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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)

作者:sorano
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第37話

~北クロイツェン街道~



領邦軍の全滅を見届けると、使い魔達はそれぞれの主の身体に戻り、疲労がピークに達したリィン達――――ツーヤを除いた”Ⅶ組”のA班全員は安堵感によって地面に膝をついた。

「はあ……はあ…………や、やっと終わったか……!後は領邦軍の隊長一人だけだ……!」

「ぜい……ぜい……ぼ、僕達はか、勝ったのか……?あ、あの数の領邦軍を相手に…………」

「ハア……ハア……ああ……信じられん事にな…………」

リィンは息を切らせてまだ無事でいる隊長を警戒し、マキアスとユーシスは自分達が数で圧倒的不利な状況でありながらも勝利したという事実にそれぞれ信じられない表情で息を切らせ

「ふー……ふー……わたしももう、これ以上の戦闘は無理……」

「ハア……ハア……ハア……ハア…………」

元猟兵で大規模な戦闘を経験したことのあるフィーも疲労した様子で息を切らせ、リィン達の中で一番体力が低いエマは今にも倒れそうなぐらい表情を青褪めさせて息を切らせていた。



「やったね、ツーヤちゃん!」

「うん、ミントちゃんのお蔭だよ。」

ミントとツーヤは互いの手をハイタッチして勝利を喜び

「まあ、こんなものですわね。」

「フフン、口ほどにもない奴等だ!」

フェミリンスは冷静な表情で呟き、メティサーナは勝ち誇った笑みを浮かべた。



「さ~てと。後は隊長さんだけみたいね!まだやるつもりなのかしら!?」

「―――彼らの事は諦めて大人しく撤退してください。僕達は彼らをトリスタに送り届けたいだけなのです。」

エステルは棒を再び構えて口元に笑みを浮かべて隊長を見つめ、ヨシュアも双剣を構えて隊長の動きに警戒しながら忠告した。



「だ、黙れっ!ここまで我ら領邦軍をコケにした奴等を逃がしてたまるものか!」

二人の言葉を聞いた隊長は怒りの表情でエステル達を睨んで声を上げた。するとその時、何かの駆動音が聞こえてきた。

「!まさか……!」

音を聞いたリィンは表情を厳しくし

「!おおっ、やっと来たか!」

後ろに振り向いた隊長は明るい表情をした。すると援軍の領邦軍が次々と隊長の背後から現れた!



「援軍だとっ!?」

「そんな……」

「クソッ……!ここまでなのか……!?」

「ピンチだね……!」

領邦軍の援軍を見たユーシスは驚き、エマは表情を青褪めさせ。マキアスは悔しがり、フィーは厳しい表情で領邦軍を睨んだ。



「フハハハハッ!どうやら形成逆転のようだな!?」

一方隊長は勝ち誇った笑みを浮かべてエステル達を見つめて叫んだその時!

「うふふ、それはどうかしらね♪」

どこからともなく女の子の声が聞こえてきた!



「あっ!」

「え………こ、この声は……!」

「レン!?」

声を聞いたミントは声を上げ、ツーヤとエステルが驚いたその時、それぞれの飛竜に乗ったサフィナとレンが空から急降下し”アハツェン”の部隊へと急襲し、急降下して来る二人に驚いた”アハツェン”は砲撃を撃ったが自分達に襲い掛かる砲撃のエネルギーを目に捉えていた二人は飛竜を巧みに操って、自分達に向かって来る砲撃を回避し、レンは身の丈程ある大鎌で、サフィナは白銀と漆黒の双鎌で”アハツェン”に斬撃を叩き込むと同時に空へと離脱した!するとレンの斬撃を受けた”アハツェン”は砲口がついている上の部分丸ごと斬られ、サフィナの斬撃を受けた”アハツェン”は斜め十字(クロス)に斬られ、操縦者たちは地面に叩きつけられた!



更にケルディック要塞に搭載されてある数台の長遠距離矢砲(シューター)から一台につき、数人のメンフィル兵達が操作して極太の巨大な矢を次々と放ち、”アハツェン”や装甲車に命中し、命中した”アハツェン”や装甲車からは煙が上がり、その事に驚いた操縦者達が次々と慌てた様子で”アハツェン”や装甲車から降りてきた!



