とある科学の傀儡師(エクスマキナ)
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第19話 二人の初春
前書き
誰得の話になってしまいました......
護衛任務......対象とされる人物、物などの身辺の安全を確保し、誘拐、暗殺、奪取から一定の期間護り続ける任務を指す。
狙っている敵により難易度の多少の上下があるが、総じて高い能力と判断力を必要とされる任務である。
護るよりも破壊活動を主としてきたサソリにとっては苦手な部類に入る。
レベルアッパーによりネットワーク上に取り込んだ多数の能力を使うことが出来る木山は、奇妙な砂の能力を扱うサソリを狙うのを止め、側にいる初春へ攻撃の標的を変えた。
初春へ攻撃すれば、サソリが動く。
サソリが初春を護るために能力を使う。
結果としてサソリに対して躱すことが困難な攻撃となる。
木山はバチバチと電撃を指先に集めた。
「あの娘には及ばないがこれぐらいなら私にも出来るのだよ」
蒼い燐光を指先から小さく出し、火花に近い音を鳴らしている。
サソリはその様子を見て、小さく舌打ちをした。
雷遁も使えるのかよ......分が悪いな
サソリは息を切らしながら、必死で頭を働かせる。
一旦、初春を逃すために離れるべき
いや、元々木山は逃走するために抵抗している。
この場を離れるのは、みすみす逃すようなものだ。
初春が持っているレベルアッパー治療用の奴も本物かどうか分からん。
クソ、どうする?
チャクラの量を考えれば、大規模な忍術は使えない。
出来て二つか三つ.......
だが、相手はオレの術を打ち消す雷遁が使える。
むやみに使えば返り討ちに遭うな。
......やられた
木山が初春に渡したレベルアッパー治療の物。
先に本物かどうか置いておいて、初春に持たせて宣言することはサソリに「逃げる」という選択肢を奪わせる。
「サソリさん!!前まえ」
思考に集中していると後ろにいる初春が声を出した。
気が付けば、木山が放った電撃が前にいるサソリ共々狙うために蒼い光を放って迫っていた。
「!?」
サソリは背後にいる初春を脇に抱えると足にチャクラを溜めて踏み込み、一気なや飛び上がった。
「ふわ!?」
初春が間近で通過する電撃に思わず声を出して、思わずサソリに抱きつく。
サソリは初春を抱えたまま橋の欄干に着地した。
危ねぇ......擦りでもしたら術が解ける
体術も考えたが、今の状況で雷遁を身体から出している奴に触れることも出来んな
サソリは欄干に立ったまま、橋の下を覗き込んだ。
最優先するべきことは、攻撃対象である初春を木山から引き離すことだ。
そこでサソリに一つの考えを思いつく。
なるほど橋か
だったら......
脇に抱えている初春に向け、声を掛ける。
「初春ちょっと耳を貸せ」
「は、はい」
サソリは欄干から降りて道路に立つと初春を立たせて耳打ちをした。
暫くボソボソとサソリが説明すると初春の顔が傍目からでも驚愕しているような表情に塗り替えられていく。
「ええええー!!そ、そんな事無理ですよ!」
「これぐらいしか手が見つからん。オレだってやりたくてやる訳じゃねーよ」
「ふえええ......自信ないです」
「自信無くてもやるぞ。腹を決めろ」
サソリは、呼吸を整えるようにニ、三度深呼吸をする。
打ち合わせが終わったサソリと初春を木山は、やや傍観者のように見ていた。
作戦を立てたか
さて、どう来る?
