英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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第28話
その後、ハーケン門を後にしたエステル達はボース市に戻り、市長邸で今後のことを話しあった。
~ボース市長邸~
「………それにしても本当にモルガン将軍から情報を引き出せたり、領空制限を緩めちゃうとは、びっくりしたわ~」
「何、余は王族として民の生活を考えて当然の事をしたまでよ。」
市長邸に戻ってエステルの呟いた言葉にリフィアは何でもない風に装った。
「あ、そうだ。ねえ、リフィア、プリネ。」
「何だ?」
「何でしょう?」
あることを思い出したエステルは2人に話しかけた。
「あのさ、さっき2人が将軍の目の前で言ったことって本当?」
「それは一体どのような事でしょう?」
エステルに聞かれたプリネは首を傾げて答えた。
「え~と……あたしがメンフィルの皇族の客人とかアーライナ教の巫女がどうとかっていう……」
「ああ………あれはほとんど嘘ですよ?」
「へ………嘘?」
プリネの答えにエステルは呆けた。
「さすがに信者でもないエステルさんを勝手にアーライナ様の巫女候補なんてできませんし、そもそもアーライナ教には巫女という役職の存在はありません。あの場で将軍から情報を提供してもらうために考えた嘘ですから、それほど気にしなくていいですよ。」
「もちろん、余がモルガンの前で言ったこともあ奴に余達の要求を通すために言ったことだから、ほとんど偽りだから気にしなくてよいぞ。」
「あ、あんですって~!!」
プリネとリフィアの説明にエステルは驚いて叫んだ。
「エステル………まさか、本当に信じていたんだ……」
「はぁ……全くこの娘は………少し考えたらわかるでしょうに。」
驚いているエステルを見てヨシュアとシェラザードは呆れて溜息をついて呟いた。
「だ、だって将軍があれだけ簡単に信じてたんだもん……」
呆れて溜息をついているヨシュア達にエステルは頬を膨らませて答えた。
「確かにそうだけど、よく考えればわかることだよ?少なくとも、メンフィルと遊撃士協会が密接な関係であることは絶対にないということは、遊撃士協会を少しでも知っていたらすぐ気付くことだよ?」
「ほえ?そーいえば、将軍のところでも言ってたけどそれってどういうこと?」
ヨシュアの言葉にエステルは首を傾げて聞き返した。
「遊撃士協会とは『国家権力の不干渉』を規約とする代わりに国家に所属しない民間組織である……そういうことだろ、ヨシュア君♪」
「………その通りですけど、よくご存じですね?」
得意げに語るオリビエをヨシュアは呆れた表情で見た。
「あ……そういえばそうだったわね!」
オリビエの答えにエステルは納得したような表情をした。
「遊撃士規約で必ず覚えておく必要があることなのに、案の定忘れてくれちゃって……これは再テストが必要かしら?」
「え~!!やっと遊撃士になったのにもう、テストはゴメンよ~!」
シェラザードの言葉に嫌な予感を感じたエステルは泣き言を言った。
「フフ………でも、エステルさんがアーライナ教会からさまざまな援助を受けられる立場は変わりませんよ?」
「ほえ?それってどういうこと?」
プリネの言葉にエステルは首を傾げた。
「エステルさんの付けているそのブローチはアーライナ教の信者の証にもなります。ですからそのブローチをゼムリア大陸中にあるアーライナ教会に見せれば、教会で販売している治療薬を通常の半額で販売してもらえますし、さまざまな薬品を売ってもらうことも可能です。……まあ、将軍の前では少し大げさに言って見ただけですから、アーライナ様の神託を受けれたり等はさすがにできませんよ?」
「え………信者でもないのにいいの!?」
ただのお守りと思っていた大切なブローチが持つ効果を知ったエステルは驚いて聞いた。
「ええ、構いませんよ。母は信者以外に個人的に気にいっている方にも渡していますから。……ほら、私はそのブローチを加工してもらって髪飾りにしています。」
「あ……ホントだ。シェラ姉が持っているのは知っていたけど、プリネも持っていたんだ。この髪飾り、どこかで見たと思ったけど、あたしのブローチと同じ物だったんだ……」
