遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~
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ターン46 鉄砲水と毒蛇の神域
前書き
不知火の陰者は素直に嬉しいです。アグニマズドⅤも嬉しいです。コーラルドラゴンありがとう。シラユキちょっと欲しかったのに箱買いしても出なかったぞチクショー。
んで、グレイドル新規は?あと私は組んでないですがついでにアロマージと電子光虫は?
前回のあらすじ:清明は夢を見た。アホみたいな話だけど本当にこれだけだから困る。
『……どこへ行く気だ、マスター?』
チャクチャルさんの声が、僕の頭に響く。随分と剣呑な調子だけど、それも無理はない。つい先ほど謎の悪夢を見て飛び起きたせいで、時刻はいまだ午前3時を半分回ったところ……当然、太陽なんぞ欠片すら昇っていない。そんな時間にこっそりと、音をたてないようにいつもの学生服に着替えている僕を見咎めたうえでの発言だ。
「(ちょっとね……わかったわかった、外出たら話すよ。ここで声出したら十代が起きちゃう)」
適当にはぐらかそうとしたら口にこそ出さないもののものすごい不快感が伝わってきたので、慌てて一言追加する。到底納得したようではなかったけれど、少なくともこの場で隣の部屋の十代をたたき起こすような真似はしないだろう。ここで待ってくれるあたり、邪神と呼ばれる割には律儀な神様だ。
「じゃ、行ってきまーす」
部屋を出る前に一度振り返り、誰もいない室内に向かって声をかける。無意味と言われればその通りだけど、こういうのは気分の問題だ。寮を出てしばらく歩いたところで、再び頭の中にチャクチャルさんの声が聞こえてくる。
『それで?』
「それで、って何が?」
『予想はついているが、一応聞かせてもらおう。どこに行き、何をする気だ?』
いつもよりやや低めの声のトーンからは、中途半端なはぐらかしやごまかしは一切聞く耳を持たないぞ、という無言の気迫を感じる。さらにテレパシーで話しかけてくるばかりで一切僕の前にその姿を現さないことで、余計にその迫力が増して聞こえる。無論、そうなることを計算づくの上での行動だろう。こういうちょっとしたテクニックだけで自分の威圧感を増幅させ、話を自分の優位に持っていく……本当に、駆け引きのうまい神様だこった。
とはいえ僕としてもここですっとぼける気はない、それに隠したところですぐにわかることだし。さて、どこからどう話そうか。ゆっくりと歩きながら、慎重に言葉を選ぶ。
「僕ね、さっき、夢を見たんだ」
『夢?』
「そ。心底つまんない夢だったけど、どうしても気になるんだ」
先ほど僕が飛び起きた夢……いつの間にかコブラがデュエルにより十代に倒されたとかいう昨日からの過程を全部すっ飛ばした時間軸で、わけがわからないまま十代と僕がデュエルをする夢。Nの進化体だとかコンタクト融合じゃないネオスの融合体だとか、なんだか色々とよくわからないモンスターばかり出てきた……そして、恐ろしい夢だった。無理に明るく表現するならば、まるで打ち切り漫画の投げっぱなしバッドエンドな最終回のような。それぐらいひどい内容の、だけど妙なリアリティーのある夢だった。
このあたりで何かリアクションしてくるかと思ったけど、チャクチャルさんからの反応はない。最後まで口を挟むつもりはない、ということだろうか。それはそれで気まずいんだけど。
「内容はまあ、事細かに説明する気はないからね。見たければ勝手に見ていいよ」
ダークシグナーとして契約を結んだ僕だからなのか、それとも地縛神としての多々あるチャクチャルさんの能力の1つなのか。詳しくはわからないけど、チャクチャルさんは僕の記憶を覗くことができる。見られて困るような部分は覗いていない……のではなく、単に見て見ぬふりをしてくれてるだけだろう。
だが、少しの間の後チャクチャルさんはそれを断った。
『いや。まずは話を聞かせてくれ、それからだ』
「あらそう。まあとにかく、その夢の内容、っていうかシチュエーションがどうも、ね。こんなこと言ったら笑うかもしれないけど、ちょうど明日……あ、日付変わってんだから今日か。今日の未来予知みたいな夢だったんだよ」
『別におかしくはないさ、マスター。神も精霊もこの世界には実在する、夢が何か意味を持ったところで驚くようなことではない、そうではないか?』
「ふむ。なるほど、たしかにそれもそうか。それで話を戻すけど、その夢によると僕は今日何らかの形でコブラのところに皆より先にいて、その場で気絶してるらしいんだよね」
『それで、マスターはそれを正夢だと思っているのか?』
「……うん。だからあの夢みたいなことにならないために、今からコブラに奇襲をかける」
呆れてものも言えないのか、それとも何か別のことを考えていたのか。僕の告白を聞いてしばらく沈黙を保っていたチャクチャルさんの気配が、ややあってまた戻ってきた。
『なるほど、マスターの見た夢では遊城十代がコブラを倒していた。その結末を歪めるため、自分が先に乗り込むことでコブラを倒そうと思った……それでいいか?』
「さっすがチャクチャルさん、説明が楽で嬉しいよ。で、どう思う?」
『馬鹿馬鹿しい話だ、不確定要素が多すぎる。私なら決してそんな方法は選ばない』
これでも一応足りてない脳みそであれこれ考えた末の結論だというのに、聞き終わってからコンマ1秒すら開けずに硬い声でばっさり切って捨てるチャクチャルさん。うう、当然とはいえちょっとショック。
『……と、言いたいところだが』
「え?」
ここで急にチャクチャルさんの声の調子が変わる。なぜか、いたずらっぽく笑ってみせるあのシャチの顔が容易に連想できた。
『いい加減に私もこのくだらん小細工には腹が立っていたからな。このような鉄の塊ごときでマスターを縛り付ける?私の時代が過去の栄光なことは私としても重々承知しているが、それを含めてもよくもまあここまで地縛神とダークシグナーを虚仮にできるものだ。マスター、力が欲しければいくらでも協力しよう。どうせやるなら徹底的に、派手に行くぞ!』
「お、おーっ……?」
