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SAO‐戦士達の物語《番外編、コラボ集》

作者:鳩麦
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コラボ・クロス作品
戦士達×剣聖
  剣聖×戦士達 一ノ試練

石造りの通路を歩きつつ、ふとリョウが聞いた。

「そういやソレイユ、お前さっき剣聖とか呼ばれてたよな?あれ、何だ?」
「あー、あれね……昔の通り名っていうか……リョウも居たんでしょ、SAO?その頃の二つ名だよ。リョウは……ジンって言うんだ?」
「あぁそう言う事な。そだな。ンな風に呼ばれたこともあった……って、剣聖っちゃまた随分と大仰な通り名だなぁ」
感心したようにリョウが言うと、ソレイユは苦笑して答えた。

「色々由来はあるんだけどな……個人的にはそんなにねー」
「まぁ、二つ名なんつーのは周りが勝手に呼び出すもんだしな」
「そういうこと。けどな……」
何か言いかけたソレイユだが、首を数回横に振ると……

「やっぱ、なんでもねぇよ」
そう言って歩いて行くソレイユを前にしつつ、リョウはふと考えた。しかし……そんな大仰な二つ名ならば知っていてもおかしくないような気がするのだが……

『まぁ、良いか』
気にすることもあるまい。とリョウはそのまま歩く。
ちなみにソレイユは、特に知らない事に疑問は持っていなかった。何しろそこまでよく攻略に参加していた訳ではないし、中層なら知りようも無いと言う物だ。

────
さて、石に囲まれた通路をしばらく進むと、少々通路が広くなる。そうして、そのまま進むと……目の前に、アーチ型、鋼鉄製の門が見えた。見上げながら、リョウはのんびりとしたようすで呟く。

「こりゃあ、門か?」
「みたいだな」
高さは大体三メートルくらい。SAOのボス部屋と比べると幾らか小型(と言っても十分デカイが)の大きさの門だった。近づくと、扉の上、石のアーチに、何かが彫られているのが分かる。

「一ノ試練 迷宮、だってさ」
「うわぁ、めんどくさそうな響きだなオイ」
ソレイユの言葉に、リョウが顔をしかめる。迷宮と言われると、例えばSAOにおける迷宮区をリョウとしては真っ先に思い浮かべる。あそこもお世辞にも楽しい場所とは言い難かった訳で……まぁ、正直迷宮と言う物に良いイメージはない。ソレイユもまた、それは同様だった。しかし特にそれを表情に出すような事も無く、彼は扉を押す。

「よっと」
「ん~」
トンッと、ソレイユが扉を押すと、それは重々しい音を立てて開いて行く。リョウはと言うと、その様子を首を左右に捻っていたのんびりとそれを眺めていた。完全に扉が開ききると、ソレイユはためらう事も無く再び歩き出し、リョウも続く。

「……なるほど、ね」
「うっわ……」
入った瞬間に、出ていた迷宮の名が、けして冗談や嘘では無い事を思い知る。入った位置は中心に太い一本の柱がそびえたち、その先に三本の通路が伸びていた。
と、後ろで扉のしまる音が聞こえて振り向くと、そこに有ったはずの扉が消え、唯の壁に変わっていた。再び前を向き、リョウは言う。

「ここを抜けろってか……」
「らしいな。さて、どうすっかね……」
「勘でよくね?」
ニヤリと笑って聞いた

「時間があるならそれも楽しいと思うんだけど……今回はその意見は却下だ」
そう言って、ソレイユは柱の周りを探索し始める。ふーむ、とリョウも息をついてのんびりとその中に歩きだした。
周囲を見渡せども、壁壁壁。一応燭台が付いては居る物の、そこから発される灯りはけして明るいとは言い難い。しかしふと地面を見ると、それとはまた別の物が目に入った。

