英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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外伝~ケルディックに降り立つ英雄達~(1章終了)
5月10日――――
ケルディック地方がメンフィル領となった日、”大市”の元締めであるオットーはメンフィル帝国から領主として派遣されてくる者と面会しようとしていた。
~ケルディック市・元締めの家~
「……そろそろこのケルディックの”新領主”の方がお見えになる時間じゃな。」
家の中で待っているオットーは時計に視線を向けて緊張した表情で呟き
「元締め……このケルディックはどうなるのでしょうか……?」
「一体何故ケルディックがメンフィル領に……」
「そ、それより……”大市”の売上税がまさかこれ以上、上がるのでしょうか……?」
オットーの周囲にいる部下達はそれぞれ不安そうな表情をした。
「さてな。―――じゃが、かつて”百日戦役”にて制圧され、そのままメンフィル領となった元エレボニア帝国領に住む者達は暮らしが豊かになったと聞いている。メンフィルが噂通り、ワシら市民に対して寛容ならばいいのじゃが……」
部下達の言葉を聞いたオットーが答えて考え込んだその時、扉がノックされ
「―――失礼します。ケルディック市の”新領主”に任命された者です。」
扉の外から凛とした女性の声が聞こえてきた。
「へ……」
「じょ、女性の声??」
「一体どんな人なんだ………?」
声を聞いたオットーの部下達は戸惑い
「――お待ちしていました。どうぞ入ってきてくだされ。」
オットーは立ち上がって扉を見つめた。そして扉が開かれると黄金のように輝く小麦色の髪をなびかせ、背中には白銀と漆黒の双鎌を背負う鎧姿の女性とその隣には漆黒を基調としたフリフリドレスを着た菫色の髪の少女が、女性と共にオットー達に近づいた。
「じょ、女性騎士……?」
「こ、子供……?」
「……もしかしてそちらの騎士殿がこのケルディックの新たな領主殿じゃろうか?」
女性騎士と少女という予想外の登場に部下達は戸惑い、オットーは女性騎士を見つめて尋ねた。
「――はい。メンフィル帝国竜騎士軍団団長、サフィナ・L・マーシルンと申します。ケルディック市の臨時領主としてメンフィル帝国より派遣されてきました。」
女性騎士―――サフィナは敬礼をして自己紹介し
「――――同じくケルディック市の臨時領主として派遣されたメンフィル皇女、レン・H・マーシルンと申します。よろしくお願いします。」
少女―――レンはスカートを両手で摘み上げて上品に会釈をして自己紹介をした。
「ええっ!?」
「メ、メンフィル帝国軍の団長どころか、皇女自身がこのケルディックの新領主に……!?」
「い、一体どうなっているんだ!?」
サフィナ達の正体を身分を知った部下達は驚き
「サフィナ殿……と仰いましたな。メンフィル帝国の皇族の”マーシルン”性を名乗っているということはまさか……」
サフィナの名前を聞いてある事に気付いたオットーは真剣な表情でサフィナを見つめ
「はい。妾の娘にはなりますがメンフィル皇族に連なる者です。」
見つめられたサフィナは静かな表情で頷いて堂々と答えた。
「お、皇族自身が二人もこのケルディックの新領主に……!?」
サフィナも皇族と知った部下の一人は驚き
「フム……先程自己紹介の時、”臨時領主”と名乗っておりましたが……皇族の方々が二人もこのケルディックを治める事と何か関係があるのですか?」
オットーは考え込んだ後尋ねた。
「ええ、その事も含めて今から説明させて頂きます。」
そしてサフィナとレンはケルディック地方の領主を任せられる適任の者がいない為、適任者が見つかるまで自分達が臨時領主としてケルディック地方を治める事、また突如メンフィル領に変わったケルディック地方に住む人々に信頼してもらう為にも皇族自らが派遣された事を説明した。
「……………」