どうしよう、まさかこっちが乗り気になるとは思わなかった。猛反発される覚悟は寮を出た時点でもうできてたけど、この反応は想定外。よっぽど鬱憤溜まってたのかな、チャクチャルさん。そうこうしているうちに問題の場所、旧SAL研究所にたどり着いた。だけど油断はできない、この近くに監視カメラが仕込んであることはアモンとのデュエルで確認済みだ。
「カメラは任せたよ、うさぎちゃん」
気づかれないようそこら辺の茂みの陰に隠れてデッキから幽鬼うさぎのカードを引っ張り出して声をかけると、イラスト部分を通して銀髪少女の精霊が姿を見せる。彼女のスピードと観察眼、かつカメラに写らない精霊の特性をフルに生かせば5分とかからずこのあたり一帯の監視カメラは使い物にならなくなるだろう……ということで早速出撃してもらおうとしたら、そこで心底楽しそうにチャクチャルさんが口を挟んできた。
『その必要はない。足元を見てくれ、マスター』
「へ?……うわっ!?」
言われたとおりに足元を見ると、いつの間にかあたり一帯に紫色の……チャクチャルさんと同じ色をした炎の筋が走っていた。複雑なルートを通りつつ研究所をもすっぽりと覆い尽くすほどの大きさなそれは静かに燃えているものの、至近距離だというのにまるで熱を感じない。
『言っただろう、派手に行くと。そういえば、マスターにはまだ教えていなかったか?細かい使い方は後で教えるが、これは地縛神の力による結界の一種だ。本来は一度張ったが最後、内部でデュエルが終了するまで何人たりとも邪魔をすることができないという代物だが、少し応用すれば違う使い方もできる。これでこの結界がある限り、機械の視線なぞ無いも同然だ。さあ、日が昇る前に決着をつけに行こう』
相変わらず妙なやる気を全開にしているチャクチャルさんに若干調子を狂わせながらも、日が昇る前に終わらせたいのは間違いないので反論せずに進むことにする。
「自動ドアならウィーンって開いてくれるんだけど、まあ」
『霧の王、任せたぞ』
前に立ってもうんともすんとも言わないドアを前に「そううまいこと行くわけないよねー」と続けようとした僕の言葉を遮り、チャクチャルさんからの指令が飛ぶ。耳元で数回ほど空気が唸り、次の瞬間には帯刀した霧の王の背後で分厚い壁が人1人通れるほどのサイズにくりぬかれて内側に倒れた。チラリと見た断面はまるでバターのようになめらかで、手にした剣の切れ味と持ち主の技量が垣間見える仕上がりとなっている。
『さて、道はできた。このまま進むぞマスター』
「あ、はい……」
『何を驚くことがある?私たちはマスターに従う覚悟があるからこそ精霊としてここにいる身、今日はこれまでマスターの意向もあってしぶしぶ大人しくしていた連中が溜まりに溜まった鬱憤を晴らしたくてうずうずしているのだからな、無論私も含めて』
霧の王、お前もか。いくらなんでもこれはやりすぎだと思うんだけど、まったくもう。とはいえもう切っちゃった壁が元に戻るはずもない、悪い気はしないけど、ね。
「まあ、どうせ半分廃墟だし構わない……のかな。んじゃあチャクチャルさん、ここからどうすればいいと思う?」
そう尋ねたのには理由がある、なにせこの建物は無駄に広いのだ。外から見れる部分だけでも地上3階ほどはあるから覚悟はしていたけれど、エレベーターの表示や下りの階段を見る限り地下にもそこそこの規模で広がっているらしい。別に上からしらみつぶしに当たっていってもいいけれど、それは流石に時間がかかりすぎてしまう。
『ふむ……』
『君たち、一体何の用だい?困るなあ、邪魔してもらっちゃ』
「っ!?」
チャクチャルさんが何か言おうとした矢先、第3者の声が辺りに響いた。咄嗟に左右を見回すけれど、声の主の姿は見えない。だけど、どこからか視線を感じる。こちらをじっと見つめている、冷たい目つきが頭の中に浮かんだ。
「誰だ!?」
『ボクかい?名乗るほどの者じゃないさ。ただ、ここから出て行ってもらえないかな?もうすぐ、本当にもうすぐ愛しの人に会えるんだ。普段ならこの場で消えてもらうところだけど、ボクは今彼に会える喜びで機嫌がいいからね。今すぐここから立ち去るなら、特別に見逃してあげるよ』
物腰こそ柔らかいけれど、その声の調子にはぞっとするほど人間味がない。いや、人間味がないというのは少し違うかもしれない。何かこの声には、病的なまでの執念のようなものを感じる。それだけに選択を間違えたときが怖い、下手なことを言うとその時点で詰みかねない。
『……もう散々愛しの彼を待ったからね、あまり辛抱強く待つ気はないんだ。早く答えてくれないかな、今すぐここから出ていくのかどうか』
「え、えっと……」
「その必要はありませんよ。これはこれは、飛んで火にいる夏の虫、だな」
突然目の前にあったエレベーターのドアが開き、またもや廊下に響く声。だけど今度はこの謎の声とは違い、これまでの数日間で何度も聞いた覚えがある声だ。
「プロフェッサー・コブラ……!」
『探す手間が省けたな』
巨体のコブラが放つ威圧感を前に、むしろ楽しそうにすら見えるチャクチャルさん。確かに本気を出せばナスカの地上絵サイズ、そこらのビルより大きなチャクチャルさんにとっては人間基準で巨体のコブラなんぞどうということないのかもしれないけど、精々170センチ強の僕にとっては最初からガタイの差で負けている。そりゃあ喧嘩は馬鹿力だけが要素じゃない、デカけりゃいいってもんじゃないけどさ。
「遊野清明。お前がここへの一番乗りになるとは意外だったが、お前も少しデスデュエルに深入りしすぎたようだな。ついてくるといい、私とデュエルがしたいのだろう?ここだとくだらん邪魔が入る可能性があるからな。それに、近づけば近づくほどより良質なデュエルエナジーを回収することもできる」
『ふぅん……?まあいいさ、コブラ。ボクは彼にさえ会うことができれば他に興味はない、好きにするといいよ』
「………」
『見え透いた罠だな』
