ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~
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第31話子供は時に本質を見抜く
ミラside
2024年11月1日、第1層・《はじまりの街》
これは驚いた。まさかこんなに沢山SAOに囚われている子供達がいたなんて。確か《ナーヴギア》の年齢制限は13歳以上、今あたし達がいるこの《はじまりの街》の教会にいる約30人以上の子供達は明らかにそれより下の年齢の子達だ。シリカちゃんもその年齢制限を守らなかったみたいだけどーーー守らなかった子多すぎ。
「これはすごいな・・・」
「そう、だね・・・」
「ふふっ、毎日こうなんですよ。・・・ユイちゃんの具合、大丈夫ですか?」
「昨晩ゆっくり休ませていただいたおかげで、ユイちゃんも元気になったみたいです。ねぇユイちゃん?」
「うん!」
キリトくんとアスナさんがここの子供達にアングリしている時、この子供達の保護者の女性、サーシャ先生がユイちゃんの具合を心配してきたからあたしが心配ないと伝える。あたしの呼び掛けに笑顔で元気良く返事してくれたユイちゃんーーーどうしよう、超可愛い。あたしお姉ちゃんじゃなくてママでも良かったかも。何でだかキリトくんとアスナさんを足して2で割ったような子だから本当に赤の他人なのか疑問でしかないよ。
「今までにもこんな事が?」
「分からないんです。この子、22層の森の中で迷子になっていて・・・記憶をなくしてるみたいで」
そう、アスナさんやキリトくんは迷子になっていたユイちゃんを保護してーーー今の所養子としてこの子を可愛がっている。昨日、ユイちゃんに謎の現象が起こった。もしかしたらユイちゃんが引き起こしたのかもしれない。
竜兄がユイちゃんが左手でシステムウィンドウを開いた後こう言ってたーーー
ーーーシステムウィンドウを左手で開けるのは、運営の人間だけなんだーーー
仮にユイちゃんが運営に関わっている子だとしたら、もし本当にそうだったらーーーあたし達はその後からユイちゃんをどう見るんだろう。
「何か心当たりはありませんか?」
キリトくんのサーシャ先生に対する問い掛けで目が覚めた。何を考えてたんだろう、あたし。
サーシャ先生によれば、ユイちゃんは《はじまりの街》で暮らしてた子じゃないらしい。ゲーム開始時に子供達のほとんどが心に傷を負い、そんな子達をサーシャ先生は放っておけなくてこの教会で一緒に住んでいるらしい。
「そうですか。ところで・・・ミラ、ライリュウはどうしたんだ?」
「さっきから感じてた違和感それだったんだ・・・」
「おいちゃんいないの?」
「そうでした!《隻竜》・・・ライリュウさんは?」
「あたしも朝から見ていません・・・」
あのアホ兄はほんっとどこに行ったんだか。昨日ここに泊めさせてもらって、ご飯までご馳走になって、そして朝起きたらもぬけの殻なんだから。たまに竜兄が何を考えているのかさっぱり分からない時があるよ、全くーーー
「あっ!みんな、ヒーローが帰ってきたぞ!」
「あっ、帰ってきた」
「おいちゃーん!!」
「ただいま~~~「ただいまじゃないよ」グヘッ!?」
昨日《軍》の連中を無双という名のリンチで追い払って見事に子供達のヒーローになった竜兄が呑気にただいまなんて言ってきたから顔面に平手打ちをかました。
「勝手に出てったのは悪かったって・・・」
ほー、何を怒っているのかは分かってるんだ。では勝手に出てってあたしを怒らせて、どこに行ってたのかな?
