| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

異世界にて、地球兵器で戦えり

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四話~ファルマート大陸に遠征せり

帝国植民地の一つである港町エルメス。南西に位置するこの港町は、海の産地としても有名な町でもあると同時に、帝国海軍の重要拠点の一つとして多くの軍艦と武装商船が、近くの軍港に停泊もしている帝国の海軍基地としての役割も担っていた。だが、100隻を超える軍艦と武装商船による威圧的な光景も今では見る影もなくなっていた。

それは、対アカツキ帝国の遠征軍と称してこの港町に停泊していた軍艦、武装商船の八割が壊滅したからである。こんな事態になる前までは港町の住人達も、また何処かに遠征しに行ったんだろうと、さして気にも止めもしなかった。この地を帝国が支配して長い年月が経っている彼らからすれば、既に侵略戦争を常識としている帝国の当たり前すぎる行動も「またか」と、言った感覚でもあるからだ。

だが、そんな強者ともいえる帝国軍が、何の抵抗も出来ずに百隻を超える艦隊の八割が壊滅した事実は衝撃が強かった。現在は海軍再建に向けて、動き出している帝国軍だが、80隻を超える軍艦、武装商船の壊滅した穴埋めは尋常ではない程困難であった。ここで帝国軍は、エルメスで使用されている漁船も一時的に海軍に使用するように命令を出した。この動きにエルメスの漁師たちは反発はしたが、武力を分かりはやすいほどチラつかせた帝国軍の要求を漁師たちは飲むしかなかった。だが、この帝国軍の行動は、自分の首を絞める行為にしかならないのは、この時は誰も知らなかった。


ーーー。

この時、先遣隊として派遣されたアカツキ帝国第二艦隊を筆頭として、強襲上陸艦と輸送船に搭乗している陸軍八千五百の兵士達も同行していた。第二艦隊の編成は巡洋艦八、駆逐艦十六、空母一という編成である。戦艦はなく、空母の数も少ない第二艦隊であるが、帝国艦隊に対しては十分すぎる程の火力を保有している。先ずは、空母から発艦された攻撃隊がエルメスに停泊している軍港に、向けて流星率いる攻撃隊が以前の戦いから回復していない帝国艦隊に向けて爆撃を開始した。第一攻撃隊の攻撃で、エルメスに存在する帝国艦隊は壊滅した。これに浮足だつ帝国軍であるが、立ちなおせる隙も与えず、軍港に艦砲射撃を実行に移して、敵に大打撃を与える。軍港の機能を失った所に、陸軍が強襲上陸を実行に移して、帝国軍は、然したる抵抗もなく撤退していき、逃げ遅れた兵士は降伏を決定する。

そして、港町のエルメスも占領したアカツキ帝国軍は、このエルメスの町の町長と話し合い、アカツキ帝国に占領下に置かれた事を説明するが、住民に対して何の不自由もさせないし、軍に強制徴兵もさせない事を約束した。当初は、同じ帝国という名の国家でもあるアカツキ帝国に怯えていたエルメス住民達であったが、帝国貴族や兵士達と比べれば規律に厳しく、目に見える程の横暴もないので、日が立つにつれて、エルメス住民はアカツキ帝国に対して信用する事になった。

現在は、戦時下でもあるにもかかわらず、平時と同じ不自由もない暮らしも出来ているので、さして不満も起きていなかった。なお、アカツキ帝国はエルメス港町の占領下において、対帝国戦における本格的に備えて、エルメス周辺の基地化に力を入れる。エルメスを占領後は、特に動きを見せないアカツキ帝国に不思議に思った帝国軍であったが、これを好機とみて、エルメスから撤退した兵士とエルメス付近にいる帝国兵士を組み込み、エルメスを奪還すべく二万を超える兵士を差し向けるのだった。

偵察ヘリ及び偵察機より、臨時に建設されたエルメス野戦基地に報告が入る。これを受けて野戦基地は、警戒態勢を取る。

「戦闘用意!戦闘用意!!」

偵察任務についていた兵士達の連絡を受けて、野戦基地に滞在する歩兵科に属する兵士達は68式突撃銃を取り、担当範囲に向けて銃口を向ける。68式突撃銃採用前に使用されていた5・56mmNATO弾は、人間相手ならば特に問題もなかったが、異世界で戦う魔物、所謂モンスターに属されるオークやトロルが相手であると大したダメージが期待できない為に、口径を変更した6・8mmSPC弾を使用する68式突撃銃が急遽正式配備されたのだ。

そして砲兵科に配備されている砲は、史実ならばFH70と名の付く榴弾砲も、アカツキ帝国の命名で、70式榴弾砲として正式配備されている。これも異世界ではハイテク装備がオーバースペックになるので、あえて旧式兵器を再配備している理由の兵器の一つであったが、史実世界でも多くの実戦経験もある、70式榴弾砲の信頼性も高い為に、砲兵はこの兵器を信頼している。

