剣士さんとドラクエⅧ
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54話 困憊
やめて、か。トドメはさすなってことだよね?暫くは戦えないだろうけど……私の一存で決めていいのかな?ようやく混乱が解けたのか、みんなへたり込んで肩で息してるけど。こっちを見て意見する元気はなさそうだね。
「……まあ、ボクは盗まれた月影のハープを取り返しに来ただけだし……」
「そのハープを盗んでからお頭はおかしくなったんだ!前までそんなことはなかったのに!」
「そうなの?」
「このハープはあげます!だからもうやめてください!」
「いいけど……」
わらわらとやってきたもぐらに囲まれて、必死で頼まれた。……了承するしかないよね。まあ、そもそも私は別にもぐらのボスを殺しに来たわけじゃないし。ハープを渡してくれるならそれでいいかな。別に、恨みはないし。強いて言うなら先制攻撃で平衡感覚を狂わされたぐらい?それもお返しはしたし。
華奢なハープを受け取ると、ぺこりともぐらたちがお辞儀した。そして何匹も寄ってたかってボスを運ぼうと試行錯誤して、胴上げみたいに乗せて連れて行った。
「……えっと、目標達成?」
「……そうだね……、うう、まだなんか頭痛い……記憶とんでるんだけど、僕何かした?」
「斬りかかられたけど受け流したから問題ないよ……けふっ」
安心した所為か、私は鎖帷子を派手に鳴らして座り込んだ。傷のせいで限界っていうか、混乱こそしなかったけど、私だってあの「芸術スペシャル」で耳はぐわんぐわんと耳鳴りが止まらないし、ゼシカの魔法が結構体を蝕んだっていうか……。命の危険、という言葉が頭の中で点滅し始めた。喉も乾いたので無言でアモールの水を飲み下した。
「えっ……、ごめん!」
「混乱状態は本人は制御できないから仕方ないさ」
「……あたしは何したの?」
「イオラが掠ったかな。避けきれなかった。これでボクの朝練メニューに身かわしが加わったから別にそう、悔やまなくてもいいよ」
「すみませんっしたーーっ!」
「……おおう」
相変わらずゼシカの謝罪は男前だね。あ、褒めてるつもり。
男らしくある、というのは現段階では私にとっては褒め言葉だし。今のこの、可愛げも何もない私がお世辞でも見た目麗しいとか言われないようなもんだよね。……でもゼシカにとっては褒め言葉じゃないな。言わないでおこう……。
「参考までに聞くが、俺はなにか口走っていたか?」
「ボクに対してのベホイミはエルトより多いとか、……スカラスカラ言ってたね。発動はしてなかったけど」
「……兄貴、あっしはあの状況で混乱してしまって申し訳ないと思っているでがす……」
「いいのいいの、仕方ないから」
もぐらたちがなにか取り計らってくれたのか、魔物が出ないこの場所で、暫く休んだ。ノンストップに帰れるほど皆、元気はなかった。五人でへたり込んで、深々と溜息をついただけだった。
・・・・
アスカンタに戻ってみれば、まだ話し合いをしていたみたいだ。何のって、誰が、どうやって国宝を取り戻すかをね。まあ、国王交えての場に乗り込んだら水を打ったように静まり返っちゃったんだけど。……なにかおかしなことしたっけ?
「トウカ、顔に血が付いてる」
「……お目汚し失礼しました」
「あと、服が破れてて鎖帷子が……」
「どうしようもないこと言うなよ」
ハンカチで顔を拭ってみれば、なるほど。べったり赤い血が拭えた。そりゃあ静かにもなるよ。しかも、この血返り血もあるけど、殆ど自分のだし。傷の方はアモールの水で完全に治ってるからないんだけど。
「月影のハープは奪還いたしました」
「おお!さすがはトウカさんです!」
「しかし、他の財宝については……『少々』手荒な事態でしたが、月影のハープ以外は見当たりませんでした。宝物庫の奥にある、もぐら型モンスターの住処へ行けばあるはずです。我々はそれに関与は出来ませんし……」
「情報有り難うございます」
「いえ」
失礼します、という意味で優雅に一礼する。思い描くは、贔屓目に見なくても格好いい義父上。束ねた長い茶色の髪を揺らして、気品の漂うような綺麗な所作で、そして顔は引き締めながらもどこか優しいような、それでいてクールな……真似できないね。なんで、本家モノトリアの人たちはあんなにハイスペックなんだろう?分家になった瞬間にグレードが落ちるんだけどね。ほら、血を引いてるだけじゃこの通り出来損ないだし。
くるりと振り返ってエルトたちを見てみれば、なんか……ポカーーンって感じって言えばいいの?エルトとヤンガス、口半開きなんだけど。ゼシカはぽーーとしてるし。ククールは……腐った魚より目が死んでる。この短期間に一体全体何があったっていうんだ?
「あらやだ、兄さんみたい」
「それは、ありがとう」
ゼシカの言葉に返事して、動きの鈍い皆をさっさと玉座の間から押し出して下の階に降りた。しておいてなんだけど、私語は駄目な空間でしょ、あそこ。
「……たまに雲の上に行っちゃうね」
「この素朴系イケメンが!ボクには到底出来ない本物のイケメンがっ!知ってるか?エルトはモテモテなんだぞ!ファンまで居るエルトの方が遠い人だろ!」
「……ねぇ、初耳なんだけど」
「ボクは小さなうわさ話すら網羅していただけさ、何も聞くな」
エルトと茶化しながら、さっさと城から出る。ククールがブツブツ独り言を言っているのは聞かないようにして。君、そんな癖あったんだね。……ちょっと怖いんだけど。言っておくけど、さっきのは絶対ククールがやったほうが絵になったし、黄色い悲鳴が聞こえるからね?
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