全く持って同感だ。だけどそれは裏を返すと話が早い、ということでもある。とんとん拍子に話が進みすぎてどんどん後戻りができなくなってきている現状への不安がちらりと頭の片隅をよぎったけれど、すぐにそんなものは別の感情に塗り潰された。それはやる気……ここまで来た以上どうやったって引くわけにはいかないという思いが、僕にクソ度胸をつけさせたのだ。それに僕が今ここにいること自体がもとはと言えば自分でまいた種、キッチリけりをつけるのが筋というものだろう。
深く息を吸い、チラリと自分が入ってきた壁の穴の方を見る。たった今通ってきたばかりの夜の森の風景が、なんだか妙に遠くに見えた。
コブラの後をついて歩き、しばらく……といっても、せいぜい数分といったところだろう。突然、コブラがある部屋の前で足を止めた。入り口の電子ロックに何事か打ち込むと、ややあってゆっくりとその扉が開く。
「これは……?」
思いのほか広かったその部屋は、中心に何の変哲もないデュエルリングが設置されていた。そしてその周りを囲むように設置された、この手の施設にはお決まりの隣の部屋からデュエルリングの様子を見るための防弾ガラス。 SALも、昔はこのデュエルリングでデュエルをしていたんだろうか。一体どんな気分であの機械を身に着け、デュエルモンキーと化していたんだろう。
「昔ここでやっていた研究の名残だ。まったく、くだらん金の無駄遣いだな?だが、まだこのデュエルリングは生きている。さあ、まだ勇気があるならばかかってこい。私は逃げも隠れもしないぞ?」
デュエルリングの片側に立って分厚い唇をゆがめ、あからさまに挑発してくるコブラ。その態度は非常に気に食わないけど、これ以上デュエリストに言葉は必要ない。もう片方のスペースに上がり、デュエルディスクを構える。これまで倒れた皆のため、そんでもってこのふざけたデスベルトのせいでいい迷惑を受けたこの学校全員のため。さあて、デュエルと洒落込もうか……!
「「デュエル!」」
この後で襲い来る例の喪失感の準備なのか、腕のデスベルトがギラリとオレンジの光を放つ。不穏なその色に照らされながら、先攻となったコブラがカードを引いた。
「私のターン。魔法カード、強欲で謙虚な壺を発動。デッキトップ3枚をめくり、その中で好きなカード1枚を手札に加える。ダメージ・コンデンサー、テラ・フォーミング、リミット・リバース……テラ・フォーミングを手札に加え、そのまま発動。デッキからフィールド魔法、ヴェノム・スワンプを手札に加える。そしてフィールド魔法発動、ヴェノム・スワンプ!」
流れるような動きでデッキを圧縮したかと思うと、得体のしれないフィールド魔法が発動される。殺風景な研究所がみるみるうちに毒沼に覆い尽くされ、半分枯れたようなねじれ曲がった木がニョキニョキと生えてくる。同時にかすかな霧が辺りを覆い、足元がぼやけてしか見えなくなる。
「ヴェノム・コブラを守備表示で召喚。カードを1枚伏せ、これでターンエンドだ」
ヴェノム・コブラ 守2000
「守備力2000か……僕のターン!」
現状の僕の手札では、このターンだけであの壁を突破することはできそうにない。ならここは大人しく守りを固めて、じっくりと腰を据えて戦おう。
「フィッシュボーグ-アーチャーを守備表示で召喚」
フィッシュボーグ-アーチャー 守300
攻守ともに300と低数値ながらも、緩い条件での自己再生能力を持つアーチャー。文字通り縁の下の力持ちともいえるこのモンスターを前に、なぜかコブラがにやりと笑ったのが気にかかった。とはいえ、今更モンスターを変えることはできない。
「これでターンエン……」
「ならばこのエンドフェイズ時、ヴェノム・スワンプの効果発動!互いのターンのエンドフェイズごとに、場のヴェノムモンスター以外の全てのモンスターに毒を植え付け、ヴェノムカウンターを1つ置く」
「!?」
足元から霧にまぎれて小さな蛇が忍び寄る。あっと思った時にはすでにその蛇がアーチャーに飛びかかり、矢を放つひますらなくその動力部に噛みついた。牙から分泌される猛毒が負荷を与え、バチバチと回路がショートを起こす。数秒の沈黙ののち、動かなくなったアーチャーが静かに足元の沼地に沈み込んでいった。
フィッシュボーグ-アーチャー(0)→(1) 攻300→0
「ヴェノムカウンターは1つにつき500ポイントモンスターの攻撃力をダウンさせ、この効果により攻撃力が0となったモンスターはその瞬間に破壊される」
「そんな、アーチャーが……」
コブラ LP4000 手札:3
モンスター:ヴェノム・コブラ(守)
魔法・罠:1(伏せ)
場:ヴェノム・スワンプ
清明 LP4000 手札:5
モンスター:なし
魔法・罠:なし
「私のターン。ヴェノム・スネークを召喚し、ダイレクトアタック!」
黒地にオレンジの縞が何本か入った大蛇が鎌首をもたげてこちらを威嚇した後、独の沼を保護色にして僕の足元まで忍び寄る。次の瞬間、その鋭い牙が骨まで噛み砕かんとばかりの力で足に食い込んだ。
ヴェノム・スネーク 攻1200→清明(直接攻撃)
清明 LP4000→2800
「くっ……まだまだ!」
「そう簡単にとどめは刺さんよ。どうせ時間はたっぷりある、極限までお前のデュエルエナジーを引き出してやろう。さらにカードを伏せ、ターンエンドだ」
「僕のターン、ドロー!墓地に眠るアーチャーの効果発動、僕の場にモンスターがいない時、手札の水属性1体を捨てることでこのカードは墓地から特殊召喚できる!ドリル・バーニカルを捨てて甦れ、アーチャー!」
フィッシュボーグ-アーチャー 攻300
「さらに自分フィールドの水属性モンスター1体をリリースして、このカードは手札から特殊召喚できる!行くよ、シャークラーケン!」
シャークラーケン 攻2400
今のターンで大体、コブラの使うヴェノムデッキのコンセプトはわかった。要するにステータスの低いヴェノムモンスターをヴェノム・スワンプの効果で相手モンスターから牽制しつつ、弱り切った相手を隙を見て襲う事でこちらのライフをじわじわと削っていく、そんなところだろう。だけどその戦法には弱点がある。ヴェノムカウンターが乗せられるのは互いのターンのエンドフェイズ……つまり、このターン出すモンスターにはなんら制約がかけられない。モンスターは出したターンで例え1ポイントでも戦闘ダメージを与えることに集中すれば、十分スピードでこちらが勝てる!