説明を聞き終えた部下達は普通なら絶対にあり得ない事に驚きのあまり口をパクパクさせて固まり
「いやはや……まさかこのケルディックの為にそこまで気を使って頂いているとは……お二人の臨時領主の就任、ケルディックに住む民達全てを代表して心から歓迎致します。」
説明を聞いて目を丸くしていたオットーは明るい表情になって会釈をした。
「ありがとうございます。私とレンはそれぞれ軍務や政務の関係で多忙の為、領主として留守にする事もありますが可能な限り一人は常駐するようにしますのでご安心下さい。」
「ただそれでも二人ともケルディックを留守にする場合があると思いますので、その際に領主としての判断を仰ぎたい場合は、お手数ですが現在エレボニア帝国領トリスタにあるトールズ士官学院の1年”Ⅶ組”の生徒として通っている我が姉、プリネ・カリン・マーシルンを訪ねて下さい。彼女にも臨時領主の権限を与え、ケルディックの状況を常に伝えるようにしていますので。」
「ええっ!?」
「メ、メンフィルの皇族がトールズ士官学院に……!?」
「しかも”Ⅶ組”と言えば……」
サフィナとレンの説明を聞いた部下達は驚き、ある事に気付いた部下はオットーを見つめ
「もしや……この間の盗難事件を解決して頂いた”Ⅶ組”の学生達と共にいた夕焼け色の髪を持つ生徒ですか?その生徒だけは他の生徒達と比べると、一際強い気品が漂っていましたが………」
自分が出会った”Ⅶ組”の面々を思い出したオットーは驚きの表情で尋ねた。
「はい。――ですのでケルディックの現状をプリネから報告を受け、ケルディックの民達―――特に商人の方々が苦しい生活を強いられていた事も既に存じています。」
「姉の話によれば、何でも元領主のアルバレア公爵家が”大市”の売上税を大幅に吊り上げ、更には陳情にも応じず、陳情を取り下げる事を条件に”大市”で起こるトラブルに領邦軍を関わらせないようにするという民を苦しめる政治をしていたと。」
「その通りですじゃ。ですので大変厚かましい頼みと思うのですが、どうか売上税をもう少し低くして頂けませんか?どうか、この通り……!」
「お願いします!」
「みんな、アルバレア公爵家の重税のせいで苦しい思いをしていたんです!」
「相手はあの”四大名門”なので、逆らう事もできず、みんな、苦しんでいたんです!どうか、売上税を少しでも低くしてください!」
サフィナとレンの言葉に重々しく頷いたオットーはサフィナとレンを見つめて頭を深く下げ、周囲の部下達もそれぞれ頭を深く下げた。
「皆さん、頭を上げて下さい。心配しなくても、問題になっていた売上税を下げる事は決定事項です。売上税はアルバレア公爵家によって増税される前の元通りの割合……いえ、以前より低い割合に設定します。当然、兵達も”大市”を巡回させ、トラブルが起こった際はできるだけ早く向かわせるようにするつもりです。」
「おおっ……!」
「あ、ありがとうございます!」
「やっぱり噂通り、メンフィルは民には優しいんだ……!」
「――何から何まで本当にありがとうございます………」
レンの説明を聞いた部下達それぞれ明るい表情をし、オットーはサフィナとレンを見つめて再び頭を深く下げた。その後二人はオットー達と会談して、メンフィル領となった事で決まった新たな制度等を説明し、説明を聞いたオットー達は自分達の生活が苦しくなるような制度などではない事に安心していたが撤退した遊撃士協会の支部の復活は驚かせた。また、最初は戸惑っていたケルディックの民達も徐々になれ始め、商人達は売上税を元通りにするどころか低くしたメンフィル帝国に感謝し、商売に励んだ。
~同時刻・遊撃士協会・クロスベル支部~
同じ頃、エレボニア帝国とカルバード共和国に挟まれた貿易が盛んな自治州―――クロスベル自治州にある遊撃士協会の支部にてある遊撃士達が支部の受付―――ミシェルより他の支部の応援の件についての説明を受けていた。
「メンフィル帝国領となった事で復活したケルディック市の支部の応援?なにそれ??どういう事なの?」
