英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)
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第19話
~ヴェルデ橋・東ボース街道方面~
「ん、到着。」
ロレントとボースの街道をつなぐヴェルデ橋の関所から少し離れた所にギルドから転移してきたエヴリーヌとアネラスが降り立った。
「う~ん……エヴリーヌちゃんの手を握っていたらいきなり今のよくわからない感覚が来たんだけどなんだったんだろう……あれ?あれはヴェルデ橋……ってことは、ここって東ボース街道!?さっきまでギルドにいたのになんで!?」
アネラスは一瞬でギルドから東ボース街道に移動したことに気付き驚いた。
「じゃあ、紙に書いてあったのを探してさっさと終わらせちゃおう。」
「え……ちょっと待って、エヴリーヌちゃん!一体どうなっているの!?」
早速手配魔獣を探し始めるために歩き出したエヴリーヌにアネラスは急いで追いつきなぜ、ギルドからいきなり東ボース街道に移動したかを聞いた。
転移魔術のことを聞かれたエヴリーヌはめんどくさそうな表情をしながらも簡単な説明をし、アネラスを納得させた。ちなみにアネラスは「エヴリーヌちゃんが可愛いからできたんだ!
やっぱり可愛いから凄いんだね!」という訳のわからない納得の仕方でエヴリーヌを困惑させた。そして2人がしばらく歩いていると手配魔獣と周囲にも複数の魔獣の姿を確認した。
「お、早速発見だね!じゃあ、エヴリーヌちゃん。今からあなたの力を見せて貰うね!とりあえず最初は一人で戦ってみて!危なくなったら私が助太刀してあげるからがんばって!」
「はーい。でも、すぐ終わらせるから助けなんて必要ないよ。」
エヴリーヌはまるで遠足に出かけるような物言いで返事をして虚空から弓を出し、片手に魔力で形成した矢を弓につがえた。
「うーで、あーし、むーねにあったま……全部潰す!」
ビュンッ――!!
「グオッ!?グオオオオオオオオオオオッ!?」
初撃の矢が弓を離れたと思った矢先、そこには新たな矢がつがえられていた。放たれた矢は分散し手配魔獣の四肢に刺さり、4か所からの痛みに耐えられず
四肢を潰された手配魔獣は叫び声を上げ横たわった。
「え!?」
アネラスはエヴリーヌが放った矢が魔獣に命中した後すでに次の矢が弓につがえられているのを見て驚愕し、その光景が信じられず思わず自分の目を疑った。
「あーあ、つまんなーい。つまんないから全部消えていいよ!」
凶悪な顔でエヴリーヌは人間であるアネラスには決して見えない神速の動作で次々と矢をつがえては放って行く。放たれた矢を受けた魔獣は四肢をつぶされるもの、一本の矢が空中で複数の矢に分かれ雨のように降り全身矢だらけになるもの、
一か所に3本の矢で集中攻撃されるもの、攻撃の動作をする寸前に攻撃されたもの、矢を受けたどの魔獣も矢が貫通した。その威力は足や腕を簡単に破壊し、エヴリーヌの一方的で残酷な攻撃はあっという間に手配魔獣を含め周囲は死屍累々になった。
「もう、おしまい?じゃあ、最後にとっておきのプレゼントを上げるから消えちゃって!」
エヴリーヌはつまんない表情で横たわっている魔獣を見た後、とどめに大技を出すために眼に魔力を、矢には闘気を宿らせ放った。
「キャハッ♪エヴリーヌの敵はみんな消えちゃえ!ゼロ・アンフィニ!!」
魔力と闘気の力を纏った一本の矢は巨大な衝撃波となり、地を走り死屍累々となった魔獣達を吹き飛ばし消滅させた。
「はい、おしまーい。」
戦闘が終了し弓を虚空に閉まったエヴリーヌは呆然としているアネラスに気付いた。
「…………何固まっているの?終わったよ?」
「ハッ!?エヴリーヌちゃん!今の技ってどうやったの!?それに、弓矢の動作が速すぎて見えなかったんだけど、どうやったらあんなことできるの!?」
エヴリーヌに話かけられ我に帰ったアネラスはエヴリーヌに詰め寄って聞いた。
