世界をめぐる、銀白の翼
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第一章 WORLD LINK ~Grand Prologue~
うたわれるもの ~姉妹との出会い~
夜
蒔風はある村に着いた。
周囲を見渡すが、明かりになるものはまったくといっていいほどない。
せいぜいが、民家から漏れる光だ。
さらに言うなら、まったく近代的ではない。
この村の家は木組みの物だったし、そこから漏れる光はどう見ても火によるものだ。
原始的、というほど何もないわけではないが、近代的というには到底及ばない生活水準。
とはいえ、のんびりとしたいい雰囲気を感じる村だ。
「なんだここ。服装もシンプルだし」
蒔風がこの世界での服装。
それは民族衣装のようなものだった。
ますます以って、疑問ばかりだ。
「オレはどこに行けばいいのかなぁー?」
ともあれ、このままでは立ちぼうけだ。
キョロキョロしながらその場で周囲を見渡し、スキップ気味に歩きはじめる。
すると、空にキラリとなにが光った。
蒔風はそれに気付かない。
そして落ちてきたそれが・・・・・タライが蒔風の脳天に直撃した。
ゴガン!
「ナッ、パァ!?おおお・・・・」
ドタッ
そして、その一撃で蒔風は意識を失った。
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次の日、オレが目覚めると真っ先に確認出来たモノが二つあった。
どこかの民家だろうか、その天井と
小さな女の子の興味津々な光る瞳だった。
「おぉわぁ!」
「・・・・!!」
思わず悲鳴を上げる蒔風。
眼の前の少女は、それに驚いて逃げるようにその場を去ってしまった。
とはいえ気になるのか、柱に隠れてこちらの様子をうかがっているが。
「・・・・はっ、驚かせてごめんなさい!?ここはどこ?私は蒔風ー!?」
「あ、目が覚めましたか?」
驚かせ、そして自分自身も驚いていてテンパってると、別の少女が現れた。
顔つきが似ている。おそらく、さっきの子の姉らしい。
「マイカゼさんっていうんですか?私はエルルゥといいます」
ぺこりと頭を下げてきた彼女に、蒔風も頭を下げて応えた。
「ああ、どうも。えっと、オレはどうしてここに?」
「うちの前に倒れてたんです。びっくりしましたよ。朝外に出たら人が倒れていたんですから。多分、あれが頭にぶつかったんだと思います。でもどこから・・・・」
エルルゥが指差した先に蒔風の意識を奪ったタライが置いてあった。
底の方に「Present for You」と書いてあった。
世界がこの状況を作るためのお膳立てをしてくれたってことか。
サンキュー
そしてガッデム。
「そういえばマイカゼさんってここじゃ見かけない感じの人ですよね?尻尾もないし・・・」
「尻尾?」
「ええ、尻尾」
ヒョイ、と身体を反らして彼女の背中に視線を向ける。
するとそこには、ゆっくりと左右に揺れる犬のようなシッポが。
どうやらこの世界の人間には動物のような耳、尻尾などが付いているらしい。
「そういえばさっきの子は?驚かせてしまったようだけど」
「あの子は私の妹でアルルゥといいます。人見知りが激しくて。アルルゥーー!!お客さんに挨拶しなさーい!!」
「別にいいですよ」
「でも・・・あ、アルルゥ」
そう話しているとアルルゥがこっちに近づいてきた。
おっかなびっくりだが、興味は持ってくれているらしい。
「はは、こんにちは、アルルゥ。俺は蒔風ってんだ。よろしく」
「・・・・ん、アルルゥ、です」
「はい、どうも、アルルゥ。んで、エルルゥさん。なんでまたわざわざオレを拾ってくれたんで?」
「私、薬師なんです。だから倒れてる人を見ると助けなきゃって・・・」
「なるほど・・・・んっ」
その時、蒔風に情報が流れ込んできた。
どうやらこのエルルゥ、アルルゥ姉妹は、最主要人物に一番近しい主要人物のようだ。
最主要人物の名はハクオロ。しかし名前だけでそれ以外の情報は入ってこなかった。
「えっと・・・・いきなりですみませんが、エルルゥさん」
オレは姿勢を正してエルルゥに訊く。
「ハクオロ、という人物に心当たりはありませんか?」