「ほら、見てみろよコレ」
「何それ・・・って《軍》のシンボルじゃん!!」
「潰して来たぜ」キラン
「キランじゃないだろ!何したんだよ!?」
「何って、投獄したに決まってるだろ」
「だからどうやって!?」
まさかの《アインクラッド解放軍》の殲滅!?みんな揃って顎が外れてるよ!!子供達だけがすごいキラキラした目で見てるよ!!じゃあ何!?なんか外が騒がしいと思ってたら竜兄が《軍》潰してたの!?あのギルド規模だけなら《血盟騎士団》より大きいのに何でそんな事が出来たの!?いくら竜兄がバケモノだからって無理でしょーーー
「まあ流石に人数が多すぎたから、《オーバーロード》使った」
『え?』
《オーバーロード》ってーーー74層のボス戦で使ったアレだよね?あの後すごい頭痛で気絶してたのにーーー何で今そんなに平気そうなの?
「いやー、毎日家の振り子時計の振り子がゆっくり見えるように慣らしておいて正解だったな」
「なんだそのバカみたいなトレーニング!!」
「バカとはなんだバカとは、大きな力はその分不可がデカイんだよ。少しずつ慣らして実戦に使用するモンなんだよ」
「《オーバーロード》ってそんなに簡単そうなの?それとも簡単そうに見えてすごく大変なの?」
そういえば竜兄、数時間時計とにらめっこしてたけどーーーあれ練習だったんだ。なんか竜兄が段々分からなくなってきた。
「まあそんなことより・・・ホレ、お客だ」
「お客?」
竜兄が右手の親指をクイッと玄関に向け、あたし達はそこに立っていた灰色のポニーテールの女性にようやく気が付いた。
「初めまして、ユリエールです」
「《軍》・・・の方ですよね?」
「全員投獄したんじゃなかったの?」
「誰が全員なんて言った?」
この灰色のポニーテールの女性ーーーユリエールさんは竜兄が投獄した《アインクラッド解放軍》のメンバーだった。何で投獄したはずの《軍》のメンバーがここにいるのか竜兄に聞いたら、確かに全員なんて言っていなかったから言い返せない。なんだろう、すごく悔しい。
「昨日の件で抗議に来たって事ですか?」
「いやいや、とんでもない。その逆です。よくやってくれたとお礼を言いたいくらい・・・」
『?』
「オレ達に頼みたい事があんだとよ」
昨日のカツアゲを邪魔した事を怒って来たんじゃなくてお礼を言いに来たんだ。なんだ、まともな人がいるじゃないーーーそれにしても、頼み事ってなんなの?
******
「元々私達は・・・いえ、管理者シンカーは決して今のような独善的な組織を作ろうとしていた訳ではないんです。ただ、情報や食糧をなるべく多くのプレイヤーで均等に分かち合おうとしただけで・・・」
「だが、《軍》は巨大になりすぎた」
「その成れの果てがアレか」
組織が大きくなれば意見もバラバラになって内部から崩壊する。《アインクラッド解放軍》の創設者、シンカーさんはそんな事になるとは思わなかったんだ。
「はい。内部分裂が続く中、対当してきたのがキバオウという男です」
「ああ、あの関西弁の・・・ムシバオウのおっさんか」
「ライリュウくん、キバオウだよ」
「そういやそんな名前だったっけ?あの歯槽膿漏のおっさん」
「症状が悪化してるよ。完全にわざと間違えてるでしょ」
あたしもあの関西弁の人は嫌いだけどーーー何もそこまでディスらなくてもいいと思う。この前なんかヨルコさんに「歯肉炎のおっさん」って言ってたらしいし、どんだけ嫌いなのあの人の事。
「キバオウ一派は権力を強め、効率の良い狩場の独占をしたり、調子に乗って徴税と表した恐喝紛いの行為すら始めたのです」
「ふざけろあのクソ野郎」
「ライリュウ、ユイもいるの忘れるなよ」
