遊戯王Phantasm M@ster~アイドルと星の姫巫女伝説~
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プロローグ 薫風のアイドルデュエリスト
前書き
初めましての方は初めまして、にじファンやすぴばる小説部、あるいはインターネットのどこかで私の名を目にした事がある方は閲覧頂きありがとうございます。イブニングゼロです。
この作品は遊戯王OCGのちょっと昔のカードが大好きでガチ勢とは程遠い人間が書いた、自分の好きなものをとりあえず詰め込んだだけのような作品ですが、いずれかを知らない方でも楽しめる作品になるように努力します。
すぴばるで執筆した当時はマスタールール2であったためしばらくはマスタールール2で進行します。
また、リミットレギュレーションは執筆当時のものを使用しているので現在の禁止・制限カードが度々使用される場合がありますので予めご了承ください。
それでは、アイドル達がカードと共に紡ぐ物語をお楽しみください。
デュエルモンスターズ。それは3000年前のエジプトで行われていた戦いの儀式を元に作られたとされるカードゲーム。
当初はただの娯楽の一つであったが、いつの日からかあっという間に世界中に広がり、今ではもはやこの世界の一部といっても過言ではなくなっていた。
それは芸能界も例外では無く、そしてこのゲームで人々を魅了する者達を、人は“アイドルデュエリスト”と呼んだ。
これは、その道に人生をかけた者達の摩訶不思議な物語である。
………………………………
ここはとあるオーディション会場。多くのアイドルデュエリスト達が番組出演といったものを勝ち取るために集う場所。
その控室の1つに、彼女は居た。
「………よし、OK!」
丁度自分の大切なデッキの調整を終えた彼女は、これから始まるオーディションに臨もうとする一人のアイドル。
彼女は天海春香。規模は小さくも人気絶頂の事務所、765プロダクションに所属するアイドルの一人。
緑の瞳に頭のリボンが特徴的な彼女は、アイドルである事以外はどこの誰とも変わらない一人の人間の少女であるが、一つだけ他のアイドル達とは違う所があった。
「………大丈夫。毎日みんなと頑張ってるからね!」
他に誰も居ないのを確認してから、何も無い所に話しかける春香。
だが、彼女にはちゃんと見えている。
自分にだけ見える、彼女のパートナーの姿が。
………………………………
「9番、天海春香です!よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく頼む」
そしていよいよオーディション本番。
対戦相手となる審査員はサングラスに帽子をかぶった、男っぽい口調の女性。
一対一で向き合う春香と審査員の左腕には、一台の機械が装着されていた。
「デュエルディスク、セット!」
そして、2つの機械―――D・パッドが起動。小さく折りたたまれたパネルが開き、液晶画面らしき部分も何かを映し出し始める。
「D・ゲイザー、セット!」
続いて二人が取り出したのは、左目だけのゴーグルのような装置。
春香のものはガラス部分が赤色で、審査員のものは淡い桜色。
お互いがそれぞれのD・ゲイザーをかけると同時に、二人の中心の床から広がる緑の波紋。
周りには無数の0と1が浮かんでは消え………
『ARビジョン、リンク完了』
電子の声が、オーディションの始まりを告げた。
「「デュエル!」」
―Haruka Amami LP8000
Idol from 765 production
VS
―Judge LP8000
「先行は私だ。ドロー!」
D・パッドによって自動的に先攻と後攻が決められ、デュエルが始まる。
先攻となった審査員は勢いよくデッキの一番上のカードを引き抜き、1枚の別のカードに持ち変える。その後、それを茶色の模様が描かれた面を上にして横向きでパネルの上に置くと、審査員の前に同じ模様の巨大なカードが現れた。