プリネが普段からつけている髪飾りの宝石と宝石の裏に彫られている女神――アーライナの姿を見て、エステルは呟いた。
「これって、そんな意味もあったのね……」
シェラザードもペテレーネの弟子になって数ヵ月後に初めて使えた魔術で祝い代わりにペテレーネから貰ったブローチを見て呟いた。
「……ねえ、プリネ。ずっと思っていたんだけど、なんで聖女様はこのブローチをあたしにくれたのかな?聖女様の弟子のシェラ姉や娘のプリネはわかるんだけど、あたしなんか一回会ったきりだよ??それも会話なんかほとんどしなかったし。」
「確かにお母様がエステルさんと直接会って話したことがあるのは少ないですが、以前にも言ったと思いますがエステルさんのことはマーリオンやリスティさんを通してお父様に報告されていましたから。多分お母様はエステルさんに主神・アーライナに気にいられる要素があると思って、渡したんだと思います。」
「へ……それってどういうこと??」
「お忘れですか?アーライナ様は”混沌”を司る女神。エステルさんが普段私達”闇夜の眷属”への接し方を自分達”人間”と同じ態度で接することもまた”混沌”になります。ですから、エステルさんはそのブローチを持つ資格がありますから気兼ねなくそのブローチを利用してもらって構いませんよ。」
「うむ!眷属の王であるリウイもお前と個人的に話をしたがっていたから、時間があれば我が大使館を訪ねてもらって構わないぞ?その際はもちろん、お主にとって憧れの対象であるペテレーネも同席させよう。」
「ホント!?じゃあ、正遊撃士になったら絶対行くわ!”闇夜の眷属”の王様もどんな人か気になるし!」
ペテレーネと直に話せる機会があると知ったエステルは喜び意気込んだ。
「ハハ……じゃあ速く正遊撃士になるためにも、今は事件の解決をより頑張ろう、エステル。」
「うん!モチのロンよ!!」
ヨシュアの言葉にエステルはより一層意気込んだ。
「フフ……まさか、カシウス・ブライト殿のご息女だけでなくメンフィルの皇族の方達や『闇の聖女』と密接な関係であるとは思いませんでした……それにしてもまさかリフィア殿下やプリネ姫が私の目の前にいるなんて、今でも信じられない思いです。」
意気込んでいるエステルを微笑ましそうに見たメイベルはリフィア達を見て真剣な表情に戻して呟いた。
「偽名を語ったことは謝罪する、メイベル殿。余達の旅は一応お忍びになるからな。あまり周囲に余達のことを伝えないでもらうとありがたいが。」
「それはもちろん心がけております、殿下。それにボースの領空制限を緩めていただいたんですから、その恩を仇で返すことなんてできませんわ。」
「そうか、礼を言う。」
「ありがとうございます。」
メイベルの言葉にリフィアとプリネはお礼を言った。
「話は変わるけどよく釈放されたわね……」
「まったく、大した悪運だこと。」
市長達の話が終わったのを見てエステルとシェラザードはちゃっかり一緒についてきたオリビエを見て呆れた表情をした。
「はっはっはっ。そんなに誉めないでくれたまえ。だがそのお陰で容姿端麗と噂されるメンフィルの姫君達に会えるとは、これもボクの詩人としての運命の導きだね♪」
周りの様子を全く気にせず、笑ったオリビエは満面の笑みでリフィア達を見た。
「言っとくけど……プリネ達に冗談でも手を出そうとしたらただじゃすまさないからね!」
既にプリネとエヴリーヌをオリビエが口説いたことを思い出したエステルはオリビエをジト目で睨んで言った。
「失敬な。ボクはいつも本気だよ?」
「だからそれが悪いんでしょうが……」
心外そうな表情で答えるオリビエを見て、シェラザードは呆れた。
「わかってるとは思いますけど……彼女達のことはもちろん黙っていて下さいね?後、僕達はご両親から彼女達のことを託されている身ですから、何かしようとしたらその時は遠慮はしませんよ?」
ヨシュアはそう言った後、笑顔で威圧感のようなものを纏った。
「はい、わかりました……(ヨシュア君、コワイ……)」
ヨシュアの威圧に脅えたオリビエはガッカリした態度で答えた。
「フフ……それでそちらの演奏家の方は今後どうしますか?」