「ここで説明するのめんどうだから、帰りながら話してあげるからさっきの街に歩いて帰るよ?思ったより早く終わっちゃったからリフィアにハンデをあげるために歩いて帰りたいし。ハンデをもらったってわかった時のリフィアの顔が今から楽しみ……キャハッ♪」
そう言うとエヴリーヌはボースへ続く道にさっさと歩き始めた。
「あ、待って!エヴリーヌちゃん!」
歩き始めたエヴリーヌに追いつくためアネラスは慌ててエヴリーヌを追った。そして帰り道で出会った雑魚魔獣もエヴリーヌは魔術で一瞬で終わらせアネラスをさらに驚かせた。
~アンセル新道~
「ぜえ……ぜえ……やっと、追いついたぜ……」
自分を待っていたリフィアに追いついたグラッツはギルドからずっと全速力で走っていたので息を激しく切らせていた。
「なんだ、これぐらいでバテるとはまだまだだな。余の走りに付いて来れないとは鍛え方が足りないぞ?」
グラッツを待っていたリフィアはグラッツの様子を見て呆れた。
「ぜえ……ぜえ……そういうお前はこれだけの距離を走ってるのになんで、息切れしてないんだよ……(おいおい、ヴァレリア湖と琥珀の塔の分かれ道があるってことはかなりの距離を走っているぞ……この嬢ちゃん、この小さな身体のどこにこんな凄い体力が秘められているんだよ……)」
グラッツは自分と違い自分より速く走ったにも関わらず息切れをしていないリフィアを見て驚いた。
「余は幼少の頃よりメンフィルのあらゆる領内を見て回ったからな。そのおかげで自然と体力はついたぞ?」
「……とても貴族の娘がやることとは思えねえな……よくそんな危険なことを親が許したな?」
リフィアの今までの行動を聞きグラッツは疑問を持った。
「母は笑って許してくれるが父を含めたほかの者達は心配して余が家を出たと分かるとすぐに追手を差し向けるのじゃ。母以外は皆心配性でな。……嬉しくもあり、悲しくもありだが。」
グラッツの疑問にリフィアは答え、毎回追ってくるリウイ達のことを思い出し溜息をついた。
「はあ………要するにお前が規格外なだけか……まあいい、それより手配魔獣を探すぞ。」
リフィアの答えを聞いたグラッツは溜息をついた後、気を取り直しリフィアと周囲を歩いて手配魔獣を探した。そしてある程度探すと手配魔獣の姿を確認した。
「お……いたか。じゃあ、試験開始だ。まず最初は一人で戦ってみな。」
「フフフ……グラッツよ、余の力を知って腰を抜かすでないぞ?」
「ハハ……強気だな。まあ一応期待しておこうか。」
リフィアの言葉にグラッツは苦笑した。その様子を見たリフィアは少しだけ不機嫌な表情をした。
「なんだ?その顔は。さては余の言葉を信じていないな?まあいい、その眼でしかと見るがよい!」
そしてリフィアは杖を構え魔術の詠唱をして、放った。
「………罪人を処断せし聖なる光よ!我が仇名す者に裁きの鉄槌を!贖罪の光霞!!」
「「「「―――――――――ッ!!!???」」」」
リフィアが魔術は放つとは手配魔獣と周囲にいた魔獣に薄透明な壁が多い、強い光と爆音がその中で走った。光を受けた魔獣達は叫び声すらも光と爆音に掻き消され完全に消滅した。
「んな!?」
遊撃士も手こずると言われる手配魔獣が一瞬で片がついたのを見て、グラッツは驚愕した。さらにリフィアは範囲外で集団になっている魔獣を見つけ新たな魔術を放った。
「闇の彼方に沈め!……ティルワンの闇界!!」
リフィアが放った暗黒魔術は先ほどの光の魔術とは逆に魔獣達のいる範囲が暗闇につつみこまれると魔獣達が叫びを上げた。
「「「「「ガァァァァァッ!!??」」」」」
(な!今度も一撃かよ!?カルナに見せて貰った最高の威力を持つアーツとは格が違いすぎる……これが”魔術”か……)
暗闇がはれると事切れて死屍累々と横たわっている魔獣達がいた。一瞬で複数の魔獣達がやられていく様を見てグラッツは驚きすぎて、しばらくその場を動けなかった。
「余がいれば負けはない!……さて、いつまでも突っ立てないでギルドに戻るぞ?」
