英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク
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第12話
王都グランセルを除いた各地方に存在する”四輪の塔”――――その内の一つである”紅蓮の塔”はその名を示す通り、塔全体が真っ赤に染まっていた。
~紅蓮の塔~
「本当にここに連中がいるのかしら?」
「間違いない……複数の足跡ができていやがる。」
「しかし何でこんな所を隠れ家にしたんだ?確かに塔内は入り組んでいるから隠れるのにはうってつけだけど、逆に入口さえ抑えてしまえば袋の鼠だぞ?」
塔内を見上げたエステルは首を傾げ、アガットとルークは考え込んでいた。
「!!どうやら早速来たようだぞ。」
「皆さん、構えて!」
そして何かの気配を感じたバダックとヨシュアはそれぞれ武器を構え、二人に続くようにルーク達も武器を構えた。すると塔内から大型の犬が数匹現れた。
「こいつら!?」
「へっ、やっぱりここだったか!」
「行くぜっ!!」
そして犬達はルーク達を排除する為に一斉に襲い掛かった。するとその時闘気によって発生した炎を大鎌に宿していたバダックが大鎌を大きく振るった!
「烈火衝閃!!」
バダックが鎌を振るった瞬間、火炎放射をも思わせるような炎が放射状に犬達を一斉に襲い、炎を受けた犬達は撃ち落されて怯んだ。そこにバダックが詰め寄り
「獅吼!」
炎の”獅子”を形どったエネルギーを犬達に放ち
「爆炎陣!!」
闘気の炎を纏った大鎌を地面に叩きつけ、ドーム型に広がる小規模な炎の爆発を起こした!爆発に呑みこまれた犬達は悲鳴を上げながら絶命し、爆発が収まると犬達がいた場所にはセピスが落ちていた。
「す、凄っ!?まさに”瞬殺”じゃない!」
「あんな一瞬であの犬達を…………」
「へっ、さすが”獅子王”だな。」
「ハ、ハハ……(俺やティア達が協力してようやく倒せた相手だからな……改めて思うと”六神将”って強すぎだろっ!)」
バダックの圧倒的な戦闘にエステルとヨシュアは驚き、アガットは感心し、ルークはかつての戦いを思い出し、冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「お前達は先程の魔獣を知っているようだが……もしやラッセル博士達を誘拐した犯人共が連れている番犬か?」
「え………―――あっ!」
「確かにこのタイミングで現れるなんて、あまりにも出来過ぎていますね……」
バダックに尋ねられたエステルは呆けた後すぐに気付いて声を上げ、ヨシュアは真剣な表情で考え込み
「ああ、間違いねぇ。おそらく連中によって訓練された戦闘犬ってところだろ。」
「だとすると、犯人達のバックにはかなりデカイ組織が控えているかもしれねぇな……」
アガットとルークはそれぞれ目を細めて考え込んでいた。
「せ、戦闘犬……?」
「俺は連中を調べ始めてから、何度もあの魔獣の襲撃を受けた。無関係であるはずがねぇ。」
「ああ、それにルーアンでアガットと追った時も出てきたからな。」
聞きなれない言葉に戸惑っているエステルにアガットとルークはそれぞれ自分達が体験した出来事を説明した。
「そ、そうだったんだ……てことは、峠の関所がさっきの魔獣に襲われたのはあんたがいたからってわけ!?」
「ま、結果的にはな。そもそも、連中の調査を俺に押し付けたのはお前らの親父だ。こっちだってイイ迷惑なんだよ。そんな面倒な事は赤の他人の俺より自分の息子に頼めばいいものを……」
エステルに責めるような視線で睨まれたアガットは頷いた後一瞬ルークに視線を向け
「う、それを言われると……」
「ハハ………」
「ほう?カシウスから任せられる程という事は、それなりに評価をされているようだな?」
アガットに図星を突かれたエステルは呻き、ルークは苦笑し、バダックは感心した様子でアガットを見つめた。
「そういえば、ジャンさんもそんな事を言ってましたね。どういう経緯で父さんに頼まれたんですか?」
「例の空族事件が起こる少し前にフラリと現れて押し付けやがったんだ。何でも、外せない用事ができたと抜かしやがってな。全く、相変わらずふざけたオッサンだぜ。」
(外せない用事………――――!!あの件か!)
