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宇宙を駆ける狩猟民族がファンタジーに現れました

作者:獲物
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第二部
狩るということ
  じゅうさん

 
前書き
珪素系生命体ハンパない 

 
 稀に、そこを見ていた筈なのに、全く認識していないことってあると思うんですよね。ふと正気に戻った瞬間、「あれなに?」ってなってしまうことは、一度や二度ではきっとないはず。

 いや、本当に、昔を振り返っていたらいまの状況を完全に失念しておりました。
 しかし、言い訳をさせて貰えれば、非常に大切なことを思い出すことができたのは僥倖だったと言える。

 で、あるならば、さっさと目の前の面白生物を片付けてしまおう。

 スマホのアラームかと思うほどに体を震わせている女騎士、エリステイン。それを隠すように私は一歩前に出て、彼女と面白生物双方の視界を遮る。

 走ったことにより息が上がった訳ではないであろう、明らかに興奮を隠しきれない面白生物は鼻息荒く、ギョロついた目でこちらを睨めつける。
 それは、一番のご馳走を隠されたことによる怒りだろうか。それとも、獲物を探し当てたことによる歓喜か。

 どちらにせよ、私のやることに変わりはない。

 女騎士に取り繕う余裕を与えず、目に見えて怯えさせることのできる生物だ。それはいったい、どれほどの脅威であるのか。いったい、どれほどの獲物を喰らってきたのだろうか。

「だ、だめです。逃げましょう」

 先ずもって、この面白生物の走る速度から、無事に逃げ仰せることは不可能だろう。正確に言えば、私は問題なく、この面白生物を撒くことは可能だ。
 しかし、彼女は間違いなく不可能だ。私が小脇に抱えていれば問題ないだろうが、そんな七面倒なことをする位であれば、この場で決着をつけた方が効率的というものだ。

 なので、私は彼女へ応える代わりに喉を鳴らす。

 たまには少し本気になったところで、バチは当たるまい。

 涎を滴らせるそのだらしない口を開け、面白生物は吼える。

 それが合図だった。

 私は、腰の右ホルスターからシュリケンを抜き取り、早打ちガンマンの如く投げつける。

 空中で6枚のブレードが一瞬の内に展開されると、金属特有の高く、小気味良い音と空気を切り裂く音とが混ざり合う。
 成人前の同族ですら、厚さ10センチ以上もある鉄の扉を凹ませる、硬質な(エイ)()(アン)の頭部を切り裂き、投げ付ければ石壁に突き刺さるほどの鋭さと威力を出せるのだ。

 では、成人の儀を無事終え、数々の星を渡り歩いて狩猟を行い、なんだかよく分からない内に勇者とかなんとか呼ばれた、平均よりも大分体格の良い私が行えばどうなるか。

 答えはすぐに出た。

 面白生物は抵抗を見せるどころか、身じろぎひとつ、ただの一瞬も反応すること叶わずに、首から上が宙を舞う結果になった。

 だめ押しとばかりに、だらしなく舌を投げ出している、無様に舞う頭部をロックオン。

 私の左肩から蒼白い流星(プラズマキャスター)が放たれ、爆散。

 時間にして、3秒も掛からずに全てが片付いた。

 遅れて倒れ込む面白生物の体のその向こう。二桁に届きそうなほど木々を斬り倒して、刃のほとんどが1本の木にめり込む形で突き刺さっていたのだが、その木ですら、勢いに耐えきれずに根本から折れ、地面に横倒しになっていた。
 距離にして25メートルは飛んだだろうか。ぐるりと一周首を回し、私はシュリケンを回収しなくてはならい面倒臭さに喉を鳴らす。

 武器の補充が儘ならない今、回収できるものは回収し、しっかりとメンテナンスを行わなければならない。
 面白生物の死体に一瞥すら向けることなく、シュリケンが刺さっている木まで歩く。
 頭部を消し去ったことからも分かる通り、この生き物に関しても、トロフィーとしての価値はなかった。正直、クリーニングするのは手間なのと、船内(プライベートスペース)に黒魔術よろしく、頭骨ばかりを置く趣味もないので特に困りはしないのだが、なんだかよく分からない、変な空虚感を感じてしまっていた。

