幽霊でも女の子
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2部分:第二章
第二章
晴れてその部屋に入った。見れば。
「へえ、これはかなり」
その部屋はマンションの一階であった。しかも本当に駅からすぐ側で周りには店も充実している。しかも部屋は親父の言葉通り立派な風呂もトイレも台所も揃っている。3LDKの立派な部屋であった。
「家具はこっちでいいですね」
「ええ、どうぞ」
引越し屋にそう応える。彼等はそれぞれの家具を相応しい場所に置いていっていた。こうして忽ちのうちに部屋は人が住むものになったのであった。
あらためて見るといい部屋だった。しかもクーラーももう備え付けられている。なおかつそれはヒーターにもなるものであった。暮らすには十二分な場所であると言えた。
「何かあるようだけれどな」
政之は部屋の端に置かれたベッドの上に腰掛けて呟いた。だがそれでも平気な顔なのは親父と話をした時も変わりはしないのであった。
「さて、それは何かな」
「今度来たのは貴方ね」
そう呟いたところで何処からか声がした。
「貴方がこの部屋に住むのね」
「誰かわからないけれどそうさ」
その声に対して答えた。答えながらこの声がその二万円の根拠なのだと察していた。聞いてみれば若い女の声だった。しかもかなり奇麗な声であった。
「それがどうかしたのかい?」
「そう、貴方が」
女の声はそれを聞いて頷いたようであった。政之は声が納得したのを確認してからまた言うのであった。
「同居人がいるとは聞いていないんだがね」
「私はずっとここにいるから」
声は今度はこう答えてきた。
「だから同居人ではないわ」
「意味が通じないんだけれどな、それって」
政之はまた言い返した。やはり平気な顔で。
「同居人じゃなかったらあんたは一体何なんだ」
「ここにいる者よ」
これが彼女の返答であった。
「この部屋に」
「じゃあ同居人じゃないか」
政之はまたしても言い返す。ここでも言葉の調子も顔も変わらない。
「どう違うんだ」
「だって私はここから離れらることはないから」
「引き篭もりかい?よくないぜ」
「それでもないわ」
向こうもまた政之の言葉を否定してきた。
「悪いけれどね」
「じゃああんたは一体何なんだ?」
少し挑発気味に女の声に問うた。
「そもそも姿も見せないし。一体何者なんだ」
「姿はあるわ」
「じゃあ見せてみてくれよ」
また少し挑発を含んで言うのだった。
「あんたのその姿ってやつをよ」
「わかったわ。それじゃあ」
それを受けてようやく姿を現わしてきた。しかもテレビから姿を這い出してきて。黒く長い髪を垂らした細身の女だった。白いブラウスとスカートを身に着けている。肌はあくまで白く雪と同じ色になっている。顔は少し細くそれで目鼻立ちはかなり整っている。特にその目が印象的で一本調子の眉の下にカマボコを寝かしたような形できらきらと光る黒目がちの目であった。それがかなり奇麗であった。
「何だ。何かと思えば」
政之はその彼女を見ても平気な顔で言うのだった。
「美人じゃないか。どんな化け物かって思ったら」
「私を見ても平気なの?」
「何がだい?」
彼女が怪訝な顔で問うてきてもやはり平気であった。
「私を見ても。普通は」
「ああ、あんた幽霊だろ」
またしても平気な顔で彼女に言ってきた。
「そういうことだろ?わかってるさ」
「わかってるのならどうして平気なのよ、そんなに」
「普通は察しがつくものさ」
政之は平然として答えた。
「テレビから出て来た時点でな」
「何となく演出狙ったのよ」
幽霊はむすっとした顔で政之に答えた。
「全然驚かないし」
「こんなので驚く奴もいないしな、今頃」
大抵は驚くが彼は別なのだった。
「少なくとも俺はな。そうだよ」
「随分肝っ玉が太いのね」
「それについては自信があるさ」
政之はまた平然とした顔で答えてみせた。
「学校にいた暴力教師をマスコミに通報して社会的に抹殺してやったこともあるしな」
「強いわね」
これには幽霊も驚いた。政之の神経の太さにだ。
「少なくとも敵に回したら怖いタイプね」
「褒めてくれて悪いな。しかし一つ聞きたいんだけれどな」
「一つって?」
「あんたの名前だよ」
政之は幽霊の顔を見て問うのだった。
「何ていうんだ?聞いておきたいんだけれどさ、これからずっと一緒に住むんだしな」
「幽霊に名前聞くの?」
「だから一緒に住むんだろ」
そこをまた言う。
「それだったら当然じゃないか。そうだろ?」
「こんな人はじめてだわ」
幽霊は自分の名前を聞く政之に対して呆れていた。今までこんなことはなかったからだ。少なくとも彼女がはじめて会ったタイプである。
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