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独裁者二匹

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6部分:第六章


第六章

「僕が?」
「そうだ。嫌いか?ワンとカミナリ」
「それはどうなの?」
「嫌いじゃないけれど」
 問われてそのまま頷く彼だった。
「別にさ、それは」
「そうだな。嫌いじゃないな」
「そうよね」
「だって家族じゃない」
 思っていることをそのまま言った形だった。
「家族だし、ワンもカミナリも」
「家族だな、確かに言ったな」
「今確かにね」
「言ったよ、っていうか」
 昌哉も両親の言葉に返す。
「それ以外の何なのさ、二匹は」
「そう、家族なんだよ」
「ワンとカミナリはね」
 両親はここでまた我が子に対して話した。
「だから養子だって言ったな」
「カミナリだけじゃなくてワンもね」
「つまり僕と同じなんだ」
「わし等にとっては子供だ」
「血はつながっていなくても人間じゃなくても可愛い息子達なのよ」
 両親の顔はにこりと笑っている。そうしてその顔で話すのだった。
「それで家族だからな」
「わかったわね」
「そうなんだ。皆家族なんだね」
「それで嫌いな筈がないな」
「好きよね」
「うん、好きだよ」
 またそのまま話した昌哉だった。ストレートにだ。
「ワンもカミナリもね」
「もう一つ言っておくぞ」
「いいかしら」
 ここでまた話す両親だった。
「御前がそうしてワンやカミナリを好きならな」
「二匹共あんたを好きになるわ」
「そうなんだ」
 昌哉は両親の言葉を聞いてまた頷いた。
「僕が好きなら」
「誰でも自分を好きな相手を好きになるからな」
「動物も同じよ」
「犬や猫も。本当かな」
「ほら、今来たぞ」
「そのカミナリがね」
 両親が言うとすぐにであった。そのカミナリが昌哉のところに来た。そして座っている彼の足元に来てだ。その顔を摺り寄せてきたのだった。
「ニャ~~~~~ン」
「あっ、カミナリ」
「ほらな、好いてくれているな」
「わかるわね」
「うん、そうだね」
 一度でなく何度も何度も摺り寄せてくる。そのうえで鳴いてもきている。
 そしてだ。家の外からもだ。
 ワンの声が聞こえる。それは。
「ワン、ワン」
「ワンも呼んでいる」
「あんたをね」
「散歩はもう終わったのに」
 それでもだというのだった。
「それでも呼ぶんだ」
「遊んで欲しいっていうかな」
「あんたの顔を見たいみたいね」
「そうなんだ。じゃあ」
「後で行くといい」
「早くね」
 両親はまた言ってきた。
「御前を好いてくれてるんだからな」
「いいわね」
「わかったよ。それじゃあ」
 昌哉もよくわかった。それならばだった。
 彼は暫くカミナリの相手をしてから庭に出てそのうえで今度はワンの相手をした。そしてこれはこの日だけではなかったのだった。
 それから毎日ワンとカミナリと一緒に遊び楽しみ日々を過ごした。二匹は家族として彼と共にいた。それは彼の少年時代をこのうえなく幸せなものにした。彼にとってはかけがえのない家族であったのだ。


独裁者二匹   完


                 2010・4・9
 
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