 そんなことをつらつらと考えながら、中々の大樹に刺さったシュリケンを抜き、刀身を確認する。

 光沢や刃の滑らかさを見るに、鋭さ、斬れ味のどれも落ちた様子はない。

 二度ほどシュリケンを鋭く振って、僅かに付着した木片を払う。刃をグリップに収納して腰のホルスターへと戻して、元来た道を引き返していく。

 そんな私の視界に飛び込んできたのは、地面にへたり込んでしまっている女騎士であった。

 幸い、地面に世界地図は広がっていないようであるが、唖然とした顔を向けているに、彼女にとっては予想外の光景だったようだ。

「どうした?」

 事も無げに聞いた私の声は、果たして彼女に届いているのだろうか?
 私が近付いていくにつれ、首の角度がどんどんと上がってきている。体長差を考えれば、ほぼ90度、真上を見ている状態だ。
 端から見れば、私が彼女を追い詰めているようにも見えてしまう。

「?」

 手を伸ばせば触れることのできる距離にまで近付き、私は手を伸ばそうとして、留まる。

 中途半端に伸ばされた腕のまま、私は彼女から視線を外して森の中間部へ続く方へと顔ごと向ける。

……視覚化された音の波。それも複数を検知。

 データベースに残されている波長とほぼ一致したのを確認して、私は伸ばしてた腕を戻すと数歩後退する。
 そこで再起動を果たした彼女の瞳に色が戻ったのを確認し、内心苦笑いをする。

「あ、あのっ!」

 私はそれに肩を竦めて応え、背を向ける。それでも何かを言い募ろうとする彼女を無視する形になるが、致し方ない。歩き出すと同時に、光学迷彩機能(クローキングデバイス)を起動させ、私は風景と同化した。







 ある程度彼女と離れた木の上で、パパラッチよろしく待つこと数分。私の集音器が捉えた複数の音の正体が姿を現す。

 中間部より抜けてきたのは、彼女と同じ、プレートメイルを着込んだ一団。間違いなく、彼女の所属する騎士団の者たちだろう。
 内1名にいたってはマントを羽織っており、彼女を始めとしたその他騎士達よりも、趣向を凝らせた造りのプレートメイルを着込んでいることから、それ相応の地位を持つ者だと予測される。
 女騎士、エリステインと言えば、既に完全に再起動を果たしており、いまは立ち上がってその一団へと向き直り、マントを羽織った地位の高いものに対して敬礼と思われる、右手拳を左胸に当てる格好を取っていた。

「ご無沙汰しております。……まさか総隊長殿がお越しになられるとは知らず、ご無礼をお許し下さい」
「いやいや、構わないさ。今回の視察は私の思い付きみたいなものでね。実地訓練も兼ねているのさ。事前に通達していなかった私に非があるのだ。そう畏まらないでくれ」

 恭しく頭を下げるエリステインに対し、総隊長と呼ばれた騎士は片手を上げて応える。エリステインは「ありがとうございます」と返答して、直立の姿勢になる。

……くそ真面目というか、それが彼女らしいというか。まあ、そうすべき相手で対応としては間違いないのであろうが、総隊長と呼ばれた騎士が苦笑いしているのが手に取るように分かる。

「全く。相変わらずだな、君は」
「いえ、当然のことかと愚考致します」
「そう返されてしまうと、少々物寂しくなるが……。そういったところも、君には好感を覚えるよ」
「はっ、恐縮です」

……スルースキルたけーな、おい。

 100パーセント、とは言えないが、明らかに友愛以上の好意を、総隊長と呼ばれた男がエリステインに持っていると思うのは私だけだろうか。

 表情どころか、声に揺らぎすら見られないことから、彼女は全く気が付いていないのか?

 いやいや、有り得ないでしょう。そんなのフィクションの中だけでしょう。人外おじさんビックリしちゃうよ?

