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おぢばにおかえり

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第二十七話 デートじゃないのにその十

「なら余計に好都合よ。出会った男の子はね」
「男の子は?」
「何があっても離しちゃ駄目よ」
 身上の筈なのにお婆さんの声がかなり強かったです。
「特にいい子はね」
「いい子いい子っていいますけれど」
「いやあ、褒めてもらって」
 私の横でまた図に乗ってるのを見るととてもなんですけれど。
「有り難うございます」
「こんないい加減なのに」
「いい加減なのは欠点に入らないのよ」
 凄い甘い評価にしか思えないのは私の気のせいでしょうか。
「心根よ、大事なのは」
「心根ですか」
「そうよ。心根」
 この部分を何度も言われました。
「それが大事なのはわかっておいてね」
「わかりました」
 このことは頷くことができました。
「それはよく」
「ところでお見舞いに来てくれたのよね」
「ええ、そうです」
 何かやっと話が動いたって感じです。これまでお話していることが阿波野君のことばかりでしたから。最近皆からこの子のことを言われるような。
「ドーナツと」
「果物持って来ました」
「結構なことよね」
 お婆さんは私達の言葉を聞いて目を細めてくれました。
「こうしてお見舞いを貰えるなんて」
「お父さんとお母さんからです」
「会長さん御夫婦からね」
「はい。それで詰所で受け取って」
「有り難いわね。それじゃあ千里ちゃん」
「はい」
「会長さん達に御礼を御願いね」
 優しい微笑みで私に御願いしてくれました。
「有り難うって」
「わかりました」
「それにしても千里ちゃんも」
 今度は私の話になりました。
「奇麗になったわね」
「そ、そうですか?」
「昔から凄く可愛かったけれど」
「そんなのないですよ」
 自分でそれは全力で否定します。
「ブスって言われたことだってありますし」
「それは全然違いますよ」
 何故かこのタイミングでも阿波野君が出て来ます。どうしてでしょうか。
「先輩がブスなら世の中の何処に美人がいるんです」
「何で君が言うのよ」
「まあそれはいいじゃないですか」
「いや、だから私が美人でもブスでも君にはあまり」
「性格が出るのよね」
 お婆さんがまた言いました。
「顔はね。出るのよ」
「出るんですか」
「そうよ。ほら、あの番長ぶってるプロ野球選手とか新聞社の会長とか」
「ああ、あの人達ですね」
 自分で顔を顰めさせるのがわかりました。私もあの人達についてはよく思っていないです。はっきり言って子供の教育に悪い人達だと思います。
「生き方が顔に出てるじゃない」
「そうですね、あの人達は」
「ほこりが積もりに積もってる証拠よ」
 心の悪いものを奇麗にせずにいるとどうなるか。まさにそれの生き証人というわけです。どうしてあんな選手を皆で持ち上げるのか全然わからないです。
「ああはなっては駄目よ」
「はい、私もそう思います」
「僕もあいつ等大嫌いですしね」
 阿波野君もあの人達は嫌いみたいです。意外と見るべきところもあるのかしら、と横から聞いて思ったりもします。少なくともあそこまでは酷くないようです。
「ああはなるまい、って」
「そうそう。わかってるじゃないこの子」
「調子がいいだけですよ」
「また先輩そんなこと言って」
 全然懲りてはいない顔と声でした。 
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