「なんだこりゃ」
そこには大量の人間の頭蓋骨や、その他の人体の骨が所々に落ちていると言う光景が有った。まぁ、それだけならば特にこの手のダンジョンでは珍しい事で無いのだが、リョウが疑問の声を上げたのはそこでは無い。その中に一つだけ、牛の頭蓋骨のような物が有ったのだ。それを眺めていると、柱に近づいて居たソレイユが声を上げた。

「手掛かりゲット♪」
「お?早いな、なんだなんだ」
リョウが駆け寄ると、ソレイユは柱の一点を指差した。

「これ、なんだか知ってるか?」
「こりゃあ……」
ソレイユが指差した柱の一部には、絵が彫り込まれていた。二人の人影のような物が、かなり密接して描かれている。よくよく見てみると、片方は頭が人間の物ではなく、もう片方は何やら短剣のような物を持っているように見える。

「あれだろ?ミノタウロスと、英雄テセウス……だっけか?のバトルシーン」
「正解。その伝説についてどのくらい知ってる?」
ソレイユの言葉に少し考えて、リョウは答えた。

「えっと、確かテセウスの親父が王様で、なんか、戦争に負けたかなんかでミノタウロスの居るラビリントスに七人だか八人だか生贄を送んなきゃなんなかったと。で、それにキレたテセウスがミノタウロスを退治するために自分から生贄に志願してタウロスを倒す……みてぇな話しだろ?」
「大雑把だけど、大体あってる」
苦笑しながら言ったソレイユに、リョウは首をかしげて尋ねる。

「つーことは何か?この迷宮が、ラビリントスだっていいてぇのか?」
「まぁ、そうだな」
「けどよ、それが分かっても脱出方なんてわからねぇだろ?」
「いや、そうでもないさ。実際、テセウスはラビリントスから脱出してるんだよ」
そう言うと、ソレイユは少し屈んで柱の下に手を伸ばす。

「これを使ってな」
「……あぁー」
ソレイユが掴んで持ち上げたそれは、長く赤い、一本の糸だった。それは中央の通路へと続いている。

そう、単純な話、英雄テセウスは、長い麻の糸を垂らしながら進むことで、ミノタウロスを倒した後、帰り道が分かるようにしておいたのだ。
つまりこの糸は、ミノタウロスが倒れたその場所と、出口、もとい、迷宮の入口をつないでいる事になる。そして……

「で、そこに牛の頭蓋骨が有ることから分かる通り」
「ミノタウロスが倒されたのはこの場所ってわけか」
「あぁ……この糸をたどって行けば、出口の筈だ」
「おっし、んじゃ行くか!」
リョウがそう言うと、ソレイユは立ち上がって再び先に歩きだした。それに続くように、リョウも歩きだす。道筋はまだ、始まったばかりだ。

────

「……迷宮に板渡りとは……斬新だなぁ、オイ」
「確かになー」
少し大袈裟な表現で言ったリョウに、ソレイユが返した。

今、ソレイユとリョウは幅五十センチ程度の木の板の上を渡っていた。左右に手すりの類は無く、眼下十メートル位の位置には剣山が立っている。落ちれば即死確実だ。
迷宮内であるためか風は無いので煽られて落ちると言うことはまずないが……

「ソレイユよぉ」
「んー?」
「お前、何で刀を二本も装備してんだ?使わねぇだろ?」
ソレイユは特に考えるそぶりも見せずに答えた。

「古来の侍は刀を一本しか使わなくても二本腰に差していただろ。それに倣ってだよ」
「何じゃそら。歴史好きなのか?」
「まぁ、好きな方かな」
「へぇ……」
なんとなしに言うソレイユに、なんとなしにリョウも答えると……

「おっ」
「ん?」
ソレイユが声を上げ、リョウが首を傾げる。因みに歩みは止めていない。

「出口の扉らしきものが見える、んだけど……」
何やら言葉を濁すソレイユに対して、いい加減綱渡り気味な状況が嫌になっていたリョウは意気揚々とその扉に向かおうとする。しかし……

