おぢばにおかえり
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二十七話 デートじゃないのにその十二
「そんなの言うまでもないじゃないですか」
「どうだか」
「だからね千里ちゃん」
どうもお婆さんの言葉が阿波野君にとって実に都合のいいタイミングで入って来るような。これは多分気のせいじゃないと思います。
「そういう風に言うこともないのよ」
「ですけれど」
どうもそのことが心に引っ掛かってきました。
「阿波野君って。いつもこうなんですよ」
「何度も言うけれど男の子は少し悪い方がいいのよ」
この言葉何かの歌で聞いたような。小泉今日子さんでしょうか。
「少しね」
「少しですか」
「そう、少しよ」
またにこにことされています。
「少し悪い方がいいのよ」
「少しですか?」
「全然少しじゃないですか」
またここで本人が調子に乗って言ってくるし。
「明るく可愛い後輩ってことで」
「何処がよ」
呆れてしまいます。背ばかり大きくてその頭の中は完全に子供です。大きな子供がこんなに手がかかるものだとは思いませんでした。
「本当にね。いい加減な性格はね」
「真面目になれってことですか?」
「言わなくてもわかってるじゃない」
私の言いたいことはまさにそれです。
「わかったら真面目にするのよ」
「真面目なんですけれど、これでも」
ああ言えばこう言うって感じで。本当に。
「服装だってほら」
制服の前のボタンを外すとそこには。妙に懐かしい服が出て来ました。左胸のところには数字があります。何故か十四番です。
「こういうふうに」
「野球のユニフォーム?」
「近鉄のですよ」
しかもあの三色の。この服は私も昔の映像で見るだけです。時々赤、白、青のあの三色の派手な帽子を見ることはありますけれど。
「どうですか?」
「よくそんなの持ってるわね」
「他にも井上敏樹ティーシャツなんかも」
「井上敏樹って!?」
今まで聞いたことのない名前でした。
「誰、その人」
「今の仮面ライダーとかで脚本書いてる人ですよ」
仮面ライダーの脚本は特に意識したことがないです。実家に戻った時に響鬼の脚本家がかわってネットで大騒ぎだって中学生の同級生が言っていたのは覚えていますけれど。どういうわけか仮面ライダーは響鬼だけ観ていないので詳しくは知らないですけれど。
「凄い悪ぶってる人で」
「ふうん、そうなの」
「その人の名台詞が書かれたティーシャツ持ってるんですよ」
「随分変わったの持ってるのね」
何処にそんなのがあるんでしょうか。
「俺のこと好きにならない奴は邪魔なんだよ、とか俺は今心の中で御前を殴った、とか」
「それ学校に着てくるとかしてないわよね」
「してますよ」
とても平気な顔での返事でした。
「そんなの当たり前じゃないですか」
「当たり前じゃないわよ。よくそんなの着て学校に来れるわね」
「詰襟で見えませんから」
だから平気らしいです。
「もう全然オッケーですよ」
「男の子って羨ましいわね」
というかそんなのを着て学校に通える神経が凄いです。それにしても最近の仮面ライダーは人によってかなり好みの分かれる作品になったと思います。
「詰襟でわからないなんて」
「女の子はブレザーですしね」
「そうよ」
天理高校なら誰もが知ってることです。
ページ上へ戻る