SAO‐戦士達の物語《番外編、コラボ集》
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コラボ・クロス作品
戦士達×ツインズ
SAOツインズ×戦士達の物語 三話
さって、俺がキリカに負けてから数十分後。キリカ達二人と、俺達四人は休みがてら家ん中に入り、その流れで夕飯を共に食べることになった。っま、所謂食事会だな。
つっても、アスナとサチは久々の客だからか張り切ってるから、普段よりちっと豪華なもんが出てくるかもしれねぇ。そこんとこに、俺は内心期待してる訳だが……
さて、今俺達はどんな状況に居るかっつーと、まぁ基本的に全員無言だ。
そもそも男女で話題が無かったと言うのもあるし、
おれは飯が来るまでの間暇なんで、新聞読んでる。
キリトはなんか女子達となんだかんだ今日が初対面なせいか接し方が分かんねぇみたいな顔して無言で居るし、ドウセツの姉ちゃんはどう見ても話題振る気ねぇ。キリカは……さっきまで手伝ってたみてぇだけど、今戻ってきた。なんか考え事してんな。
まぁ、そんなこんなでしばらく特に思う所もなしで新聞読んで……不意に、キリトとキリカが話してんのが聞こえてきた。
────
「……あ、あのさ、兄……」
「……ん!?あ、あぁ俺か。俺だったよな?」
いや、お前以外誰がいんだよ。
「いや、うん。その通りなんですけど……キリトに変える?」
「いや、大丈夫だ。好きなように呼んでくれ」
口を開いたキリカに、返事するキリトの声が少し焦り気味なのは聞いて居て分かる。
聞いてる限りキリカにとっちゃ普通なんだろうが、ま、キリトは「兄」なんつー呼称で呼ばれた事ねぇからな。
即応出来ねぇのはやむなしってか。
と、行き成りキリカの声が小声になり……こんなことをのたまいやがった。
「その、……(ゴニョゴニョ)サチと従兄って結局のところどうなの?」
思わず頭を目の前の机打ちつけそうになるのを何とかこらえた。
なんでいきなりその話題だコラ!?
「(コソコソ)サチの一方通行。兄貴気付いてないんだよな……」
おいコラ弟。テメェはなんで素直に返してんだよ。
つーか無言が嫌で話し始める話題が他人の恋愛云々っつーのはどうなんだオイ。
「(ゴニョゴニョ)何だ、やっぱり兄と同じか……」
「やっぱりってなぁ……」
お前の中で俺らの評価がどうなってんのかはよく分かったぜキリカ。
「と言うか、他人の恋愛感情とかよく気がついたよね」
「俺鈍感じゃないからな」
は?何言ってんだ此奴?冗談か?つーか……
「あ?何がやっぱりなんだ?」
声が素の声量になってんだよ。
「「いえ!何も!」」
「あぁ?……まいいか……」
ホントは全然良くねぇけどな。まぁその話題は俺としても触れたくねぇんで、敢えてスルーしてやるよ。
と、ふと、視界の端に黙す事に徹していたドウセツの姉さんが入る。昼間会ったときから、この姉さんは黙っている時間の割合がかなり多い。まぁ夫婦漫才やってるときゃ別だが。
寡黙な人間ってのは、大抵腹の中じゃ案外色々と良く考えてるもんだ。そう俺は思ってる。だからこの姉さんにも同じ理論が当てはまると思って昼間っから接してんだが、案の定というかなんというか、この姉さんの瞳の光は結構雰囲気が良く変わる。
その中でも、ちっと興味を引かれたのは……この姉さんは、明らかに何かを隠してるように見えた事だ。
悪いもんか、あるいは別にそうでもねぇもんかはちっと見分けがつかねぇが……それでもこの姉さんは、明らかに俺達と接してる人格の裏に“何か”を隠しているように見えた。
……丁度いい。
今はっきりさせとこう。
「あーそういや所でよ、ドウセツの姉さんに話があんだが……」
「……とりあえず、姉さんとか付けるの止めてくれるかしら。私デカい弟とか欲しくないから」
相変わらず無表情……失礼。クールビューティとでも言っとくか。実際美人さんだしな。まぁそんな表情で俺をドウセツの姉さんは見て来るので、肩すくめて笑顔笑顔。
つかんな睨むなよ。こええって。
「こりゃ失敬。んじゃドウセツさんよ。聞いて良いか?」
「嫌だと答えたらどうする気なの?」
そりゃ勿論……
「構わず聞くな」
「なら初めから聞かないでくれるかしら?時間の無駄だわ」
表情を変えずにドウセツの姉……ドウセツさんはこっちを睨んでくる。
あー、これ、もしかして本人は睨んだつもりねぇとか?つかやっぱ……
「っはは!中々手厳しいな」
ま、それはそれで面白れぇとは思うけどな。
「笑われるような事言ったつもりはないのだけど。なんなの?貴方ドM?だとしたら貴方もコレと同じく変態ね。気持ち悪いから近寄らないでくれるかしら?」
「ちょ!?え、コレ!?私言うに事欠いてコレ扱いなの!?」
おっ?こりゃあれの気配か?
「誰も貴女って言ってないわ。自意識過剰ねキリカ。自己主張が激しいのって鬱陶しいわよ」
「酷くない!?私だけ明らかに扱いが不当なんだけど!」
「どこが?」
「どこっ!?いろいろあるよ!」
色々って何だよ。
「あっそう」
「素っ気なく返すな――――っ!!」
「す、凄いな……」
「ははっ!いやあ、っとに夫婦漫才だなオイ」
っとに、テンポ良すぎだろこいつ等。下手な芸人より笑えらぁ。
そんな事を思っていると、ドウセツの不機嫌そうな声が返ってきた。
「聞こえてるわよ。キリカと漫才なんて冗談でもやめて欲しいわね。笑えないわ」
「いやあ、なかなか笑えるぜ?お似合いだお二人さん」
「あ、従兄やっぱりそう思う?」
あぁ。心底そう思うね。
立て続けにキリカは言う。
「よかったね、従兄から認めてもらえたわよ」
いや、別に俺が認めなくてもやるだろお前ら。
「うるさい」
瞬☆殺
「すみませんでした」
「なんでこの身内はこんなのばかりなのかしら……それで、質問があるんじゃないの?」
と、ドウセツがそう聞いてきた。そうだった、そうだった。
とりあえず、話しを聞かれたくないのでキリトの方を向く。
「おぉ。そうだったな……あーキリト?」
「え……?」
「悪い、ちょっちアスナ達の様子見て来てくれっか?」
「……わかった」
暗に、二人とのみで話したい、と俺が言ってるのに気づいてくれたんだろう。キリトはすぐに立ちあがると、キッチンの方へと向かっていく。
ありがたいね。
キッチンとは小さいが仕切りがあるので、システム上殆ど声は聞こえないはずだ。
「従兄……どういう事?」
「さて……んじゃ単刀直入に聞くんだが……ドウセツさんよ」
「何?」
さてと、あんま好きじゃねぇんだが……ま、こういうのは俺の役目だろ?