「な、なななななななっ!?」

突然の奇襲に隊長が狼狽えたその時、その場にドドドドと地鳴りが聞こえてきた!

「なんだ、この音は……?」

「まさか……馬か!?」

音を聞いたユーシスは眉を顰め、ある事に気付いたリィンが驚いたその時、メンフィル帝国の紋章を刻み込んだ”アハツェン”、馬に騎乗するメンフィル兵、更には飛竜やグリフィンに騎乗して空を飛ぶメンフィル兵の混成軍が”ケルディック要塞”方面から次々と現れ、整列し、騎兵や竜騎士(ドラゴンナイト)鷲獅子騎士(グリフィンナイト)達は武器を構え、いつでも領邦軍に突撃できるようにしていた!



「なあっ!?」

メンフィル帝国軍の登場に隊長は口をあんぐり開け

「メンフィル帝国軍……!」

「ケルディック地方に配備されている兵達です!」

リィンは驚き、ツーヤは明るい表情で答え

「どうやらさっきの戦いに気付いて出撃してきたみたいだね。」

「という事は、僕達は助かったのか……!?」

メンフィル軍の登場にフィーとマキアスは安堵の表情になり

「ああ……だが………」

「ここでメンフィル軍と領邦軍がぶつかり合えば、国際問題へと発展してしまいます……!」

ユーシスとエマはそれぞれ真剣な表情で周囲を見回した。



「――――領邦軍!この騒ぎは一体何の真似だ!?」

「国境付近にて戦車を持ち出してまでの大規模戦闘をするなんて、メンフィル領となったケルディック地方を取り返す為のエレボニア帝国による侵略行為と取られてもおかしくないわよ!?」

サフィナとレンは飛竜をリィン達の前に降下させてそれぞれ飛竜から降りた後二人は真剣な表情で領邦軍を睨んで声を上げ

「グッ……!我らは数々の容疑がかかっている脱走者――――マキアス・レーグニッツと脱走の手引きをした士官学院の学生共と学生共に力を貸している遊撃士共を捕える為に抵抗するそいつらと戦闘を繰り広げていただけだ!ケルディックへの侵略の意志は一切ない!」

二人に睨まれた隊長は唸った後、声を上げて自分達に敵対の意志がない事を伝えた。



「それ以前にお前達が主張している僕の罪はお前達が作った冤罪だろうが!?」

「この期に及んでまだそのような戯言をほざくのか、この愚か者が!今の状況が二国間にとってどれほど不味い事態なのか、状況の判断すらもできんのか!?」

隊長の言葉を聞いたマキアスとユーシスは隊長を睨んで声を上げ

「―――エステル。一体どういう事かしら?」

二人の言葉が気になったレンはエステルに視線を向けて尋ねた。

「えっと、実は―――」

そしてエステルとヨシュアはレンとサフィナに事情を手短に説明した。



「なるほどね……。うふふ、エステルったら、さすがね♪エレボニア帝国領に入って早々領邦軍を相手に大暴れするなんて♪相変わらずレンの期待を裏切らないわね♪」

「うっさいわね!あたし達だって、暴れたくて暴れた訳じゃないからね!?というかあんたはあたしに何を期待しているのよ!?」

小悪魔な笑みを浮かべるレンに見つめられたエステルはレンを睨んで声を上げ

「え?そんなの勿論、新聞に載るくらいの”大活躍”に決まっているじゃない♪」

「その”大活躍”にはどういう意味が込められているのか、是非教えてもらいたいわね~?」

目を丸くした後悪びれもなく笑顔を浮かべたレンの言葉を聞き、顔に青筋を立てて威圧を纏った笑顔を浮かべてレンを見つめた。



「全く……それで貴女達はどちらの主張を信じますの?」

「僕達の主張は一言足りとも嘘は無い事を”支える籠手”に賭けて、誓います。」

「勿論メティも誇り高き”天使”として、エステル達の説明に嘘偽りが無い事を証明する!」

「レンちゃん、サフィナさん……ミント達を信じて……!」

エステルの様子を見たフェミリンスは呆れた表情で溜息を吐いた後気を取り直して真剣な表情で尋ね、ヨシュアの言葉に続くようにメティは胸を張り、ミントはサフィナとレンを真剣な表情で見つめた。



