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カイセッド

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第三章

「結局ね」
「僕を選んだんだ」
「そう、旦那様になるんだから」
「それで結婚したその時に」
「頭に被せてね」 
「タヌをね」
「そうしてくれる?」
 カウンターに座るマルトのその目を見ながらだ、イングリットは彼に尋ねた。
「あなたがね」
「僕でよかったら」
 これがマルトの返事だった。
「そうさせてもらうよ」
「それじゃあね」
「まあ結婚式はね」
「ええ、もう日取りも決まったし」
「後は式を挙げてね」
 そしてというのだ。
「その時にだね」
「タヌね」
「被せるからね」
「そうしてね、それで今日は」
「これ飲んだらね」
 一杯のコーヒーを、それをというのだ。
「家に帰るよ」
「あら、泊まらないの」
「家に帰ってそうして引越しの用意するから」
「ああ、新居に入って」
「だからね」
 それでというのだ。
「今日はこれでね」
「わかったわ、それじゃあね」
「うん、そういうことでね」
「そっちの用意もあったわね」
「君は出来てるの?用意」
「全然よ」 
 実にあっさりとだ、イングリットはマルトに答えた。
「何一つとしてしてないわ」
「それで大丈夫なの?」
「妹夫婦が申し出てくれたのよ」
「引越しのことはって」
「あの娘の旦那さんが引越し業者だから」
「ああ、それでだね」
「会社の仕事にもなるからって」
 それでというのだ。
「それはね」
「しないんだ」
「しようと思ったら止められたの」
 その妹夫婦にというのだ。
「折角の飯の種だってね」
「わかりやすいね」
「まあね、資本主義ね」 
 ソ連だった時の話にもなる、まだ二人が幼い頃であるが。
「それもまた」
「そうだね、それは」
「カイセットも資本主義でしょ」
「うん、服を売ることもね」
「もうそうなったから」
「引越しもお金儲けになって」
「そのお金儲けをさせろってことなのよ」
 つまり仕事をくれということだ。
「妹夫婦もね」
「そういうことだね」
「だから私は何もしてないの」
「そうなんだね」
「そう、結婚式の準備に専念してるわ」
「じゃあそっちはだね」
「かなり真剣にしてるから」
 引越しの用意の必要がない分というのだ。 
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