「私はモンスターを裏側守備表示でセット、ターンを終了する」
審査員 LP8000
手札5枚 デッキ36枚
○モンスター
●裏守備モンスター1体
「私のターン!ドロー!」
続いて、同じようにカードを引いた春香は一瞬迷った後に1枚を選ぶ。
それをパネルの上に、こちらは審査員と違って、絵柄のある方を上向きにして置いた。
「私は《ガスタ・サンボルト》を攻撃表示で召喚!」
ガスタ・サンボルト【ATK1500 ☆4】
やはり同じようにカードが春香の前に現れる。
すると、絵柄の中から黄色の角と紫の目を持つ緑色の狼のような獣が姿を現し、雄叫びを上げる。
いまここに映っているものはいわゆる仮想現実。
D・パッドとD・ゲイザーを通じてカードのデータを立体映像として映し出し、決闘に臨場感を出すという技術である。
「バトル!サンボルトで裏守備モンスターに攻撃!」
春香の指示を受けたサンボルトの瞳に十字のような光が浮かぶと、角に溜まった電撃がまっすぐに撃ち出される。
しかし、ほぼ同時に審査員の前のカードが表を向き、2つの目玉がついた鉄球がそれを弾いた。
電撃は四方へ飛び散り、一部が春香の腕を掠める。
ガスタ・サンボルト ATK1500
ゴロゴル DEF1600
戦闘ダメージ 100
春香 LP8000→7900
「う~ん………結構高かった………」
「ダメージステップ終了時、《ゴロゴル》と戦闘を行ったモンスターは裏側守備表示となる」
説明の後、審査員のモンスター――ゴロゴルは勢いよく転がり、サンボルトを押しつぶす。
ゴロゴルがその場を離れるとそこにはサンボルトの姿はなく、代わりに裏側になったカードがそこにあった。
「カードを1枚伏せて、ターンエンドです」
春香 LP7900
手札4枚 デッキ36枚
○モンスター
●裏守備モンスター1体
○魔法・罠
●セット×1
「私のターン、ドロー!手札より《サムライソード・バロン》を召喚!」
サムライソード・バロン【ATK1600 ☆4】
審査員が呼び出したモンスターは、二振りの刀を背負った緑の服の戦士。
現れて早々に刀を抜き放ち、セット状態のサンボルトのカードに衝撃波をぶつけて無理矢理表に戻す。
「このカードは1ターンに1度、相手の守備表示モンスターを表側攻撃表示にする事ができる。さらに手札からフィールド魔法《ガイアパワー》を発動!」
審査員がまたD・パッドにカードを差し込むと、一瞬にしてオーディション会場は緑が生い茂る森へと姿を変えた。
そして、その中心にそびえ立つ立派な大木から溢れるエネルギーが2体のモンスターを包み、2体の動きが活発になる。
「このフィールド魔法は地属性モンスターの攻撃力を500ポイント上げ、守備力を400ポイントダウンさせる。ゴロゴルを攻撃表示に変更し、バトルフェイズに入る!」
審査員の声に従い、突撃していくサムライソード・バロンの刀が一閃。交差する斬撃の前に緑色の獣は消滅を喫する。
サムライソード・バロン ATK2100
ガスタ・サンボルト ATK1500
戦闘ダメージ 600
春香 LP7900→7300
「なんの………罠カード発動、《ダメージ・コンデンサー》!私が戦闘ダメージを受けた時、手札を1枚捨てて、デッキから受けたダメージの数値以下の攻撃力のモンスターを攻撃表示で特殊召喚します!来て、《ガスタ・ガルド》!」
攻撃が終わった直後に、つい先程までサンボルトが居た場所の後ろのカードが表を向く。
そして春香が発動のコストとして手札のカードを墓地へと送ると、カードの絵柄の機械に電気が溜まり、赤い目と鎧らしきものを身に着けた小さな緑の鳥が飛び出す。
ガスタ・ガルド【ATK500 ☆3】
「ふむ………ならばゴロゴルで攻撃だ!」
だが、球状の体を生かしたゴロゴルの突進の前に簡単に跳ね飛ばされ、登場から20秒もしない内に退場。
同時に飛び散った羽根が光となり、春香のデッキに降り注ぐ。
ゴロゴル ATK1850
ガスタ・ガルド ATK500
戦闘ダメージ 1350