どんな組み合わせでも彼女を集中的に狙うことには変わりない。
「いくぞ!」
「はい!」
腹を決めたように初春が声を出して、腕を前に構えた。
サソリは印を結び、辺りの砂をサソリと初春をすっぽり包み込んだ。
「?」
木山は頭から流れ出ている血を拭う。
来たるべき戦闘を予想して、足先に緊張感を高めた。
そして砂が止み、ドーム型に集まっていた砂が風に飛ばれて中から全く同じシルエットが浮かびあがった。
手錠をはめたまま、瓜二つの姿形をした初春が二人となって木山の前に出現する。
「!!?」
木山は瓜二つの二人の初春を左右交互に見ている。
「私が初春ですよ」
「いや、私が初春です」
木山に向けて勝ち誇るような笑顔で二人の初春が主張をすると、クルッと向きを互いに右と左を入れ替えて向くとそれぞれ別々に走り出した。
木山は固まったままポケットに入れていた手を出して、処理が追いつかない頭を描き上げた。
「こ、これは.......?」
サソリの作戦は、変化の術を使い自分を初春そっくり変えて木山を撹乱するという策だ。
忍の隠密行動には絶対に必要とされる変化の術。
サソリのズバ抜けた観察力が威力を発揮する。
声も仕草も同じようにしているため、木山にはどちらが本物か判別できないようだ。
「どうしました?私が本物ですよ」
「違いますよ。そっちは偽物さんです。こちらが本物です」
木山を挟み込むように一定の距離を取って二人の初春が声を出した。
同じ声の二重奏に木山は混乱する。
「くっ!」
木山は前にいる初春に向けて、炎を浴びせようとするが。
もう一人の初春が指をメガホンのようにして包み、声を拡声させる。
「そっちで良いんですね。サソリさんだったら強烈なカウンター攻撃を用意してますから」
「な!?」
木山の動きが初春の一声で止めた。
目の前の初春は歳相応に笑顔を見せている。
「ほらほら、向こうが本物かもしれませんよ。それとも私に攻撃します?」
分からない
どちらが本物が分からない......
攻撃の手がたじろいだ瞬間にほぼ同時に初春達は指を動かし、引っ張る動作をする。
すると、チャクラ糸で繋がれた足が後ろに引きずられ木山は前から地面に叩きつけれた。
「がっ!?」
この能力は、赤髪君の!
後ろの彼女が「赤髪君」だったのか......
木山を転ばせた二人の初春は、木山の目の前で嬉しそうに手錠された両手でハイタッチをすると互いの手を掴んでクルクルとその場で回転した。
これでどちらが本物かどうかがリセットされる。
回転が終わるとまたしても道の左右に分かれて倒れた木山を牽制するように道路をコンコン叩いていく。
「う?!」
頭をしこたま打ちつけた木山は起き上がり、バラけた二人の初春の行動に疑問を浮かべながらもこれに似た論理問題を思い出した。
嘘吐きと正直者
どちらか一方が嘘しか言わない人でもう一方が本当のことしか言わない人がいる。
ただ一回だけの質問をして、どちらが正直者かを当てる問題だ。
解き方は、それぞれだがどちらかを「真実」であると仮定して両者の発言の矛盾を探る方法がある。
木山もそんな問題を知っていたが、現実で突きつけられるとは思わずに冷静に頭を働かせようとする。
この場合では
正直者→初春
嘘吐き→サソリ
となりそうだ。
「上手くいきました」
「上手くいきました」
どちらかが言えば、もう一人がおうむ返しに言葉を繰り返した。
ならば二人同時に攻撃をしてみるか......
木山がポケットからアルミ缶を二本取り出すと前後にいる初春へ投げようとする。
「爆発します」
「!爆発します」
一方の初春が気づいて声を出す。それによりもう一方の初春も言葉を繰り返した。
チャクラ糸を腕に引っ付けると二人の初春が指を動かし、それぞれのタイミングで引っ張った。
「くっ!」
片方の腕が不意に引っ張られてバランスを崩した木山がアルミ缶を的外れの位置に投げてしまう。
一つのアルミ缶は空高くに、二つ目のアルミ缶は、橋の下に落下した。
「伏せます」
「伏せます」
二人の初春がその場で耳栓を指でしながら爆風に備えた。
少しの時間の後に上空でアルミ缶に黒い点が出現し、エネルギーが急速に高まって大規模な爆発をした。
サソリがここに来てから起きたレベルアッパー使用者による連続爆破事件。
通称『虚空爆破(グラビトン)事件』
アルミを基点にして重力子の速度を急激に増加させて、一気に撒き散らす。
つまりアルミさえあれば爆弾を造ることが出来る能力だ。
前回は御坂の活躍で解決したがサソリは入院中だったので知らない。
ふざけんな!
