衛宮士郎の新たなる道
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第20話 上流と下々の社交の場
前書き
私、箱根行った事ないですよ。
行ってみたくはあるんですが時間がなー。
今年のゴールデンウィークも休みがあるのか全部仕事なのか判らないからなー。
「あーーー!楽しかった!」
士郎達はチェックインした後、予定通り水族館と美術館での観光を満喫して来た。
現時刻は夕方。
これもほぼ予定通り位にホテルに戻って来ていた。
興奮収まらずにはしゃぎ続ける小雪を先頭に、士郎達も楽しそうに感想で盛り上がっていた。
そしてそのままエレベーターを降りてから、自分たちの部屋の前に到着した。
「もうすぐ夕食だろうから、ユキも着替えて来いよ」
「了~解!」
士郎に言われて自分の部屋に戻る小雪。
他の4人も戻っていくのだった。
-Interlude-
このホテルは、通常の部屋とスイートルーム以上の部屋を予約している違いで、レストランなどの格施設がある一つ以外分かれている。
士郎達の泊まっている部屋はスイートルーム以上なので、当然富豪や上流階級などの人種が使う高級レストランである。
別に士郎は贅の中に冬馬達を溺れさせるために、最高級のスイートルームを予約したわけでは無い。
此処で少し話は変わるが、冬馬達の志望は医者になる事だ。
士郎に助けられてからも、父親たちとの確執や溝は埋まっていない。
その事で、将来の選択肢の中に医者になる事を一時は消えかけていた3人だが、士郎のような立派な人間になる事と、とある医者に憧れて医者になる望みを再燃させたのだ。
此処で話の方向を修正するが、ある二つの目的があって此処までしているのだ。
一つは技術を身に着けさせるため。
テーブルマナーなどの基礎を覚えさせるくらいは学校側でも少しだけ触れるが、それだけだ。
なので、それらについても完璧に身に着けている士郎が教えて練習させていき、今回の旅行の場などで定期的の他の人の目のあるところで定期的に慣れさせていくためだった。
もう一つは経験だ。
冬馬達が将来医師になり、不本意的とはいえ葵病院を継ぐことになれば、いずれは各界のパーティーなどの社交界の場などにも呼ばれる事もあるだろう。
その時までに、ある程度の経験を積ませたい狙いがあった。
こんなことするあたり、最早兄貴分の領分を越えて父親だ。
しかし冬馬と準の2人の父親は、立場以前に人格的な問題点からしてまともな愛情を貰えずにあった。
小雪に至っては言うまでも無く論外だ。
それ故冬馬達3人は、士郎を無意識的に兄と言うよりも父親として見ている節があった。
まぁ、冬馬だけは少し他の意識も混じっているようだが。
兎も角、将来の冬馬達のために士郎はここまでしているんだ。
そんな士郎達は、正装とドレスに身を包んでレストランの入り口を潜り抜ける。
この時ばかりは京極も、士郎達と同じく正装に着替えていた。
士郎達が入ってきたことにより、既に席についていた他の客の目を僅かばかり集めた。
子供がこのような席に着く事は初めてでも異例でもないが、今この空間には士郎達以外で最年少でも二十代後半の客層だからだ。
お客の目を引いたと少し前に、ウェイターが士郎達に気付いて迅速かつ軽やかに近づいて来た。
「衛宮様ですね。御席まで、御案内いたします」
「はい」
ウェイターの誘導で席まで案内される士郎。
席に着くまでの間、ウェイターの確認を聞いていたその他の客らが半分ほどは聞いた事が無いと思い考え、残り半分は目を剥いた。