「あんた――何か取り繕ってるよな?上っ面的な意味でだ」
その言葉に、俺が今まで見た限りで初めて、ドウセツの表情がはっきりと変わった。
「…………!」
正直、言葉を選ぶべきだったのかもしれねぇ。けど、俺はそう言うのがあんまり得意じゃねぇし、疑いたかねぇが、それ言ったってんなもん言い訳にもなりゃしねぇ。だから単刀直入に聞くぜ。
「あんま疑う訳じゃねぇが……俺ァあんま隠し事が好きじゃ無くてな。只でさえアンタら完全には身元が知れてねぇ。なら――」
「従兄ッ!!」
突如、キリカが俺の声を遮った。体を机から乗り出さんばかりの勢いで、こっち事を正面から睨みつけている。
「ん……?」
特に圧する事も、怯む事も無く聞き返してやる。
すると……
「……止めて」
キリカは、低い声でそれだけ言った。
まっすぐに、その瞳を見る。そこにあるのは悪意で無く、怒りで無く、ただ必死さと、警戒と……そして心配の色が強く見て取れた。
そこに、此方に対して害をなそうと言う意思は感じられず、また焦燥や緊張など、此方に何かがばれるような事を心配するような光も薄い。
恐らく今の彼女の眼に灯る心配は、隣に居るドウセツへの物。
俺は、こいつ等にとって余り触れてほしくない部分に今触れているのだろう。
……成程。
ならば今は、このキリカの必死さを信じよう。
「……すまん。差し出がましい事聞いたな。悪かった……別にアンタらが嫌いなわけじゃねぇんだ。ただ隠し事はちっと怖くてな。すまねえ」
「……別に」
それ以上の言葉は、ドウセツから出てはこなかった。
と、後ろから、サチの元気な声が聞こえた。
「できたよー」
「おっ、やっとか。ハラ減ったな」
実際腹減った。さぁ。飯にしよう。
「あ、そ、そだね!」
「リョウ、運ぶの手伝ってー!」
「へいへい。っと」
キッチンの方へと歩きながら、何となく聞き耳を立てる。
元々スキルの恩恵で聴覚が良くなっているため、ドウセツとキリカの声が聞こえた。
「……ドウセツ」
「特に何も問題ないわよ。何かされた訳でもないんだから」
「そっか……ごめん」
「キリカが謝るのはおかしいと思うけれど」
隠し事は確かに怖えぇ。怖えぇが……けど、だからってもし俺が、彼女の内情に土足で踏み込もうとしていたのだとしたら、それを無条件で許される理由には流石にならねぇだろ。
だから今は信じよう。
彼女達に悪意がねぇなら、ま、そのうち話してくれることもあるかもしれねぇしな。
────
「えっと、今日のメニューはビーフシチュー、です」
「おかわりあるから、皆沢山食べてね?」
やべぇ滅茶苦茶美味そうじゃねぇか。
サチとアスナがなんか言ってるが返事する暇もねぇ。料理が美味そう過ぎて目が離せねぇ……
「…………」
「すっご……」
キリカの茫然としたような声がする。ドウセツ素直に感心しているらしかった。
実際俺らの目の前にある赤茶色のビーフシチュー、滅茶苦茶美味そうだ。いや、つーかサチとアスナが作ったんだ。99.9%美味いに決まってる。
「うっし!速く食おうぜ!」
「もう!リョウせかさないの!それでは、頂きます!!」
「「「「「「いただきまーす!(頂きます……)」」」」」」
ドウセツだけは静かな挨拶だったが、とにかく賑やかな食事が始まった。
────
「ん~~!!!」
キリカが目をキラキラさせながら叫んだ。作った二人は微笑ましくそれを見ている。
ま、気持ちは分かるぜ。実際さっきから俺もキリトも無言夢中で食ってるからな。と、キリカが突然俺の方を向くと、ジト目でこんなことを聞いてきた。
「うわー、兄はともかく従兄も毎日こんなの食べてるの!?」
「ん?おう。ま、ウチはサチが毎日な」
素直に答えると、キリカのジト目が半ば睨むように力を増した。何だよ……
「なんて贅沢な……!」
あー、そう言う事か……まぁ確かに毎日美味いプレイヤーメイドの飯食ってんのは他のプレイヤーからすりゃキレられる位には贅沢だわな。
……だからってそこまで睨まなくても良いじゃねぇかよ……
「あの、ドウセツさんはいかがですか……?」
と、サチがドウセツに遠慮がちに聞いて居る声が耳に入った。
ちなみにドウセツはさっきから一言もしゃべらずに静かに食事をしている。
言われてスッと顔を上げたドウセツに、サチは緊張した顔を向ける。
お前、たかが料理の感想聞くだけで、緊張しすぎだろ。
「美味しいわよ。普通に」
「ほ、本当ですか!?」
「嘘を言っても仕方ないでしょう?」
「よかった……」
それを聞くと、サチはほうっと息をつく。
何だ此奴。
「お前、なんでんな緊張してんだ?」
「だ、だって……」
聞くと、ゴニョゴニョと何かを言うが良く分からない。まぁ大方作っといて相手の口に合わないとか失礼だ。みたいのだろうが……ったくなんつーか、かんがえすぎじゃね?
「あ、デザートにケーキもあるからね?」
「ケーキ!?」
サチの一言で、キリカの表情が色めき立つ。やっぱ、女子ってのは総じてこうなのかね?
そんなこんなで料理をぱくつくうち、食後のティータイムになってた。
────
飯食って腹が膨れると、自然と気持ちもほぐれるもんだと思う。
食後、俺達はこんどこそすっかり打ち解け、紅茶を飲みながら雑談に興じていた。
「キリカとか、ドウセツの世界ってなぁ、こっちとなんか他に違うのか?」
「うーん、多分おんなじ。ウィンドウも問題なく呼び出せるし、強いて言うなら従兄が居ない事と……」
と、そこまで言ってキリカの顔が曇った。何だ?なんか言い辛い所が違うのか?
「他にも、何かあるのか?」
「う、ううん!特には無い……と、思う」
「そうね、私も今のところ特に違和感も感じないわ」
ドウセツがキリカの言葉を補強するようにそう言った。
それがキリカと話しを合わせたように聞こえて少し追求したくなったが、言い辛い事をむやみに言わせるってのも紳士的じゃねぇ。
やめとくか。
「…………」
そんな事を考えてたせいか、少し黙っちまう。と、出てきたミオレの実と言うみかんに似た木の実を使ったケーキをぱくついたキリカが唸りを上げた。
「……んん!これもまた……従兄、つくづく……」
「んだよ、なんで睨む……?」
またかお前は。なんだよ。料理の美味さと俺と何の関係が有んだっての。
「……別に。まったく……」
そのまままたキリカはぶつぶつと文句を言いだす。
俺が何したってんだ……
「んん~……」
「……くすくす」
と、その後も相変わらず唸り続けるキリカを見て、サチが小さく笑いだす。なんだ?