キリトくんが竜兄を叱っているのは視界の隅に置いといてーーー確かに聞いたことがある。《軍》は権力に物を言わせて効率の良い狩場を独占して自分達ばかりレベリングして強くなったり、そして昨日の徴税ーーーみんなキバオウのせいなんだ。そんな人達がいるならみんな《ビーター》なんてどうでもよく感じるよ。キリトくんもそれで孤独な生活してたらしいし、竜兄だって《二代目ビーター》を名乗ってから周りの竜兄を見る目が少し変わってきてたし。まあシリカちゃんやリズさんは変わらなかったけどーーー
「でもゲーム攻略を蔑ろにするキバオウを批判する声が大きくなって、キバオウは配下の中で最もハイレベルのプレイヤー達を最前線に送り出したのです」
「コーバッツさん・・・」
「・・・チッ」
コーバッツさんーーーキバオウの部下だったんだ。確かに74層迷宮区塔の安全エリアでキリトくんからマッピングデータをタダで要求してきたし、言われてみれば納得出来る。25層のボス攻略でキバオウがメンバーを撤退させなかった事や74層のコーバッツさんの事もあって竜兄の《軍》に対する印象は《笑う棺桶》と同じくらい悪い。
ーーーそっか、それで《軍》のメンバーを投獄したんだ。昨日の恐喝で抑えが効かなくなっちゃったんだ。
「最悪の結果にキバオウは強く糾弾され、もう少しで彼を追放出来るところまでいったのですが・・・追い詰められたキバオウは、シンカーを罠にかけるという強行策に出ました。シンカーをダンジョンの奥深くに置き去りにしたんです」
「《転移結晶》は!?」
「まさか手ぶらで!?」
「彼はいい人過ぎたんです。キバオウの丸腰で話し合おうという言葉を信じて・・・3日前の事です」
「あのカス・・・睾丸を一つ踏み潰す」
「やめてやめてやめて」
シンカーさんって人、キバオウに騙されてダンジョンに置き去りにされたんだ。どうしてこんな酷い事が出来るの?
シンカーさんもキバオウがどんな人なのか知らない訳じゃないだろうにーーーあれ?なんだろう、すごい既視感を感じる。
「かなりハイレベルなダンジョンの奥なので身動きが取れないようで、全ては副官である私の責任です。ですが、とても私のレベルでは突破出来ませんし、キバオウが睨みを効かせる中、《軍》の助力は宛に出来ません。協力を得られても、ライリュウさんが《軍》のメンバーほとんどを投獄してしまったので、それも叶いません」
「え?オレのせいなの・・・?」
別にそんなつもりはないと思うけどーーーあたしじゃフォロー出来ないなコレ。ユリエールさんはそんな事ないって言ってくれてるけどーーー
「そんな所に、恐ろしく強い四人組が街に現れたという話を聞き付け、こうしてお願いに来た次第です!」
「それってようするに・・・」
「キリトさん!アスナさん!ライリュウさん!ミラさん!どうか私と一緒に、シンカーを救出に行ってくださいませんか!?」
あたし達にシンカーの救出を手伝って欲しいって依頼しに来た、そういう事だった。話を聞いた以上、力になりたいけどーーー
「わたし達に出来る事なら力を貸して差し上げたいと思います。でも、こちらで貴女のお話の裏付けをしないと・・・」
「無理なお願いだって事は私にも分かっています!でも彼が今どうしているかと思うと、もう、おかしくなりそうで・・・」
ユリエールさんはキバオウとは全然違う、けど《軍》の人間のイメージがすでに嘘つきだらけという印象で定着してしまっている。この話が本当であっても嘘であっても、竜兄が《軍》の人を助けに行くのかな?竜兄はここまで聞いて助けに行かないような冷たい性格はしていない。でもーーー
「大丈夫だよ、ママ」
突然、さっきまで椅子に座ってうたた寝していたユイちゃんが口を開いた。
「その人ウソついてないよ」
「ユ、ユイちゃん、そんな事分かるの?」
「うん、うまく言えないけど・・・わかる!」
ユリエールさんはウソをついていない、ユイちゃんは自分でも上手く言えないけれど、曇りない瞳でユリエールさんの心を見抜く。