「ッ?」
「おとーさん?」
「そ、その人は・・・・」
「知ってるんですか?」
「え、ええ。知ってます。しかし、今はいません・・・」
「なぜですか?その人って何をしてる人なんですか?」
「ハクオロさんは・・・・この国の・・・トゥスクルの皇(オゥルォ)でした。」
「おぅるぉ?王様ってことか。しかし"だった"とは?」
「その後いろいろあって、ハクオロさんはいなくなってしまったんです」
「なるほど・・・しかし、その皇と親しいあなたがなぜ小さな村の薬師を?」
「私はハクオロさんの近くにいたかった。家族でしたから。だから、私は待ってるんです。この、私の居る場所で、ハクオロさんを」
「そう・・・ですか・・・」
「だいじょーぶ。おとーさん。帰ってくる」
「え?」
「と、言うと?」
「森が、言ってる・・・・」
「森が?」
「この子は『森の母(ヤーナマゥナ)』で、動物の意志とかを聞きとることができるんですよ。でも・・・アルルゥ、どういうこと?」
「わかんない。きゃっほーう」
そう言ってアルルゥがオレの手を引いてきた。
外に連れ出されると、昨日は闇夜で見えなかったが、今見ると、壮大で、美しい、大自然がそこにあった。
アルルゥがオレの裾を引いて何かを差し出してくる。
「これ、ハチミツ」
どうやらアルルゥの好物のようだ。
「ん、ありがとう」
ハチの巣ごと食べるのには驚いたが、どうやらこれが普通らしい。
普通に食べるより甘かった。
そうしてアルルゥと一緒に遊んでいると、一頭のウマがやってきた。
ウマといっても「馬」ではなく、ウォプタルと呼ばれる二足歩行のトガゲのような動物だ。
よかった、こういう情報が瞬時に流れ込んでくるといちいち驚かなくて済む。
どうやらそのウマに乗っているのは大柄な男のようだ。
いかにも武人、といったような男で、エルルゥに用があるらしい。
「姐さん!!いますかい!?姐さん!!!」
「な、なんですか?クロウさん。そんなに慌てて!!」
「姐さん!!!聞いてくれ、そ、総大将が、総大将が復活できるってよ!!」
「え?ハ、ハクオロさんが・・・・?」
「そうだ!今みんな皇都にいる!!姐さんたちが最後だ!」
「それは・・本当なんですか!?」
「ああ、一昨日来たへんな男が、この國の失われし皇を害なく復活させようって来たんだ!!そいつ、俺たちの知らないような術を使うから、絶対だってよ!!」
「そんな・・・ハクオロさん・・・」
「どーしたの?」
「おお!!小さな姐さん!!聞いてくれよ!!実は・・・・・あんた誰だ?」
「失礼、オレは蒔風というものなんだが、その変な奴っての風貌を教えてくれ」
「あん?ああ、また姐さんに助けられた人か?すまねえが、後にしてくれな・・・・」
「そいつが実はお前らをだましているとしたら?オレの知ってるそういう奴だとしたら?どうする?」
「・・・・・あんたいったい・・・」
「俺もハクオロという人に会ってみたい。しかしその怪しげな人物も気になるんだ。教えてくれ」
「クロウさん、教えてあげてください」
「姐さん?」
「この人、何だか、普通じゃない気がするんです。でも、信頼もできる。そんな感じが、するんです」
「それは・・・」
「マイカゼ、悪い人じゃない」
「小さな姐さんまで・・・分かりやした、お教えしやしょう。そいつは・・・」
「全身が影で覆われたようなやつでしたよ」
to be continued
後書き
・皇
この世界には大小いくつかの国がある。
その統治者、即ち王のことを、この世界では皇(オゥルォ)と呼ぶ。
・森の母
ヤーナマゥナ
言わば巫女のような存在で、森の意志や動物の心と通わせる事が出来る少女。
彼女がある種の人見知りだったり繊細だったりするのは、これも原因の一つである。
・ウマ
ウォプタル
この世界には、独特の言葉の響きがあるようだ。
この世界での馬と言えば、我々の知るものとは別の生物である。
大きさは馬と変わらないが、見た目は恐竜のそれとおなじ。機動力は馬以上である。
アリス
「次回、「奴」は一体何をたくらむ!?」
ではまた次回
オボロ防壁!!
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