僕も自己紹介を。―――七耀教会『星杯騎士団』所属『守護騎士(ドミニオン)』のイオン・ジュエと申します。以後、よろしくお願いします。」

「イオン様の”従騎士”、アリエッタ・タトリン、です。」

「”守護騎士”………?」

「ふむ、聞いたことがある。”星杯騎士団”を統率する十二名の特別な騎士たち。噂では、一人一人が恐るべき異能を持つという。」

「!…………………」

イオンの自己紹介を聞いて首を傾げるエステルにオリビエが説明し、説明を聞いたアーシアは驚いた後真剣な表情でオリビエを見つめていた。

「い、異能………」

「……要は”星杯騎士団”の幹部って奴か。」

「まさか”星杯騎士団”にそのような存在がいるとは……」

オリビエの説明を聞いたエステルは呆け、アガットは真剣な表情でイオンを見つめ、エルナンは驚き

「へ~、よく知ってますやん。正直、驚きましたわ。」

「ハッハッハッ。そう褒めないでくれよ。照れちゃうじゃないか♪」

「誰も褒めていないわよ……一体どこでそんな情報を仕入れてくるんだか。」

ケビンに感心されて笑っているオリビエを見たシェラザードは呆れた表情で溜息を吐いた後意味ありげな視線でオリビエを見つめた。



「それで気になっていたんですけど、そんな教会の裏組織の偉い人がどうしてリベールに?」

「オレらがリベールに来たのは『結社』の調査のためやからね。正確に言うと……連中が手に入れようとしとる『輝く環』の調査なんやけど。」

「!!!」

「『輝く環』……!」

アネラスの疑問に答えたケビンの話を聞いたエステルとクロ―ゼは驚いた。

「ええ、そうですわ。どうもここ最近、大陸各地で『七の至宝』に関する情報を集めとる連中がいるらしくて……。教会としても、その動向にはかなり目を光らせていたんですわ。そんな折、別の任務の関係でリベールに滞在していて、ジュエ卿の指示でクーデター解決に力を貸していたアリエッタさんから『輝く環』の情報が入ってきた。そこで、真偽を確かめるべく新米のオレが、別の任務を終えてそのまま『輝く環』を調べる事になったジュエ卿とアリエッタさんを手伝う為に派遣されたわけです。」

「そうだったんですか……」

「それじゃあ『輝く環』って本当にリベールにあるわけ?封印区画に無かったってことはただの伝説だと思ってたけど……」

「そもそも、どういう物かも判ってねえそうじゃねえか?」

「ま、そのあたりの真偽を調べるのもオレらの仕事なわけや。今日来たのは、こちらの事情を説明してもらおと思ってな……。つまり、また何かあった時はお互い協力しようってこっちゃ。」

「なるほどね……。うん、こちらも望むところよ。」

「そうだな。こちらとしても助かるぜ。」

「これも何かの縁だし、困ったことがあったら連絡して。」

「おおきに!ほな、オレらは今日のところはこれで失礼させてもらいますわ。またな~、みなさん!」

「―――失礼します。」

そしてケビン達はギルドを去った。



「行っちゃった……」

「オリビエとは違った意味で毒気を抜かされる神父さんね。」

「フッ、ボクに言わせればまだまだ修行不足かな。もう少し優雅さが欲しい所だね。」

「あんたの世迷言のどこに優雅さがあるってゆーのよ。……って、そう言えば今思い出したんだけど結局ステラさんって、何者だったんだろう?」

髪をかきあげて語るオリビエをエステルはジト目で睨んで指摘した後ステラの事を思い出して首を傾げた。



「エステル……あんたね。ステラさんの事については以前アイナがキリカさんを通してあんたに伝えたはずよ?」

「へ……?」

呆れた表情をしているシェラザードの指摘にエステルが首を傾げたその時

「そ、そう言えば以前キリカさんからルークさん達と一緒にロレントで起こった昏睡事件を解決した仮面を付けたシスター――――ステラさんの事を教えてもらいましたね。確か彼女は―――」

「あの仮面野郎――――ロランス少尉―――いや、”剣帝”の幼馴染とやらで、あの野郎を探して”星杯騎士”の連中に同行しているって話だったな。」

「あ……っ!」

クローゼとアガットがかつてキリカから聞いたステラの情報を口にし、それを聞いてステラの事を思い出したエステルは声をあげた。



「フム……もしかしたら彼女ならヨシュア君の事についても何か知っていたかもしれないね。武術大会でもヨシュア君はロランス少尉―――”剣帝”をやけに気にしていた様子を見せていたしね。」

「そうだな。もし二人が知り合いなら、”剣帝”の幼馴染である彼女もヨシュアとも知り合い同士であった可能性は高いな。」

「うう~……せっかくヨシュアの手掛かりになるかもしれない人が現れてくれたのに、何も聞かずに別れるなんて、あたしのバカ……」

「まあまあ。ケビン神父達とは『輝く環』の件で協力し合う事になったのだから、イオン神父達と一緒に行動をしているステラさんともまた会う機会があるだろうから、その時に聞けばいいと思うよ?」

オリビエとジンの会話を聞いてステラに何も聞かなかった事を後悔している様子のエステルを見たアネラスは苦笑しながら慰めの言葉を送った。

「そうね……今度会った時にヨシュアの事で何か知っているか絶対に聞いてみるわ!」

そしてエステルが元気を出したその時通信器が鳴り、エルナンは通信を始めた。

 
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