馬鹿兄貴
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3部分:第三章
第三章
「こういうことだ」
「辞書まで変えているの」
「限度なんて言葉は俺には不要だ」
こう言い切るのである。
「そんなのな。わかったか」
「呆れた。わかっていたけれど」
またうんざりとした声になっている日和だった。
「おかげで私はまともな高校生活を送れていないじゃない」
「悪い虫がいないのがそうだ」
「悪い虫どころかまともな生活じゃないんだけれど」
日和が言うのはそれであった。
「授業参観だって何よ」
「何だ?」
「白いスーツで来るし」
「あれが俺の正装だ」
このことについてもこんな有様である。
「あれがな」
「そんなので来たから皆ドン引きじゃない」
そう言うのであった。
「いきなり教室にズカズカって入って来て。家の人まで一杯連れて来て」
「授業参観だぞ」
健一の反論の根拠はまずここにあった。
「それで連れて来ないでどうするんだ」
「どうするって。お兄ちゃん一人で来ればいいじゃない」
「ああ、それですね」
「あっし等も言ったんですよ、組長に」
「それがですね」
健一の後ろにズラリと並んで正座している面々が答える。三十人はいる。言うまでもなくこの組の組員達である。皆立派なテキ屋であり賭博の仕切り屋である。実に古風なその筋の連中だ。
「組長全然聞いてくれなくて」
「それで」
「やっぱりね」
わかっていたが話を聞いてまた呆れる日和だった。
「言っても無駄なのね」
「無駄って何だ無駄って」
健一はまた言い返す。
「俺は御前の為にだな」
「だからそれが大きなお世話だっていうのよ」
正論を言う。
「一人で着てよ。普通の格好で」
「しかもだ。悪い虫がいないとどうかチェックする必要がある」
またこれであった。
「だから俺はだな」
「人の話聞いてる!?」
またしてもうんざりとした顔を見せる日和だった。
「だから。迷惑なのよ」
「ぬわにぃ!?」
迷惑と言われてその顔を思いきり歪めさせてきた。
「迷惑だと!?今何つった!」
「だから迷惑なのよ」
言い言葉に買い言葉の要領で兄に返す。
「そんなね。悪い虫ってね」
「世の中色々な奴がいるだろうが」
「お兄ちゃんみたいなあれもね」
ここでも容赦のない日和だった。
「いるけれどね」
「あれだとお!?」
またしても激昂する健一であった。
「いい加減許さねえぞおい!」
「今更許すだのないでしょ!いつもいつも!」
「とにかくだ!許さん!」
顔を真っ赤にさせて妹に叫ぶ。
「変な場所に行くのはな!これからゲームセンター禁止だ!」
「何でそうなるのよ!」
「ゲームセンターは不良の溜まり場だ!」
今度の主張はこうであった。
「そんな場所に花の女子高生が行くなぞ言語道断だそもそもな!」
「お兄ちゃんの組だってゲームセンター経営してるじゃない!」
「それはそれこれはこれだ!」
妹に言葉では負けていても理不尽さでは勝っていた。
「とにかくだ!今後ゲームセンターには出入り禁止だ!いいな!」
「誰が守るもんですか!」
「まだ言うのか!」
こんな感じでいつも言い争う二人であった。こうした言い争いを続け毎日を過ごす二人であった。そしてそんなとんでもない日常が進む中で。日和の前にある男の子が現われたのだった。
「あのですね」
「はい?」
その目の前にやって来た華奢な男の子を見て声をあげる日和だった。背は高いが色は白く身体は細い。顔立ちも女の子みたいで優しい感じだ。まるで漫画に出て来るような中性的な男の子だった。
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