「ははっ!疑って後悔するよりは、信じて後悔しようぜ」
「・・・プフッ!それもそうだな。ユイちゃんの意見を尊重しよう。子供ってのは、時に本質を見抜く力を持つ生き物なんだ」
「行こう?なんとかなるさ・・・なっ?」
最初から後ろ向きに考えるより、前向きに考えて信じて後悔する方が気持ちいい、確かにキリトくんの言ってる事は一理ある。キリトくんならともかく、竜兄までユイちゃんの言葉に影響されてる。子供は時に本質を見抜く、確かにまだ幼い、曇りなき瞳を持つ子供だからこそ分かるのかもしれないーーー
「・・・相変わらず呑気な人ね」
「微力ながらお手伝いさせて頂きます」
あたしもアスナさんも、この二人の言葉にはどうしても逆らえないというか、なんというか。協力するしかない!こう思わずにはいられなくなる。ユリエールさんの顔を見たらーーー目には涙が溜まっていた。
「・・・ありがとうございます」
「大事な人を助けたいって気持ち、わたしにもよく分かりますから」
大事な人を助けたいーーー弾くんは助けられなかったけど、大事な人のために何かしたい、その気持ちはーーー痛いほど分かる。
「ちょっとお留守番しててな?」
「いや!ユイも行く!」
「え!?ユイちゃん、今から行く所はすっごく危ない所なんだよ・・・」
「ユイちゃん、私と一緒にお留守番しましょ?」
「いや!」
何故だか分からないけどユイちゃんがパパやママと一緒に行きたいとワガママを言っていた。サーシャ先生とお留守番も嫌だというのなら、やっぱりパパとママと一緒じゃないと寂しいんだね。
「おお、これが反抗期ってやつか・・・」
「どんだけ早い反抗期なんだよ」
「バカ言わないの!」
反抗期じゃないよキリトくん。パパやママと離れたくないだけなんだよ。でも連れて行く訳にも行かないのは確かだしーーー
「ユイちゃん、今から行く所は本当に危な「ユイも行く!」・・・あひゅう」
あたしの言葉の途中で嫌々言われたーーーお姉ちゃん悲しい。あひゅうーーー
「だったらみんなで守りながら進もう」
「仕方ないか・・・」
「あ、あひゅう~・・・」
「いつまで泣いてんだお前。泣き声母さんみてぇだぞ」
うるさい、今は悲しみに浸らせてよーーー
「とにかく出発しよ「ピコン」ん?メッセージ?」
竜兄が出発の合図をしようとしたらいきなりメッセージが送られてきた。竜兄はそのメッセージを開いて読み上げてーーー
「今ァァ!?」
「何!?」
「「今から来い」ってヒースクリフのおっさんが。あの人元ベータテスターよりSAOに詳しいから、ユイちゃんの事相談しようと思って昨日メッセージ送ったんだけど・・・」
「このタイミングで・・・」
これからシンカーさんの救出に行くのに、ここでヒースクリフさんからの呼び出しーーーなんてタイミングの悪い人なの。
「ライリュウ、行ってこい」
「え?」
「攻略組トッププレイヤーが3人いれば、それで充分よ」
「・・・そうだね、お兄ちゃんはお兄ちゃんの仕事に行ってきて」
「みんな・・・ごめん、終わったらすぐに来る」
ヒースクリフさんなら《血盟騎士団》のギルド本部にいるだろうし、転移門潜ればすぐに戻ってこれるだろうし、問題ないね。攻略組トッププレイヤー3人もいればそう簡単に負ける事はないだろうし。
「おいちゃん行っちゃうの?」
「ごめんなユイちゃん、あとでまた会おうな。・・・帰って来たら美味しいケーキ食べに行こうぜ?」
「うん!お約束ね!」
「おう!」
ユイちゃん、本当に竜兄になついてるなぁーーーこんな可愛い約束までして。
この瞬間が、竜兄とユイちゃんのーーー最後の対面になるなんて、思ってもみなかった。この世界はーーー残酷過ぎるよ。
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