「………………………」
ヨシュアの質問に答えたアガットの話を聞き、自分とレン宛てに届いた手紙の内容をふと思い出したルークは顔色を変え、ルークと同じように心当たりがあるバダックは真剣な表情で黙り込んでいた。
「そ、そんな事があったんだ。」
「最も今となっちゃあ、誰にも譲るつもりはねえがな。特にあの仮面野郎だけは絶対この手でふん捕まえてやる………」
ルーアンで対峙し、まんまと逃げられた仮面の男を思い出したアガットは怒りの表情になった。
「???」
「あの仮面野郎?」
アガットの様子に気付いたエステルとヨシュアはアガットを見つめ
(おい、何があった。)
(ああ、多分ルーアンで逃がした犯人共のリーダー格だと思う。)
(なるほどな。しかしお前がいながら、まんまと逃がしたのか?全く、やはりまだまだ小僧だな……この調子だと、先が思いやられるな。)
ルークに小声で事情を聞いたバダックは呆れた様子で溜息を吐いた。
(うっせ!それに言っとくが、その仮面野郎とやらと俺も剣を交えたけど、アッシュ並みの強さだと感じたぜ。)
(何?なるほど、確かにそれは強敵だな………)
しかしルークの反論を聞いたバダックは眉を顰めた後まだ見ぬ強敵の存在に気を引き締めた。
「俺の事は気にする必要はねぇよ。とっとと連中を捕まえて爺さんを解放するぞ。」
一方エステルとヨシュアに見つめられたアガットは複雑そうな表情で答えた後、エステル達を促し、エステル達と共に塔内を進み、屋上に到着した。
~屋上~
「あいつらはっ!」
「とうとう追い詰めたぜっ!」
「博士もいるわ!」
屋上にいる黒装束の男達とラッセル博士を見つけたルークとアガット、エステルはそれぞれ声を上げてヨシュア達と共に武器を構えて男達に近づいた。
「き、貴様らは!?」
「馬鹿な……どうやって我らがここにいる事を嗅ぎ付けた………!」
「しかもあの大男は”獅子王”!何故奴がリベールにいる!?」
「ほう?俺を知っているとは、お前達の組織はよほど情報通のようだな。」
自分の姿を見て驚いている男達の様子にバダックは眉を顰めて男達を睨んだ。
「変装して町から脱出なんて、セコイことをしたようだけど、無駄だったみたいね。」
「誰も来ない遺跡だと判断したのが運の尽きですね。ラッセル博士を解放してもらいましょうか。」
慌てている男達の様子を見たエステルは得意げな笑みを浮かべ、ヨシュアは真剣な表情で忠告した。
「く……!」
「民間人風情が……!」
「遊撃士協会に基づき、てめぇらを逮捕・拘束する。あの仮面野郎が見当たらないのは残念だが……まあ、てめぇらで我慢してやるよ。」
「ふ、ふざけるな!」
「邪魔者は排除するのみ!」
そしてルーク達は黒装束の男達との戦闘を開始した!
「おらぁっ!!」
男達が自分達に向かって来るとアガットは重剣を地面に叩きつけた。すると炎の衝撃波が発生した。闘気の炎の衝撃波を襲われるアガットの技――――ドラグナーエッジは男達を襲ったが、男達は散開して回避した。
「「喰らえっ!!」」
アガットの攻撃を回避した男達は残像を残しながら敵に突撃する技――――影縫いでエステルとヨシュアにそれぞれ襲い
「そこだっ!!」
銃を持つ男は銃弾を連射した。
「っと!!」
「!!」
突撃して来た二人の攻撃をエステルとヨシュアは間一髪でそれぞれ受け流し
「弧影斬!!」
ルークは剣を振るって真空の刃を発生させ、襲い掛かる弾丸を真空の刃―――弧影斬で真っ二つにした。
「覇道………!」
その時大鎌を大きく振りかぶったバダックは膨大な闘気を大鎌に溜め込み
「滅封!!」
溜め込んだ闘気を解放すると共に大鎌を振るった。するとバダックの大鎌から極太のレーザーを思わせる闘気のエネルギーが銃を持つ男に襲い掛かった!
「な―――――ぐああああああああああああああっ!?」
エネルギーをその身に受けた男は悲鳴を上げながら屋上の手すりに吹っ飛ばされ、地面に膝をついた!