「どうしたの?サチ」
アスナが尋ねると、キリカが軽く首を捻った。
「ん?」
「ううん、キリカってさっきから、“ん!”しか言わないから面白くって。ね、キリカ、味どんな感じかな?」
成程。此奴妙な所つぼだなぁ……まぁ俺もあんまし人の事言えねぇけどよ。と、サチがそれを聞いた途端……
「え?うーん……ッ!!」
突然、キリカの様子がおかしくなった。
目を軽く見開いて、体を硬直させ、小さく震えているのが分かる。
なんだ……?
「あ……あぁ……」
キリカはうめくように、あるいは掠れるように声を出す。
声っつっても、思わず口から漏れました。みてぇな小さいのだが……それにしてもよ……
「き、キリカ!?どうした!?」
「おいおい……」
明らかに様子がおかしい……なんだ、どうした?
ガタン!と音がした。キリカが、喘ぐように浅い息を繰り返して立ち上がった音だって事はすぐに分かった。おい、マジで何だよ、どうしたってんだ。
そして……
「あ、あ、あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
吠えるような、泣くような声をあげて、キリカは突如としてその場から走り去った。まるで……何かから逃げるように。
────
「っとだな……お前、味聞いただけだよな?」
「へ!?う、うん……多分……」
サチに聞くと、何というか自信なさげな言葉が返ってきた。つか最後……
「多分ってお前……」
そこは自信もって言っとけよ。
「だ、だって自信無いよ!突然だったし、私……何かしたのかな?」
不安げに表情を雲らせるサチ。まあ確かにいきなりだったし此奴と話してる最中だったのはそうなんだが……けど別に何もしてねぇよな此奴?少なくとも、俺が見てた限り何も無かった筈だ。
「はぁ……」
「お、おいドウセツ、どこに……!?」
ドウセツの溜め息と、キリトの声がして其方を向くと、いつの間にか立ち上がったドウセツが玄関の方に向かっていた。まあこの状況で此奴がしそうな事つったら……
「探しに行くのよ。それ以外にする事あるのかしら?」
だよな。
「い、いやそれは確かにそうだろうけど……」
キリトがどもる。さてと……
「俺も行くわ」
立ち上がり、玄関へ。後ろについた俺を、ドウセツは面倒臭そうに見る。
「……別に付いて来てくれなくていいのだけど」
そう言うと思ったぜ。
「あぁ。だろうな。ま、そう言いなさんな。人手は多い方が良いだろ?」
「なら、俺も行くよ」
キリトも乗る。と、サチがいきなり立ち上がった。
「わ、私も……!」
阿呆。
「お前はアスナと此処にいろ、此処に戻ってくるかもしんねぇだろうが」
「あ、うん……」
気持ちは分からねえでも無いがな。これ以上は惰性だし、大体いくらこの層だからって夜の森なんざ無闇に此奴に歩かせられっか。
と、ドウセツがため息を吐くのが聞こえた。
「夜道に女性について行くなんてね、やっぱりこの家の人間は変態ばかりだわ」
おー、ひっでえ。
「ははっ!ま、その逆の意味だと考えてくれや。護衛だ護衛」
と、言ってから気づいた。
「だとしたらもっと必要無いけど」
そりゃそうだ。ま、此処はごまかすごまかす。
「そう言うなって。ほれ、行こうぜ」
「はは……」
「はぁ……」
それ以上は、ドウセツも何も言わなかった。ただドウセツの顔にちっとだけ焦ったような表情が見えた気がして、けど詮索すんのは止めといた。
さて、捜索開始だぜ。
────
さて、意気揚々外に出たものの……
『でも、分かれて探すことにするから結局護衛はないわよ』
なーんじゃそら。 彼奴絶対護衛が嫌でああ言っただろ……ま、効率は確かに……
「良いけどなっ、と!」
木の根を飛び越えながら言って、また歩く。
つっても、ドウセツはともかく俺とキリトは彼奴とは初対面だ。彼奴が行きそうな場所なんざ知らねぇぞ……ま、とりあえず勘だな。勘。
確かこの林抜けたとこに丘みたいのあったよな……先ずはそこ行くか。
で、数分後。
「居たし……」
銀髪をサイドテールに結った「白」と言う印象がぴったりの……どうやら俺の妹らしい少女が、其処にいた。
────
「こんなとこで、何してんだお前」
声を掛けると、キリカは少しだけ肩を震わせて振り返る。
「あ……なんだ、従兄か」
何だとは何だ。
「はっ、ドウセツのねぇちゃんじゃなくて悪かったな。どうやら、お前らの愛より、俺の勘の方が勝ってるみてぇだ」
「それは絶対無い」
からかい半分に言ってやると、一蹴された。やれやれ、仲の宜しい事だなおい。
「そうかい」
言いながら、キリカの隣に少し離れ気味に座る。
このまま連れ帰っても良いんだがな……何かそれじゃ駄目な気がする……勘だがな。
「従兄は、さ」
「ん?」
と、不意に、キリカの方から声を掛けてきた。
「サチの事、どう思ってる訳?」
またその話題かお前は。
「どうって……お前……幼馴染、だな。多分」
「多分って……はぁ〜〜〜〜〜」
だから……
「……何なんだお前」
素直に答えただろうが。なんでんな盛大に溜め息吐かれなきゃなんねぇんだよ
「もうちょっとさ、なんか無いの?ずっと一緒に暮らしてるんでしょ?あんなおとなしめタイプで健気な女の子なんてそうそう居ないよ?普通男なら攻略しようと思うでしょ」
阿呆か。
「うるせぇな……思わねぇよギャルゲじゃあるまいし。彼奴とは幼馴染。それ以上のもんはねぇし、望むつもりもねぇ」
絶対にな。
「それでも男か」
「男だよ」
失礼な。
「あり得ないわ……て言うか、じゃあ従兄ってサチと幼馴染だって言う理由だけで一緒に暮らしてる訳?」
ん。妙なとこ突いて来たな……
「そりゃまぁ……ちげぇが」
そう言うと、途端に目ぇ輝かせやがる。何が何でも色恋沙汰で話進めてえのかお前は
「あれ?じゃやっぱり……」
「トチんな。昔俺とキリトと彼奴の間で色々な。色恋沙汰じゃねぇよ」
彼奴と暮らす事にしたのには色々と理由は有るが……やっぱ根底は其処だからな。これ以上は詮索されてもごまかしの構えだ。
けど、其処で会話が止まった。妙に思って、隣のキリカを見てみれば……
「お、おい?」
思わず、どもっちまった。
キリカは目を見開いて固まり、しかもその目はまるで震えるように焦点が定まっていなかった。驚いてん……のか?分かりにきぃな……
