若返り
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4部分:第四章
第四章
「なっ、こいつ等」
「強いよ、何だよ」
「そっちの女もよ」
「御前等とは鍛え方が違うのじゃ」
「二度の戦争を生きた世代を甘く見ないことです」
「戦争?ベトナムか?」
「それとも湾岸か?」
「いや、イラクだろ」
彼等にとっては戦争はその位のものだった。あの第二次世界大戦も遥かな過去となってしまっている。歴史のものになっているのである。
「その時代だろ?」
「俺達と同年代じゃないか」
「だよな」
倒れ伏しながらあれこれと話す彼等だった。だがここで二人は言うのだった。
「第一次世界大戦じゃよ」
「そして第二次世界大戦です」
「っておい」
「じゃああんた達百歳か?」
「そうだよな」
そんな話もするのだった。そうしてである。
「そこまで生きてるのって」
「幾ら何でもふっかけ過ぎだろ」
「そうだよな」
「ふっかけてはおらん」
「それはありません」
しかし二人はそうではないという。だがそれは二人にしかわからない話だ。だが二人がわかっていればそれで充分なことであった。
「とにかくじゃ。ゴミをなおせ」
「そして真面目になるのです」
こう言うのであった。そうして彼等を更正させた。
二人の活躍はさらに続いた。ある時はいじめっ子を成敗した。
「いじめなぞ弱い者のすることじゃ」
「本当に強い人間になりなさい」
そのいじめっ子を叩きのめしての言葉であった。そして暇があれば街を掃除し悪人達と成敗していった。やがてそうした若い人間がさらに増えていった。
そしてである。世の中は次第に奇麗になってきた。悪人は減り街も公園も奇麗になってきた。日本は少しずつだがよくなってきていた。
それをお爺さんとお婆さんも見ていた。そのうえで話すのだった。
「いや、これはまた」
「そうですよね。日本が」
「よくなってきておる」
「私達だけじゃないんですね」
こう話をする。話す場所は二人の家であった。そこの縁側でお茶を飲みながらだ。そのうえで話をしているのである。
「世を正そうとしているのは」
「そうじゃな。まさか」
「左様」
ここで出て来たのはあの不動明王だった。相変わらず紅蓮の炎を背負い憤怒の顔をしている。外見はかなり恐ろしげなままである。
「その通りだ」
「その通りといいますと」
「まさか。私達の他にも」
「そうした夫婦がいた。皆若返えさせられたのだ」
「そうだったのですか」
「やっぱり」
「今日本は乱れておる」
明王もまたそれを憂いているのだった。
「だからこそ。そなた達の様な者達をじゃ」
「若返えさせてですか」
「そして世の中を」
「世の為人の為」
明王の言葉が強いものになった。
「その為によ」
「そして日本をですね」
「よりよく」
「今の日本は忘れてしまったものが多い」
言葉に嘆きが入っていた。明王はこのことも嘆いているのだ。
「しかし。それをだ」
「覚えているわし等がですか」
「そうしてなのですね」
「左様。これからも頼むぞ」
あらためて彼等に告げた。
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