春香 LP7300→5950
「ガスタ・ガルドがフィールドから墓地へ送られた時、デッキからレベル2以下の“ガスタ”と名のついたモンスターを特殊召喚できます!《ガスタ・イグル》を特殊召喚!」
再び春香のデッキから現れる緑の鳥。ガルドより一回り小さく、姿も全く異なっている。
ガスタ・イグル【ATK200 ☆1】
「さらにバトルフェイズの終わりに、戦闘で破壊されたサンボルトの効果を発動!墓地のガスタ1体を除外する事で、デッキから守備力1500以下、風属性のサイキック族モンスターを特殊召喚します!」
宣言と共にD・パッドの墓地が輝き、デッキへと吸い込まれる。
そして、デッキから抜き取った1枚のカードを、春香は楽しそうに微笑みながらパネルに置いた。
「私はサンボルトを除外して………召喚するのはこのカード。来て、《ガスタの疾風 リーズ!》」
突然春香のそばに巻き起こる緑色の竜巻。
そこから姿を現したのは、先程までのモンスターとは全く違う姿。
緑のスカートと胸元を覆う布地、先端だけが夕日のような色に染まった緑のツインテール、そして右手に握る長い杖と左腕に身に着けた長い布。
ゆっくりと戦場に舞い降りたリーズの姿を見つめる春香の表情は、真剣そのもの。
必ず勝つ、その意思が強く感じ取れる。
『ふふっ、もうアタシを呼ぶんだ?なら、負けられないわね!』
その時、映像である筈のリーズが春香に話しかけた。
そう、彼女はデュエルモンスターズの精霊と呼ばれる存在。
世間ではカードをとても大切にしている者の前に現れるという都市伝説として広まっているものである。しかしそれはただの噂ではなく、春香の頼もしいパートナーとして、確かにそこに存在していた。
『さあ、サクッと合格しちゃいましょう!』
ガスタの疾風 リーズ【ATK1900 ☆5】
一方、審査員は今後の展開を考えながら手札を眺める。
2体のモンスターで攻撃したにもかかわらず、ターンの初めには1体のみであった春香のモンスターが2体に増えている。
次のターンの戦略を考えたのちに、カードを手に取る。
「………永続魔法《強欲なカケラ》を発動。これでターンを終了する」
審査員 LP8000
手札3枚 デッキ35枚
○モンスター
●サムライソード・バロン【ATK2300 ☆4】
●ゴロゴル【ATK1850 ☆3】
○魔法・罠
●強欲なカケラ
◇ガイアパワー
「私のターン、ドロー!私はリーズの効果を発動!1ターンに1度、手札を1枚デッキの一番下に戻す事で、私のフィールドのガスタ1体と相手モンスター1体のコントロールを入れ替える!」
春香が効果の発動を宣言すると、リーズは地に杖を突き立て、静かに風を起こす。
やがて風は小規模の竜巻となって春香のガスタ・イグルと審査員のサムライソード・バロンを吹き飛ばし、2体のモンスターは空中に舞い上がった後にそれぞれ相手のフィールドに着地した。
「さらに私はサムライソード・バロンをリリースして、《ガスタの賢者 ウィンダール》をアドバンス召喚!」
春香のフィールドからサムライソード・バロンの姿が光となって消滅し、緑のローブと銀色の槍を携えた男性が颯爽と姿を現す。
ガスタの賢者 ウィンダール【ATK2000 ☆6】
「バトル!ウィンダールでイグルに攻撃!」
ウィンダールは槍を振りかざし、イグルに向かって力いっぱいに振り下ろす。
その攻撃によって破壊されたイグルは光となって春香の元へ舞い戻り、再び春香のデッキを輝かせる。
ガスタの賢者 ウィンダール ATK2000
ガスタ・イグル ATK200
戦闘ダメージ 1800
審査員 LP8000→6200
「そして、戦闘で破壊されたガスタ・イグルの効果を発動!デッキからチューナー以外のガスタ1体を特殊召喚できる。《ガスタの静寂 カーム》を攻撃表示で特殊召喚します!さらに、ウィンダールが戦闘で相手モンスターを破壊して墓地へ送った時、墓地からレベル3以下のガスタ1体を守備表示で特殊召喚できる。2体目のイグルを守備表示で特殊召喚します!」