「うふふ、心配しなくても信じるに決まっているじゃない♪」

レンはミントにウインクをし

「ええ。―――――領邦軍!これ以上マキアス・レーグニッツを含めた”トールズ士官学院”の学生達を捕えようとするのなら、今度は我らメンフィル帝国軍が相手になる!それでもいいのか!?」

サフィナは微笑みながら頷いた後領邦軍を睨んで叫んだ。



「な、何だと!?」

「そ、そんな………!」

「メ、メンフィル軍と戦えば幾ら何でも不味くないか!?」

「ど、どうするんだ……!?数も見た所向こうが上でこちらが不利だぞ……!?」

サフィナの言葉を聞いた隊長は驚き、兵士達は狼狽え始めた。



「―――貴様らが捕えようとしている”トールズ士官学院”の学生達の中には我がメンフィル帝国軍に所属する兵―――リィン・シュバルツァーや我が娘にしてメンフィル皇女プリネの専属侍女権親衛隊隊長にして、”伯爵”の爵位を持つツーヤもいる!ツーヤの母として、何の罪もない娘のクラスメイトを政争の道具に仕立てあげようとする事を見過ごせると思ったか!?」

「義母さん……」

「サフィナ元帥……」

「……………」

領邦軍を睨んで声を上げたサフィナの言葉を聞いたツーヤは嬉しそうな表情をし、リィンとマキアスは呆けた表情でサフィナを見つめ

「――加えてファラ・サウリン卿―――エステルとルーハンス卿―――ミントはレン達メンフィル帝国にとって”客人”と言ってもおかしくない扱いよ。マキアス・レーグニッツの件を抜きにしても、ツーヤやエステル達を捕えようとした事は”メンフィル帝国”として見逃せないわ!そんな愚かな事を実行しかけた領邦軍は今この場で”殲滅”されても文句は言えない立場よ!?」

「グウッ…………!?」

レンの発言を聞いた隊長は反論ができず、その場で唸った。



「た、隊長……!」

「わ、我々はどうすれば……!」

兵士達は不安そうな表情で隊長に判断を仰ぎ

「ググググググ…………ッ!」

判断を仰がれた隊長はアルバレア公爵の命令に逆らう事か、命令に従ってまでメンフィル帝国軍と刃を交えるかの判断に迷って歯ぎしりをした。するとその時



「――――領邦軍は今すぐ撤退せよ!これは命令だ!」



聞き覚えのある青年の声が聞こえてきた!



「え……」

「こ、この声は……!」

声を聞いたユーシスは呆け、隊長が驚いて後ろを振り向くとそこには高級車から降りたルーファスが歩いて隊長に近づいて来ていた。

「ル、ルーファス様!?」

「ルーファス様だ……!」

「て、帝都に行かれていたのでは……?」

ルーファスの登場に領邦軍は驚き

「兄上、どうして……」

ユーシスは信じられない表情でルーファスを見つめた。



「士官学院の方から昼過ぎに連絡が入ってね。それで急遽、飛行艇でこちらに戻って、バリアハート市内での騒ぎを聞きつけてここまでやってきたわけだ。君達の教官殿と共に。」

「え……」

ルーファスの説明を聞いたユーシスが呆けたその時

「ハイ。どうやらとんでもない体験をしたようね。お疲れ様、今後のいい経験になったでしょ?」

サラ教官がルーファスの背後から姿を現した。



「あ!」

「あの人は……!」

「サラさんだ~!」

サラ教官の姿を見たエステルとヨシュア、ミントは明るい表情をし

「サラ教官……!?」

「どうしてここに……」

リィンは驚き、エマは呆けた表情でサラ教官を見つめた。



「事情は一通り聞かせてもらった。メンフィル帝国との交渉は私が引き受ける上、(けい)らは今すぐこの場から撤退するがいい。負傷した兵達は無事な兵達の手を借りて市内の病院に送り届けろ。」