「ケルディックと言えば、”大市”で有名なエレボニア帝国――――”四大名門”の”アルバレア公爵家”が治めるクロイツェン州に属する地方のはずですが……」
「しかも2年前の襲撃事件のせいで、エレボニア帝国にあるほとんどの遊撃士協会の支部は撤退させられたっていう話だよね……?」
説明を聞き終えた栗色の髪の娘は目を丸くし、漆黒の髪を持つ青年は戸惑い、蜂蜜色の髪の娘は首を傾げていた。
「何でも現在トールズ士官学院で教官をやっているサラの話ではアルバレア公爵がプリネ姫を拘束、拉致して”革命派”と戦う為の手駒としてメンフィル帝国を脅そうとしたそうなんだけど……とんでもないしっぺ返しをくらって、その結果”謝罪金”としてメンフィルにケルディックを贈与する羽目になったらしいわよ。」
「ええっ!?」
「あ、あんですって~!?」
「姉さんを……」
「自らの野望の為に国家間の関係修復の為に留学して来た皇族に危害を加えようとするとは……愚かとしか言いようがないですわね。領地を奪い取られたのも自業自得ですわね。」
ミシェルの説明を聞いた二人の娘は驚いて声を上げ、青年は厳しい表情をし、娘達の傍にいた誰もが振り向くような美しい容姿をし、バランスのいいスタイルをしている金髪の女性は不愉快そうな表情で呟いた。
「まあそういう訳で、新たにケルディックを統治する事になったメンフィル直々の依頼で遊撃士協会はケルディックの支部の復活を決定したって訳。エレボニア帝国内の元遊撃士達にも声をかけているのだけれど……すぐに動け、しかもメンフィルから強い信頼を受けているアナタ達に応援を頼みたいのよ。」
「オッケー!”教団”の事件以降のクロスベルの状況も落ち着いてきたころだし、セリカ達にもしばらく遊撃士協会を手伝う事を頼んだからそろそろ他の地方に行こうと思っていたし。」
「了解しました。」
「えへへ……仕事の時にプリネさんやツーヤちゃんに会えるといいね!」
「全く……”神殺し”が頼み事を聞く人間等、世界広しと言えど、貴女ぐらいですわ。」
ミシェルの話に娘達は頷き、女性は苦笑しながら栗色の髪の娘を見つめた。
「ああ、そう言えばケルディック市の領主だけど……”臨時領主”という形でメンフィル帝国竜騎士軍団団長―――サフィナ団長とこの間までクロスベルにいた”殲滅天使”レン皇女が着任する事になったそうよ。」
「ええっ!?レ、レンちゃんが!?」
「あ、あんですって~!?」
ミシェルの説明を聞いた蜂蜜色の髪の娘と栗色の髪の娘は驚き
「サフィナさんはともかくあのレンが領主って……すっごい不安ね。あの娘が悪戯をしでかしてケルディックの人達を困らせる事を防ぐ為にも一刻も早く向かわないとね!」
「ハハ、そうだね。」
「いくら幼いとはいえ、皇族としての教育を受けているのですから、領主としての仕事はまともにやると思うのですが……まあ、どの道突如”他国の民”になったという事実はケルディックの民達に不安を与えるでしょうから、中立の立場であると同時に市民の味方である遊撃士と言う存在は一刻も早く必要でしょうね。」
そしてすぐにジト目になって呟いた栗色の髪の娘の言葉を聞いた漆黒の髪の青年は苦笑し、金髪の女性は考え込んだ後納得した表情で呟いた。
「アナタ達が抜けるのは非常に残念だけど、セリカ達がいればアナタ達の代わりを十分こなしてくれる上、”特務支援課”のボウヤ達もかなり成長して、こちらとしても頼れる存在になった事に加えて”六銃士”がクロスベル警察、警備隊の上層部になったお蔭で、こっちもかなり楽になって大丈夫だから、こっちの事は心配せず、向こうで大活躍してきなさい!」
「「「「はい(ええ)!」」」」
そしてミシェルの言葉を聞いた4人はそれぞれ頷いた。
こうして栗色の髪の娘達はメンフィル領となったケルディック市に向かう事になり、後に意外な形で”Ⅶ組”と関わる事になるとはこの時、誰も想像する事はできなかった……………
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