「……さて、エリス。私がこの地にやってきたのは、先ほど説明した通りだが、本来は中程で訓練を行う予定でね。いま私がここに居るのは、この状況に他ならない。説明を求めてもいいかな?」

 それに反して、総隊長は物凄く納得いっていない声色だ。ドンマイ。ガンバ。

 いや、まあそれはいい。男女の問題だ。各々で何とかしてくれ。

 問題は、「この状況」か。確かに、短時間な地味な狩りではあったが、二桁に達する木々が斬り倒されているのだから、それなりの騒音はしただろう。
 私がやったことに対して、申し訳ないことに彼女に丸投げをしてしまう形になってしまったが、致し方ないこととして諦めて貰おう。それに、ここで彼女がどのように行動するのかが、分かるというものだ。

「そ、総隊長!これ……これは混沌獣(ペルトゥール)です!!」
「なに? 間違いないのか!?」

 1人の騎士が叫ぶように言うと、辺りざわつき始める。更に総隊長の動揺した声が、それに拍車を掛けた。

「間違いありません……。頭部はありませんが、ガミュジュかと……」
「まさか……。確かにここは深部ではあるが、ガミュジュが出るなどと」

 なんだ、あの面白生物。ちゃんと個体名が存在していたのか。舌を噛みそうな名前ではあるが。
 ああ。もしかして、それを伝えたかったのか彼女は。呼ぶときは舌を噛むのを気を付けてください的な。

「ガミュジュに魅入られた者は魂を抜かれ、殻の肉体を傀儡とすると聞くが……。エリス、ガミュジュ以外にそれらしいモノを見掛けなかったか? そもそも誰がこれを? ヤツの頭はどこへいったんだ?」

 こっちか、伝えたかったのは。
 気味の悪い死霊使いのような真似をするのであれば、確かに注意は必要だ。
 それよりも、魅入られるとはいったい何に魅入られるというのだろうか。

 面白さか?

 確かに面白生物の1匹ではあるが、私の『ビックリ!奇妙奇天烈、万物面白い生き物100選!』には、到底載れない。間違いなく書類選考落ちだ。

「……それなのですが、私もたまたまこの森の見回りをしておりました。その際に、なんとも言えない気配と申しますか、恐らくいま考えればガミュジュのものだったのでしょう。それを感じ、辿ってきてみれば……」

 そう言って、総隊長からの質問責めに嫌な顔一つすることなく、エリステインはさらりと嘘を付く。「辿ってきてみれば」と言った際に、視線をガミュジュに移した仕草は、オスカー女優も真っ青な演技力であった。

「そうか……。あのようなことがあったすぐ後だ。エリス、君の気持ちは分かるが、あまり無理はしないように、頼む」
「お心遣い、痛み入ります」

 なんだあの2人の温度差は。総隊長がいっそ憐れに思えてくる。

「ふむ、真相は闇の中……か。それならば仕方がない。では、我々はガミュジュの死体を早急に王都まで持ち帰ろう。学者共が優々と解剖に勤しむ様が目に浮かぶな」

 そう言って、部下の騎士達にテキパキと指示を出し始める。エリステインもその作業の手伝いに自ら名乗り出たところを確認し、私はそこから意識を切り離す。

 うーむ。

 総隊長やその他騎士、エリステインの反応を鑑みると、混沌獣(ペルトゥール)という存在はかなり厄介なモノのようだ。

 まあ、パパラッチをしていたお陰で、それなりの情報を収集できたのは僥倖と言える。まだまだ私の知らないことは、山というほどあるだろう。それも追々、か。

 私は木々を跳び移りながら、彼女の姿を思い出す。

 そう言えば、エリステインは律儀に約束を守ったことになる。真面目な彼女のことだ。どこかで彼女の口から私の情報が漏れるのは致し方ないと、半ば諦めていた。
 それが、いい意味で裏切られたというのは、うん、良かった。



――そのとき、私は最後までその場に残り、彼らを監視するべきであった。

――翌日、手足を魔物に喰い千切られ、身体中に傷を追った彼女を、ガミュジュと戦闘を行ったほど近い場所で発見することとなる。 
 

 
後書き
プレデターシリーズ、AVPシリーズに出てくるプレデターは、AVP2に出てくるクリーナー(製作陣からはウルフの愛称で呼ばれてる)以外は、基本未熟なハンターであることが多いです。まあ、矛盾する設定は多々ありますが・・・。(例えば初代のウォリアーや2のハンターは成人前とか)
あとは基本、プレデター自身の満身や油断によって人間に負けていることが多いんですよね。

そう考えると、ウルフはベテランなのですが、既存で出てきたプレデターよりも体格は小さいのにも関わらず、エイリアンの一匹や二匹は寄せ付けないずば抜けた戦闘力を持っています。しかし、彼はエイリアン専門の掃除屋なんですよね。

何が言いたいかというと、いったい何百年も種族を問わず狩りを続けているプレデターってどれくらい強いのか、分からないってことなんです。 
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