「衛宮?聞いた事が無いな・・・」
「しかしあの歳でこの場にいるのだ。どこかで有名なのでは?」
「あら?小雪と準以外の3人も美味しそう♡」
――――一方で。
「あの子供がEMIYA?」
「名だけは聞いた事はありましたが、素顔を見たのは初めてですな」
「もう少しお年を召しているのかと思っていましたが、意外とお若い」
「今日の肴に小雪と準以外の3人のどれかテイクアウトできないかしら♡」
刀匠EMIYAの名を知ってるかどうかの違いが判る反応だ。
しかし値踏みの目線で見られている冬馬達は表面上は兎も角、内心では少しだけ居心地が悪そうだ。
翻って、京極は人間観察を楽しみの一つとしている事だけあって、立場が逆に回っても気にした様子は皆無だ。
そして士郎はこのような場など何度も経験して来ている百戦錬磨なので、高々その辺の富豪の値踏みなどどこ吹く風だ。
自分達のために用意された席に着くと、次々に到着する料理の品々に対してこれまで通り些細なミスなど無く、余裕をもってこの場の流儀に合わせた食事を進めていく5人。
その後は、他の客との社交の場だ。
決して内心を悟らせないようににこやかに、そして弱点を掴まれないようにする社会見学。
それが今回士郎の最大の狙いだった。
だがそれでも完全な思惑を果たせたわけでは無かった。
「・・・・・・・・・・・・」
士郎が見つめる先には、1人分の椅子が設けられている一つのテーブルがあった。
そこに本来座る主は、急な予定変更によりこの場での食事や士郎達以外の富裕層たちとの顔合わせもキャンセルになったのだ。
そこに座る筈だった者に会わせる事こそ、冬馬達の将来に必ずプラスになるだろうと言うのが士郎の考えだったのだが、残念ながらご破算になってしまった。
その者は次期と言う冠が付いているが、いずれ必ず世界の大物中の大物になる少年だった。
今現在九鬼財閥に一歩届いていない複数の大企業を取り込んだ企業連合の盟主の家の次男だ。
「ままならないモノだな」
結局士郎の思惑上、最高成果を上げられずにこの場を終えるのだった。
-Interlude-
先に挙げた通り、このホテルには部屋による違いで一つだけ別れていない施設がある。
それは大勢で浸かれる様な大浴場地。
とは言え、スイートルーム以上の部屋には絶景を楽しめる最高4人まで入れる様なジャグジー完備のバスルームが設置されてあり、お湯は効能のある温泉と通常とで選択できる。
しかしそれでも中には、大勢の人達と一緒に湯船に浸かりたいと言う客人もいる。
そんな変わり者に属される者の中に士郎達もいた。
「フゥー、いい湯だな。――――ユキー!ちゃんと肩まで浸かるんだぞー!」
『わかってるよー!ボクそんなに子供じゃないよー!!』
士郎達は温泉に浸かりながらも、女湯に1人行った小雪を心配した。
今現在は幸い、男湯女湯関係なく士郎達だけしかいないので、他の客に迷惑に放っていなかった。
だが、男4人女1人の小旅行だ。
必然的に小雪1人になるのも仕方がない。
これに小雪は不満があるが、明後日には温泉プールに行く予定を立ててあるので、それを緩衝材にする様だ。
けれどここは貸し切りでもないので、必然的に他の客――――風間ファミリーが入って来た。
まずは女湯。
小雪がのんびりと湯船に浸かり始めたころ、風間ファミリーの女子メンバーが脱衣所で衣服を脱いでいた。
そんな個性豊かな美人ぞろいの中で、百代は何とも微妙な気分でいた。
(せっかくの旅行なのに京極の奴がいるなんて~!しかも何時ものサドぶりで私を脅かそうとは、なんて冷酷な奴だ・・・!―――ん?)