「おぉ、うし、さっさと通過しようぜーって……げ」
心底嫌そうな声なリョウの声を聞いて、ソレイユが苦笑する気配がした。

「気付いたか」
「あぁ、何だってんだこんにゃろう……」
リョウが見つめていたのは、その先に有った扉……では無い。扉自体は、あくまでごく一般的な木の扉だ。先程と同じく左右に押し開くタイプで、特に珍しくもなければトラップも無いだろう。問題はその手前……の、谷底である。
そこには、大量の頭蓋骨やら人骨やらが、剣山に突き刺さった状態でそこらじゅうに転がっていた。しかし考えてみてほしい。これはおかしくないだろうか。何しろ足場は手すりが無いとはいえ五十センチの幅があるのである。普通に歩けばまず間違いなく不安定ではあれ、落ちることはない。にもかかわらず、ゴール手前で何人もの人間が死んだあとが有ると言う事は……

「走った方がいいか……大丈夫?」
「はぁ……ご自由にどうぞだ」
リョウの言葉を聞くや否や、バンッ!と音を立ててソレイユは一気に走りだした。体を前傾形にして、狭い橋の上をもの凄いスピードで全く軸をぶれさせる事無く一気に駆け抜ける。

「……忍者みてぇだな」
唖然とした様子で言ってから、リョウは幾らか遅く、トコトコと駆け足で走り出す。出そうと思えば今のソレイユくらいのスピードでリョウも走れるが、流石に彼のように軸をぶれさせることなく走る自信はない。

数秒走って、岩がそのまま壁からせり出したような小さな足場の上でソレイユは扉を調べていた。
しかし……

「やっぱ開かない、か……まぁ、当然だな……」
「どうだ?」
後ろから追いついてきたリョウがソレイユに問うた。首を横に振りながら彼は答える。

「ダメだな。案の定、開かない……」
「ってことは……」
リョウが言いかけた。その時……

──小さく、風が頬を撫でた──

「……ちょうどよく、鍵が来てくれたようだぞ?」
「みてぇだな……あー、面倒くせぇ……」
ぼやきながらも、リョウは青龍偃月刀を担ぎ直し、左を見る。その向こうに、物凄い勢いで接近してくる黒い影が見えた。その影はアッと言う間に大きくなってくる。

「……とりあえず、足踏ん張っとくか」
いいながら、ソレイユは刀を抜き、それを地面に突き刺した。

「だな」
リョウもまた、青龍偃月刀を担ぐと、しっかりとその場に足を踏ん張る。

そうして、近づいてきた黒い影は……リョウとソレイユがギリギリで立っていたその足場の真横を、一瞬で飛び抜けた。

「鳥か」
「鳥だな」
一瞬見えたシルエットから、二人が言った。赤く、かなり両翼の先と先の幅が七メートルはあろうかと言う、巨大な鳥だ。次いでその巨鳥を追いかけるように、突風が吹き荒れた。
恐らくこの下に居る者達はこの鳥と風にやられたのだろう。これだけの速度で駆け抜けられるのならば、突風だけで足場の無い人間など容易く叩き落とせる。それが証拠に、小さな黒い点となった鳥は、どうやら旋回して来ているようだった。おそらくだが、突進だけが奴の攻撃方なのだろう。実際それで十分だ。しかし……

「そうだな……リョウ」
「ん?」
首をかしげたリョウに、鳥の方を指さしてソレイユは言った。

「俺をアイツに向かって飛ばせる?」
「あー、できねぇ事ねぇけど」
「そうか。んじゃ、ちょっとやってみるとするか……」
「って、アイツの上に乗る気かぁ!?」
驚いたように言ったリョウにソレイユはあっけらかんと頷く。

「まぁ、何とかなるだろ。あのスピードじゃ方向転換はできねぇだろうし、避けられることはないだろ」
「そりゃそうだがなぁ……自信あんの?」
「やってみればわかるさ」
力みも無く、ただふっと微笑して言ったソレイユに、リョウは苦笑する。