「ク、クソッ!?」
「奴を真っ先に仕留めろっ!!」
味方が一撃でやられた事に焦った男達は標的をバダックに変えた。
「おぉぉぉぉぉぉっ!!」
その時ヨシュアは琥珀の瞳に膨大な殺気を纏わせて男達を睨みつけた。
「グッ!?」
「か、身体が……!?」
殺気による冷たい視線―――魔眼に睨みつけられた男達の身体は本能的に恐怖を感じて体の動きを鈍くし
「あたし達を忘れるんじゃないわよ!エアリアル!!」
「「ぐぅっ!?」」
その隙にオーブメントの駆動を終えたエステルが竜巻を発生させる魔法を発動して男達を怯ませた。
「秘技―――裏疾風!斬!!
「「ギャアアアアアアアッ!?」」
その時ルークが電光石火の速さで追撃した。
「魔王―――――」
そこに大鎌に業火を宿したバダックが詰め寄り
「炎撃波!!」
「「ぐああああああっ!?」」
業火を宿した大鎌で薙ぎ払った!バダックの持つ大鎌に切り裂かれた事によって着込んでいる鎧を貫通し、肉を切り裂かれると共に炎をその身に受けた男達は腹から大量の血を噴出すると共に大火傷を負った。
「こいつで止めだっ!フレイムスマッシュ!!」
「「ガッ!?」」
そして炎の闘気を纏わせたアガットが跳躍して男達の目の前に重剣を叩きつけた際に発生した炎の衝撃波に吹き飛ばされた男達は手すりまで吹っ飛ばされて地面に膝をついた!
「グッ、”化物”め……!」
「まさか”獅子王”がこれほどまでとは……!」
「だが、こちらには人質がいる事を忘れていないか?」
ルーク達との戦いで満身創痍になった男達はすぐに立ち上がって気絶しているラッセル博士に武器をつきつけた。
「あんたたち!往生際が悪すぎるわよ!?」
「あなた達の目的はラッセル博士の頭脳でしょう。危害を加えてもいいんですか?」
「う、うるさい!本当に傷つけられないのか試してやってもいいのだぞ!?」
エステルとヨシュアの叫びを聞き、半ば自棄気味になった男は銃口をラッセル博士の頭につきつけた。
「いい加減、諦めろや!王国軍だって動いている。てめえらに逃げ場はねえんだよ。」
「そうだぜ!特にこのツァイス地方は”レイストン要塞”が近くにある!そろそろ軍の連中がこっちに向かっているんじゃねえのか?」
「……………」
アガットとルークの宣言を聞いた男達は黙り込んだが
「クク……」
「ははは………」
突如不敵な笑みを浮かべて笑い始めた。
「……なにがおかしい?」
(まさか………)
笑い続けている男達の様子にアガットは眉を顰め、ある事に思い当たったバダックは厳しい表情をした。
「いや、なに。おめでたい連中だと思ってな。それに、我らの”勝ち”だ。」
「なに………」
男の宣言を聞いたアガットは眉を顰めた。
「ハッ!」
「チィッ!」
「ムッ……!」
「エステル、危ない!」
「わかってる!」
その時銃撃が放たれ、ルーク達は後ろに跳躍して銃撃を回避した。すると謎の飛空艇が男達の背後に現れた。
「やっぱり、飛行艇!」
「飛行艇だと!?何でそんな物まで持ってんだよ!?」
「クソ、ここまで大がかりな組織だったのか!?」
飛行艇の存在にルーク達は悔しそうな表情をした。
「フフ、形勢逆転だな。」
「ここで殲滅するのもいいが、遊撃士協会を敵に回すつもりはない。」
「そこで黙ってみれいれば、命だけは見逃してやるぞ。」
「こ、この~~っ!言わせておけば……」
男達の勝ち誇った笑みを向けられたエステルは今にも飛び出しそうな雰囲気を出していたが
(エステル、ここは彼らの言う通りにしよう。)
(えっ!?)
ヨシュアの忠告に目を丸くした。
(奴等に従うフリをして、油断をさせろ。)
(奴等が爺さんを運び込もうとする瞬間、そのタイミングで飛行艇に突入、飛行艇ごと奴等を制圧する。)
(だから、今はこらえろ、エステル。)
(りょ、了解……!)
そして先輩である正遊撃士達の指示に頷いた。
「フフ、賢明な判断だ。」
「では、失礼させてもらおう。」
ルーク達の様子を見た男達は次々と飛行艇に乗り込み、最後の一人がルーク達に背を向けてラッセル博士を担ごうとしたその時
(今だ……!)