「《ダメージ・コンデンサー》で墓地へ送ったカードか………」
勢いは止まらず、さらに新たなモンスターを呼び出す春香。
ウィンダールと同じくローブを身に纏い、薄い緑の球の装飾がなされた杖を持つポニーテールの女性が2体目のイグルを肩に乗せて乗せて降り立った。
ガスタの静寂 カーム【ATK1700 ☆4】
「さらに、リーズでゴロゴルに攻撃!ブリーズ・シュート!」
攻撃は止まず、リーズが巻き起こした風がゴロゴルの表面を削り、やがて粉々に砕く。
『どうよ?………って、あらら~!?』
華麗に決まったと思った直後、自らが破壊したゴロゴルの破片に埋もれてしまい、そうはいかなかった。
――つまりはゴロゴルの効果の発動を許したのである。
ガスタの疾風 リーズ ATK1900
ゴロゴル ATK1850
戦闘ダメージ 50
審査員 LP6200→6150
「さらに、カームで審査員さんにダイレクトアタック!」
「その攻撃宣言時、手札から《バトルフェーダー》の効果を発動。相手が直接攻撃を宣言した時、手札からこのカードを特殊召喚しバトルフェイズを終了させる」
続けてカームが審査員に向けて杖を振りかぶるが、攻撃が始まる前に蝙蝠のようなモンスターが現れ、身に着けた振り子と鐘から鳴り響く音が春香のモンスター達を怯ませる。
バトルフェーダー【DEF0 ☆1】
「メインフェイズ2、レベル6のウィンダールに、レベル1のチューナーモンスター、イグルをチューニング!」
高らかに叫ぶと、イグルは一つの緑のリングへと姿を変え、そして、そこに飛び込んだウィンダールもまたその体を6つの光点へと変化させる。
「大いなる風に導かれし心、今、気高く荒々しき力を持って飛翔せよ!」
☆6+☆1=☆7
「シンクロ召喚!舞い上がれ、《ダイガスタ・イグルス》!」
ここで春香が行ったのは、シンクロ召喚。
チューナーと呼ばれるモンスター1体とそれ以外のモンスターをフィールドから墓地に送り、そのレベルの合計と等しいレベルのシンクロモンスターをデッキとは別に用意されたエクストラデッキから呼び出す召喚方法である。
溢れだした光を切り裂いて現れたのは、イグルに似た巨大な鳥に乗ったウィンダール。手綱を引くと同時に深碧の巨鳥の雄叫びが轟く。
ダイガスタ・イグルス【ATK2600 ☆7】
「そして、カームの効果を発動。1ターンに1度、墓地のガスタ2体をデッキに戻す事で、カードを1枚ドローする」
続いて、次ターン以降の戦術を安定させるためにカームの効果の発動を宣言。墓地のイグル2体をデッキに戻し、1枚のカードを新たに引いた。
「私はこのままターンエンドです」
春香 LP5930
手札3枚 デッキ32枚
○モンスター
●ダイガスタ・イグルス【ATK2600 ☆7】
●ガスタの静寂 カーム【ATK1700 ☆4】
●裏守備モンスター1体
「私のターン、ドローフェイズに通常のドローをしたことにより、強欲なカケラに強欲カウンターを1つ置く」
強欲なカケラ【強欲カウンター×0→1】
ドローした瞬間、強欲なカケラのカードのARビジョンの上に緑色の破片が集まり、何かの陶器が半分だけ出来上がる。
それを確認しつつ手札とフィールドを交互に眺め、次に何をすべきか思考を巡らせる。
そして一枚のカードを差し込むと、春香のフィールドのイグルスに闇が集まり始め、春香に向かって襲い掛かった。
「手札から魔法カード《ミスフォーチュン》を発動。このターン私はバトルフェイズを行えないかわりに、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の元々の攻撃力の半分のダメージを与える」
効果ダメージ 1300
春香 LP5950→4650
バトルフェイズを行えなくともそれなりの対応はしてくるだろうと身構える春香。
しかし、結局審査員は他にやる事が無いのか、モンスターとカードをセットするだけで動きを止めた。
「ターンを終了する」
審査員 LP6150