リフィアは固まっているグラッツに声をかけた後、ボースに戻る道を歩き始めた。
「お、おう……」
リフィアに促されグラッツは今起こったことがいまだに半分信じられない気分でギルドへ帰って行った。
~ボース西街道~
「いましたね。あの魔獣でいいんですよね、アガットさん?」
「……ああ。」
2組より遅れて出発したアガットとプリネは街道をしばらく歩いていると手配魔獣の姿を見つけた。
「さて、どうしましょう?ルグランさんは私一人で戦うなりアガットさんと協力して戦うかで試験をするとのことでしたが、私はどうすればいいでしょう?」
「………どちらも必要ない。」
「……それはどういう意味ですか?」
アガットの言葉にプリネはわからず聞き返した。
「すぐにわからせてやる。………オラァ!」
背中に背負っている重剣を抜いたアガットは重剣を持った状態でジャンプして手配魔獣に攻撃を叩きつけた。
「グエエエエッ!!!!???」
重剣を叩きつけられた手配魔獣はあまりの痛さに叫び声を上げた。叫び声をあげ隙を見せた手配魔獣にアガットはすかさず、Sクラフトを放った。
「一気に行くぜ!うおぉぉぉぉ!ダイナスト!ゲイル!!」
普通の人間が持つのは難しいと言われる重剣をアガットは軽々と振り回し連続で攻撃した。そしてその攻撃によって手配魔獣は完全に沈んだ。
「見事です。けど、私の試験はどうなるんでしょうか?何故、こんなことを?」
試験対象である魔獣を勝手にアガットが倒したのでプリネはアガットに理由を聞いた。理由を聞かれたアガットはプリネを睨み口を開いた。
「そんなのは当然テメエらみたいな素人どもが手配魔獣と戦わせないために決まってんだろが。怪我でもされたらこっちが迷惑なだけだ。それで試験方法だが、こういう事だ!」
プリネを睨んでいたアガットは手に持った重剣でプリネに襲いかかった。
「!!」
襲いかかられたプリネは後ろに飛んで、アガットの攻撃を回避した。
「これはどういうことですか?」
回避されても攻撃の態勢を解かないアガットを見て、プリネは素早く鞘からレイピアを抜きアガットに向けて構え聞いた。
「今から俺とサシで戦え。それが試験内容だ。テメエらみたいな温室育ちで世間知らずの小娘共が俺達の仕事を手伝えるなんて二度と思えないよう、この”重剣”で教えてやる。」
「……なるほど、そういうことですか。出会った時から感じていましたがアガットさんは私達にあまりいい印象を持っていませんね?」
「ハッ!前々からテメエらメンフィルの奴らは気にいらなかったんだよ!”百日戦役”で襲撃されたロレントを救ったぐらいででかい態度をとりやがってよ!」
プリネの言葉にアガットは鼻で笑った後、今まで隠してきた自分の本音を叫んだ。アガットの本音を聞いたプリネはムッとした顔になり言い返した。
「……大きな態度とは心外ですね。私達、メンフィルはリベールを盟友と認め平等な取引をしています。あの時のロレントはどれだけ悲惨だったか知らないのですか?それに我々の登場はほかの国々に対しても医療関係等生活に対して発達したはずです。特にイーリュンの信者の登場は今まで助けられなかった民の命を救って来たのを知らないのですか?」
「ごちゃごちゃうるせえ!オラァ!」
「!!」
プリネの説明を聞く気がなかったアガットは再びプリネに攻撃をしかけたが横に飛んで回避された。
「………どうしても”力”を示す必要があるみたいですね……仕方ありません。お相手致します……!」
「ハッ!その言葉を吐いた事を後悔させてやる………!」
そして二人は手合わせを始めた。
戦いは正遊撃士の中でも高ランクであるC級を持つアガットの優勢かと思われたがプリネの優勢だった。アガットの重い一撃をプリネは最小限の動きでかわしてアガットの大ぶりな攻撃でできた隙を狙い、反撃しそれに驚いたアガットは後退した。しかもプリネはさらに追撃をかけた。突きだけではなく斬撃も混ぜてくる予想外のプリネのレイピアでの攻撃に対処できずアガットはだんだん擦り傷等を付け始めたのだ。