「バトル、シャークラーケンでヴェノム・スネークに攻撃!」
シャークラーケン 攻2400→ヴェノム・スネーク 攻1200(破壊)
コブラ LP4000→2800
「ふん……この瞬間にリバースカードを2枚発動!永続トラップ、ダメージ=レプトル!」
シャークラーケンの突撃を受け、毒蛇が押しつぶされて爆発する。その残骸が毒沼に降り注ぐと、深さの見当もつかないほど奥深くからゆっくりと気泡が上がってきた。
「ダメージ=レプトルは爬虫類族モンスターによる戦闘ダメージが発動した時に効果を発動し、デッキからその戦闘ダメージ以下の攻撃力を持つモンスター1体を特殊召喚することができる。出でよ、ヴェノム・サーペント!」
やがて水面が揺らぎ、その気泡の主がぽっかりと鋭い捕食者の顔を覗かせる。2つの首を持つ緑色の大蛇、しかもそれが2体だ。
ヴェノム・サーペント 攻1000
ヴェノム・サーペント 攻1000
「まだ僕はこのターンに通常召喚をしていない……モンスターをセットして、ターンエンド」
「忘れたか?だがその前に、毒がこのターンもお前のモンスターを蝕む」
シャークラーケン(0)→(1) 攻2400→1900
毒蛇にまとわりつかれ、シャークラーケンの顔が苦痛に歪む。だけどシャークラーケンの攻撃力は例え弱体化したとしても1900、まだもう1ターンは戦う力が残っているはずだ。
コブラ LP2800 手札:2
モンスター:ヴェノム・コブラ(守)
ヴェノム・サーペント(攻)
ヴェノム・サーペント(攻)
魔法・罠:ダメージ=レプトル
ダメージ=レプトル
場:ヴェノム・スワンプ
清明 LP2800 手札:3
モンスター:シャークラーケン(1・攻)
???(セット)
魔法・罠:なし
「私のターン。まずはこのターン、ヴェノム・サーペントの効果を発動!このカードは1ターンに1度、相手モンスター1体にヴェノムカウンターを置くことができる。私はこの効果を2度使うことで、シャークラーケンに2つのヴェノムカウンターを乗せる!」
「そんな!?」
呆然と見ているうちに、2匹の毒蛇が吐き出した毒の塊がシャークラーケンの体を急激なペースで蝕む。毒を受けた箇所がみるみるうちに変色し、タコ足の何本かが腐って崩れ落ちていった。
シャークラーケン(1)→(3) 攻1900→900
「大方そのモンスターでこのターンだけでも凌ごうと思ったのだろうが、目論見が外れたようだな。バトルだ、ヴェノム・サーペントでシャークラーケンへ攻撃!」
ヴェノム・サーペント 攻1000→シャークラーケン 攻900(破壊)
清明 LP2800→2700
それは、普段ならなんてことないような単調な一撃。だけど全身を駆け巡る毒にやられてまともに立っていることすらおぼつかない様子のシャークラーケンに、喉元を狙うその攻撃をかわすだけの体力は残っていなかった。
「まだだ。セットモンスターにもう1体のサーペントで攻撃!」
ヴェノム・サーペント 攻1000→??? 守100(破壊)
もう1体の蛇がするりとセットモンスターに忍びより、長い体で締め付けて爆散させる。だけど、こちらとてただやられたわけではない。毒沼の表面に、輝く水晶玉が1つ残った。
「水晶の占い師のリバース効果を発動!このカードがリバースした時にデッキトップ2枚をめくってその中の1枚を選んで手札に。もう1枚をデッキの1番下に戻す!1枚目は超古深海王シーラカンス、2枚目は……よし来た、幽鬼うさぎ!僕は幽鬼うさぎを手札に加えて、シーラカンスをデッキボトムに戻す」
うさぎちゃんこと幽鬼うさぎは、カード効果の発動に反応してそれを破壊する能力を持つ。ヴェノム・スワンプは毎ターンのエンドフェイズにモンスターにヴェノムカウンターを乗せる能力があるから、これ以降その効果を使った瞬間手札から来てこのじめっとした毒沼もボン、だ。もっとも今のフィールドにはコブラのヴェノムモンスターしかいないから、このターンで破壊することはできないわけだけど。
「小賢しい真似を。まあいい、魔法カード発動、マジック・プランター!このカードで場の永続トラップ1枚、ダメージ=レプトルを墓地へ送り、カードを2枚ドローする。ふふふ……魔法カード発動、マジック・ガードナー!このカードは発動時にフィールドの魔法カード1枚を選択してカウンターを1つ置き、そのカードへの破壊を1度だけカウンターを消費することで防ぐ。私はこれでターンエンドだ」
「チッ……僕のターン、ドロー!」
忘れがちだけど、コブラもまたこのデュエルアカデミアに臨時講師として呼ばれるだけの実力を持つデュエリスト。相手に筒抜けの破壊カードなんて安易な手に引っかかってくれるほど、一筋縄では行かないってことか。
「なら作戦変更、正面突破だ。ツーヘッド・シャークを召喚!そしてフィールド魔法はあんただけの特権じゃない、ウォーターワールドを発動!この効果により水属性モンスターは守備力400ポイントと引き換えに、攻撃力を500ポイントアップする!」
ツーヘッド・シャーク 攻1200→1700 守1600→1200
「バトルだ!2回攻撃モンスターのツーヘッド・シャークで、ヴェノム・サーペント2体に攻撃!」
「いいだろう、ダメージ=レプトルは1回目の攻撃では使用しない」