そんな事を思ってるうちに、キリカはつぶやくように、俺に聞いた。
「あのさ……従兄」
「あン?」
だからか?ちっとだけ、予想が足りなかったのかも知れねえ。
「月夜の黒猫団……って、聞いた事ある?」
「…………!」
今度は俺が驚く番だった。いきなりその名前が出るとは思って無かったぜオイ……
「なんで……」
……なんで?いや、違うだろ。何考えもせず口出してんだ俺らしくもねえ。キリカの驚いてたタイミングや、その先に出て来たあの名前。答えなんざ限られてる。
「いや、そうか、お前も……“あったんだな?”」
何かが、あったんだ。こいつにも……俺達と、同じように。
「……うん」
目をそらしながら、キリカは極小さく頷いた。その眼の光は、読めなかった。
そして、キリカはゆっくりと話し出す。
「さっきいったよね?私達の世界と従兄達の世界の差異は、従兄が居ない事だけだって。あれ、嘘。私達が分かる限り、この世界と私達の世界の違いは、2つ……一つは、従兄が居ること。もう一つは……」
あぁ、其処まで言われちまったら、もう分かっちまうじゃねぇか。
考えた事はある。けど、一度もはっきりイメージした事はねえ。何でか?簡単だ。考えたくねぇんだよ……
「サチが……私達の世界ではもうこの世に居ないこと」
「…………」
彼奴が……彼奴まで、俺の前から居なくなる事なんざ……
暫く、俺とキリカは黙ったままだった。
しかし、沈黙ってのも永遠に続くもんじゃねぇ。
「私ね――」
其処からの話は、キリカの一人語りだった。
大体の流れは、こっちと同じさ。
キリトがレベル隠して黒猫団入って、あの日、アラーム+結晶無効化のコンボトラップに掛かった所までな。違ったのは、キリトと一緒にキリカも同じ条件で黒猫団に居た事と……キリカがトラップに掛かった時、パニクって他の全員を無視して自分だけ逃げた事。最後に、他のメンバーに加えてサチも死んだこと。
正直言うとな、話聞いた時、此奴をぶん殴るか本気で迷った。「高レベルのお前がいざって時に逃げた?挙げ句彼奴死なせた?何の冗談だよふざけんな!!」そう言うか、マジで迷ったんだ。けどよ……
「私は、とんだ愚か者だ。自分が強いと勘違いしたから、約束の重さも知らず軽々と言って、いざ恐怖が襲いかかったら、仲間も兄も約束もサチも何もかも置き去りしてしまった。私が…………月夜の黒猫団のみんなの未来を失わせた。私は――人殺しだ」
俯きながら、そう言った此奴を見たら……殴れねえよ。だってよ、その顔……あん時の彼奴そっくりなんだぜ……?
何で突然俺に此奴がこんな事話したのかは、分からねえ。けど、やっぱり此奴はキリトの妹で、俺の従妹なんだな……そう、この時はっきり感じた。
「その後は酷かったよ。あらゆるものを避けて、ずっと自暴自棄になっていて、自分一人でも戦えるために回避を身につけて、フィールドとかダンジョンに潜り続けて、ろくに寝ないで攻略に躍起になって……終いには『白の死神』って呼ばれるような、人になっちゃたよ」
「……よく生きてたな」
苦笑して言うと、かすかに、自嘲気味に笑う気配。
「……自分でも偶にそう思うよ」
あぁ。だろうな。んでもって、死ななくて良かったぜ。
「……で?それがまたある程度おとなしくなった、と……理由を聞いても良いか?」
首捻りながら聞くと、キリカは昔を懐かしむみてぇにほんの少しだけ、微笑んだ。
「……去年のクリスマス。たまたま血盟騎士団の一員に会ってさ、その人、私の心の奥底を刺激するように言ってきたから、思わず感情剥き出しに言っちゃたんだよね。その時、私は躊躇いもなく自分の存在を否定して死のうとした」
『…………っ』
一瞬だけ、背中に寒気が走ったのが自分でも分かった。
勘弁してくれって……
「だけど、私は求めていた。サチやみんなが死んだ時、何よりも私は――――助けて欲しかった」
助けて欲しかった……ね……
こんな話の時になんだけどよ。何だよ意外と女っぽいとこあんのな。
キリカの言葉が続く。
「ずっと、助けての一言が言えなくて、人の命を奪った私に言う権利はなくて、そのせいで私は死ぬ理由を探そうとしていた」
「死ぬ理由?」
思わず、聞き返しちまった。
どうにも……その頃のキリカの様子が、いつかの何かと……。
「死んでもしょうがないって、諦めるような死をね。異常なほど攻略に邁進していたのはそのためって言ってもよいね」
……成程な。死にてえほど苦しいが……何も出来ずに死ぬのは嫌で……ってとこか。
分かったように言うのは簡単だけどな。正直、そん時の此奴の心証は計れねえわ……
「その人は言った、苦しいから逃げ出すのは駄目。苦しいまま終わってしまったら、冷たい闇から永久に上がれなくなる。悩んだり苦しんだり悲しくなってもいい、時は鬱うつになっても、迷惑かけてもいい。自分の死で逃れるのは駄目、 全部なかったことにすれば、私の中で生きている記憶を殺すことになる。笑ってもいい、楽しんでいい、嬉しいこともしていい……生きたいって口にしてもいい、光に入っていい……そう言われた。」
「死を罪滅ぼしの方法にして逃げんな……って事か。いい助言だな」
言いながら、自然と口角が上がる。尊敬するぜ。その“誰か”には。マジで死にたがってる人間を止めるってのは、そう簡単な事じゃねえからな。
キリカの話は続く。
「うん……だから、私は今まで生きて来た。サチの事、忘れちゃいけないって思ったし、自分一人では、何もできないって学んだから……」
「へぇ……」
しっかり自分の答えまでたどり着いてんだな……良いじゃねえか。にしても……
『ったく……コイツらは……』
キリトといいキリカといい、ウチの身内には、どうしてこう心の強い奴が多いのかねぇ……
「でも……」
けど此処まで来て、急にキリカの表情が曇った。
「今日、少し自信無くなったかも……」 沈んだ声に戻るキリカをみて、無意識に自分がまゆをひそめたのが分かった。
「あぁ?……さっきの事か?そういやあれ、一体全体どうしたお前」
その答えは今の俺からすると、少し意外とも言える物だった。
「……怖くなった」
「……はぁ?」
怖くなった?何がだよ?