血継限界の『爆遁』も使えるのかよ!
初春が声を出さなかったら、巻き込まれる所だった!!
身体全体を道路に寝転んでいるサソリ初春が頭のお花畑とは、程遠い鋭い目つきで悪態をついた。
そして初春の目元へと変えて、起き上がる。
合流した二人の初春は、またしても嬉しそうにハイタッチをするとクルクル回転し始める。
リセットをするとまた道幅を拡がりながら倒れている木山へと走り寄る。
そして姿勢を低くするとそれぞれ道路を叩いている。
これで良いですか?
サソリさん
初春はサソリからのとんでもない作戦を思い出していた。
耳打ちをしているサソリは、初春に対して確認するように幾つかの質問をした。
「初春、お前の一人称って私か?」
「は、はい?」
「何か口癖はあるか?」
「特になかった気がします」
「分かった......あとは適当だな」
「何をするんですか?」
「木山を混乱させる。変化の術でお前そっくりに姿を変えるから。上手く合わせろ」
「ええええー!!そ、そんな事無理ですよ!」
「良いからやれ!その時にやる事は......」
サソリは木山が研究者であることを逆手に取り、変化の術を使い、初春そっくりに姿を変えた。
研究者は、動作よりも思考に重点がいく。
『サソリは攻撃しないが初春を攻撃する』
という宣言にサソリも初春に変化して一瞬の思考の隙を作り出し、引っ掛ける。
こっちが本物かもしれない
いや、あっちの方が本物かもしれない
その対立する情報を与えてやれば、研究者は勝手に見極めようと間違い探しを始める。
そして、こっちが本物だと考えて攻撃すれば、別の初春が声を出して問いの確認させる。
本当に合っているだろうか?
と更に検算、確認動作をさせる。
これで研究者の木山の行動をかなり抑制するか事が可能だ。
サソリが初春に出した指示は
1.相方が捕まったら「そっちで良いですか?」と質問する
2.適当に指を動かす、引っ張るなど大きな動きを入れる
3.相方が近寄ってきたら、回転してリセットをする
4.隙が出来たら、道路を叩く
5.気づいた点があったら、短い言葉を言う。聴いたら繰り返しで同じ言葉を言うこと。
単純ではあるが、自然に行動をしなければならないため初春は手順を指折りで確認していく。
それにしても......
初春は、自分そっくりになったサソリを見てみるが
あまりに自然に堂々と振る舞うサソリに対して苦笑いを出した。
普段のクールなサソリとは打って変わり天真爛漫な自分が隣で走っている。
何で普通に動けるんですか?
満面の笑みで私に成りきってます......
意外に演技が上手いサソリを感心したように見た。
そして初春としてのクォリティーを上げるために時々、躓いて転んでいます。
そんな露骨にしなくても
私、そんなにドジっ子じゃないですよ
サソリが初春に対するイメージが垣間見えた気がした。
もう自分を客観視することがかなり恥ずかしいが作戦なので仕方ない。
涙が溢れていくが関係ない。
木山は立ち上がり、左を走る初春にレーザーを出そうとするが......
「こっちで良いんですね?」
クルッと木山の方を向くと、ニコッと笑い掛けた。
構うものか、どちらでも
この妙な能力を止めなければ
レーザーの出力を高めていくが
「本当に良いんですね?」
ニヤリと耳まで裂ける笑顔を浮かべた初春の姿に木山の動きがまたしても止まる。
サソリさんだったら強力なカウンター攻撃を用意しています
その言葉に手が止まる。
目の前の初春は、一気に木山との間合いを詰め、拳を固めると木山の腹部を殴りつけた。
「がはっ!」
「残念!こちらは偽物さんでした」
殴られた腹部を抑えて苦しむ木山を尻目に初春は合流し、同じくリセットをする。
凄い......あの木山さんを翻弄してます
能力を多用する木山でさえもこのサソリが考えた奇抜な作戦には何もできないでいた。
護るべき者を攻撃手段に変えるとは......