つまり2回目の攻撃の時点では発動する、ということか。含みのある言い方が気になりはしたものの、ここで攻撃を仕掛けなければサーペントの効果で返しのターンでこっちが返り討ちに会ってしまう。嫌でもここは攻め込むしか手がない。双頭の蛇と双頭の鮫がぶつかり合い、やがてその捕食者対決は鮫が制した。
ツーヘッド・シャーク 攻1700→ヴェノム・サーペント 攻1000(破壊)
コブラ LP2800→2100
ツーヘッド・シャーク 攻1700→ヴェノム・サーペント 攻1000(破壊)
コブラ LP2100→1400
「2回目の戦闘ダメージをトリガーに、ダメージ=レプトルの効果を発動。2体目のヴェノム・コブラを守備表示で特殊召喚!」
ヴェノム・コブラ 守2000
「……ターンエンド」
ツーヘッド・シャーク(0)→(1) 攻1700→1200
わかっていたこととはいえ、結局コブラのフィールドにはいまだ2体のモンスターが残っている。駄目だ、どうも今一つ引きがよくない。モンスターだけじゃなくて、魔法か罠をもっと引いておきたいんだけど。こういう技も何もないただ殴り合いだけの展開になると、僕のデッキは苦しい。1度や2度の攻防ではよくても、それが続くにつれ素の攻撃力の低さが響いてくるのだ。
コブラ LP1400 手札:3
モンスター:ヴェノム・コブラ(守)
ヴェノム・コブラ(守)
魔法・罠:ダメージ=レプトル
場:ヴェノム・スワンプ
清明 LP2700 手札:3
モンスター:ツーヘッド・シャーク(1・攻)
魔法・罠:なし
場:ウォーターワールド
「私のターン。ヴェノム・コブラをリリースし、ヴェノム・ボアをアドバンス召喚!」
これまで出てきたヴェノムの名を持つ蛇よりも数段大きな体を持つ蛇が、チロチロと舌を出してこちらを睨む。さすが上級モンスターの貫録、といったところだろうか。
ヴェノム・ボア 攻1600
「ヴェノム・ボアはこのターン自身の攻撃を封じる代わりに、相手モンスターに2つのヴェノムカウンターを乗せることができる」
「くっ……!」
ここで幽鬼うさぎのカードを使うべきだろうか?少しの間迷ったが、結局は見送ることにした。ここでボアを破壊したとしてもうさぎちゃんに発動した効果を無効にする能力まではないから結局カウンターは乗せられるし、だったらもっと有効的なカードが出てくることもあるだろう。
ツーヘッド・シャーク(1)→(3) 攻1200→200
「ヴェノム・コブラを攻撃表示に変更し、バトルだ!ヴェノム・コブラでツーヘッド・シャークに攻撃!」
「え?む、迎え撃って!」
満身創痍の状態になりながらも、最後の力を振り絞ってツーヘッド・シャークが飛びかかってきた大蛇を迎え撃つ。普段からあまり攻撃することがないのか、若干その巨体を持て余し気味な動きのヴェノム・コブラの牙をギリギリのところでかわし、逆にその喉笛を噛みちぎってみせた。
ヴェノム・コブラ 攻100(破壊)→ツーヘッド・シャーク 攻200
コブラ LP1400→1300
「そして爬虫類族の戦闘でダメージを受けたことで、ダメージ=レプトルの効果を発動。デッキより出でよ、毒蛇王ヴェノミノン!」
ぼこぼこ、と辺りの毒沼が一斉に沸き立つ。いや違う、これは全て気泡だ。この沼に潜む無数の蛇どもが、一斉に目覚めて一カ所に集まろうと動いているしるしだ。そしてその進む先には、ひときわ大きな波紋が広がっている。この底なし沼の奥深くから半人半蛇の蛇の王、ヴェノミノンが同朋の死を受けて立ち上がろうとしているのだ。
「ヴェノミノンの攻撃力は、私の墓地の爬虫類族の数の500倍となる。今墓地に存在するのはヴェノム・コブラ2体、ヴェノム・サーペント2体、ヴェノム・スネークの計5体、よって攻撃力は2500!バトルフェイズ中に特殊召喚されたモンスターはバトルを行うことができる、このままヴェノミノンでツーヘッド・シャークに攻撃、ヴェノム・ブロー!」
毒蛇王ヴェノミノン 攻0→2500→ツーヘッド・シャーク 攻100(破壊)
清明 LP2700→300
これは……まずい。ボアの効果をフル活用してコブラの自爆特攻による戦闘ダメージが発生するギリギリのラインまでこちらのモンスターの攻撃力を減らし、最小の犠牲で最上級モンスターをリクルートしたうえで追撃を行う。ボアが効果使用ターンに攻撃できないカードだからよかったようなものの、そうでなかったらこのターンでやられていた。本人の見た目に反してコンセプトこそとことん地味ながらも、その分堅実にいやらしく、そして着実に僕のモンスターとライフは減らされていく。方向性こそまるで違うものの、この戦い方はどこかゴーストリック使いの稲石さんにも似たものを感じる……気がしないでもない。そして、僕の稲石さんに対する戦績はかなり悪い。最初の1回以外に勝ち星がないレベルだ。
「カードをセットし、ターンエンドだ。どうした、もう終わりか?」
「ま、まだまだ……僕のターン!」
今引いたカードを見て、手札にあるカードを見る。さあ考えろ、このカードだけでこのターンを耐え抜き反撃に繋ぐには、一体何が必要になる?下手なモンスターを出したところで、このエンドフェイズに乗るヴェノム・スワンプと次ターンのヴェノム・ボアの効果の重ねがけでまた破壊されてしまう。そしてヴェノミノンの攻撃力は、墓地の爬虫類族1体につき500ポイント。
いや、待てよ。今のフィールドの状況を活用すれば、あるいは……?