「今日、突然こっちのサチに会って、違う人だけど同じ人のサチが、あんなに楽しそうで、一度も悲しそうに笑わないで……幸せそうで……私ね、とっても嬉しかった。嬉しかったけど!……あんな風に笑えた筈のサチの未来を、私が奪ったんだって思ったら、急にサチの幸せそうな顔が怖くなって……」
「…………」
キリカの言葉を黙って聞く。少しずつ、此奴の言いたい事の輪郭が見えてくる。
「おかしいよね。一番幸せになって欲しかった人が、そうしてるのに……それが怖いって、どうかしてるよね……わかんない、わかんないよ……こんなのおかしいって分かってるのに……」
泣きそうな……けど泣いてるわけじゃねぇ。
その声は、まるで軋むみてえな……悲痛さを孕んでいて……声だけが、此奴の奥深いとこが苦しんでるのを教えてくれる。
成程……こいつは、わかんねぇんだな。自分がサチをどうしてぇのか……自分にとって、サチがどうあって欲しいのか……自分の中に、自分の知らない部分か……何となく分かるな。
って、こんな知ったような事、言えやしねぇけどな。
「……ねぇ、従兄……」
「ん……」
しかし、俺にとって本当によく考えるべき話は……此処からだった。
「従兄はさ。さっき“お前も”っていったじゃん……じゃあ、同じような事がこの世界でもあったんだよね……?」
「……あぁ」
肯定。
“同じような”どころじゃねぇよ。殆ど同じだ。違うとこっつったら……
「けどサチは生きてる……あの状況を兄一人でどうにか出来たとは思えない……従兄が、何かしたんでしょ?」
……あぁ、そうか。
「あぁ」
肯定。
違うよな。同じじゃねぇんだよな。
「だっ、たら……!」
過程も、結果も……何もかも。
「どうして、私達の世界のサチは救われなかったの……!?」
「……ッ」
突然。胸倉を掴まれた。けど振り解く気にもならねぇよ……んなこと出来るような剣幕のレベルじゃねえんだよ。
「私達の世界には私が居て、でも私のせいでサチは死んで……!従兄達の世界のサチは従兄が助けてあげられて、あんな幸せそうに笑ってて……!私には出来なくて従兄には出来た!」
それがどうした。だから何だって、言い返すのは簡単だ。俺にはどうしようも無い。そう言い返すのは簡単だ。
「私のいた所に従兄が居れば、私達のサチは死なずに済んだの?なんで私達の世界(アインクラッド)に従兄は居ないの?従兄はなんで……私達の世界のサチは助けてくれないの……!?どうして私の近くに従兄みたいな人がいないの!?」
俺だって助けられるなら助けてえよ。そんな風に言い返したとして……世界が違うんだからしょうがねえだろって、キレたとして……それが正解か?
「悔しいよ……従兄には出来たのに……なんで。なんで……」
こんなに、殴りつけるみてえに訴えてくるコイツに……誰より自分を責めてるコイツに、俺がまた責めるような事言ってそれが一体何になるってんだ?
「……キリカ」
違げえだろ。そんな事よりもっと他に、俺が言うことが有る筈だろ……?此奴にとってプラスになるような……こいつが前向きにまたなれるような……
「なによ!」
此奴の重荷を背負ってやることも、軽くしてやる事も出来ねえ俺に出来る……せめてもの手伝い。
ちっとだけだ。噛むなよ、俺の口。
「……おれぁお前じゃねぇから、お前の思ってる事とか、お前の気持ちちゃんと分かるわけじゃねえ」
もしかしたら、コイツの気持ちも思いも、俺の思う所とは全然ちげえとこに有るのかも知れねえ。
「……けどよ」
けど、そんな何も分かってねぇ俺にも、言える事はある
「お前がすげぇ強えぇ奴なんだっつーのは、よく分かった」例えば、俺が感じた事とかな。
「え……」
っはは。きょとーんってか。間の抜けた顔してやがる。
けど突然、その顔が険しくなる。ま、こう言う奴は大体……
「強くなんてないわよ!私一人じゃなにもできない、弱い存在だよ!」
こんな事を言う。ま、そんな強情っ娘には……
「そうじゃねぇよ」一発否定してやるのが正しい。
ってのはまあ、スグとかアスナで学んだ事だ。
「え……」
「俺が言う強さのベクトルが違う」
ベクトル……そう。方向性だ。
「お前、さっきからずっと、サチの事だけしか考えてねぇのな」
此奴が今、自分を責めてるのは、言わば自分への怒りを他人に向けてる自分に対する葛藤やちょっとした失望、みてぇな部分が大きいんだろう。
此奴はサチの事を、全部自分のせいだって、自分を責めてやがる。まあ実際それに関しちゃ確かに此奴の責任は大きいと思う。
「そ、それは」
けど、俺の言う此奴の強さは其処に有るんだ。
「お前、それあたりまえじゃねぇんだぞ?」
「へ……」
「お前が俺にそう言う事言うのってよ、別に誰が悪いわけでもねぇだろ?悪ぃけど俺そこら辺ドライだからよ。お前に謝ってやるとか、気の利いた事できねぇ」
本当に優しい奴なら、そう言うことも出来んだろうけどな……その手の事で謝るのに、俺はどうしても無意味さを感じちまう。
すると、キリカは首を横にふった。
「ううん。それは、従兄が正しい……私は、勝手に自分のイラつきや嫉妬ぶつけてるだけで……」
言いながら、キリカは慌てたように掴んでいた俺の胸倉を離す。やっぱりそうだな。
「ほらな、そうやって自分から手を離せるだけで、お前もう十分つええんだよ」
「だから……何言って」
相変わらず、俺が何を言ってるのか分からない。と言った様子で眉を潜めるキリカに、俺はその言葉をぶった斬るように返す。
「……10ヶ月だ」
「……え?」
「お前が罪に向き合い続けている時間だよ。大したことねぇと思うか?けどな、多分大の大人だろうが、これだけの時間自分の罪と……まして人の生き死に関わった罪に正面きって向き合うなんざ出来ねぇよ。大体の奴は死ぬ事に逃げるか、目をそらして忘れようとするかだ」
有る意味当然だが、自分の罪を認めたり、それを悔やみ続けるってのは簡単なことじゃねえ。
そりゃそうだ。誰だって自分が悪いことをした。なんつーのは認めたくねえし、忘れたいのが常ってもんだからな。けど……
「そんな事……」
ない。か?ま、最後まで聞けって。
「お前、さっきいったよな。“悔しい”って……お前はまだ、自分のした事の結果諦め切れてねぇ。今もずっと考え続けてる。もう一年以上経つのにな……普通はな?諦めきった奴は、“もうしょうがない”で済ますんだ。けどそうじゃねぇ奴ってなぁ、ずっと考え続ける。後悔し続けるもんだと俺は思ってる。お前はずっと向き合い続けて、後悔し続けて、それでも前に進もうとして、もがいてる。腹の底で、今でも後悔してるんじゃねぇか?」
けど……此奴は違う。自分のした事に言い訳しねえで、諦め切れずに、ずーっと悔やみ続けて、自分を責めたりしながら、葛藤して生きてる。
自分のした事を許されねえ罪だって理解しながら、その罪と向き合って行くことを自分の義務だって、正面切って受け入れてやがる。
言い訳したり、他の何かに責任を自分の中で押し付けて、忘れる方がよっぽど楽なのにも関わらず……だ。
「…………」
おまけに、そう言う責任感強いタイプの奴がなりやすい鬱っぽいのとか、ノイローゼみてえな状態も乗り越えてるしな。
「そうやって向き合い続けて、それでも前へ前へっていられる事。それ自体が、お前がつええって証明なんだと、俺は思うがね」
むしろ、それが強さでなくて何だってんだ?