戦車や装甲車といった陸上兵器の主要兵器を扱うと同時に、偵察任務も並行して行う機甲科も、この異世界戦闘に対しての変更を余儀なくされて、あえて退役した旧式兵器である90mm砲を搭載している1式戦車が再配備されている。

そして対空科も、退役してモスボールされていた史実世界ならばL90という名の連装式の対空機関砲が、90式連装対空砲という名で正式配備されている。ジェット機相手ならば対空ミサイルのほうが有効であるが、この世界での航空戦力は、翼龍という存在である。速度も100キロもなく、小銃でも簡単に対象に当てる事が出来るうえに射撃攻撃も、限らてた希少な龍しか持ち合わせていない事も分かっているので、対空ミサイルを使用するにも経済的ではないとう事を理由に、退役していた兵器が再配備されているのも、異世界戦闘対する戦車同様の事情でもある。

「70式榴弾砲の射程距離まで、あと一分」

あと一分ほどで、敵の歩兵が70式榴弾砲の射程距離に来ると言う報告である。先行攻撃が70式榴弾砲の攻撃から始まり、そこからは順序にお互いの兵器の有効射程に入った後に攻撃を仕掛けるという手順だ。

異世界に対する戦闘は、アカツキ帝国は初めてではない。既にアビス大陸に多くの実戦を経験している兵士達によって構成されている。そのため、この戦闘に対する緊張感はあるものの、そこまで興奮するほどでもなかった。砲兵科による攻撃が先制で、そこから本格的な戦闘が始まる。アビス大陸で嫌という程に、味わった戦闘方法でもあるからだ。

「撃ち方はじめぇぇえ!!」

戦闘指揮官の号令と共に、砲兵科の70式榴弾砲が一斉に敵歩兵に対して発射された。その轟音と共に、ファルマート大陸にての戦争が始まったのだった。

ーーー。

そして時は進みアカツキ帝国の話に入る。アカツキ帝国に属する国防省にある作戦会議室にて陸・海・空・特の四軍の高級将校が集まり、そこに健太郎も出席していた。

「報告します。現状のファルマート大陸に先行しました第二艦隊及び陸軍第四師団が、見事に帝国の港町と軍港でもあるエルメスを占領。その後は、野戦基地を構築。基地構築後に何度か、戦闘も繰り広げましたが、これを見事に撃退しています」

「うむ。ここまでは順当だな」

健太郎の呟きに対して四軍の高級将校は頷く。この流れに対しても予想していた通りであったので、然したる驚きもなかった。これもアビス大陸にて経験した戦闘と、その後の占領下に町に対する対応も同じように機能していれば、それほど驚くに値はしなかった。だが、問題はここからだ。

「順当に勝ち進むのは良い事だ。だが、問題は我々が順当に勝ち進み、敵が狂気に走る事だ。」

「焦土作戦の事ですか?」

「そうだ」


アカツキ帝国がアビス大陸にて戦争をしていた時の話だ。現在のように順調に勝ち進み、敵の需要拠点を占領していた時である。敵国が焦土作戦を実行に移して、アカツキ帝国が予定した補給物資の配給レベルを超えて、一時的にせよ混乱が起きた事があった。焦土作戦は確かに、敵軍の動きを鈍らせるので、戦術の一つとしては有効かも知れないが、それゆえに自国民の信頼をどん底に落とすデメリットもあり、万が一にも勝利しても、自国の土地を利用価値が低い物にしてしまう行為であるため、逆に国力を落とす行為にもなりかねないハイリスクな作戦である。


「ですが、逆に焦土作戦を実行に移してくれれば後の占領もやりやすくなるかも知れませんよ。」

「簡単に言うな。焦土作戦で失った町の復興と食糧支援。これを実行に移すだけで、どれだけの金がかかると思っている。我々の戦争目的が、帝国に支配されている他種族の解放が目的だ。敵国の住民を見捨てる行為は、出来ないのが現状なのだぞ」

互いに焦土作戦に対する意見も分かれる。焦土作戦で民衆の関心を失わせて、逆にこれを好機としてアカツキ帝国に引き入れるようにする一派と、焦土作戦で失った民家と食糧の支援に対して莫大な金がかかる事を危惧する一派と分かれて意見が対立していた。しばらく意見を言わせた後に、健太郎が話を終わらせる。

「焦土作戦の危惧も分かる。先ほど話した通りにファルマート大陸の民衆には、余計な負荷をかけてしまうが、それでも我々は止まる事は出来ない。」

この健太郎の重みのある言葉に、全将校が息を飲む。

「例え敵が早くから焦土作戦を実行に移しても、侵攻計画の変更はない。各拠点をこまめに占領していく。そして、最終占領地点はイタリカだ。」

ファルマート大陸の地図に、イタリカの場所を指をさして宣言する。こうして、アカツキ帝国のファルマート大陸の遠征が始まったのであった。



 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