手札0枚 デッキ34枚
モンスターカードゾーン
●バトルフェーダー【DEF0 ☆1】
●裏守備モンスター1体
魔法・罠カードゾーン
●強欲なカケラ【強欲カウンター×1】
●セット×1
◇ガイアパワー
「私のターン、ドロー!手札から《ガスタの神官 ムスト》を召喚!さらに、リーズを反転召喚します」
春香は今がチャンスとばかりに畳み掛けようと、杖とローブを持つ神父のような男性のモンスターを新たに呼び出す。
勇ましく身構えるムストとは対照的に、再び姿を現したリーズは先程の攻撃を華麗に決められなかったせいか、若干膨れっ面である。
ガスタの神官 ムスト【ATK1800 ☆4】
「バトル!カームでバトルフェーダーに攻撃!」
前のターンにはバトルフェーダーの効果に防がれたカームの風。ダメージこそ無いが今度こそしっかりと標的を捉え、守備力0のバトルフェーダーは簡単に撃ち落とされた。
「よし、次はムストでセットモンスターに攻撃!」
今度は先程召喚された神官の出番。何かを唱えた後に放たれるのはやはり風による攻撃であり、それを正面から受けた丸いモンスターが吹き飛ばされる。
「《メタモルポット》のリバース効果発動。互いの手札を全て捨て、カードを5枚ドローする」
言われた通りに残り2枚の手札を墓地に送り、新たに5枚をドローする春香。これに対し、手札0枚の審査員はそのまま5枚ドローする。
「できるだけライフを減らさなくちゃ………リーズとイグルスでダイレクトアタック!」
手札が増えた事による反撃を心配するが、今は攻撃に集中し、2体での更なる攻撃を宣言。
竜巻と巨鳥の羽ばたきの前に、審査員のライフが一気に削られていく。
ガスタの疾風 リーズ ATK1900
ダイガスタ・イグルス ATK2600
戦闘ダメージ 合計4500
審査員 LP6150→1650
このターンで審査員のモンスターを全滅させ、ライフも大幅に減らした。
だが、これは本当の実力が試されるオーディション。このまま勝てるとは限らない。最後の最後に、たった1枚のカードで大逆転を許す事も有り得るのがデュエルというものだ。
「私はカードを3枚伏せて、ターンエンドです」
故に、春香は気を引き締めて次の相手のターンに備える。
春香 LP4650
手札2枚 デッキ26枚
○モンスター
●ダイガスタ・イグルス【ATK2600 ☆7】
●ガスタの疾風 リーズ【ATK1900 ☆5】
●ガスタの静寂 カーム【ATK1700 ☆4】
●ガスタの神官 ムスト【ATK1800 ☆4】
○魔法・罠
●セット×3
「私のターン、これで強欲カウンターは2つだ」
再び緑の破片が集まり、陶器が完成。その正体は、今や禁止カードである『強欲な壺』そのものであった。
強欲なカケラ【強欲カウンター×1→2】
「強欲なカケラの効果発動。カウンターが2つ以上乗ったこのカードを墓地に送る事で、デッキからカードを2枚ドローする」
ゆっくりとした手つきで強欲なカケラのカードを墓地へ送り、2枚のカードを引く審査員。
8枚に膨れ上がった手札で何をするつもりなのかと、緊張が走る………
「魔法カード《ナイト・ショット》を発動。相手フィールドにセットされた魔法・罠カード1枚を破壊する。このカードの発動に対して、相手は対象となったカードを発動する事はできない」
効果の説明が終わった瞬間、突然鳴り響くカメラのシャッターのような音。
カシャッ、カシャッという音が数回鳴った後、1枚のセットカードが粉々に吹き飛ばされた。
「しまった………《リミット・リバース》が………!」
「破壊された時のための保険だったか。まあいい、さらに手札から魔法カード《ライトニング・ボルテックス》を発動!手札を1枚捨てる事で、相手の表側表示モンスターを全て破壊する!」
発動と共に真上に浮かぶ黒い雷雲。その中で小さく光る雷。
やがてそれは無数の落雷となってフィールドに降り注ぎ、爆発音にも近い音を響かせながら地に落ちる。