向き合う強さは、間違いなく、此奴の中にあるだろう?
キリカは少しの間黙り込み……やがて、小さく反抗するようにこんな事を言う。
「でも、それなら私はなんでサチから逃げたの?幸せそうなサチから逃げた事は、弱さじゃないの?」
あぁ、そっちに話持ってくか。ま、答えとしちゃそっちのが単純だけどな。
「確かにそりゃ弱さだ。けどな、さっきも言ったけど、それはちっとベクトルが違う。」
やっぱ、また方向性が俺の言う強さとは違う。
もっと言うなら、キリカの言う弱さと俺の言う強さは対にはなってねえ。
「……どういう意味?」
「お前のそれは多分、お前自身が、お前のこれまでが無駄になったような気がしたんだろ」
簡潔に言ったつもりが、キリカはよく分かって居なさそうに首を傾げる。つまりだな……
「お前はこれまで自分の罪と向き合ってずっと生きてきた。けど、ある日突然目の前にその罪の原因とは全く違う状況があって、それが怖かったんじゃねぇか?たった一つの原因の違いで、自分のこれまで行ってきた罪との向き合いが丸で無かった事になってるかのような世界見せられて、無意識の内に、自分がこれまで罪と向き合うためにしてきた生き方そのものを全否定されたような気がしたんだと思うぜ?」
例えばだが……そうだな、こっちに来る少し前にやったノベルゲームの話だ。
主人公はずっと昔のガキの頃、街一つ巻き込んだ悲劇を経験してる。でも10年以上経ったある時、其奴の前にある奇跡の選択権が降りて来やがる。其奴に奇跡を渡そうとした奴はこう聞くんだ。「あの時の悲劇を無かった事に出来るとしたらお前はそうするか?」ってな。
でも主人公はその奇跡を起こさなかった。何でか?その悲劇を無かった事にしたら、その悲劇を乗り越えて今を生きてる奴の“努力”や“葛藤”や“意志”まで無かった事になる。主人公はそれを嫌がったんだ。
んでもって今、俺に問うたキリカのは、丁度その“努力を無かった事にされる”側の立場に近ぇように俺は思う。
「……私のこれまでの罪と向き合う努力が、無駄だったって言われたような気がしたんだろうって事?」
ま、そう言う事だな。お前の心境の話だからお前の方から「って事?」は正直おかしいんだが……けどま……
「分かりやすく言えばな。けど俺から言わせてもらえんなら、それもまたちっと違う」
あくまでも俺の意見だが……この事に関しちゃキリカの考え方は、見当違いってやつだ。
「たとえパラレルワールドでどんな事が起こってようが、お前のしてきた事はお前の真実だ。そもそも起こってる事はお前の世界とは違う場所の話なんだからよ、お前のしてきた後悔も、お前の乗り越えてきた苦悩も、一つも無駄なんかじゃねぇ。乗り越えてきたお前の生き方は、ここでたとえ何が起こってようが、尊重されるべきもんだ」
もし尊重されねえなんつー事があっても、少なくとも俺は認めねえよ。
「従兄……」
例えそれが此奴に取っては醜いことでも、其処から此奴が何かを学べる限りは、な。勿論他人に迷惑掛けるのはタブーだが……ま、俺らは身内だし、構わねえだろ。
「ちょっと分かりづらいよ……」
「つまりな、お前の人生に無駄な事なんか無かったって事だ」
そう言って、さっきから視界に写っていた其奴の方を見る。
「その証明が、お前の後ろにいるだろ?」
「え……、あ」
キリカが振り返る。そこには黒い着物に、黒い髪の女性が湖の淵に立っていた。対岸の林から出てきたのだろう。言うまでもなく、ドウセツだ。
「ドウセツとお前の間に何があったかは知りゃしねぇ。けど彼奴とのつながりはお前の生み出したもんだし、お前が罪と向き合いながら生きてきたこれまでの人生の中で、誇って良い部分の一つの筈だぜ?そのことは……お前が一番よく知ってるんじゃねぇか?」
言いながら何となく、キリカの頭に手を乗せてみる。って、そういや俺此奴と今日初対面だっけか。
なーんか初めて会ったきがしねぇなぁ……なんつーか、スグにやってるみてぇだ。
「ほれ、行って来い。俺たちにゃ言っちゃくんねぇが、一番心配そうだったからな。眼が」
そう言いながらもう一度ニヤリと笑うと、キリカは少し不思議そうな顔で俺を見ていた。
「……ねぇ、従兄」不意に呼ばれ、俺は首を傾げる。
「なんだ?」
キリカは俺の目を真っ直ぐにみると、楽しむような笑顔で言った。
「ありがとうね、“兄貴”」
それだけ言ってキリカはドウセツの方へとかけて行った。
「……っへ。元気になったようで何より」
どうやら、妹が一人増えたようだ。
────
「ごめんっ!」
「え、えっと……」
「ごめんなさい。なんなら土下座でもするから」
「い、いいよ!そんなことしないで!」
戻って来た家の中では、行き成りサチにキリカが頭を下げるっつー、まあなんつーかおかしな図が展開されてた。まぁ、有体に言うと、なんかキリカがサチに謝っている。それだけの話だけどな。
と、隣からさらりとした女の声。
アスナとキリトは二人を苦笑しながら見守ってっから、隣にいるのは一人しか居ない。
「理由も何も無く行き成り謝っても変質者ね」
いきなりな毒舌だ。思わず苦笑。
「ま、そう言ってやるなよ、ありゃあれで必死なんだろ」
「知っている」
「そうかい」
おいおい。分かってて言ってんのかよ。ったく毒舌姉さんだねぇ。
「なぁ、ドウセツよぉ」
「……何?」
そんなドウセツに、思うところありのんびりと話しかけると……いきなり睨まれた。いやまだ何も言ってねえじゃねえか……
あまりにもつっけどんなのが面白く、何となく笑っちまう。
「ははっ、そう邪険にしなさんなって。ちっと聞きてぇ事が出来ただけだ」
さっきの事があった性かね?余計顔が嫌そうになったぜドウセツさんよ。
「…………」
黙ってんのに不機嫌なのは伝わってくんだよな……ま、此処はあえて察し悪く〜っと。
「お前から見て、キリカの奴どうよ」
「……初めに行ったはずだけど。それとも、もう忘れるほど貴方の頭が老化しているのかしら?」
やれやれ。よくまぁんなポンポン悪態がでてくるな。……そう言やちょいちょい思うんだが、ドウセツの悪態にわざとらしさみたいなもんを感じるのは俺だけかね?