アガットの号令を合図にルーク達は突撃したが
「だ、だめえ~っ!」
聞き覚えのある少女の悲鳴と共に砲弾が飛行艇に命中した!
「なにっ!?」
「ムッ!?」
「まさか……!」
突然の攻撃にアガットやバダック、ルークが驚いたその時、導力砲を両手に持ったティータがルーク達の背後から現れた。
「こ、子供!?」
「ティータ!?」
「しまった!レンとは入れ違いになって、僕達に付いてきていたのか!?」
ティータの登場に男達とエステル達、双方は驚いた。
「お、おじいちゃんを返してっ!返してくれなかったら……こ、こうなんだからああっ!」
そしてティータは導力砲で連続で砲撃を行い、何度も飛行艇に砲弾を命中させていた。
「ガ、ガキが!俺達の邪魔をするんじゃない!」
その時ラッセル博士の近くにいた男が銃口をティータに向け
「あ……」
銃口を向けられたティータは恐怖によって硬直した。
「まずいっ!」
「ティータ!」
「クッ……!」
男の行動を見たヨシュアとエステルが血相を変え、ルークが拳に闘気を込めて振るおうとしたが
「やめろ、小僧!あの位置では人質まで巻き添えを喰らうぞ!」
「!!クソッ!」
バダックに警告され、悔しそうな表情ですぐに攻撃を中断し
「チイイイッ!」
アガットはティータを突き飛ばした。その瞬間、男の銃口から銃弾が放たれ、アガットの腕をかすった。
「くっ………!」
「アガット!?」
「アガットさん!」
腕から血を流し始めたアガットを見たエステルとヨシュアは声を上げ
「お、おい!子供を撃とうとするヤツがいるか!万が一こんな事、閣下に知られたらどう言い訳をするつもりだ!?」
「しかもそいつはテスト用の……!」
一方男達の仲間は仲間の行動を咎めるかのように慌てた様子で声を上げた。
「す、すまん。船が落とされると思って、つい……」
「まあいい、このまま撤収するぞ!」
そして男はラッセル博士を担いで飛行艇に飛び移った。
「あっ……!ま、待ちなさいよっ!」
「お、おじいちゃあああああん!」
ティータの悲鳴を上げた瞬間、男達を乗せた飛行艇は塔から去って行った。
「ヒック、ううっ………」
飛行艇が去るとティータは夕陽を背に涙を流して泣き始め
「ティータ………」
「…………………」
幼い子供が大好きな祖父を攫われた事に悲しむ様子にエステルは悲痛そうな表情をし、バダックは目を伏せて黙り込み
「とりあえず……いったんツァイスに戻ろう。レンにティータの無事を教える事やあの飛行艇の事をギルドに報告しなくちゃ……」
「そうだな……」
悔しさを纏わせるヨシュアの提案にルークは重々しく頷いた。
「―――いえ、レンに報告する必要はないわ。」
その時レンがルーク達に近づいてきた。
「レン………一体いつ、こっちに来たの?」
「町に戻ってティータを探したんだけど、どこにも見つからなかったから、もしかしてと思って急いでここまで来たんだけど………どうやら遅かったようね。―――ティータ、辛いとは思うけど一旦戻るわよ。」
エステルに尋ねられたレンは答えた後、疲れた表情で溜息を吐き、ティータに視線を向けた。
「ひっく、ううっ………なんで……どうしておじいちゃんが………ひどいよ……どうしてぇ……」
「おい、チビ。」
「……………?」
アガットは泣きじゃくるティータの頬を無言で平手打ちをした。
「………あ………」
平手打ちをされたティータは様々なショックで泣き止み、地面に膝をついた。
「ちょ、ちょっと!?」
「アガット!?」
「何でティータをぶったのよ!?」
アガットの行動にエステルとルークは驚き、レンは親友に平手打ちをしたアガットを睨んだ。
「言ったはずだぜ……足手まといは付いてくんなって。お前が邪魔したおかげで爺さんを助けるタイミングを逃した。この責任……どう取るつもりだ?」
「あ……わたし……わたし……そ、そんなつもりじゃ……」
アガットに責められたティータは表情を青ざめさせた。
「おまけに下手な脅しかまして命を危険にさらしやがって……俺はな、お前みたいに力も無いくせに出しゃばるガキがこの世で一番ムカつくんだよ。」
(出しゃばるガキ………か。)
(”力の無さ”………か。)
