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どんなになっても

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5部分:第五章


第五章

 しかしであった。それは一瞬で。すぐに笑ってこう言ってきたのである。
「それじゃあこの子の名前はどうするの?」
 その首輪のない灰色の如何にも凶暴そうな猫を指し示して言う。
「この子の名前は」
「そうだな。イポーにするか」
「イポー?」
「うん、その名前にしよう」
 こう言うのである。
「それでどうかな」
「まあ名前については何も言わないけれど」
 妻はそれはいいというのである。
「街の名前ね」
「今度はそれでいくと。もう名前も随分使ってるしね」
「数字に十二ヶ月それぞれの名前に季節の名前に」
「他には花も木も使ったしね」
 流石に四十四匹もいればそれだけ名前の種類も使う。そういうことだった。
「だからね」
「それで都市なの」
「これでどうかな」
 あらためて妻に尋ねるのだった。
「この名前で」
「さっきも言ったけれどそれには何も言わないわ」
 またこう言う妻であった。
「それにしてもまた一匹増えるのね」
「いや、新しい家族だよ」
「これで四十五匹なのね」
「このまま五十匹になればいいね」
 アブドルは笑いながら能天気な言葉を出した。そのうえで棚のところに向かいまだ使っていない首輪を出してである。そこに名前を書いた。
 そしてそれを新しく名付けたイポーに着けようとする。しかしであった。
 イポーはすぐに彼から逃げ回る。首輪をされるのが嫌なのだ。
「あっ、こら待て」
「待ちなさない」
 彼だけでなくシャハラもその猫を追う。それを見て他の猫達も騒ぎ出し家の中は忽ちのうちに大騒ぎとなってしまったのである。
 騒ぎ声も聞こえてだ。家の中は大混乱に陥った。猫達は騒ぎを起こしたと見たアブドルに飛び掛ったりもした。そうして引っ掻かれたり噛まれたりするのだった。
「どいてくれ、とにかく首輪をしないと!」
「そうなのよ、だから大人しくして!」
「フギャアアアアア!」
「ウニャアアアア!」
 大騒ぎであった。こうして二人は傷だらけになってその猫に首輪をするのであった。そうして翌日その生々しい傷跡で会社に行くとであった。
「またこれは壮絶な」
「戦争にあったみたいな」
「生きているのが不思議だけれど」
「いや、昨日は大変だったよ」
 しかし当人は全く何でもないといった顔である。
「本当にね。また一匹新しく来てね」
「また一匹ですか」
「じゃあ今は」
「四十五匹だよ」
 それだけの数になったというのである。
「今はね」
「四十五匹」
「完全に猫屋敷じゃないですか」
「ははは、そうだね」
 その猫屋敷という言葉に笑顔になるアブドルだった。
「確かにね。猫屋敷だよ」
「それで何でそんなに大怪我を」
「猫にやられたんですよね」
「そうだよ」
 まさにそうだと返す彼だった。その言葉には何の嫌味も影もない。
「それがどうかしたのかい?」
「いや、どうかしたらじゃなくて」
「あのですね。無茶苦茶じゃないですか」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」
 かなりの怪我なのは明らかだがこう言うのである。
 
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