「し、しかし……」

ルーファスの指示に隊長は戸惑ったが

「父には話を通しておいたし、”アルバレア公爵家”としてもメンフィル帝国と争うつもりは毛頭ない。この上私……いや、”アルバレア公爵家”を陥れるつもりか……?」

「と、とんでもありません!―――全軍、撤収!負傷兵は市内の病院に送れ!」

「は……!」

「し、失礼します……!」

ルーファスに睨まれると表情を青褪めさせながら撤退の指示を出し、領邦軍はバリアハート方面へと撤退し始めた。



「サフィナお姉様、領邦軍も撤退して行くようだし、レン達も撤退させましょ。」

その様子を見ていたレンはサフィナに視線を向け

「ええ。――――全軍、撤収!要塞に帰還後はそれぞれの持ち場に戻れ!」

「ハッ!」

レンに視線を向けられたサフィナは頷いた後号令をかけ、メンフィル軍もケルディック方面へと撤退し始めた。


「あらら……意外にいい動きですね。」

領邦軍の動きを見ていたサラ教官は感心し

「まあ、領邦軍も日々の訓練は決して怠っていないからね。今回のような無用の戯れに活かされるべき練度ではないが。」

「……なるほど。」

ルーファスの説明を聞き、静かな表情で頷いた。そしてルーファスとサラ教官はサフィナとレンに近づいた。



「―――お初にお目にかかります。私の名はルーファス・アルバレア。アルバレア公爵家の長男です。以後、お見知り置きを。」

「メンフィル帝国軍竜騎士軍団団長にしてケルディックの”臨時領主”の一人、サフィナ・L・マーシルンです。」

「同じくケルディックの”臨時領主”の一人にして、メンフィル皇女レン・H・マーシルンよ。挨拶はこのくらいにして……今回の件、”アルバレア公爵家”はメンフィル帝国に対してどのような言い訳をするつもりなのかしら?国境付近にて戦車を持ち出してまで大規模戦闘は勿論、メンフィル帝国の貴族の一人であるツーヤやメンフィル帝国に”客人”扱いされているエステル達を捕えようとした事は大問題よ?」

ルーファスに会釈されたサフィナは敬礼で自己紹介し、レンは上品な仕草で会釈をした後不敵な笑みを浮かべて尋ねた。



「………………」

レンの質問を聞いたユーシスは複雑そうな表情をし

「……返す言葉もございません。父上の暴走によって再び国際問題に発展しかねない騒ぎを起こしてしまうとは、公爵家の一員として大変申し訳なく思っております。」

「………私も兄上と同じ気持ちで、メンフィル帝国には大変申し訳なく思っております。大変図々しい頼み事かと思われますができれば、寛大な処置をお願いします……」

ルーファスと共にそれぞれ重々しい様子を纏ってサフィナとレンに頭を下げた。



「あの……義母さん、レンさん。あたしは気にしていないので、ユーシスさん達の事をあんまり責めないで上げて下さい。マキアスさんもそんなに気にしていないですよね?」

二人に続くようにツーヤが申し出てマキアスに視線を向け

「え……あ、ああ。今回の件は父の立場を知っていながらも、このような騒ぎを起こしてしまった僕の不注意さにも原因があります。どうか、”アルバレア公爵家”への処置は寛大な処置をお願いします……!」

「………………」

ツーヤの視線に頷いたマキアスはサフィナとレンに頭を下げ、その様子に気付いたユーシスは呆けた表情でマキアスを見つめた。



「あたし達からもお願い、サフィナさん、レン!」

「僕達はあくまで遊撃士としての仕事を果たしたまでですから。」

「ミント達も全然気にしていないから、これ以上責めないで上げて!」

そこにエステルやヨシュア、ミントが助け船を出し

「襲われた本人達が気にしていないのだから、許してやったらどうだ?」

「……ここで”アルバレア公爵家”に対して厳しい処置を施すと、クラスメイトになっている貴女達の妹や娘の居心地が悪くなると思いますから、ここは寛大に済ませてあげたらどうですか?幸いエステル達の力で解決し、”未遂”に終わっているのですから。」

3人に続くようにメティサーナとフェミリンスも助け船を出した。



「う~ん……プリネお姉様達の事を出されると、そんなに責められないわねぇ。」

それぞれの主張を聞いたレンは苦笑し

「……そうですね。プリネ達は元々国家間の関係修復の為に留学しているのですから、エレボニア帝国ともめるような事はできれば避けたいですね。――――わかりました。今回だけは特別に私達の胸の奥にしまっておきます。」