「そこッ!」
「チッ!」
プリネの素早く重い一撃の突剣技――フェヒテンバルが見えずアガットは大きく後ろに飛んで回避した。
「……さすが正遊撃士といった所ですか。中々の腕です。」
「余計なお世話だ!(チッ……どうなってやがんだ!?この小娘……対人戦に戦い慣れていやがる上に実力もありやがる……!!)」
アガットはプリネの予想外の強さに内心驚いた。自分は一番弱いと卑下するプリネだが、リウイからは剣術や戦術の指南を、ペテレーネやリフィアからは魔術の指南、メンフィルでも指折りの強さを持つカーリアンやファーミシルス、そして”魔神”であるエヴリーヌに実戦形式で鍛えられ、時には国内の盗賊討伐にも参加して兵達に見せた強さは本物で、精鋭揃いのメンフィル兵も自分達が忠誠を誓う覇王の血を引く者として、また自分達を率いる将に相応しいと認める強者になりつつあったのだ。そんなプリネの強さの秘密を知らないアガットは自分が劣勢であることに苛立った。
(クソ……!隙が見当たらねえ……!!メンフィルの奴らだけには絶対に負ける訳には行かないのに……チクショウッ!!)
かつて”百日戦役”で妹を亡くしたアガットにとってその原因となった王国軍を、また助けられなかった自分を憎み、妹の死後に現れたメンフィルや”聖女”の存在を知ったアガットは「なぜ、もっと早く現れなかった!」と見当違いな怒りを心の中で秘めメンフィルにはあまりいい印象を持っていなかった。
その後妹を亡くしたアガットは自暴自棄になり市民を脅かす不良となっていたがある遊撃士――カシウス・ブライトに導かれ不良からは足を洗った。自分の進む途に迷いながらも遊撃士として活躍していったアガットにとってゼムリア大陸真の覇者と言われる大国――メンフィルで何の不自由もなく幸せに暮らしてきたであろうプリネに負ける訳にはいかなかった。
「少し剣の腕がいいからと調子に乗るんじゃねえ!くらいやがれっ!」
「甘いですよッ!!」
アガットの持つ技の中でも隙が少なく常人ならよけられない技――スパイラルエッジを放ったアガットだったが、対するプリネは旅に出る前は常日頃メンフィル皇女としてリウイ達に厳しい鍛錬をしてもらい、またプリネ自身も半魔人のため常人には回避できない攻撃をレイピアで受け流して回避した。
「チッ!」
攻撃が回避され反撃を警戒したアガットは後ろに大きく飛んで後退し普段はあまり使わないアーツを発動させた。
「燃えやがれっ!フレイムアロー!!」
発動したアーツは炎の槍となりはプリネの頭上に襲いかかろうとした。
「させません!」
しかしアーツに気付いたプリネは片手で簡易結界を作り、結界を出している手を頭上に上げ防いだ。
「なっ!?」
人間では決して防御できない攻撃――アーツまで防いだことにアガットは驚愕した。そしてプリネはその隙を逃さず手加減した魔術を放った。
「驚いている暇はありませんよ!?……出でよ鋼輝の陣!!イオ=ルーン!!」
「!!」
本能で自らの危機を感じたアガットは自分のいた位置から横に飛んだ。アガットの判断は正しくアガットが横に飛んで回避した瞬間アガットのいた場所に少しの間だけ小さな渦が空間ができ爆発したのだ。それを見たアガットは”アレ”を何度も撃たれれば自分に勝機はないと感じ短期決戦で戦闘を終わらすため自らの体力と引き換えに闘気をためこむクラフト――バッファローレイジを使った。
「うおぉぉぉぉぉぉ、だぁぁぁぁぁっ!!」
自らの体力と引き換えに闘気を得たアガットは現段階で自分の持つ中で最高のクラフトの構えをした。
「これで終わりだっ!!らあぁぁぁぁぁぁぁぁ………………!」
重剣に闘気を流し込むようにアガットはその場で力をためた。
「……どうやら奥の手を使うようですね……ならば、私もそんなあなたに敬意を示して少しだけ本気を出させていただきます……!」
アガットの様子からアガットが大技を使うと感じ、それに対抗するためプリネは自身に秘めたる真の力を解放した!