百代が思い出しているのは、偶然揃ってチェックインしてる時に鉢合わせた時の事だった。
因みに、今一瞬悲鳴が聞こえた気がした。
『衛宮が準達と旅行するのは聞いてたから驚きはしても納得するが、如何して京極がいる!?』
『そう言う予定で誘われたからに決まっているだろう?呼ばれもされていないのに、友人の旅行に無理矢理介入する程、図々しい神経など持ち合わせてはいないな』
しかし百代は京極の言葉で納得できず、今丁度入り口から入ってきた士郎を見つけて胸ぐらを掴みながら聞く。
『如何いう事なんだ、衛宮!如何して京極なんかがいるんだ!?』
『今本人に聞いただろう?なのにどうして俺に聞くんだ?』
『やれやれ、何かとは酷い言われようだ――――』
『!?』
すごい剣幕で士郎に掴みかかってる百代を見て、京極は百代の耳に届くように言うのだ。
『――――それに私は旅の時に役に立つのだぞ?武神。例えば、今でこそこの箱根も観光名所として名を馳せているが、かつては戦場だった此処にも鎮めるべき霊は残ってい――――』
『あー!!霊なんて言葉聞こえなかった!』
そして現実に戻る。
百代は嫌な記憶を頭を振るう事で、消し去ろうとする。
(ヤメだヤメだ!これからは楽しい温泉――――つまり、愉しい視姦の時間だ!あんな人間観察に情熱なんて注いでいる奴を思い出すだけ損だ!」
「モモ先輩、途中から口から本音が漏れ出てるよ?主に、『愉しい視姦』から」
それを真横で衣服を脱ぎ、タオルで前を隠してる京がツッコむ。
「そんな事気にしない!仲間内なんだからいいじゃないか!」
「他のお客さんの迷惑にならないようにね」
その諌言を無視して、百代はスキップしながら浴場に入る。
視界に飛び込んできたのは美少女たちの体である。
百代の視力をもってすれば、湯気などで邪魔にはならない。
「おーー!美少女――――かと思えば、可愛い妹たちと後輩では無いか!京、これは如何いう事だ?」
「如何いう事も何も、今は私達しかいない――――いや、誰かほかにいるよ?」
京の発見した方へと何ー!?とリアクションを取りながら視線を向けると、そこには小雪の姿があった。
「おっ!ゆっきーじゃないか!!」
「う゛」
ゆっくり静かに浸かっていた小雪は、突如として百代にロックオンされた事に身を捩る。
「肌と髪は最高級パールよりも純白で、瞳はルビーよりも情熱的に赤いマイエンジェル、ゆっきー!私と共に背徳的な一夜を過ごさないかッッ!!」
(お姉様、完全に口説きに行ってるわ・・・)
一瞬で小雪の下に近づき情熱的に寄り添おうとする百代。
しかしその眼は明らかに血走っており、呼吸音も(*´Д`)ハァハァとヤバイ。
だが――――。
「ボク、そっちの趣味無いからお断りします」
バッサリフラれる。
「なん・・・だ・・と!?」
百代はこれまで幾人もの美少女を落として来た実績があったからか、断られた事に驚愕する。
「モモ先輩、あんな感じで迫られれば自分とて怖がると思うぞ?」
一応、クリスの突っ込みが入るが本人はまるで気づいていない。
その横で体を洗っている黛由紀恵ことまゆっちが、京の不審な行動に気付く。
「京さん、何をされていらっしゃるんですか?」
「男湯を覗こうと思ったけど、妻として他所の男まで見るわけにはいかないから、苦肉の策として盗み聞きだけしようかと」
向こうに男湯があるだろうから、浴場での男達の会話を拾おうとする京。
風間ファミリーの面々は本当にエキセントリ・・・・・・個性的だった。
そしてその男湯と言えば――――。
-Interlude-
時間を少し遡り男湯。
風間ファミリーの男子4人は、女子5人よりも早く男湯に向かった。
早々に衣服を脱ぎ取った4人、特にキャップは子供のようにはしゃぎながら温泉に飛び込んでいった――――。
「よっしゃー!俺が一番乗りだぜェーーって?」
――――筈だった。
キャップは温泉の中に入る直前、何故か空中で停止していた。