「グレイドル・アリゲーターを守備表示!これでターンエンド!」
毒沼の上を蹴りたてて、緑色のワニが立ちふさがる。攻撃力500のアリゲーターでも、ウォーターワールドがあるこの状況なら1ターンだけ耐えることができる。これで、次のコブラのターンが勝負の時だ。
グレイドル・アリゲーター 守1500→1100 攻500→1000
「ヴェノム・スワンプの効果発動!ヴェノミノンはヴェノムの名こそ持たないが、自身の効果によりヴェノム・スワンプの毒を受け付けない」
まだだ。僕のデッキで魔法と罠を破壊するカードは、今は幽鬼うさぎとサイクロン、グレイドル・インパクトと氷帝メビウスしか存在しない。1度までの破壊耐性を得たヴェノム・スワンプに貴重な幽鬼うさぎを無駄打ちするのは、せめてほかの除去手段が確保できるまで避けておきたいところだ。
グレイドル・アリゲーター(0)→(1) 攻1000→500
コブラ LP1400 手札:2
モンスター:毒蛇王ヴェノミノン(攻)
ヴェノム・ボア(攻)
魔法・罠:ダメージ=レプトル
1(伏せ)
場:ヴェノム・スワンプ
清明 LP300 手札:3
モンスター:グレイドル・アリゲーター(1・守)
魔法・罠:なし
場:ウォーターワールド
「私のターン。速攻魔法、手札断札を発動!互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送り、カードを2枚ドローする。この時手札から2体目の毒蛇王ヴェノミノンを墓地へ送ったことで、さらにヴェノミノンの攻撃力が上昇する」
毒蛇王ヴェノミノン 攻2500→3000
ヴェノミノンの攻撃力がさらに上昇し、ついに僕の白夜龍と並ぶほどの数値になった。早く対処しないと、こっちもどんどん手が付けられなくなってしまう。だけど、今はこのターンをしのぐことだけ考えたほうがよさそうだ。このまま今の2枚ドローでいいカードが引けていなければ、あるいは。こんなふうに考える相手依存の時点ですでに相当ピンチではあるけど、そういった部分でのプライドはもう諦めた。終わりよければすべてよし、石に食らいついてでも勝ちに行こう。
「……ヴェノム・ボアの効果発動。グレイドル・アリゲーターにヴェノムカウンターを2つ植え付け、攻撃力が0を下回ったことでスワンプの効果により破壊する」
グレイドル・アリゲーター(1)→(3) 攻500→0
吐き出された毒液が緑の体をみるみるうちに紫色に染め上げ、形を保っていられなくなったアリゲーターの体が崩れる。だがただ崩れて終わりではない、むしろ本番はこれからだ。
「この瞬間、魔法カードの効果で破壊されたアリゲーターの効果発動!相手モンスター1体に寄生し、そのコントロールを得る!さあこっちに来い、ヴェノミノン!」
毒沼の上を、まるで水面に油を引いたかのごとくグレイドルの銀色が流れる。一定のスピードを保つそれがスルスルと大蛇の体にしがみつくと、多少の抵抗の後その蛇がこちらへゆっくりと這いずってきた。その頭だけではなく、両腕の指部分を構成する蛇全ての額にも銀色の紋章が薄く光を放つ。
毒蛇王ヴェノミノン 攻3000→0
「攻撃力が……」
わかってはいた。僕だってそこまで馬鹿じゃない、こうなることはわかっていた。ヴェノミノンの攻撃力はあくまで『自分の』墓地の爬虫類族に依存する。僕の墓地に爬虫類族なんて1体もいないから、当然コントロールが変わればその攻撃力は0になる。だけどそれでも、ここはヴェノミノンのコントロールを奪うしかなかった。ここでボアのコントロールを奪おうものなら、攻撃力3000のヴェノミノンの一撃を受けて確実に負ける羽目になった。少なくともこのターンで効果を使ったボアは攻撃ができないから、このままモンスターさえ出てこなければこのターンは凌ぐことができる。
……それでもその後どうする、という問題はまだ続くけど。ただ今この瞬間の状況では、不本意ではあるけれどこれが最善手だ。そして幸いにも、コブラの手にこれ以上召喚するようなモンスターはいなかったようだ。
「まあよかろう、だがそのヴェノミノンで何ができる?私はこれでターンエンドだ」
『幸いというより、マスターのそれは悪運だな。あまりツキのみに頼り切っていると、後で痛い目にあうぞ?』
「うっさいやい。僕のターン、ドロー!」
チャクチャルさんにはああ言ったけど、実際僕もそう思う。もっと実力で勝てないと、どんどん強くなっていく皆のレベルに追いつくことすらできやしない。もっともっと強くならないと、僕1人だけ置いて行かれちゃう。
そこまで考えたあたりで、突然気づいたことがある。どうして僕が、いくらあの不吉な夢を見たからと言ってそれを誰かに相談するよりもこうして夢で見た未来を変えるためにここに来る道を選んだのか。寮を出た時は僕自身が気づいていなかったけど、もしかしたらこの場でコブラを倒すことで他の皆に、そしてなにより自分自身に証明したかったのかもしれない。僕はまだ皆と一緒に戦える、こうして最前線に立つ実力があるって。
