戦国異伝
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第二百五十一話 周防の戦その四
「三段ではないか」
「あ奴の得意とするな」
「それではないか」
「この度は」
「そうか、これはだ」
その一段だけの射撃を見てだ、老人は言った。
「すぐに攻めるということだ」
「長篠や他の戦の時と違い」
「攻めて来るからですか」
「それで、ですか」
「鉄砲は騎馬鉄砲とその一段のみ」
「では、ですか」
「そうじゃ、これよりな」
まさにというのだ。
「織田信長は攻めて来る」
「自身の軍勢だけで」
「そうしてきますか」
「焦っておるな」
こうも言った老人だった。
「あ奴は」
「我等を討とうと」
「そう思うからこそ」
「自ら先陣に出て」
「そして」
「そうじゃ、敵は焦っておる」
こう言う老人だった。
「ならばな」
「はい、ここはです」
「逆に攻めてやりましょう」
「一気に」
「そして勝ちましょうぞ」
「そうじゃ」
老人は自信に満ちた声で答えた。
「ではな」
「はい、全軍を以て」
「今より」
棟梁達も応えてだった。
全軍で信長が率いる先陣に襲い掛かる、鉄砲を撃った後の彼等に。
それを見てだ、信長はすぐに命じた。
「よいな」
「はい、これより」
「我等がですな」
「采配を取れと」
「そうじゃ」
幸村と兼続、宗茂に言うのだった。
「御主達三人が采配を執りじゃ」
「戦い、ですな」
「そのうえで粘り」
「それからは」
「わしが退くと命じたならな」
その時はというのだ。
「よいな」
「はい、後詰としてです」
「戦いそして」
「防いでみせましょうぞ」
「十勇士と飛騨者達にも言え」
今は攻めている彼等もというのだ。
「その時はじゃ」
「あの者達もですな」
十勇士の主である幸村が応えた。
「後詰として」
「そうじゃ、戦いな」
そしてというのだ。
「兵達を逃せと伝えよ」
「わかりました」
「我等は下がる」
先陣全体がというのだ。
「後ろにな」
「ひたすらですな」
「後ろに下がる」
「そうしますな」
「そしてじゃ」
さらにと言うのだった。
「そこからじゃ」
「はい、いよいよですな」
「敵が然るべき場所に来れば」
「その時に」
「はじめる、終わりのはじまりをな」
まさにそこで、というのだ。
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