春香のモンスター達は雷の雨に全身を貫かれ、何もできずに砕け散っていく。
『ちょっと、嘘でしょ!?うわああああああああ!?』
「リーズ………みんな………!」
そして、最後に自分の大切な相棒であるリーズまでもが消え去った今、後には2枚の伏せカードしか残っていなかった。
「さらにいくぞ!手札の《荒野の女戦士》《戦士ダイ・グレファー》《ジュッテ・ナイト》の3枚のモンスターカードを墓地へ送り………来い!」
3枚のカードを墓地へ送り、1枚をパネルに置くと、捨てられた3体のモンスターの情報が電子の光となってその1枚へと集まっていく。
その情報を元に、ある1体のモンスター―――三つ首の青いドラゴンが合成される………
「この《モンタージュ・ドラゴン》は手札のモンスターカード3枚を墓地へ送る事でのみ特殊召喚でき、墓地へ送ったカードのレベルの合計×300ポイントがこのカードの攻撃力となる。レベルの合計は10!」
モンタージュ・ドラゴン【ATK?→3000→3500 ☆8】
「ガイアパワーと合わせて3500………!」
「まだだ。手札から《貪欲な壺》を発動。墓地のモンスター5体をデッキに戻し、デッキからカードを2枚ドローする」
自分のモンスターは全滅し、相手のモンスターの攻撃力は3500。あまりの緊張に、春香はゴクリと喉を鳴らす。
その後、審査員は墓地のサムライソード・バロン、メタモルポットと先程コストにした3体の計5体を選択。デッキに戻した後に2枚を引き、すぐに青い体と両腕の大型の銃を持つモンスターを繰り出した。
「《サーチ・ストライカー》を通常召喚。風属性であるためガイアパワーの効果を受けられないが、これだけ攻撃力があれば十分だ」
サーチ・ストライカー【ATK1600 ☆4】
「バトル!サーチ・ストライカーで攻撃!」
「くっ………罠発動、《ガスタのつむじ風!》私のフィールドにモンスターが居ない時、墓地のガスタ2体をデッキに戻して、デッキから守備力1000以下のガスタを特殊召喚します!」
「読めている。罠発動、《トラップ・スタン》!これでこのカード以外の罠カードの効果をこのターン無効にする」
「なっ!?」
ナイト・ショットでの破壊を免れた2枚のうちの1枚を発動させようとしたが、審査員にはお見通し。
攻撃に耐えきるための命綱であったそれはトラップ・スタンのカードから放たれる電磁波を受けて、力と色を失った。
そして、何も無かったかのように銃撃が当たる。
サーチ・ストライカー ATK1600
戦闘ダメージ 1600
春香 LP4650→3050
「うぐぅ………」
「終わりだ。モンタージュ・ドラゴンで攻撃!パワー・コラージュ!」
まだライフは残っている。しかし、目の前にはその数値を上回る攻撃力のモンタージュ・ドラゴン。
無情にもその三つの首には3色のエネルギーが溜まり、最後の一撃を放とうとしていた。
「まだ………まだ諦めない!速攻魔法《サイクロン》を発動!フィールドの魔法・罠カードを1枚………ガイアパワーを破壊します!」
「だが、攻撃は続行だ!」
直前で発動された1枚のカード。
稲妻のマークが印された緑色のカードから発生した風が木々を吹き飛ばし、大木をへし折り、モンタージュ・ドラゴンに与えられた力が失われていく。
モンタージュ・ドラゴン ATK3000
戦闘ダメージ 3000
春香 LP3050→50
「きゃああああああああああ!」
しかしその光は勢いを弱める事無く春香に直撃し、元に戻った会場に絶叫が響き渡る。
モンスターも魔法・罠もなく、あるのは50という僅かなライフと2枚の手札のみ。
「私はカードをセットしてターンを終了する」
審査員 LP1650
手札0枚 デッキ29枚
○モンスター
●モンタージュ・ドラゴン ATK3000
●サーチ・ストライカー ADK1600
○魔法・罠
●セット×1
「……………私の、ターン」
恐らく、これが最後のターン。ここでこの状況を覆せなければ、敗北は確実。
(絶対に諦めなたくない………お願い、私のデッキ!)