サフィナは静かに頷いた後ルーファスを見つめて言った。



「え……よ、よろしいのですか……!?」

サフィナの判断を聞いたユーシスは驚いた表情で尋ね

「ええ。―――ただし、エステル殿達や”Ⅶ組”の方達との戦闘によって重傷を負った兵達の治療費は貴方方”アルバレア公爵家”が全て負担し、戦闘によって破壊された戦車や装甲車の請求や街道の舗装にかかる費用も我らメンフィルは勿論エステル殿達に求めず、遊撃士協会やトールズ士官学院並びに”Ⅶ組”の方達の関係者に賠償を求めない事が条件です。」

「――つまりは今回の件で出てしまった全ての被害に関する負担を”アルバレア公爵家”が負う事よ♪バリアハート市内での騒ぎに関しての住民たちへの口止め料や慰謝料を考えると、相当な金額に膨れ上がるでしょうね♪」

サフィナは静かに頷いた後真剣な表情で答え、レンはからかいの表情でルーファスを見つめ

「た、確かに……」

「市内の多くの市民の方達が領邦軍が私達を追って来るところを見ていますしね。」

「しかも市内に戦車や持ち出した事や発砲しようとした事が帝国内は勿論、他国にも知れ渡ると大問題に発展するだろうな。」

「このままほおっておいたら、下手したら”アルバレア公爵家”の威厳が落ちて”四大名門”の地位から落とされるもしれないね。」

レンの話を聞いたリィンやエマ、マキアスは冷や汗をかいて表情を引き攣らせ、フィーは静かな口調で呟いた。



「寛大なご処置に感謝いたします。”アルバレア”の名にかけて必ずその条件を守りますので、どうか今回の件は御内密にお願いします。」

ルーファスはサフィナとレンに会釈をし

「ええ。さてと、私達も戻りますよ、レン。」

「はーい。それでは皆様、ごきげんよう♪プリネお姉様の事、よろしくね♪」

「――失礼します。」

サフィナとレンは飛竜に乗って空へと舞い上がらせ、ケルディック要塞へと帰還した。



「エステル、どうやら彼らはもう領邦軍に追われないようだし、ここで別れてもいいんじゃないかい?」

「そうね。”Ⅶ組”のみんな!バリアハート地方からの脱出は中断して、あたし達もここで失礼するけど、いいかな?」

ヨシュアに言われたエステルは頷いた後リィン達に尋ね

「はい。」

「ご協力、ありがとうございました。」

「凄く助かった。さすが遊撃士だね。」

「僕達を守る為にここまで動いて下さって本当にありがとうございました!」

「リィンさんやあたし達に協力してくれてありがとうございました。」

「……父の暴走を止めてくれた事、感謝する。」

リィン達はそれぞれエステル達にお礼の言葉を言った。



「えへへ、お礼なんていいよ~。ミント達は遊撃士として当然の事をしただけだから。」

「ああ!メティも天使として今回の件を見過ごすわけにもいかなかったからな!」

「……私は久しぶりに人間の誇り高き魂を見せてもらえて、女神としても満足な結果でしたわ。」

リィン達にお礼を言われたミントは恥ずかしがり、メティサーナは胸を張り、フェミリンスは静かな口調で呟いた。



「その子達に力を貸してくれた事に関してはあたしも感謝しているけど………エ・ス・テ・ル~?今回の騒動、ちょっと暴れすぎじゃないのかしら~?」

「え、えっとサラさん?もしかして怒ってるの??」

「間違いなく怒っているよ……」

顔に青筋を立てて怒気を纏い、口元をピクピクさせて笑顔を浮かべるサラ教官に見つめられたエステルは冷や汗をかいて戸惑い、ヨシュアは呆れた表情で指摘した。



「誰が領邦軍と”戦争”してまで守れって、頼んだのよ!?おまけにメンフィル帝国との国際問題への発展もしかけたし!あんた、それでも遊撃士!?」

そしてサラ教官はエステルを睨んで怒鳴った後エステルの頭に拳骨を落とし

「いたっ!?せ、戦争って言いすぎよ~。あたし達は襲い掛かってくる領邦軍と仕方なく戦ったから唯の正当防衛よ~!」

頭に拳骨を落とされたエステルは呻いた後答えた。

「これのどこが”正当防衛”よ!?どっからどう見ても”戦争”……いえ、”災害”が起こった状態にしか見えないわ!”過剰防衛”のレベルもとっくに超えているレベルよ!」

エステルの答えを聞いたサラ教官はまだ無事な兵士達の肩を借りたり担架によって運ばれている重傷を負った兵士達の様子や装甲車や戦車の残骸、クレーターだらけになった街道を見回した後再びエステルを睨んで怒鳴った後拳骨をエステルの頭に落とした。