「成程……って、あぁ。そうか」
一人で納得したように頷いたリョウにソレイユが首を軽くひねった。ニヤリと笑って、彼は言った。

「んじゃいいや。ソレイユ。お前さん取り着いたらアイツの目ぇ潰してくれるか?」
「目を、か?」
「あぁ。後はやるから……あ、その代わり速攻脱出な」
まるで悪戯を思いついた子供のようにそう言ったリョウに、ソレイユは彼がやろうとしている事を何となく察した。ちなみに自分の思っている通りなら、実際の所かなり自分が危ないのだが……なんとかなるだろう。
リョウはリョウで、何となくソレイユの実力に信頼感のような物を感じていた。まぁ勘だが、自分の勘はよく当たる事をしっかり知っている為、特に迷いはない。

「了解」
「おっけ……んじゃ乗れよ」
木の上に飛び出したリョウが、鳥の方に向くと同時に冷裂の刃を横にして構える。ソレイユはその刃の上に飛び乗る。既に鳥は旋回を終え、此方に突進を開始していた。

「んじゃ行くぞ~」
「おう。何時でもいいよー」
ソレイユの返事を聞きつつ、接近してくる鳥との距離を測り……

「さーん、にー……」
いちが無くて……

「ぜろっ!!!」
言うと同時に、リョウは思いっきり冷裂を振り切った。

ソレイユの耳元で、轟っ!と音がして、一気にソレイユは鳥に向けて飛び出す。速度自体かなりの物だったが、まぁ自分が全力で走っているのとそこまで変わらない。と思った時には、鯉口を切っていた。

超高速で互いに移動している二つの影の内、片方から銀閃が閃く。飛行する影の片割れである巨鳥がそれがなんであったのかを理解する事は無い。何故ならばそれが閃いたと同時に、彼の視界が突如として遮断されたからである。
同時に背中を駆け抜けた一閃の痛みを感じつつも、しかして、それに混乱したとしても彼のアルゴリズムは飛行することをやめはしないし、そもそもこれだけ付いた勢いはもう止まりはしない。

そうして、巨鳥はそのまま一気に橋へ向かって直進し……

「割れろ」
この声と同時に、その進路を強制的に斜め下へと変えた。

────

振り下ろした冷裂が鳥の頭をもろに捕え、その進路を強制的に下向かせる。しかし直進する勢いだけは収まることなくそのまま下に向かって合いも変わらぬ凄まじいスピードで落下した。しかし当然その先には剣山が有る訳で、そこに向かって突っ込み、なおも直進することになった結果……割れるどころか八つ裂きになり、超速の巨鳥は爆散した。

「ふぅ」
「よっと」
小さく息を吐いたリョウの左隣に、ソレイユがとんっと音を立てて着地する。ちなみに言っておくが、勿論此処は橋の上だ。
互い違いの方向を向いたまま、二人は言った。

「ま、こんなもんだろ」
「だな」
其々言って、二人はのんびりと扉の向こうへ消えた。

────

「なんつーか、迷宮って言う割にゃ、分かれ道の一本もねぇなぁ……」
少し急な下り坂を歩きながら、リョウが言った。
彼の言う通り、一本目の通路で中央を選んでからは、二人の行く先に分かれ道は一本も無かった。まぁ道を選ぶ必要が無い分楽では有るのだが……と、首だけで振り向いたソレイユが言う。

「いや、これで正しいはずだ」
「あ?」
「迷宮っていうのは、迷路と違って別れ道はなく曲がりくねった一本道っていうのが定義だったはずだ」
思い出すように言ったソレイユに、リョウは感心したように声を上げる。

「はぁ~~そうなのか?俺はもう迷宮っつったらSAOみてぇなあれしかイメージ出来ねぇわ」
「まぁ、あれを体験してるのならそう思っても仕方がないけどな」
笑いながらそう言って、ソレイユは再び前方を向く。と、即座にその足を止めた。
同時に、リョウも歩みを止める。