アガットの言葉からかつての自分を思い出したルークは複雑そうな表情をし、ルークと同じようにかつて愛する娘と妻を同時に失った時の当時の自分の力の無さを嘆き、娘と妻が失うきっかけを作った”予言”を憎むようになった自分を思い出したバダックは目を伏せた。
「ご………ごめ……ごめ……ん……なさ……ふえ……うえええっ……!」
「ちょ、ちょっと!どうしてそんな酷い事を言うの!?」
「エステルの言う通りよ!ただでさえ、大事な家族を浚われたばかりだっていうのに!」
「だから言ってるんだ。おい……チビ。泣いたままでいいから聞け。」
ティータが涙を流して泣き始めたきっかけを作ったアガットをエステルとレンはそれぞれ睨み、二人に睨まれたアガットは冷静に答えた後ティータに視線を向けた。
「うぐ……ひっく……?」
「お前、このままでいいのか?爺さんのことを助けないで諦めちまうのか?」
「うううううっ……」
アガットの言葉を否定するかのようにティータは涙を流しながら首を何度も横に振った。
「だったら腑抜けてないでシャキッとしろ。泣いてもいい。喚いてもいい。まずは自分の足で立ち上がれ。てめえの面倒も見られねえヤツが人助けなんざできるわけねえだろ?」
「……あ……」
「それが出来ねえなら二度と俺達の邪魔をせず、ガキらしく家に帰ってメソメソするんだな。……フン、俺はその方が楽なんだがな……」
「「………ティータ……」」
「…………大丈夫だよ……お姉ちゃん、レンちゃん……わたし、ひとりで立てるから……」
家族を攫われ、悲しみに暮れていたティータは泣き止んで立ち上がった。
「へっ……やれば出来るじゃねえか。」
「ほう?今のは俺も驚いたぞ。」
ティータの心の強さにアガットとバダックはそれぞれ感心した。
「本当に……ごめんなさい。わ、わたしのせいであの人達に逃げられちゃって……」
そしてティータは自分の祖父を取り返そうとしてくれた遊撃士達に自分の否を謝罪した。
「バカ……謝ることなんてないわよ。」
「エステルの言う通りよ。ティータの行動を把握できなかったレンにも責任はあるんだから……」
「うん。ティータが無事でよかった。」
「うむ、お前のような幼子に怪我がなかっただけ、不幸中の幸いだ。」
「だな。ティータが無事でよかったぜ。」
「ありがとう……レンちゃん、お姉ちゃん、お兄ちゃん、ルークさん、それにえっと……」
エステル達にそれぞれ声をかけられたティータは微笑んだ後見覚えのない大男を見上げ
「――バダックだ。エステル達と同じ遊撃士だ。道中、彼女達に事情を聞き、ここまで同行した。」
「そうだったんですか……バダックさんもありがとうございます。」
バダックの事情を聞いたティータはぺこりと頭を下げた。
「あ、あの……アガットさん……」
「なんだ?文句なら受つけねえぞ?」
「えと……あ、ありがとーございます。危ない所を助けてくれて……それから……励ましてくれてありがとう……」
「は、励ましたわけじゃねえ!メソメソしてるガキに活を入れてやっただけだ!」
ティータに優しげな微笑みを向けられ、予想外の言葉を聞いたアガットは慌てた様子で答えた。
「ふふ……そーですね。」
「だ~から、泣いてたくせになんでそこで笑うんだよ!?ちょ、調子の狂うガキだな……」
「あんたねぇ、お礼くらい素直に受け取りなさいよ。」
「いや、アガットさん、単に照れてるだけじゃないかな。」
「うふふ、そうね。一匹狼を気取っているようだけど中々可愛い所あるじゃない♪」
ティータの笑顔に照れているアガットをエステル達は生暖かい視線で見つめ
「フッ、どこかの誰かと同じで、まだまだ小僧だな。」
「おい、その”どこかの誰か”ってのは誰の事で、しかも何で俺を見ながら言うんだ!?」
口元に笑みを浮かべたバダックに見つめられたルークは顔に青筋を立ててバダックを睨み
「お前ら、うるせえぞ!」
口々に言い合うエステル達をアガットは声を上げて睨んだ。
こうしてラッセル博士の奪還に失敗したルーク達はギルドへ報告し、これからの方針を決めるために、紅蓮の塔から去った………
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