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SAO‐戦士達の物語《番外編、コラボ集》

作者:鳩麦
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コラボ・クロス作品
戦士達×RoH
  Roh×戦士達 Prologue

 
前書き
皆さまどうもです。鳩麦です。

さて、そんなこんなで、またしてもやってまいりました。
今回は、「木野下ねっこ」先生が2014年の七月に完結させられました、[ソードアート・オンライン リング・オブ・ハート(以下Roh)]と私の稚作、[SAO─戦士達の物語]のクロスオーバー作品をお送りしたいと思います。

実は以前一度、相宮心先生の[ソードアート・オンライン─ツインズ─]とコラボした際に、美しい挿絵を書いていただいたお礼も兼ねておねだりをして、同じようにクロスオーバーを書かせていただいた事がございます。
つまり今回のRohとのコラボは、事実上二回目になるわけですね。
ま、その当たりの事はあとがきでお話しするとして、まず、お読みになる前に幾つか注意書きを。

まず、今回の物語はRohの本編中に起こった出来事を題材にして、その世界がもし“戦士達”と共通した部分を持つ世界で有ればどうなって居たか?という仮定の下に描かれたIfの物語です。
なので、前提としてRohの本編を読んでいらっしゃると、作品の状況がよりよく正しく理解でき、面白いと存じます。
加えて、Ifの物語ですので本来のRohのストーリー展開とは、完全に事なった方向性の展開になります。「本来のRohのスト―リー(展開)が心から気に入っている」「他の展開はちょっと……」と言う方などは、少し注意していただけると幸いです。


さて、それではそろそろ、本編へと向かってまいりましょう。
最後まで是非お楽しみいただけますように……

では、どうぞ! 

 
雪深いその日、一人の子供が、その場所に立っていた。


子供は、助けを求めた。
自らと、自らの友を、純粋な善意によってのみすくい上げてくれる、そんな“善人”を、子供はその雪の中、当ても無く唯一人で待っていた。

善人と言うのは、得てして探して表れると言う物ではない。ある一個人にとっての善人と言う者はすなわち、偶然とほんの少しの必然と、そして何よりも幸運が合わさる事で初めて出会える者であり、そうでなければ大概の場合、何の力も、魅力も、見返りも持たない者の助けを求める声は、虚空の彼方に溶けて消える物である。
この子供の声も、そうだった。
道端に立つ彼がどんなに道行く人に声を掛けようとしても、すがろうとしても、人々は彼を無視し、あるいは不審視し、あるいは不快感を示すようにして、雑踏の中に消えて行く。
それでも子供は……小さな望みと、人の善意を信じていた。何故なら、彼の父は言ったのだ。「人は、信じあえる生き物である」と。母は言ったのだ。「人は温かい生き物なのだ」と。そして彼は、両親のその言葉を、一片の迷いも無く信じていたのだ。
たとえ、自らの容姿が現実と言う世界で、人を遠ざけていたとしても。
たとえ、人と呼ばれる生き物の中に、唯一人の「友」と呼べる者すら、見つける事が出来てはいなかったとしても。
自らを慈しみ、抱きしめてくれた両親の温かさは、彼に「人」と言う存在を、信じさせていたのだ

……しかし。

子供はやがて、ドシャリと水気混じりの音と共に、地面に倒れ伏す。既に二日間、碌に睡眠もとらずに助けを求め続けた結果、力を使い果たし、最早立っていることすらできなかったからである。だが其れを見てすら……道を行く人々は、子供に、手を差し伸べようとはしなかった。

子は、自らに問うた
人は、信じあえる生き物である。そう、父の言葉と、母の温かさを、信じて来た。だがもし、其れが真実であるのなら……「これ」はなんだ?
この……こんな、こんなにも、醜く汚れて映る世界の、一体何を信じれば良い?
信じあえる?温かい人?何処にそんな人間がいる?
こんなものが人だと言うのなら、人と言う存在が、本質的に見ればこんなものであると言うのなら……いっそ……

「……ひっ……!」
息を飲む、音がした。
其れはきっと、自らの思考その物にたいして、少年が恐怖した声だったのだろう。
何故なら彼が今問うているのは即ち、これまで自分が信じ続けて来た価値観そのもの。其れを疑い、間違いだと認めてしまったなら、其れは即ち今まで思考と価値観を殺す事と同義だからだ。
子は、自らを疑いだした自分を押さえつけるように、自分の身体を抱きしめる。

違う、人は信じあえる筈だ。温かい筈だと、己の価値観を否定してはいけないと。子は必死に生まれ始めた疑念と、憎悪を抑えようとする……が、それが、可能な道理は無かった。

子の価値観は、親に依存する所が大きいのは周知である。
親の教育や指導は、子の思考や価値観を定める上で、非常に大きな意味を持つ。
その点で言うならは、この子供の両親は、非常に温かい物を彼に受け渡したと言えるだろう。……だが、それらを一瞬で塗り替えてしまえるほどに、個としての価値観を強烈に決める物が有る。……即ち、経験だ。
自らが経験した事は、他のどんな事よりもその個としての価値観や思考を強烈に決める効果を持つ。ならば其れは、自らが身をもって経験した絶対的な真実であり、人から聞いた、あるいは教えられたどんな知識や価値観よりも、明瞭で、すぐ其処にあるからだ。

そう考えてしまえば、彼の価値観が今、崩れ去ろうとしている事はある意味、当然の帰結と言えた。
何故ならこの子供の価値観や理念はあくまで親から受け取った物。彼はまだ、その本当の意味をよく知りもせずに、ただ盲目的に親の教えた価値観に従っていただけの、一人の子供にすぎなかったのだから。
そしてその脆い価値観を今、経験した底の無い人間の悪意と冷たさが、粉々に砕き、押し流していく……

「ち、ちがっ……だれかっ、たすけっ……」
自分を呑みこみ、塗りつぶそうとする、暗く冷たい、深い深い思考の激流の中から、彼は必死に助けを求めて手を伸ばす。
誰かが、あたたかな手を持つ“誰か”が……この手を引き上げてくれる筈だと、そう信じているから。

「お願い……誰かっ……!」
寒い、苦しい、悲しい、冷たい、冷たい……!冷たいっ……!!
そう思いながら、自らの信じた物がゆっくりと、しかし確実に破壊され、押し流されて行く感覚を味わい、一人の子供の心が、確実な速度を持って、絶望と言う深い深い暗闇に、塗りつぶされて行く……

「――だれか助けてぇぇえええっ……!!!!」
伸ばした手を取る者は無く、人々はその奇妙にかすれ、喉を引き裂くような声を聞いて、更なる不快感と嫌悪の目と共に、彼から離れ……

「────……ん?」


──届いた──
 
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