『心の闇がまた広がる……程々にな、マスター。止めろだなんてことは地縛神の私が言えた立場ではないが、その力の乱用は今マスターが手にしているはずの物すらこぼれ落とす危険がある。私もこの5000年で随分と丸くなったものだ、今の私にとってマスターの幸福こそが最大の望みなんだ。そのことだけは、心の隅にでも止めておいてほしい』
諭すような口調のチャクチャルさんの声に、どうにか感情の昂ぶりも収まって落ち着きを取り戻すことができた。そうか、これが僕にとっての心の闇、か。ここ最近の負け戦が、気づかないうちに僕を変化させていたらしい。
「すぅーっ………はぁーっ………よし、もう大丈夫。ありがとうチャクチャルさん、ヴェノミノンを守備表示に変更。さらにカードを1枚セット、モンスターをセットしてターンエンド」
毒蛇王ヴェノミノン 攻0→守0
コブラ LP1400 手札:2
モンスター:ヴェノム・ボア(攻)
魔法・罠:ダメージ=レプトル
1(伏せ)
場:ヴェノム・スワンプ
清明 LP300 手札:2
モンスター:毒蛇王ヴェノミノン(アリゲーター・守)
???(セット)
魔法・罠:グレイドル・アリゲーター(ヴェノミノン)
1(伏せ)
場:ウォーターワールド
「私のターン!ほう……面白いものを見せてやろう。速攻魔法発動、エネミーコントローラー!このカードは2つの効果から1つを選んで発動するが、私が選ぶのは2つ目の効果。ヴェノム・ボアをリリースし、このターンヴェノミノンのコントロールは再び私が得る!」
空中に巨大なゲームコントローラーが出現し、2本のコードがそれぞれヴェノム・ボアとヴェノミノンを繋ぐ。複雑なコマンドが打ち込まれると、まるで子供のおもちゃのようにぎくしゃくとした動きでヴェノミノンがコブラのフィールドに戻っていった。そしてコブラの墓地にはすでに無数の爬虫類族モンスターが存在することで、またヴェノミノンの攻撃力が上昇する。
毒蛇王ヴェノミノン 攻0→3500
「さらに魔法カード、ハーピィの羽根帚を発動!これによりお前のフィールドに存在するすべての魔法及び罠カードは破壊される!」
「え!?……何考えてんのか知らないけど、リバースカードオープン!和睦の使者の効果により、このターン僕は戦闘でモンスターを失わず、さらに戦闘ダメージも0になる!」
ウォーターワールドが、チェーン発動した和睦の使者が、破壊され墓地に送られる。そして、グレイドル・アリゲーターのカードもまたその例外ではない。
「グレイドル・アリゲーターの効果発動。相手に寄生していたこのカードがフィールドを離れた時、その寄生モンスターは破壊される……せっかく取り戻したところ悪いけど、ヴェノミノンはこれで破壊だ!」
ヴェノミノンの体が、毒沼に倒れこむ。そのままピクリとも動かずに、その紫色の水面にゆっくりと呑み込まれて……再び、水面が沸き立ったかのごとく気泡が立ち上った。それも先ほどヴェノミノンが現れたときとは比べ物にならない、まるでヴェノム・スワンプそのものがこれから現れようとしている何者かを全身で歓迎し、歓喜に身を震わせているような異様な蠢きようだ。
そしてその様子を見て、コブラが1人佇んで狂気めいた笑みを浮かべる。
「これでいい……自分フィールド上でヴェノミノンが戦闘以外の方法により破壊された時にこのトラップカード……蛇神降臨を発動することができる。蛇神降臨の効果により私は、デッキからこのカードを特殊召喚!出でよ、毒蛇神ヴェノミナーガ!」
毒の沼地が、そこに巣食う蛇が、共に歓喜の叫びを上げる。いや、違う。これはあの蛇の神が、その体を持ち上げて深い沼の奥底、ヴェノミノンよりはるかに深淵から地上へと降臨した際の音だ。
毒蛇神ヴェノミナーガ 攻0→4000
「ヴェノミナーガの攻撃力は、ヴェノミノンと同じく私の墓地の爬虫類族の500倍。例え戦闘で破壊できずとも、何が隠れているのかは見ておくか。バトルだ、ヴェノミナーガでセットモンスターに攻撃!アブソリュート・ヴェノム!」
毒蛇神ヴェノミナーガ 攻4000→??? 守200
猛毒の奔流を受けて、セットしていたモンスターが表になる。毒の前にふらつくそのモンスターの名は、ハンマー・シャーク……展開に長けた鮫の戦士だ。
「リバースモンスターでも見せてくれるかと思ったのだがな。エンドフェイズにオイスターマイスターにヴェノムカウンターが乗り、これでターンエンドだ。おっと、ヴェノミナーガにカウンターが乗ることを期待しても無駄だぞ?先に1つだけ忠告しておいてやるが、ヴェノミナーガはカード効果の対象にならず、あらゆる効果を受け付けない。精々戦闘破壊できるように祈ることだな」
オイスターマイスター(0)→(1) 攻1600→1100
「僕のターン、ドロー……」
現時点で4000もの打点に加え、完全効果耐性だって?そんな化け物、どう倒せっていうんだ。いや、ここで僕が諦めムードになっていては話にならない。戦闘でしか倒せないのなら、その戦闘で越えてやるまでだ。このデッキが火力で4000を超える方法は数少ない。だけどそれを可能にするカードを、僕は確かに知っている!