エステル達のやり取りに思わず笑ったメイベルはオリビエに質問した。
「フム……許されたとは言え、タダであのワインを飲んだとあっては心が咎めるな。契約通り、レストランでピアノを弾かせていただこうか?」
「それは遠慮しておきますわ。さすがに、あの騒ぎの後だと色々と気まずいでしょうから。」
オリビエの申し出にメイベルはあっさり断った。
(うーん、コイツだったら全然気にしないと思うけど……)
(確かに図太そうだしね……)
メイベルの言葉を聞いたエステルは呆れた表情で、ヨシュアは苦笑してオリビエを見た。
「まあ、今回のことはお互い不幸な事件と割り切りましょう。」
「しかし……それではボクの気が済まない。」
話を締めくくろうとしたメイベルにオリビエは話に割り込み、信じられない提案をした。
「ふむ、そうだな……。ちょうど、エステル君たちが何かの調査をしているようだね。ワインの礼に、彼らの手伝いをするというのはどうだろうか?」
「ハア?」
突拍子もなくいきなりのオリビエの提案にエステルは素っ頓狂な声をあげた。
「あら、それは面白いですわね。お願いしてもいいでしょうか?」
一方メイベルは微笑して賛成した。
「フッ、お任せあれ。そう言うわけだ。キミたち、よろしく頼むよ。」
メイベルの言葉を聞いたオリビエは爽やかな態度でエステル達と同行することを言った。
「ちょっと待って……どーしてそうなるのよっ!?」
「素人に付いてこられても正直言って迷惑なんだけど……。足手まといにならない自信は?」
一方エステルは真っ先に反対し、シェラザードは実力を尋ねた。
「銃とアーツにはいささか自信がある。無論、ボクの天才的な演奏と一緒にされても困ってしまうが。」
「そーいうセリフが激しく不安を誘うんですけど。」
「でも、悪くないかもしれないね。軍が当てにならない以上、リフィア達がいるけど僕たちも人手不足な気がするし。」
自己陶酔するようなオリビエの言葉にエステルは呆れたが、ヨシュアは賛成した。
「そうですね……ヨシュアさんの言う通り、人手は多くても困りませんから別にいいですよ?」
「プリネ!?」
意外な人物からの賛成にエステルは驚いた。
「戦力的に考えてもそちらの方がおっしゃることが本当なら、戦闘の隊列もバランスがよくなると思いますし。」
「確かに………この中で完全な後方支援ができる人は少ないしね。シェラさんやプリネは後方支援としても優秀なのはわかるけど、できれば僕やエステルみたいに
前衛で戦ってくれたほうが心強いし。」
プリネの説明にヨシュアは納得し、オリビエの加入にさらに賛成した。
「けど、そいつがデマカセを言ってるかもしれないわよ?」
いまだ反対のエステルはオリビエをジト目で見た。
「フッ……そう見つめないでくれ。照れるじゃないか。」
「やかましい!本当にこいつを連れて行って大丈夫??」
エステルに見られたオリビエは髪をかきあげて自己陶酔に陥り、エステルはそれを聞いて呆れた。
「その心配はないぞ。」
「え?」
しかし、リフィアの言葉にエステルは呆けた。
「ここに来るまでそやつの足運びや目の動きを見ていたが、あれは銃や弓等遠距離攻撃を行う者達の動きによく似ていたぞ。」
「………だね。少なくともただの人間じゃないね。まあ、エヴリーヌは楽になるから別にいいよ~」
「こいつが~?ねえ、シェラ姉。どうしよう?」
リフィアとエヴリーヌの評価にエステルは信じられなく、遊撃士として経験の長いシェラザードに聞いた。
「………………………………まあ、いいわ。協力してもらうとしますか。ただし、足手まといになると判断したら外れてもらうけど……。それでもいいかしら?」
少しの間、目を瞑って考えていたシェラザードだったが賛成した。
「フッ、構わないよ。決して失望させたりしないから、どうか安心してくれたまえ。」
「うーん、失望するもなにも最初からそんなに期待してないし。」
オリビエの自信たっぷりの言葉にエステルは何気に酷い言葉を言った。
「そうだ……今更ですけど、リフィア達と行動してもオリビエさんは大丈夫ですか?」
ヨシュアはあることに気付きオリビエに尋ねた。
「フム?それはどういうことかね?」