その理由は士郎だった。キャップが飛び込む寸前に、既に入っていた士郎がすかさずキャップの背後に回り込み、首を掴んで飛び込みを阻んだのだ。
「オイオイ風間。飛び込みは褒められた事じゃないが、それ以上に入浴する前に体を洗え」
此処は公共の場だぞ?とも付けだす。
「え、衛宮先輩!?・・・・・・でもなぁ、俺今すぐ入りたいんです!――――と言う事で、ていっ!てっ、痛!?」
自分の我欲を通そうと士郎から逃れようとして自分を掴んでいる腕に攻撃したが、余りの硬さに攻撃したキャップが痛がる。
そんな痛みに身悶えしているキャップに溜息を吐く。
「はぁ~。聞き分けがないなら仕方がない。選択肢をやろう。自分で洗うか、一擦りするだけで強烈な痛みを発生させる洗い方を俺に強制させるか」
掴んだまま洗い場までキャップを持っていき、無理矢理座らせてからドスの利いた声で囁く。
その囁きに戦慄したキャップは、素直に自分で洗うと言おうとしたが・・・。
「じ、自ぶ」
「因みにちょっとやるだけで“こう”だ」
「うっ、ぎゃぁあああああああああ!!?」
何時もの士郎ではこの様な凶行はしないのだが、いい歳してマナーを守らないばかりか攻撃して来たキャップに憤ったので、ちょっとしたお仕置をしたのだった。
-Interlude-
「すいません、衛宮先輩。うちのキャップが・・・」
体をしっかり洗い終えた大和達も温泉に入っていた。
「いやいや、俺もお仕置にしてはやり過ぎたかもだからお互い様さ」
「で、でも、お仕置にも限度があるんじゃないですか?あんなに悲鳴を上げるなんて、キャップの体に痕でも残ってるのでは・・・」
仲間思いのモロは、士郎に疑問を呈する。
「あー、うん。その辺は大丈夫だ。後で見て見ればわかると思うが、傷跡は一切ないぞ?武術をやってる人間のみに修得できる技術を応用した力加減で、神経に直接干渉するモノだから、その時だけの痛みで傷跡も後遺症も無い筈だ」
「ん、まぁ、風間の奴、ちょっとしたトラウマは残るかもなぁ」
キャップ以外の大和とモロの2人と、士郎達4人に視線の先にはガクガク震えながら湯船に浸かっているキャップの姿があった。
士郎に見られたと反応したキャップは、一層震えを激しくしながら先ほどの事を謝る。
「すいません、すいません。俺が悪かったです、許してください!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――――」
「あー、うん。ホントにやり過ぎたかもなぁ・・・」
「まぁ、風間は調子を乗りすぎるきらいがあるから、たまにはいいのではないか?戒めになって」
そんな士郎達に、他の湯船に浸かりに行っていたガクトが戻って来た。
「見っろ~~~!お前たち、俺様の筋肉美を・・・!」
浴場に入ってからこれをやろうとしたガクトだったが、先程の一幕のせいで出鼻を挫かれたので、今やる事にした様だ。
「ガクトのはグロいんだよ、隠してよ!」
「それに衛宮先輩達もいるんだぞ?」
「ガクガクブルブルガクガクブルブル――――」
しかしガクトは友人たちの言葉も聞かずに、自分の愚息を堂々と自慢しだした。
「銃で例えるなら、俺様のジュニアはバズーカ―だな!」
それに対して軽口を叩く大和。
この話題を何故か早く終わらせようとするモロ。
されどなかなか話が逸れないので、僅かに行動をずらす事にした。
「そ、そう言えば、衛宮先輩も相当鍛えられてたよね?いい肉体してるもん」
「ん?」
士郎は、いきなり話題の大本部分に自分を投入された事に、きょとんとする。
しかし、何故か大和とガクトの2人は、モロに何とも言えない顔を向ける。
「な、何さ、2人とも?」
「モロ・・・」
「いくら貧相な体つきに柔肌で、かつらでも被れば男の娘に変身出来そうだからって、そっちに走る事ないだろ?」
「は!?な、何言ってるのさ!僕がそっちの趣味な訳無いでしょ!!?」
「いや、そこまで動揺すると逆に怪しいぜ?モロ。リーダーとして心配だな」
そこへ、先程まで震えが止まらなくて隅の方で隠れるように温泉に入っていたキャップが、何時の間に居た。