考えたな
木山はこの嘘吐きと正直者の問題を解くための質問を考えていた。
たった一つの質問でこの妙案が崩せるはず。
左右で橋を叩いている二人の初春を観察する。
見た目と声、仕草が全く同じ。
片方は、あの赤髪君だ。
男と女......
考え事をしている木山の後ろから初春が体当たりをして考えの邪魔をさせる。
「考えているなら私から攻撃しちゃいますよ」
「しちゃいますよ」
おうむ返しで反応するもう一人の初春。
こうやってサソリは指示を初春に出す。
質問をするためにもう少し情報が欲しいところだ。
レベルアッパーで使えるようになった『読心能力(サイコメトリー)』を使うか。
対象に触れる事で思考を読み取る能力だ。
外見が同じであろうが、中身は違う。
クルクル回っている初春達の一人に狙いを付け、走り寄った。
バラけた初春の右側を移動している初春を手を掴む。
「こちらが本物だと思います?」
またしてもその問いだが木山は構わずに眼を閉じて思考を読み取ろうとする。
サソリ初春がピクッと反応した。
相手の情報を読み取るつもりか?
血継限界とか使っているから何でも有りだな
だが、読み取る時って隙だらけだ
「それはさせませんよ」
別の初春がチャクラ糸で引っ張りバランスを崩すと目の前の初春が意を決したように木山の腕を掴んで自分も倒れこむように転ばせた。
残念ながら思考を読む事は出来なかった。
「こうも邪魔をされるとは」
倒れたままの木山にチャクラ糸を出していた初春が近づいて、拳を振り上げる。
「くっ!」
木山は能力の一つである、電撃を一瞬だけビリリと反射的に放出した。
ピタッ......
拳を突き出そうとした初春の顔色が変わり、直前で止めた。
「?」
舌打ちをすると初春が向きを変えて、もう一人の初春と合流してリセットをする。
なぜ、攻撃を止めた?
あれが赤髪君なら問答無用で殴ってきそうなものだが......
そういえば、さっき自分が放った電撃に対してややオーバーとも取れる逃げ方をしていた。
他の攻撃に対しては能力を使って対抗したり、紙一重で躱していたのに。
まさか......
木山は余裕を取り戻したように立ち上がると近くにいた初春を捕まえる。
「こちらで......」
ニコッと聴いてくるが木山の手は、初春の下半身へと動き出し、履いている制服のスカートを捲り上げた。
「!?」
スカートの下には淡いピンクの水玉模様の初春のプリンセスゾーンを守る布が鎮座している。
捲られた初春は何が起きたのか分からずに止まっていると
「ぎゃわあああああー!?な、何をしてるんですか?!」
離れていたもう一人の初春が顔を真っ赤にしながら指をビシッと伸ばして慌てていた。
「それに何で今日履いている......ぱぱぱ、パンツの柄を知っているんですか!?サソリさん」
スカートを捲られた初春が弾けたようにもう一人の初春を見て、驚きの声を出した。
「ば、バカお前!」
その言葉を聴いた木山は、解答を見つけた子供みたいに嬉しそうにサソリ初春の視線の先へと顔だけ向けた。
「あちらが本物か」
アルミ缶を顔を真っ赤にしている初春目掛けて投げつけた。
さきほど大規模な爆発を誘因した代物だ。
「今度は女性の羞恥心でも学ぶ事を勧めておく」
お前が言うか!この露出女!
「クソっ!」
サソリ初春は、印を結ぶと地面に手を置いて初春とアルミ缶を間に砂の壁を作り出す。
「はあはあはあ......」
急激にチャクラを消費したサソリ初春は、手を地面に置いたまま様子を見ているが
一向に爆発する気配が無い。
木山は、汗を流して息を切らしているサソリ初春の手を掴む直すと
「フェイクだよ......あの時とは違い嘘を見抜けなかったようだな」
喫茶店で木山の嘘を見破ったサソリであったが今回は見破る余裕が残っていなかった。
「電撃を出した時の君の反応は、やや過剰だな......電気はお嫌いかな?」
木山はサソリ初春の手に直接電流を流し込んでいく。
「しまっ!!があああああああああ」
マズイ、術が......解ける
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