「行きます……ハァッ!!」
自分の身体に眠る真の力を解放したプリネの姿は母譲りの夕焼けのような赤髪は闇エルフ達のような夜に輝く美しい銀髪になり、父譲りの赤の瞳は妖しく輝き全身には闘気と魔力が混合した気を纏った。そしてプリネが真の姿になると同時にアガットはSクラフトを発動した!
「くらえっ!ファイナル……ブレイク!!」
「ブラッシュッ!!」
重剣に闘気を流しこみ放ったアガットの重剣による衝撃波はプリネに向かって地を走った。そしてプリネはアガットが放った衝撃波に強力な斬撃でできた衝撃波を放ってぶつからせて爆発させた。
「ハァ……ハァ………」
大技が決まったのを見てクラフトで体力を失ったアガットは息が切れ、疲労もピークに達していた。
「クソ……ここまで手こずるとは俺もまだまだだな……」
プリネに手間取ったことにアガットは舌打ちをして呟いた。
「勝手に終わったことにしないで下さい。」
「え…………なっ………!?」
だが、アガットの苦労をあざ笑うかのように爆発で出来た煙が晴れるとそこには銀髪のプリネが立っていた。
「バカな……無傷だと……!?それにその姿はなんだ!?」
アガットはプリネの姿と全くダメージを受けていない姿を見て狼狽した。
「………これが私の真の姿です。」
「真の……姿……だと……!?どういうことだ!」
プリネの言葉にアガットは理解できず叫んだ。
「言葉通りの意味です。普段の私は力を抑えるためにあの姿ですが、今の私の姿は力の枷をはずした状態ということです。」
「力を抑える……だと……?まさか、今まで本気を出していなかったのか……!!ざけんなぁっ!」
手加減されたことにアガットは怒り疲労した体に鞭を打って再びプリネに攻撃を仕掛けたが、疲労のせいか攻撃の勢いは目に見えて鈍かったのでプリネは謝罪の意味もこめて本気で攻撃を仕掛けた。
「力を抑えていたことは謝ります。なので謝罪の意味をこめて今から本気を出させていただきます!」
「きやがれっ!!」
プリネの言葉を聞いたアガットは自分を叱咤するように叫んだ。そしてプリネは残像が見えるほどの速さでアガットに攻撃を仕掛けた!