「ど、動揺なんてしてないよ!と言うか、如何してこのタイミングで復帰するのさ!?」
幼馴染たちに抗議するモロ。
しかしながら少々どもっていて、一向に信じない仲間たち。
そんなモロに肩に、後ろからある2人の腕が置かれる。
まず準から。
「師岡、まさかお前が若と同じ世界に踏み込んじまってるとは・・・」
次に冬馬。
「師岡君の事は前々から目を付けていたんですが、風間ファミリーの一員故諦めていたんですが、ご本人である貴方自身が目覚めているのなら是非もありません。ようこそ至高の世界へ、歓迎しますよ?――――取りあえず、休み明けの日の夜から七浜ホテルでどうです?」
「2人とも何言ってるのさ!?あと葵君、生々しすぎるから本気で止めて!!」
「?」
背後から乗せられた2人の手を振り払い、本気の抗議をする。
因みに冬馬と準の2人は、士郎に聞こえないように小声で囁くように言った。
勿論、それほど距離が開いていないので、本来なら常人離れしている聴覚も持つ士郎の耳にも届くのだが、ある力――――ご都合主義が働いて士郎の耳には届く事なかった。
そして先ほどから潔白を証明しようと、大声で周囲に説明するモロにトドメが来る。
「私は自分の観察眼に中々の自負を持っていたつもりだったが、これはまだまだ修練が足らんな。すまん師岡、お前の性癖を見抜けなかった」
「ちょっ!?きょ、京極先輩まで!?」
「師岡、お前の趣味を否定する気は無いが、すまない。俺にアブノーマルな性癖は無いんだ。だからお前の気持ちには応えてやれない」
士郎と京極のまさかの言葉に、モロは驚きを隠せなくて・・・。
「な、なな、な・・・」
『な?』
「なんで誰も信じてくれないのさぁああああああぁあああ!!?」
モロは泣き叫ぶように絶叫した。
-Interlude-
今度はモロがキャップと同じように隅の方に居た。
モロとしては、確かに話題を逸らす事によって人に知られたくないコンプレックスを隠せたが、ある意味それ以上にダメージが大きかった。
何より、ダメージを与えたのが――――。
「――――まさか、衛宮先輩や京極先輩まで話に乗ってくれるとは思いませんでしたよ?」
「乗る?何の話だ?」
先程の結果は、冬馬と準と大和とガクトの4人は悪ノリの冗談だったが、復帰した少年心満載のキャップと最後の2人である士郎と京極は、至って真面目だったのだ。
まぁ、その分性質が悪く、モロ自身に一番ダメージを与えたのだが。
「あっ、いや、こっちの話です・・・・。でも衛宮先輩って、何時の間にそんなに鍛え上げられた体だったんですか?去年の体育祭は水上体育祭でしたけど、今見たい程引き締まってましたっけ?」
「これは単に気で体をコーティングして、偽装してただけなんだ。周囲の人に引かれると思ったからな」
「・・・・・・・・・」
それは無いと大和は思う。
士郎本人が知り得ているか否かは兎も角、非公式である士郎の愛好会ができる位だ。
恐らく士郎のファンたちが知れば、更に熱狂的な信者になることは間違いないだろう。
「・・・・・・え、なおえ、直江?」
「えっあっ、はい?」
士郎の発言で物思いに耽っている所に、士郎に声を掛けられて我に返る。
「オレも直江に聞きたい事があるんだが、いいか?」
「えっと・・・・・・何でしょう?」
「直江は高校卒業と同時に京と結婚するんだよな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
士郎の口から出た言葉があまりの事に、頭の中が真っ白になる。
しかしそれも一瞬の事。
直に正気に戻る大和は士郎の聞く。
「質問で質問に返すのは申し訳ないんですけど、それは誰から聞いたんですか?」
「勿論、京からだ。終始惚気話を随分前に聞かされてな、途中にそんな話が出たんだよ。それから―――――」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
解ってはいたが矢張り京かと、溜息を吐く。