「あたっ!?あたし達は領邦軍が諦めないから、しょうがないから戦っただけなんだって~!」

「もうちょっと他にもマシなやり方があったでしょうが!?ヨシュア、ミント!他のやり方を考える事もしないで、その暴走娘を止めなかったあんた達も同罪よ!」

「っつ!?す、すみません。」

「はうっ!?サラさんの拳骨、凄く痛いよ~。」

エステルの答えを聞いたサラ教官は再び怒鳴った後ヨシュアとミントの頭に拳骨を落とし、サラ教官の拳骨を受けたヨシュアは呻き、ミントは涙目になって拳骨を落とされた部分を両手で撫でていた。



(うわ、凄く痛そうだね。)

(ま、まさか僕達も殴られるのか!?)

(で、できれば勘弁してほしいな……)

(ア、アハハ……だ、大丈夫ですよ、きっと。)

(そうであると願いたいがな。)

(え、ええ……)

その様子を見守っていて呟いたフィーの言葉を聞いたマキアスは表情を引き攣らせ、リィンは疲れた表情になり、苦笑するエマの言葉を聞いたユーシスは重々しい様子を纏って頷き、ツーヤは冷や汗をかいて頷いた。



「ハア~……あの馬鹿もこうなる事が予想できたのに、何で放置していたのよ……後で絶対文句を言ってやるんだから。」

サラ教官は大きな溜息を吐いた後ジト目になってブツブツ呟き

「え、えっと……どうしてサラ教官もここに来たのですか?」

その場の空気を変える為にツーヤが冷や汗をかいて尋ね

「……さすがにタイミング良すぎかも。」

「領邦軍の連絡が来てからこちらに向かったんですか?」

フィーはジト目で呟き、エマは尋ねた。



「いや~、実はとある筋から早めに連絡を貰ってね。急いで帝都にいた理事さんに連絡を取ったのよ。それで帝都からの飛行艇に一緒に乗せてもらって、車でここまで乗せてもらったってわけ。」

「何とまあ……」

「まったく、用意周到な―――え。」

苦笑しながら答えたサラ教官の話を聞いたユーシスはリィンと共に呆れたが、ある事に気付いて呆けた表情でルーファスを見つめた。



「”理事”と仰いましたか?」

「ああ、君達にはまだ教えてなかったっけ。」

エマの質問を聞いたサラ教官が答えたその時

「改めて―――士官学院の常任理事を務めるルーファス・アルバレアだ。今後ともよろしく願おうか。」

ルーファスが一歩前に出て自己紹介をした。



「じょ、常任理事……」

「そ、そんな話、俺も初耳ですよ!?」

ルーファスの答えを聞いたマキアスは呆け、ユーシスは信じられない表情で尋ね

「フフ、そなたの驚く顔が見られると思って黙っていた。ああ、ちなみに常任理事は私一人ではない。あくまで4人いるうちの一人というだけだ。」

「……………………」

口元に笑みを浮かべて答えたルーファスの説明を聞き、口をパクパクした。



「道理で俺達Ⅶ組についても詳しかったんですね……」

「用意周到すぎ。」

ルーファスの説明を聞いたリィンとフィーは呆れ

(あのスチャラカ演奏家が関わっているだけあって、変わり者の貴族よね~。)

(お茶目な所があるよね。)

(二人とも、聞こえるからそのぐらいにして。)

ジト目になって小声で呟いたエステルと苦笑するミントの言葉を聞いたヨシュアは疲れた表情で指摘した。



「いや、しかしまさか私の留守中にあんな無茶を父が押し通すとは思わなかった。相当、頑なではあったが……今回ばかりは引いてもらったよ。理事として、生徒への不当な拘束は断じて認められないからな。」

「……兄上。」

「……ご配慮、感謝します。」

こうして――――今回の特別実習は幕を閉じた。街道でエステル達と別れた頃は既に日は暮れていたため、バリアハートのホテルで一晩、疲れ切った身体を休めてから……翌朝、リィン達はサラと翡翠の都を後にすることにした。 
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