「魔法カード、死者蘇生を発動!僕の墓地に眠るモンスター、シャークラーケンを蘇生する!そしてハンマー・シャーク、シャークラーケンの2体をリリースし……アドバンス召喚、これが僕の切り札だ!霧の王!」
毒の沼とそれを覆い尽くす黒い雲に、一筋の光が差し込む。分厚い雲を、不浄の沼地を、全て断ち切って霧の魔法剣士がフィールドに立ち上がった。
霧の王 攻0→4100
「霧の王の攻撃力は、リリースしたモンスターの元々の攻撃力の合計!受け取れ、ミスト・ストラングル!」
蛇の女神がその赤い目を憎しみに燃え上がらせて両腕代わりの大蛇を、髪の代わりに頭から生える山のような量の蛇を振り回す。無限にも思える蛇どもの猛攻をすべて剣で捌き、あるいは受け止め、時には断ち切り、さらには自身の周りに霧を一瞬だけ纏うことで攻撃目標を狂わせたりと、その全てをただの一撃も受けることなく、ついにその本体にたどり着いた霧の太刀が神を切り裂いた。
霧の王 攻4100→毒蛇神ヴェノミナーガ 攻4000(破壊)
コブラ LP1400→1300
「やった!」
「ふふふ……やった、か。果たしてそれはどうかな?」
「え……」
ヴェノミナーガは確かに両断した。そのはずなのに、再び空に雲が戻りつつある。沼地から、いまだ不穏な気配が漂い続けている。霧の王が何かに警戒しているかのように、振りぬいた剣を再び構えなおす。その視線が見据える先の沼が、再び膨れ上がった。まるで、何かが中から出てこようとしているかのように。やがて水面が割れ、そこから出たのは巨大な蛇だ。半神半蛇の究極の蛇の神の赤い瞳が、再びこちらを見据える。
毒蛇神ヴェノミナーガ 攻0→3500
「嘘、い、今確かにヴェノミナーガは……」
「確かにヴェノミナーガは破壊された。だがそれがどうした?ヴェノミナーガは戦闘破壊された時、墓地の爬虫類族1体をゲームから除外することで再び墓地から蘇る。せっかくの攻撃も、徒労に終わったようだな。さあ、次は何をするのかね?」
「ぐっ……ターン、エンド……」
こう言うしかなかった。他に、何もできる事はなかった。全身全霊をかけた今の攻撃に、もうすべてのリソースを使い切った。これ以上何かを仕掛けるほどの余裕は、もうない。今はまだ霧の王の攻撃力が自己再生に力を使ったヴェノミナーガを上回ってはいるけれど、それだって持って次のターンまでだ。
……いや、心折れるにはまだ早い。僕には確かに手札もないけれど、まだ次のターンまで生き残れる可能性がある。そんな可能性があるのなら、次のドローカードを僕が引くまでは決して諦めるものか。このデッキの一番上に眠るカード、これが僕の手に残った正真正銘最後の希望だ。
霧の王(0)→(1) 攻4100→3600
「私のターン。このデュエルも、もう終わりにしよう。出でよ、ヴェノム・スネーク!」
このデュエルの最初の方でも見た、黒地にオレンジの縞模様を持つ蛇。
ヴェノム・スネーク 攻1200
「ヴェノム・スネークは1ターンに1度、自身の攻撃を封じる代わりにモンスター1体にヴェノムカウンターを1つ植え付ける。これで霧の王のヴェノムカウンターは『2つ』だ」
「………ッ!」
鎧を突き破るほどの毒蛇の牙が霧の王の腕を捉え、その腕が変色していく。苦しみながらもその剣は話さなかったが、すでにヴェノミナーガをもう1度切り裂くだけの体力はその体に残っていなかった。
霧の王(1)→(2) 攻3600→3100
「バトルだ。ヴェノミナーガで攻撃、アブソリュート・ヴェノム!」
再び毒蛇の、猛毒の奔流が霧の王を飲み込む。精彩を欠く動きながら懸命に抵抗するも、その数の暴力が1匹、また1匹と抵抗を潜り抜けその体に食らいついていく。その数に比例してその全身が次第に変色していき、それと同時にますます動きも鈍くなり、そして……その動きが、ついに完全に止まる時が来た。
毒蛇神ヴェノミナーガ 攻3500→霧の王 攻3100(破壊)
清明 LP300→0
「ぐ……僕が、負けた……」
「さあて、それではお楽しみの時間だ。命の保証はしないがな」
『マスター!今私が』
『誰だか知らないけどさ、せっかくのデュエルエナジーなんだ。思ったよりボクの復活にはパワーが必要そうだし、邪魔をしないでくれるかい?』
『邪魔を……!するな……!』
『へぇ……!凄い力の精霊だけど……ここは、止めさせない、よ!愛しの彼に……十代に!ボクはまた会うんだ!』
ソリッドビジョンが消える。それと同時に、視界がどんどん狭くなっていく。チャクチャルさんから一瞬だけすごい勢いで供給されていた地縛神のパワーもあの謎の声がまた聞こえた瞬間に何らかの方法で断ち切られ、これまで見たこともないほどの光を放つデスベルトが僕の体力を直接、根こそぎ剥ぎ取りにかかる。
意識が途切れる最後の瞬間まで、あの謎の声が言った最後の言葉……十代の名前が、僕の頭の中でずっとリフレインしていた。
後書き
最近負け試合ばっかり書いてきたせいでちょっと癖になってきた気がする、そうだとするとちょっとよくない兆候だけど。
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