「……リョウ」
「気のせい……じゃねぇな」
言いながら、二人はゆっくりと振り向いた。
何故立ち止まったか。簡単な話だ。……地面が、少しだけ揺れていたのである。

「来てるな」
「ああ、来てるな」
聞き耳を発動させると、音が聞こえた。
そもそも想像しておくべきだったのだ。こんな遺跡っぽい通路で、下り坂と言えば……振り向いた二人の視線の先に、それはあらわれた。

「来ったぁ!?」
「うわっ……」
言うが早いが、二人は今度こそ揃って走り出そうとして……走り出す寸前にソレイユがそれに向かって短剣を投げ、刺さった。確認すると、今度こそ二人は走り出す。
それを、かなりのスピードである物が追いかける。皆さんご存じ。丸い大岩である。しかも……

「つーかスパイク付きとか何殺傷力重視してんだコラァァァ!!」
「まったくだ……」
リョウが叫び、ソレイユも言いながらとんっと飛んだ。追いかけて来る大岩にはびっしりと鋼鉄製の棘が付いており、なんとも殺す気満々だ。しかも……

「てか、あれ早くね!?何!?モーターでも入ってんのか!?」
かなりのスピードで走っているにも関わらず、相変わらず岩はしっかり追従して来ていた。
しかも丸い岩の癖に、スパイクのせいなのか、左右に通路と三十センチくらいの幅を常に開けて転がって来ていて、床と天井との摩擦による減速が全くない。

「もしくは天の声(笑)が速度調整してるとか?」
「ふざっけんなあのやろぉぉぉぉ!!」
ありえなくないことを述べるソレイユの言葉から首謀者に向かって罵声を叫けぶリョウだが、その間も二人は走り続けている。しかし数分無言で走ると……ソレイユが小さくぼやいた。

「……飽きてきたな」
「んなこと分かってんよ!」
言いながら走る。全力疾走ではないが、どうせ同じ通路を追いかけて来るのが分かっているのだから、少なくとも出口が見えるまで全力で走るべきではない。疲れる。

「めんどうだな、さっさと片付けることにするか……リョウ、先に行ってっから」
「は?お、おい!ソレイユ!」
ひゅんっ!と音を立てて、ソレイユがスピードを上げた。合い分からずの忍者速度で走った彼は、あっという間に通路の向こうの暗闇へと消える。

「なんだってんだ……あーもー、面倒臭ぇ……」
言いながらリョウは尚も走る。走る。走る……

────

そうして数分走った頃、前方にようやくソレイユの姿が見えた……こちらを向いた状態で。

「は?ちょ、おい!何してんだお前!」
「ふぅ…………」
溜めた息を静かに吐きながらソレイユは納刀した状態で柄に手を掛け、丁度居合の構えのように腰を低く取って重心を落としていた。
無論立ち止まっており、動く気配は無い。一瞬引きづって連れて行こうかと思ったが……

「っ……」
その構えから言いようの無い威圧感を感じて、やめた。そうして、無言でそのままダッシュしたリョウが、彼の横を通った瞬間……彼は、動いた。

剣聖 最上位単発溜強化技 《ワールド・エンド》

「マジ、か」
ソレイユが刀を振り切った……瞬間大岩が真っ二つに割れた……否。斬れた。
縦一閃。まるで包丁を立てたスイカ(いや、ドリアンか?)のように、見事に真っ二つとなった大岩は、左右に傾き、スパイクによってその勢いを急激に緩める。斬った本人であるソレイユはと言うと、間に出来た丁度六十センチほどの隙間が彼を飲み込み、その姿が岩の向こう側に消えた。そしてリョウもまた、そこを逃さずしっかりと飛び込み……