「ほら、オリビエさんはエレボニア人じゃないですか。”百日戦役”後リベールにとってメンフィルは救世主ですけど、エレボニアにとってメンフィルは恐怖と恨みの対象じゃないですか。
メンフィルがエレボニア領を制圧した際、犠牲者がかなり出たと日曜学校で習いましたけど。」
「あ……」
ヨシュアの説明にエステルは不安そうな表情をした。
「なんだそのことか。そんなこと、このオリビエは気にしないよ。大体犠牲者と言うけど、エレボニアがリベールに侵攻した時と違ってメンフィル軍は民間人には一切手を出していないし、犠牲が出たのはあくまで軍人だけだしね。まあ、平和なリベールに侵攻をした帝国の自業自得だ。だからボクには関係ないから安心していいよ。」
「なんというか……他人事ですね。オリビエさんは愛国心とかはないんですか?」
自国の評価を悪く言うオリビエに疑問を持ち、ヨシュアは尋ねた。
「もちろんこのボクとて自分が生まれ育った国は好きだよ。」
「あっやしいわね~?あんたの事だから『可愛い子がいるならどこでもオッケーだよ♪』とかいいそうなんだけどね……。」
オリビエの言葉が信じられなくエステルはジト目でオリビエを睨んで言った。
「ほほう?エステル君もわかって来たじゃないか♪同じ屋根の下、一晩過ごしたせいかな♪」
「他人が聞いたら勘違いしそうなことを言うな~!!」
しかしオリビエのからかうような言葉にエステルは吠えた。
「フフ……話がまとまって何よりですわ。それはそうと、皆さんに報告する事があるのです。」
エステル達のやり取りを微笑ましそうに見たメイベルは話を変えた。
「報告すること?」
メイベルの話にエステルは興味を示し、聞き返した。
「そういえば、余達がヴァレリア湖から戻った際街が騒がしかった気がするな。何かあったのか?」
「はい……。実は昨晩、ボースの南街区で大規模な強盗事件があったのです。武器屋、オーブメント工房をはじめ、何軒かの民家が被害に遭いました。」
リフィアの質問にメイベルは真剣な表情で答えた。
「ええっ!?」
「やっぱり……例の空賊たちの仕業ですか?」
新たな事件の発生にエステルは驚きヨシュアは犯人を聞いた。
「今のところは不明ですが、その可能性は高そうですわね。現在、王国軍の部隊が調査を行っている最中ですわ。」
「なるほど、あたしたちもすぐに調査した方が良さそうね。」
メイベルの言葉にシェラザードは頷いて、早速調査をするために市長邸を出た。
「また軍の連中に邪魔されそうな気がするけど……。ま、そうなったらその時はリフィア達に頼むね!」
「余に任せておくがよい!余の風格をリベールの者達に思いしらせる良い機会でもあるしな!」
「お、お姉様……ほどほどにしておいて下さいね……?お願いですからお父様やシルヴァンお兄様を困らせることだけはやめて下さいね……?」
エステルに頼まれたリフィアは不敵な笑みを浮かべて言い、それを聞いたプリネは苦笑しながらやりすぎないよう嘆願した。
「あ~……思いつきの顔になっちゃったね。諦めた方がいいよ、プリネ。」
「ですが……」
「あの生き生きとしたリフィアを止められるのはリウイお兄ちゃんぐらいだよ。リフィアが生まれた頃から付き合ってるからよくわかるもん。」
「わかりました……後はリフィアお姉様がリベール軍と揉め事を起こさないことを祈るしかありませんね……ハァ……」
エヴリーヌに言われたプリネは諦めて溜息をついた。
「邪魔されるのはともかく……。こちらが情報を掴んだとしても、軍には伝えない方がいいと思う。本当にスパイがいるとしたら空賊たちに筒抜けになるからね。」
「不本意だけど仕方ないわね。とにかく、慎重に行動しましょう。」
エステル達にヨシュアは警告し、シェラザードもそれに頷いた。
「フッ、それでは諸君。さっそく南街区に行くとしようか。」
そしてオリビエはタイミング良く場を仕切り始めた。
「だ~か~ら!どうしてあんたが仕切んのよっ!」
オリビエの仕切りにエステルは声を荒げたが時間が勿体無いと思い、追及をするのをやめた。
そしてエステル達は被害状況を調べるため、新たに仲間になったオリビエと共に被害に遭った南街区に向かった…………
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