(俺が告白を受け入れないから周囲の人から埋めていく気だな)
「・・・・・・やっぱりあれは京の嘘か」
士郎は大和の溜息ぶりを見て、京の惚気話の信憑性の低さがほぼから完全に移り変わった。
「嘘って気づいてたんなら、如何して確認取るんですか?」
「一応・・・な。――――後もう一つ聞きたいんだが、如何して京じゃ駄目なんだ?」
「京から話を聞いてるのであれば、判る筈です。アイツは真剣なんですよ?」
そう、大和が京の告白を受け入れない理由はそこにあった。
全員とはいかないが、告白を受け入れてから付き合い出しても、それ=婚姻確定では無い。
しかし都はそのステップをすべて無視して、大和に告白を受け入れられたら死ぬまで離れない覚悟でいるのだ。
その為、大和自身もそれを本気で受け入れた上で、愛せる覚悟が無いまま中途半端にするわけにはいかないと言うのが“言い分”である。
勿論、京から直接話を聞いているので、士郎も事情を察する事は出来た。
それ故、こんな提案をする。
「だったら仮初の付き合いを京に提案してみればいいんじゃないか?」
「それは駄目なんですよ。アイツはその仮初の付き合いを、一日で既成事実を作るために押し倒しに来る筈ですから」
「そうなのか・・・。けど、京の様に何所までも一途に思っている娘もそんなに居ないんじゃないか?親しい友人以外には内気だった自分を、変える努力をした所なども評価に値するだろう?」
「・・・・・・」
京は確かに昔から内気だった。
風間ファミリー以外のメンバー以外とは最低限の礼儀も取るか怪しかった。
それが約半年前、大和の忠言も聞いてこなかった京が突然社交性を努める様になったのだ。
そして今では最低限の挨拶と、自分から話しかけないが誰かから話しかけられればそれにちゃんと対応して話すようにもなって来たのだ。
大和としては嬉しい変化ではあったが、ある疑問が残った。
京に変化を促した要因は何なのかと。
そして今日までもその疑問はあったが、京をひたすらに薦める士郎を前にして、何故かその理由が士郎にあるのではないかと思った。
「衛宮先輩、重ね重ね質問で返す失礼を承知で聞きます。京が変わった理由を何か知ってますか?」
「ん?ああ。俺がな、直江と将来結婚した時のために、今の内から社交性を上げる努力をした方が良いぞと助言したんだよ。直江は人脈作りとかもしてるだろ?それで将来結婚した直江の奥さんの態度が悪いと酷評を上げられれば、直江自身の足を引っ張る事に成る。直江の妻として相応しくなるなら尚更だとな。それに――――」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(パクパクパクパク)」
大和の直感は正しかったが、思わぬ理由に開いた口が塞がらない。
「――――って事なんだよ。まぁ、直江の妻になるにはどの様な行動が相応しいかと言うアドバイスを求められたからこそ、助言したんだがな」
「・・・・・・・・・」
大和はその言葉を聞き終えた直後、口を漸く閉じて立ち上がった。
しかも随分と剣呑なオーラを纏わせて。
「如何した?直江」
「すいません、衛宮先輩。急用を思い出し――――出来たので、先に上がります」
そのまま大和は、士郎の返事や他の面々の反応を無視して脱衣所へ駆けて行った。
その頃、聞き耳を立てていた京はスッと壁から耳を離す。
いくら湯ぶねに近い浴場地だからと言って、尋常では無い程の汗をかく京。
そんな京を心配した一子が聞く。
「如何したの?京?」
「ゴメン、ワンコ。私逃避を思い出したから、先に上がるね」
「急用って・・・入ったばかりじゃない。湯冷めしちゃうわよ!」
『後で入り直すから大丈夫ぅぅぅ・・・・・・』
京は大和からの捕縛から逃げる為に、心配する一子の言葉に走りながらも答えて脱衣所に向かうのだった。
後書き
長くなるので分けます。
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