剣士さんとドラクエⅧ
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10話 異変
……メイドさんから簡単にお話して頂いた結果、ねずみは見ていないらしい。そうか……でも最近は屋敷でネズミが出ていて大変だとか。お仕事お疲れ様です。
って、よく考えてみたらそのねずみが住んでいる穴にトーポが入っていたら探しようがないんじゃ……いや、考えるのはよそう。
よし、お次は二階だ。あそこに立っている派手な服の男から話を聞こうかな。なんか見覚えがある気がするんだけど、トロデーンの人じゃない、よね?……見覚えがあるってことは彼は貴族だろうか。記憶力には自信がある。知り合いならそれなりに話を持っていけるんだけどな。
・・・・
……精神的に参ったから、落ち着こう。
よし、ここは唐突に自分語りをしてみよう。
まずは下世話な話から。そこにツッコミはなしだ、いいな?最初に、私はいわゆる女の子らしい体型ではない。前世も今世もいっそ哀れになるほどにな。流石に生態的に洗濯板並ではないけどまぁ、例えるならそんな感じだ。
そうでなければ男に混ざって兵士をしていてバレないはずないだろう。ついでに言うと特に胸を押さえつけようとしたことはない。普段から鎧ばっかり着ているからあんまり関係なさそうだが。私服は私服で護身用に鎖帷子着用済みだったしな……。
それから、太っているわけではない、はず。少なくとも二枚の重ね着とチェインメイルを着込んでやっと男のがっしりした体格に見える程度の残念な貧相すぎる体つきだから。筋肉ならかなりあるけど。鎖帷子越しでも掴めば筋肉がついているのは分かるはず。自慢の上腕二頭筋だ。だが、まぁそれ以外は……貧相だよ。体重は筋肉で重くはなったけど……。
なにがいいたいって触りたくような可愛らしいぷにぷにほっぺもない、豊満な体もない、片目なんて視力もない、首には何故か知らんけど人様には見せられないようなでっかい傷跡、身長は割と小柄のエルトより下のチビ、モノトリアの血を引きながら魔法は一切使えない、その上身元が分からない。それからぷにぷにほっぺもない。
え、何でそんなにぷにぷにほっぺを主張しつつ無いものを叫ぶかって?
うん、ほっぺたについては、私が何故か最初にトーポを見つけてね。その可愛らしいほっぺたをぷにぷにしてるんだけどさ。可愛いからしてもいいよね。探すのこれでも面倒だったんだから。モヒカンも撫でくりまわしてやる!手袋外して素手でな!うらうら!
まあこれ半ば八つ当たりなんだけどね……。繰り返すけど、精神的に参っちゃったから。
話しかけた派手男が、私の質問すら無視して……この屋敷のお嬢様であるゼシカさんの許嫁であることをこれ見よがしに自慢し始めて……自分がどれだけ凄い家柄なのか自慢し始めて……私のことをそこら辺の馬の骨のような駆け出しの雑魚の世間知らずな旅人だと盛大に見くびって見下して……ここまでならまだ「はいはい分かりましたーー」で済んだんだけど……。
ゼシカさんがどれだけ素晴らしい人なのかを語るわ、そのゼシカさんがどんな素晴らしいプロモーションのお方なのかを語るわ、二回目だけど自分の生まれついての身分を自慢しまくるわ、聞いてるこっちの社交スマイルが引きつりそうなレベルで怒涛の勢い。要所要所でこっちを貶すのは止めてくれ……。
を、三ループしたので適当に切り上げたってわけだ。もう私のHPはゼロだ……。
「……あんなやつになんで貶されなきゃいけないんだろうか」
「ちっ?」
「ゼシカさんが可哀想でならない……」
ぷにぷにほっぺをひたすら揉んでみると流石に抗議するかのようにトーポが見つめてきたので手を離した。そしてエルトのやっているみたいに肩に乗せてみた。うん、高さが何時もと違うからか動かないね。
「……さて。エルトに会いに行こうか、トーポ」
「……ちゅ!」
小動物って可愛いな。
後々正体を知った暁にはブチ切れたくなるが。可愛いとか言ったのに。
・・・・
・・・
・・
・
「一つ、報告がある」
何だかんだいろいろあって、我ながら端折り過ぎではあると思うけど私たちはリーザスの塔でゼシカさんを探すことになった。
因みにあの後トーポはゼシカさんの手紙を取ってくるという大活躍してくれたり、ポルク君がリーザスの塔の扉をスタイリッシュオープンしてくれたり、カエル型の魔物の気持ち悪さに思わず無表情になったり、いろいろあった。
で。今私たちは勿論リーザスの塔に居るわけ、だけども。私の体調が、塔に入った瞬間に異変が生じた。それはリーダーであるエルトに報告しない訳にはいかない。最初は気のせいだと思うレベルだったんだけど、もはやそういうものではない。
「どうしたの」