だが、可能性が0%でない限り、絶対に屈しない。
なぜなら、彼女は―――
「――――ドロー!」
天海春香は、一人のアイドルデュエリストだから。
「………………っ」
―――笑った。
「魔法カード《死者蘇生》を発動!この効果で、自分か相手の墓地からモンスター1体を特殊召喚します!戻ってきて、リーズ!」
最後の望みとして自力で引き当てたカードを使い、迷わず自分のパートナーを呼び戻す。
薫風と共に舞い戻ったリーズも、心なしか張り切っているように見える。
『さあ、見せてやろうじゃない!私達のデュエルを!』
「うん!行こう、リーズ!………そして手札から、ガスタ・イグルを召喚!」
三度飛び立つ緑の鳥。
今ここに、勝利への道は揃った―――
「レベル5のリーズに、レベル1のイグルをチューニング!」
その脚で天高く飛び上がったリーズの元へ飛ぶイグルがリングへと変化し、その中でリーズは自らの体を激しく回転させ始める。
「傷だらけの風に導かれし心、砕け得ぬ魂をここに示し、光り輝け!」
☆5+☆1=☆6
「シンクロ召喚!目覚めよ、鋼の意思!《ダイガスタ・スフィアード》!」
回転が止まり、光がおさまった時、リーズは新たな姿となって戦場に降臨する。
白と金色の鎧に身を包み、ツインテールはほどけ、緑色だった瞳は真っ赤に染まっている。
そしてその輝きは、今ここに存在する、何よりも美しかった。
ダイガスタ・スフィアード【ATK2000 ☆6】
「そいつが切り札か………だがここまでだ。罠発動、《奈落の落とし穴》。相手が攻撃力1500以上のモンスターの召喚・特殊召喚に成功した時、それを破壊しゲームから除外する」
「させない!手札から速攻魔法《収縮》を発動!スフィアードの元々の攻撃力を半分にする!」
『おっとっと………サンキュー、春香!』
審査員もここまできて負ける訳にはいかないと言わんばかりに最後の1枚のカードを発動させるが、春香も同じく手札に残った最後の1枚で対抗。攻撃力1500以上という奈落の落とし穴の破壊効果のラインを下回った事で、スフィアードは足元に空いた穴から這い出す怨念をすり抜けた。
ダイガスタ・スフィアード【ATK2000→1000】
「これが私の………いや、私達の最後の攻撃!ダイガスタ・スフィアードで、モンタージュ・ドラゴンを攻撃!」
「モンタージュ・ドラゴンで迎撃する!パワー・コラージュ!」
収縮によって攻撃力が1000に下がったスフィアードと、攻撃力3000のモンタージュ・ドラゴン。これでは普通ならば自滅以外の何でもない。
案の定、モンタージュ・ドラゴンの吐き出す3色の光線の前に、スフィアードは簡単に飲み込まれる………
「………む!?」
目の前の光景を、審査員は信じられないという表情で見ていた。
決着をつけるために吐き出し続けるモンタージュ・ドラゴンの光線を、スフィアードは耐え続けていたのだ。
元々の攻撃力は2000とモンタージュ・ドラゴンには及ばず、収縮でさらに攻撃力が下がっていたにもかかわらず、スフィアードは倒れる気配が無い。
「これが私のパートナーの力。ダイガスタ・スフィアードは戦闘では破壊されず、ガスタと名のついたモンスターのバトルで私が受けるダメージは代わりに相手が受ける!」
「何だと!?」
その力に驚愕する審査員。ふと気が付くと、3色の光線を必死に受け止めていたスフィアードは目を閉じ、静かに風を起こし始めていた。
風はやがて勢いを強め、光線が少しずつ押し戻され始める。
「何度傷ついても、何度破壊されても、私とガスタ達は絶対に倒れない!お願い、スフィアード!」
『ええ、勿論よ!』
春香の声に呼応し、目を開くスフィアード。
「リフレクション・ストーム!」
そして、スフィアードが手足を大きく広げると同時に風は嵐へと変わり、光線を完全に弾き返した。
モンタージュ・ドラゴンこそ無傷であったが、会場を包む嵐と跳ね返された光線が審査員を襲い、この一戦に決着をつけた。
ダイガスタ・スフィアード ATK1000
モンタージュ・ドラゴン ATK3000
戦闘ダメージ 2000(スフィアードの効果適用)
審査員 LP1650→0
Winner 天海春香
「勝利ですよ、勝利!」
笑顔で叫ぶと同時に再び0と1が空間に走り、デュエルの終わりを告げる。