ズズズズ……と言う重々しい音を立てて、着地したリョウの後ろで大岩が停止する。
剣を振り切った体勢で停止していたソレイユは、しばらくそのままだったが硬直時間がようやく切れたのか、体勢を戻して刀を鞘に納める。
チンっと言う金属の高く堅い音を立てて刀を収めた彼は、そのまま大きめに息を吐いた。

「ふー……(長い間体勢固定だったから)肩こった……」
「なんつーか、インディ・ジョーンズもびっくりな、文字通り“斬り”抜け方だな。オイ」
呆れたようにリョウが言うのに対して。首だけで振り向き、二ヤッと笑ってソレイユは言った。

「褒め言葉として受け取っておこう」
通路を降りた先に、EXITと書かれた扉を見つけたのは、その十分後の事だった。


一ノ試練 迷宮 突破。
残り時間 14:05

────

「あのー、……もしかして、貴女も誰かを待ってるんですか?」
「へっ!?あ、はい。ちょっと友達を……」
隣に座った少女に声を掛けられ、極静かな声であったにも関わらず、美幸は驚いて片を震わせた。
そんな様子に苦笑しつつ、黒髪の少女は続ける。

「あっ、同じなんですね。私も人を待ってるところなんですよ」
「あははは……その、恋人さん、ですか?」
何となく話しやすそうだ。そんな風に思って、美幸はふと先程の疑問を言葉に変えてみる。と、言ってしまってから踏み込み過ぎたと思い直して焦る。

「えっ!?あの……その……えっと……はい……」
「わぁ……!」
しかし予想外な事に、なんだか素直に、かつ特に不快感もなさそうに答えてくれたため、なんだか少し嬉しくなってしまった。と、少女は少し不思議そうに首をかしげる。

「あのー、どうして分かったんですか?」
「え、あ、えっと……」
少女……ルナこと、柊 月雫としては、自分はそんなに“恋人を待っています”オーラ的なのを出しているのかと疑問に思った真剣な問いだったのだが、美幸はと言うと、少し困ったように首を傾げた後、微笑んでこう答える。

「ただの勘です。何となく、そんな気がしただけですよ」
「へぇー、凄いですね。お見事です……って言う事は……」
と、何かに気が付いたように月雫が言った。

「そちらも、恋人さん待ちなんですか?」
「……へっ!?」
ボンっ!と美幸の顔が赤くなる。その反応を見て面白い物を見たと言うように、月雫は少し悪戯っぽく微笑む。

「あ、当たりですか?」
「い、いえ!ちがうくて、その、りょうはそう言うのではなくて唯の幼馴染で……」
「そんな真っ赤になったら説得力無いですよ~。それに、りょうさんっていうんですね」
「ぁぅ……」
小さな声で俯く美幸に、月雫はしかし何となく事情を察して言った。

「頑張ってください!」
「え?あ、はい……あれ?」
何と言うか、適切な言葉に美幸は混乱する。一方通行だとばれたのだろうか?

「あ、そうだ……私は、(ひいらぎ) 月雫(しずく)って言います。えっと……」
「あっ。麻野(あさの) 美幸(みゆき)です。えっと……始めまして。柊さん」
「あ、月雫でいいですよあと、敬語もいりません」
「へ!?」
何となく、月雫は目の前の女性と相性が良いような気がしていた。初対面であるにもかかわらず、下の名前を許してしまう。
一応人の顔をうかがうのは苦手ではないつもりだが、少なくとも目の前の彼女からはそう言った物を一切感じなかったせいもあるかもしれない。

「えと、……じゃあ、月雫さん」
「はい!」
「あ、えっと……じゃあ、私も美幸って呼んでくだ……呼んで?」
同時に、美幸もまた、妙なシンパシーを彼女との間に感じ、特に疑問も違和感も無く、下の名前を許す。一般的に見れば初対面の相手、それも唯ベンチで隣に座っただけと言う相手にこんな風に接するのはおかしなことだろうが、一期一会と言う言葉もある。

こんな出会いもたまには良いかな。等と、二人は感じていた。
 
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