「いんや、よく覚えてるぜ?善人、お人好し、バカで、アホで、極が付くほどの変態」
「追加としてド変態よ」
前言撤回。んなわけねえか……
つか彼奴どんだけ変態なんだよ。これで×2だぞ。
「厳しいな。で?」
……ま、それはいいや。俺が聞きたいのは他にあるしな。
「そんだけじゃねぇんだろ?あんたにとってのキリカは」
「……それだけよ」
嘘だな。
「んにゃ、それだけじゃねぇだろ?
変な物を見るように俺のことを睨むドウセツの視線をスルーしつつ、俺は続ける。
「あんた、此処に来てからさっきまで、大体キリカの事気にしてるよな。彼奴がどもったり、戸惑うような事があったり、時に、基本的に上手くフォローを出すのはドウセツ、アンタだ」
例えば始め話していた時。例えば食事をしていた時。基本的にペラペラと話すのはキリカの方だが、偶に彼奴がどもったり返す言葉に困ったような顔をすると、大体ドウセツがフォローに入る。先程の事からも分かるように、ドウセツがそうなった時のキリカも然りだ。
「そりゃ俺達より彼奴との付き合いは長げぇんだし当たり前っちゃそうだが……アンタは人一倍、キリカの事を気にかけて、場合によっちゃ心配してるんじゃねぇか?彼奴がアンタに対してそうなのと同じように」
だから考察したその旨を、一気にドウセツに伝えてみる。
ドウセツは暫く何も言わなかった。
何だ?また怒らせたか……?
「そこまで見られていたと思うと、いっそすがすがしいくらいに貴方も変態ね。寒気がするからこっちに視線を向けないでくれる?」
これ、怒ってんのか?もう判断着かねえな。ま、いいや。
「そりゃ、失礼」
「それに」
と、ドウセツの言葉が珍しく続く様子を見せた。
思わず首を傾げる。
「ん?」
「それを聞いて一体どうするつもりなの?貴方と、私達は違う世界の人間、どうあってもそれは変わる事は無いわ。いわば世界レベルで全くの他人同士、それなのに、貴方は一体何でキリカにそんな肩入れするのかしら?理解できないわ。貴方……何を考えているの?」
その眼に宿るは警戒の色……成程、俺此奴に信用されてねぇんだな……ま、そりゃそうか。いきなりあんな事言えばな……それに、多分またキリカの心配してるしな……
なら、此処は正面切って素直に行きますか。
「まぁ確かに、俺とキリカは突き詰めりゃ他人なんだろうな。世界レベルで言えば……けどな」
「…………」
言えることなんざ、多くはねぇ。
けど返す理由なんざ決まってんだ。迷うことなんざねぇんだよ。
「そんでも、彼奴はキリトの妹で、俺にとっちゃ従妹だ。どんなになってもそれはかわらねぇんだよ。たとえ別の世界の人間だろうが、今日会ったばっかだろうが、あるいは明日消えようが、彼奴は俺達の妹だ。どうあってもそれは変わりねぇのさ。少なくとも俺にとってはな」
「…………」
ドウセツは相変わらず分からなそうに俺をみている。
ま、理解して貰える自信はねぇんだよな……正直こりゃもう、理屈じゃねぇんだ。ただ何となく、彼奴とは見えない何かで繋がってる。そんな気がすんだよ。
って、兄妹の絆みたいに言えば聞こえは良いがな。端から聞いたら変人だなこりゃ。それこそあれだ。
「キリトの事もそうだし、ブラコンシスコン言われんだろうが、俺としちゃどうしてもな……キリカとはなんか、今日会ったような感じがしねぇんだよな。ホント」
「まるで古臭いナンパのセリフね」
ははっ!ごもっともだぜドウセツ!
「そう言うなって。ある意味、人を引き付けるキリカの才能だったりすんのかもしんねぇだろ?キリトにもあるしな、そう言うの」
ま、それを“人徳”ってんだろうな。
そうして、何も言わず黙るドウセツに初めの話題に戻すため問う。
「で?どうなんだよ、実際のとこ」
しかし……
「人の内面にずかずか踏み込もうとするのは、貴方の癖なの?」
そう簡単には聞かせちゃくれねぇらしい。
「うぐ……それ言われちまうと立つ瀬ねぇ……」
あまりにも正論なので詰まると、そのままあっと言う間に……
「とにかく……貴方に話す事は無いわ」
チェックメイト。
駄目だ。結論付けられた上に断言されちゃ、流石にそれ以上聞くわけには行かねえしな。
ま……
「はは、こりゃ失敬。確かに、個人の事に行き成り首突っ込みすぎだな俺は……夫婦の話に首突っ込むのは不味いわな」
からかうのは止めねぇけどな!
マジ顔で言うと、ドウセツは呆れたように返してきた。
「大真面目にそれを言う辺り、貴方本当にキリカ並みの変態みたいね。早く離れてくれないかしら?うつるから」
「おーひでぇ。全くキリカに見せてるあのデレデレ感は何処へやら……」
本当に、マジでキリカとそれ以外に対するギャップすげえよな。コレが昔はやったっつー“ギャップ萌え”か……なんつーのは本人に言ったら間違いなく斬られっから言わねえが……
「デレなんてない」
嘘付け。
「そうだったな。キリカには見せているんだっけな、こりゃ失礼」
「…………」
あ、やべ。殺気来た。斬られるかも……
…………
しかし幸い、ドウセツはそれ以上何も言わず、話の矛を収めてくれた。なので……試しに思った事を一つ。
「あんた顔は良いんだから愛想ありゃモテんのにな」
「貴方と居ると言葉にハラスメントコードが適応されてしまえばいいと思うわね……余計なお世話よ」
うははは!言葉にハラスメントコードか!んなことになったら対人戦であんたに勝てる奴居なくなるって!!
そんな事を思って思わず爆笑すると、またドウセツから変な目で見られた。
存分に笑い、そして俺は、ドウセツに向き直った。さて……
「これまた失敬失敬。んじゃお世話ついでに頼みがある……キリカの事、これからもよろしく頼むぜ。精神的に」
そんじゃいい加減、始めに言いたかった事を言うとしますかね。
って、お!珍しくいまドウセツ一瞬驚き顔だったな!