「ハッ!セイッ!ヤァッ!!」
「しまった!?」
「終わりです!!」
内に秘める真の力で放った突剣技――フェヒテンイングを重剣で防御していたアガットだったが疲労した体では防げず、プリネの攻撃によって重剣はアガットの手から離れ放物線を描き地面に刺さった。その隙を逃がさずプリネはレイピアをアガットの首筋に当たるギリギリの所で寸止めした。
「グッ………!」
「合格……でよろしいですか、アガットさん?」
自分が負けたことに信じられない表情をしているアガットにプリネはニッコリと笑って確認した。
「………ああ。俺の負けだ……!」
勝負事に関してはケジメを持っているアガットにとって自分の発言を取り消す訳にはいかないので潔く自分の敗北を認め、両手をあげた。
「フゥ………」
アガットの敗北宣言を聞くとプリネは安心の溜息をはきレイピアを鞘に戻し、解放している力を抑えいつもの姿になった。そしてアガットの傷だらけの姿を見てアガットに癒しの魔術を使った。
「あ………いくつか擦り傷がありますね。治しておきます………癒しの闇よ……闇の息吹!!」
「………悪いな。(まさかこの俺が回復魔術を受けるハメになったとはな……)」
初めて体験した癒しの魔術にアガットはまさか自分が体験するとは思わず、戸惑いながらプリネの回復魔術を受けあることを疑問に思いそれを聞いた。
「………いくつか聞きたいことがある。なんで最初から本気で来なかった?それにテメエは貴族の娘なのになんでそんな強いんだ?」
「確かに私のあの姿を見たら普通そう思いますね……すぐにあの姿にならなかったのはまだ完全に私の中に眠る力が目覚めてないからです。」
アガットの言葉にプリネは苦笑しながらも答えた。
「ハッ……?どういう意味だ?」
プリネの説明が理解できずアガットは聞き返した。
「あの時見せた姿は私の中に眠る力を無理やり出した姿です。ですから長時間あの姿ではいられないんです。」
「なるほどな………それでなんでお前はあんなに対人戦にも慣れてんだ?直接お前と対峙してわかったが剣の腕はかなりだし、対人戦を想定した戦い方だったぜ?」
「私にある程度の力があるのはお父様やお父様の臣下の方達に鍛えられたからでもありますが、一番の理由は兵を率いる者としても強くならないといけないのです。」
「な……?まさかお前、私兵がいるのか!?」
アガットはプリネの兵を率いているという言葉を聞いて驚いてプリネを見た。
「はい。と言ってもお父様の私兵です。ですが将来その方々は私やリフィアお姉様に仕えることになります。その方々を失望させないため、また民の先頭に立って行動する”メンフィル貴族”として強くなければならないのです。」
「………下の奴らを黙らせるためっていうのはわかった。でもその”メンフィル貴族”としてってのはどういう意味だ?」
「……私達貴族は民の税で生活をしていることはご存じですよね?貴族は普通戦争等には関わりませんが、私達メンフィルは違います。”力あるものは無暗にその力を震わず力無き者を守るために使う”………これは初代から始まり、今の皇帝、また次期皇帝となられる方のお考えです。皇帝の考えは当然私達貴族は従わなければなりませんし、民の血税で生活をしているのですから有事の際、私達が先頭に立って民を守るのは当然の義務です。……例えそれが戦争であっても民を守るため兵を鼓舞し自らも戦う必要があるのです。」
「……………(完敗だ………)………お前達をバカにしてたのは俺の間違いだったようだ。悪かった……」
アガットは自分より年下のプリネが自分と違い進むべき途を持ってそれに向かって進み、戦うという覚悟をすでに持っている言葉を聞いてプリネを見直し、頭を下げ謝った。
「気にしないで下さい。普通はそう思われても仕方ありませんから……さあ、ギルドに戻りましょう!恐らくほかの2組も終わっているでしょうし。」
アガットの謝罪を苦笑しつつ受け取ったプリネはギルドに戻ることを提案した。
「ああ。……それと今、一人になりたい気分でな……後で追いつくから先に行っててくれ……」
「?わかりました。」
アガットの様子を変だと思ったプリネだったがアガットの言葉通り先にギルドに戻った。プリネの姿が見えなくなるとアガットは何かを堪えるように呻いた。
「チクショウ………俺は年下の小娘にも劣るのか……………どこまで行っても俺は情けねえ兄だな………ミーシャ……………」
呻いたアガットは悔しさを発散するかのように突如空に向かって吠えた!
「うおおおおおおおっ!!!!!」
空に向かって吠えた後、プリネに追いつくためアガットはプリネが戻った道を走って行った………
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