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生まれてそして死ぬ君へ

作者:相生
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第一話 生まれてそして死ぬ君へ


人は死ぬ。人に限らず、全ての生き物に平等に“死”は訪れる。
死なないのは一部の人外、人曰く神や異形の者達だけだ。
俺はそのどちらに入るのか。非常に神に近い存在でありながら、異形の者の如く人に畏れられる。人は皆、俺を“死神”と呼ぶ。
俺の仕事は担当する人の魂を守り、無事にあの世まで運び届ける事。別に死神が人を殺す訳ではない。人は、その個人の因縁や起きた事象、もしくは寿命によって死ぬだけだ。
俺達はただその瞬間に立ち会い、肉体と魂を切り離して運ぶ。ただ、それだけだ。
「何でそんな悲しそうな面してんですかィ土方さん。マヌケですぜ」
からかうような、しかし何処か心配するような声が掛かる。
俯いていた顔を上げると、しゃがみ込んだ俺を上から覗き込むいつもと変わらないポーカーフェイスが其処にあった。
沖田総悟。俺が担当する魂を持つ男だ。基本的に人は俺達の姿を見る事ができないが、総悟には何故か俺達の姿が見える。
「何でお前には見えるんだろうな」

見えなければ、触れられなければ、こんなにもお前に惹かれる事もなかっただろうに。

俺は死なないのにお前は何度だって死んで、俺の事を忘れてしまう。それが、何よりも辛い。

幸いにも何度生まれ変わっても毎回好きだと言ってくれるが、いつまで続くだろうか。人の心というの非常には移ろいやすい。
「そりゃあ、アンタがいるからじゃねーんですかィ? アンタを見つけるためでさァ」
「ふざけてんのか」
「俺は至って真面目に言ってんですが」
総悟は俺の目の前にしゃがんで無遠慮に顔を近付けてくる。反射的に目を閉じると唇に柔らかい感触が触れてすぐに離れた。少し物足りないと感じてしまうのは此奴にそう慣らされたからか。
「土方さんからチューをおねだりするたァ珍しい事もあるもんで」
「俺はおねだりなんざしてねェ」
「アンタ目ェ閉じたでしょう」
「……キスされると思ったから」
反射だ、と言い終わるよりも早く再び唇が塞がれる。今度は軽く吸い付いてチュッと可愛らしいリップ音が鳴った。
「本当、可愛いお人でさァ」
そう呟く総悟の空色の瞳は酷く愛おしげに細められていて、思わずドキッとして顔が熱くなる。俺は総悟のこういう表情にとても弱かった。
「アンタが死神だって知ってますよ。それでも好きなんです、自分は死なねェのに俺は死んでアンタを忘れる事を悲しんでる、そんなアンタが好きなんです」
別に悲しむ事じゃねーと思いますが、と最後に付け加えて総悟は微笑む。
細められたままの空色の瞳が俺を映す。この瞳に映っている間だけは自分を好きでいられる。総悟が俺だけを見てくれているから。

「……総悟、好きだ」

想いを告げて今度は俺の方からキスを贈る。総悟は驚いた表情を浮かべたがすぐに黙って目を閉じた。
総悟は知らないが、俺がこうして素直になる時は総悟の死が近い時だ。暫く会えなくなるのが悲しくて、また忘れられるのが辛くて、覚えていて欲しくて、総悟の魂にまるで自分を刻み込むように深く深く口付ける。
「んっ……ふ、ぁ……んん、は……」
大丈夫、また会えるからとでも言うように優しい動作で抱き締められて背中をさすられる。堪らなくなった俺は総悟の背中に腕を回して抱き締め返した。その間も、お互いの舌を絡め合うのはやめない。
飲み込みきれなかった唾液が垂れ、俺の喘ぎ声と水音が響く。一分近くが経ってようやく唇が離れた頃には息も絶え絶えで、生理的な涙に濡れた目でぼんやりと総悟の顔を見ると、明らかな情欲を宿して爛々と輝く肉食獣のような瞳と目が合った。
「煽ったアンタが悪いんでさァ」
抵抗する隙を与えずに押し倒され、いとも簡単に組み敷かれる。慌てて部屋のベッドを指差す。
「ま、待て、せめてベッドにしろ! 床は背中痛いんだよ!」
「フ、本当に今日は積極的ですねェ。良いですぜ、ベッドに行きやしょうか」
ふわっと身体が浮いたかと思えば所謂“お姫様抱っこ”の格好で運ばれて、ベッドの中心に丁寧に降ろされる。総悟は上着とTシャツを脱いで適当に床に放ると改めて覆い被さってきた。
細身だが無駄な脂肪がなく筋肉質な上半身が露わになり、気恥ずかしくなって顔を逸らす。

「こっち見て下せぇよ土方さん。今回はこれが最期なんでしょう?」

「……ッ!」
思いもよらない言葉に驚いて顔を上げると、何処か悲しそうな瞳で此方を見つめる総悟とバッチリ目が合った。
何で、どうしてだ総悟。死期を、そしてその合図を言った事なんてなかったのに。
「分かりますよ、アンタの事なら何でも。アンタは隠してるつもりだったんでしょうけど」
話しながらも優しい手付きだが性急に俺の服を上から順に脱がしていく。胸の突起にキスを落とした後、首筋に吸い付いた。
「ぁっ……総悟、ひぁ!」
くっきりと赤い痕が付くほどに吸われてピリピリとした刺激が走る。
「だから……手加減する余裕、ねェかもしれやせん」
首筋から顔を上げると、熱い息を吐きながら耳に唇を寄せて情欲が込もった声音で囁く。その声にますます煽られたが、大事な事を思い出した。
「ぁ……待て、その前に……」
先の行為に及ぼうとする総悟を制し、まっすぐにその瞳を見据える。するとやや不満そうにしながらも早く話すよう目で訴えてきた。
「総悟……死神は、本人に死期を悟られちゃいけねェ決まりがあるんだ。だから……このままだともう、お前の担当じゃいられねェ」
「なっ……そんなもん許す訳ねーだろィ! 今更離れるなんて……‼︎」
「聞け。だから……上に直談判する。変わらずに済むように、だ」
俺が消されるかもしれない、とは敢えて言わなかった。言ったらきっと総悟は怒るから。
「……大丈夫なんで?」
「嗚呼。大丈夫だ」
一つだけ嘘を吐いた。多分きっと見抜かれると分かっていながら。
「……分かりました。ちゃんと帰ってきて下せぇよ」
「嗚呼、約束する」
総悟の蜂蜜色の髪を撫でると、止まっていた行為を再開した。





生まれてそして死ぬ君へ




「やるねぇ多串君。直談判して総一郎君の担当継続させて貰ったんだって?」
視界に銀髪天パの同僚が沸いて出る。
「ゲッ! 何処から沸いて来やがったんだテメー」
「何そのゴキブリでも見つけたような反応。で、結局どうやったの?」
「大して変わらねーだろお前も。別に……そんなに特別な事はしてねェ」
そう、特別な事はしていない。ただ少しコネを使って手を回して貰っただけだ。言い方を変えれば脅したとも言うが。
「……多串君怖い」
「勝手に人の心を読むんじゃねェェェ‼︎」



お前が何度生まれ変わっても、何度死んでも、俺はその傍らにいよう。たとえお前が俺を完全に忘れて、好かれる事がなくなっても。
「それはあり得やせんぜ、土方さん」
「だから人の心を読むなァァァ‼︎」


END.
 
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