そんな事を思っていると、ドウセツは訳が分からないと言った顔で俺を睨む。
「……何なの?突然」
なに、大した事じゃねぇさ。
「いやぁ、な。今日の試合で負けた身でこんなこと言うのもあれだけどよ。なーんとなく俺も心配でな彼奴の事。アンタなら、彼奴の事しっかり助けてくれんだろ?」
ただ身内からの小さなお願いってだけの事。
「……なんで今日会ったばかりの人間に、キリカの事を頼まれないといけないのよ?理解出来ないわね」
ごもっともだな。
「ははっ、俺もそう思うがな。ま、さっき色々話してみて、彼奴の事も少しは分かって来た。あんたにも、彼奴が強ぇけど、崩れる事が決してねぇ人間ってわけじゃねぇ事は、少なからず分かってんだろ?」
さっき知ったことだ。強く見えても、彼奴にも弱い部分はある。そりゃきっと、此奴も同じなんだろう。俺の直感がそんな事を言っている。
だから互いの為にも、あんたに頼むのさ。
「そうなると、俺としちゃあやっぱな……兄貴ってなぁ、妹を心配するもんなんだよ」
ウチの妹の事……よろしくお願いします……ってな。
「…………そう」
答えは短かったが、俺にはその声はどういうわけか了承に聞こえた。
…………
やがて、ドウセツがそれ程大きくない声で、俺に問う。
「貴女ってなんなのかしらね?」
ははっ!その答えは簡単だ。
「俺はキリトとキリカの従兄であり、兄貴だ」
そうありてえと思うし、あろうとするつもりだ。ま、普段は自分からはいわねぇんだがな。
漏らした苦笑はドウセツには気づかれなかったらしく、ドウセツと俺はその後、なんか盛り上がったキリカ達が記念撮影に俺らを呼ぶまでは無言だった。
●
「んじゃ、今日はコラルに泊まんのか」
キリカに、リョウが聞きます。キリカは一度コクリと頷くと彼女らしい元気と張りのある声で答えます。
「うん。帰る方法も分からないし……明日からはどうしたら帰れるか探そうと思っている」
そう言えば、よく考えたらキリカ達から見たら私達キリカ達の家にすんでるんだよね。仕方ないんだけど……悪いことしちゃった……
「私達も暇だから、手伝えることあったら何でも言ってね?」
「あぁ。基本的には俺達は家に居るからさ」
「サンキュー、兄」
「いや、まぁ……ここの俺に双子の妹はいないんだが……まぁ、いっか」
「いなくても、キリトは私の双子の兄だよ」
キリカとアスナ、キリトが話し込んでいます。前にリョウとの話で聞いたんだけど、キリトには現実にも妹さんが居ます。キリカにも居るのかな?
なんて思っていたら、リョウがキリカ達に見えないように私の背中をトンッと押してくれました。そうだった!
「あ、あのね、キリカ」
うぅ……なんで毎回一言目に詰まっちゃうんだろ私……
「へ?どしたの、サチ?」
首を傾げたキリカに、持っていたバスケットを手渡します。
「これ、マフィンなんだけど、バスケットの効果で明日のお昼まで持つから。二人で朝ごはんに食べて?」
さっき写真を撮り終わった時、キリカ達とアスナ達が話してた時に作ったマフィン。
ちなみに、バスケットは前にリョウと出掛けた時に上層で買った性能の良いものだからストレージに入れなくても半日以上持つ筈。味も、ちょっと自信あるんだ。その……生産職としてのプライドと言うか……なんというか。
本当はバスケットの方はちょっと惜しいけど、予備にって二つ買ったからこのままキリカにあげちゃおう。そんな事を思ってたら……
「わ……あ、ありがとサチ!ちゃんとバスケット返しに来るから!ほら、ドウセツ」
キリカがこんな事を。あ、あれ!?私顔に出てたのかな!?違うよね!?
「確かに有難いわね。キリカの作るのより幾らかマシになりそうだし」
「普通に褒めることはできないんですか、ドウセツさん!?」
「無理ね」
「即答されたッ!?」
「変な薬入れていると思うと警戒心が強まって、味がわからなくなるからかもしれないわね」
「一度も料理に薬を入れたことないわよ!」
あ、うん。大丈夫そう。キリカとドウセツは何時も通りに仲良くテンポの良い会話をしてる。
それが面白くって、自然とリョウ達と一緒に笑っちゃった。ごめんねキリカ。ドウセツさんの事は私達じゃ止められないよ。
「それじゃ、お休み!みんな」
「…………」
やがてキリカが、元気に私達に言いました。
「おう、しっかり休めよ」
「お休み、キリカ、ドウセツさん」
「お休み〜」
キリト、私、アスナの順番で、手を振っているキリカに返します。私はちょっと恥ずかしいから、アスナより手の振りが小さいけど……
と、リョウが大きな声で、キリカに向かって……
「ちゃんと寝るんだぞー、キリカ」
ふふっ。本当にキリカのお兄さんみたい。そう思っていたら……
「わかっているよ、“兄貴”!」
あれ?そう言えば、キリカいつの間にリョウの事キリトみたいに呼ぶようになったんだろ?
さっき帰って来たときも、みんな一緒だったし……何か有ったのかな……?
うーん……
……はっ!?な、何考えてるんだろ私!?そんな事ある訳ないよ!だって……
視界の先で、ドウセツの腕に、キリカがくっ付いた。
……だってあの二人、女の子同士なのがちょっと嘘みたいに思えるくらい(もしかしたら女の子同士だからなのかな?)お似合いなんだもん。
「ったく、面白れぇ奴らだなぁ……」
「ホントに、仲良しなんだね……」
「キリカも良い子だし、ドウセツもなんだか優しい感じがしたね……」
「にしても妹が百合っ娘かぁ……」
みんな一言づつ二人に感じた事を言うと、リョウが私をみました。
「んじゃ。俺達も帰るか」
そっか。もうそんな時間だね。
「うん。そうだね。2人とも、お邪魔しました」
「邪魔したな」
私とリョウがそう言うと、アスナが何時ものように小さく手を振りながら、キリトがポケットに手を入れて見送ってくれる。
キリトの家は私達の家から少し離れて居るから、少しの間薄暗い森の中を歩きます。
時々、一人で暗い森の中を行くのはとっても怖いんだけど、リョウと一緒だと、ちょっとだけ嬉しかったり。
「今日は月が明るいなぁ……」
「え……?あ……本当だ……」
リョウに言われて見上げると、外周の向こうに大きくて明るい月が見えました。
「もう11月になるもんね……だんだん冬だから、空気が澄んで来てるのかな?」
「っはは!SAO(この世界)の空気が澄むかは疑問だけどな。もう冬か……」
そう言って、笑ったリョウはもう一度空を見ます。
それが月をみてるのか、それとも星を見ているのかは分からないけど、何時もこうして空を見上げた時のリョウの顔は、ほんの少しだけ、悲しそうに見えます……。そして決まって……
「寒くねえか?」
こう聞きます。
「うん。大丈夫」
何時も通りの答え。
どうしてなのか、聞いた事は無いけれど……
リョウはもう一度、前を向いて歩き出しました。
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