「右目が痛い」
「……え」
「見えない癖に、役立った試しがない癖に右目が痛い」
というわけなんだ。しかも歩きながら話している今、進めば進むだけ痛くなっていく。じくじくとした怪我らしい痛みではなく頭や体中に響くような鈍痛だけど。そろそろ剣を持ち上げるのがだるくなってきた。重症だ。
「……どれくらい?」
「一回一回は剣の柄で軽く殴られたぐらい。ただだんだん痛くなってはいるし、留めなく続いている」
「……ホイミ」
こんなこと、前にもなんかあったような。…………。……あぁ、そうだ。前はトロデーンが呪われた時だ。あの時は首の傷跡まで痛かったけどな。今はそれがない。けどあの時は一瞬だった。持続は辛い。
魔物を殲滅するのに今のところ、一応支障はないけど。例え剣が持ちあげられなくたって素手でも、同じ速度でこの程度の魔物は抹殺可能だから。ちなみにせっかくかけてくれたけど、ホイミは一切効いてない。
「……」
「辛くなったら言ってよ?」
「分かったけど、……痛い」
「トウカがそこまで言うなんて珍しいね……」
塔を登れば登るだけ痛くなる。とうとう最上階に着いたとき、痛みは弾けるように増大した。同時に原因も発見する。
「……!」
痛みで涙で潤んだ目に飛び込んできたのは美しき女神像……の目。今世では養子とはいえ貴族、あのサイズの宝石を見慣れたはずの私でも、世にも美しいと思わざるをえない赤色の宝石。それが両目に嵌っている。ふと、少年たちが警戒していた盗賊を思い出す。これを狙っていたんだろうか。
そこからは、魔力が全くないはずの私にさえ何故か分かってしまうほどの濃厚な魔力が発せられていた。そして直感する。この痛みの全ての原因は、あれか。
魔力にあてられているのか。無い故に。今まで魔力にあてられたことなんてなかったのに。むしろ私は周りが呻くほど濃厚な魔力の中でも動じず感じず、だったのに。これも無い故に。
傍目には本当に呑気に考えれてはいるけど、体は限界だ。手からは力が抜け、気力で掴んでいた大剣が滑り落ちる。石畳に激突した大剣からガランと大きな音がする。
操り人形の糸が切れたかのように、へたり込んで膝をつく。強烈な痛みを発す右目を抑える。痛すぎて、声なんてあげられない。
「トウカ?!」
「兄貴!」
音も遠ざかる。何とか聞こえてはいる二人の声すら無視して、あの、燃えるように赤い宝石を睨む。あれが痛みの元なんだ。私から、力を奪ったんだ。唯一、私が誇れるものを。
義母上や義父上に認められ、私が私でいられるものを。私が剣士であるための、力を。私がモノとリアであるために必要なものを。
必死に、這うように、宝石へとにじり寄り、手を伸ばす。その行動は息を呑むほど美しい宝石を砕いてやろうとか、どこか遠くへ捨ててやろうとか、思ったわけではない。だけど何故か手を伸ばす。何故求めたのかは後から考えても分からなかった。
だけど、全てを知った時の私なら思い当たることはある。私は魔力に惹かれたのかもしれない、と。恋焦がれるかのように、幼き日に欲した魔力を。もっともっと認められるように願ったとき、私はいつも「魔力がない」ということに全て、阻まれたのだから。魔法の使えないモノトリアなんて、と。
・・・・
・・・
・・
・
後書き
本編でラグサットさんはここまで横暴じゃなかったのでこの場にて、ラグサットファンのみなさんに謝罪いたします。ごめんなさい。
ここで軽く連呼しているモノトリア家の説明。
最初に古代人の末裔とかいろいろ言っていますが、それは世代が経ちすぎているので「引いていない訳ではない」レベルで本編に関わりはありません。格好いいから書いた、それだけです。
「ほぼ」ではなく全員が魔法の使い手であるというチート設定の大貴族で、結構訳の分からない伝統もいろいろあります。
その伝統に縛られていて、どんなに感情が否定していても「モノトリアの血」がそれを全てはねのけて実行させる恐ろしい家系です。因みに「裏切り」も伝統に反しますが、それは後の世代で書き加えられたものなので、強制力はなく稀にあります。
裏切ったら二度と逆らえない魔法をかけて追放し、好きなことも出来ず、寿命以外で死ぬことも出来ない生き地獄で罪を償えというもの。やりたいことの真逆しか出来ないドM御用達術がかかります。かけられたのは危険少女だけですが。
「モノトリア」の血を引いている養子を迎えた時の名前は「トウカ」というのは初期からの伝統で、逆らいようがなかったもの。結構ココ重要です。つまりトウカ義両親の先祖に何人か「トウカ」はいました。ここはどうでもいいです。
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