「………いい戦いだったな」
「はい!ありがとうございました!」
サングラスと帽子の下から審査員は微笑み、お互いの健闘を讃え合う固い握手を交わした。
その後も続いたデュエルオーディションは、春香と別事務所のもう一人のアイドルの合格で幕を閉じたのであった………
………………………………
「ただいま~」
「お帰り、春香」
その後、合格を勝ち取り上機嫌で事務所に戻った春香を、同じく765プロ所属の友人である如月千早を初めとした仲間達が温かく出迎える。
「おめでとう、春香ちゃん!」
「うむ、見事な逆転劇だったらしいな」
社長である高木順二郎と事務員の音無小鳥、そして仲間達に賞賛を受ける春香。
因みにこのオーディションの合格により、数日後の番組の出演が決まっている。
「………あれ?」
その時、春香は部屋の隅に見慣れぬ女性が立っているのに気づく。
桜色の髪に凛とした顔つきの彼女は、見た目は冷たい印象を感じさせる。しかし、春香はその目の奥にあるどこか心優しさを感じていた。
「ああ、天海君はまだ知らなかったな。彼女は前の彼がハリウッドに居る間の臨時のプロデューサーを申し出てきたのだ」
「臨時のプロデューサー………ですか?」
「うむ。恐らく天海君は既に会った事があるだろう」
ここに元々居たプロデューサーは数か月前に行われたとあるイベントのの後にハリウッドへ研修に行っており、春香も含めたアイドル達は自分達で活動を続けていた。
そんな中に新しいプロデューサーが来たと聞いて春香は驚く。
「でも、私が会った事がある人?知り合いにこんな女の人って居たかな?」
その発言を聞き、女性はどこからか帽子とサングラスを取り出し、身に着けてみせた。
「………これでも覚えが無いか?」
「へ!?もしかしてあの時の審査員さん!?」
そう、オーディションにて春香のデュエルの相手となったあの審査員の女性だった。
改めて姿を見てみると、左肩に身に着けた赤いマントや左の太腿にベルトで結ばれたポーチらしきものなど、変わった服装である。
そして彼女は再び素顔を見せ、春香に向かって名乗る。
「今日から臨時のプロデューサーをする事となったライトニングだ。よろしく頼む」
「彼女はある事情から、公の場では本名ではなくこの名前を使っている。天海君もそう呼んでやってほしい」
高木の言葉の後、ライトニングは春香と目を合わせる。
「これから長い付き合いになるな」
「は、はい!えっと………」
「ライトで良い」
「はい!よろしくお願いします、ライトさん!」
激戦の後に訪れた出会い。
アイドルデュエリスト達の数奇な日々は、まだ始まったばかりである。
後書き
リーズ
『さて、ここからは今回の最強カード紹介。デュエルがあった回には作者が活躍したカードを1枚ピックアップして後書きで紹介するわ』
春香
「という訳で、今回の最強カードは《ダイガスタ・スフィアード》………ではなく、その変身前の姿、《ガスタの疾風 リーズ》!」
《ガスタの疾風 リーズ》
効果モンスター
☆5 風属性 サイキック族 ATK1900 DEF1400
手札を1枚デッキの一番下に戻し、相手フィールド上に存在するモンスター1体と自分フィールド上に表側表示で存在する「ガスタ」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターのコントロールを入れ替える。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。
この物語の主役にして、精霊と心を通わせるアイドルデュエリスト・天海春香の相棒である精霊。
手札1枚をガスタ限定の《強制転移》に変える効果を持つ。
コントロール転移は勿論、手札をデッキに戻すコストはリクルーターを多く擁する【ガスタ】デッキでは中々有用である。
攻守は低いので下級ガスタを相手に送りつけて破壊し、メインフェイズ2でリクルートしたモンスターとおのシンクロ召喚を狙うのが本来の使い方。
因みに、《強制転移》とは異なりこちらは対象を取る効果なのでリリース・エスケープ等で不発に終わる事があるので注意。
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