夢値とあれと遊戯王 太陽は絶交日和
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レベル2 おじゃま、します
「サンサーヴ……、一体何なのよ……」
哀手 樢は煮え切らない気持ちで帰宅を再開していた。
子供のごっこ遊びにしては、不可思議なことが起きすぎている。
『サンサーヴの保管に樢さんを使用したのはぼく達ですから』
老伍路 夢値の言葉を思い出すが、これもよく分からない。
「保管ってことは物よね多分。私を使用?でも変な人に何かもらったとか無いし。ていうかぼく『達』ってなに?他に誰かいるの?」
なんだかんだ悩んでいる内に、見慣れた自宅に辿り着いた。
(ルイッターにでも呟く……?)
無理矢理変質者の登場する笑い話に結論づけようとした樢だったが、
『弾みをつけて、二度ももをたたきます』
「いっちに、さん、し」
樢の家の庭で、夢値がラジオ体操をしていた。
「あ、樢さん」
こちらに気づいた夢値が寄ってくる。
「……なんでいるの!?」
「樢さんを待ちながら暇を潰すのに、これ以上の場所は無いでしょう?」
夢値が小首を傾げる。
「いやえっと、なんで待ってんの?」
「樢さんの家に着いたは良いのですが、流石に住人の許可無く家の中に入るのは良心が咎めまして……」
「あぁ、ひとんちの庭に入ってラジオ体操するのはセーフなのね」
そんな話をしていると、車のエンジンが弱まる音がした。
「あ、お母さんかな?」
見慣れた車を確認すると共に、すぐ近くのほぼ見知らぬ子供のことを再確認する。
(こいつのこと、どう話そう……)
そうこうしている内に買い物袋を持った母親が車から出てきた。
「あら、樢。鍵でも忘れたの?って、あら?どちらさま?」
母親が夢値のことを認識した直後、
「リクニード光線!」
「あああああ!」
夢値はおもちゃの武器みたいな物を取り出し、少し桃色のかかった赤色の光線を母親に浴びせた。
「ちょっと何してんのー!?」
樢が猛抗議している間に、母親はすぐに立ち上がった。
「おばさん、おじゃましますね」
夢値がにこりと微笑むと、
「へ?あ、誰か知らないけどゆっくりしてって。汚いけどごめんなさいね」
「いえいえ大丈夫ですよ」
母親はあっさりと許可した。
「え、ちょっ!」
突然のことに戸惑う樢を見ると、夢値は樢の耳元に近づいて背伸びした。
「リクニード光線を浴びた人は、暫くの間深いことを考えなくなっちゃうんですよ」
「なにそれ!?」
「というわけで軽く身だしなみ整えてからおじゃましますね」
夢値がそういうと夢値の足周りに境界が出来て、ウィィンという音と共にゆっくり回転しながら足周りの地面ごと夢値が下に潜っていった。
と思ったらすぐに逆回転しながら夢値が昇ってきた。
「おまたせしました」
にっこりと微笑む夢値の髪は濡れているし、服も着替えている。
「……」
「あら、最近の技術って凄いのねぇ」
母親の呑気な感想に、樢は戦慄するばかりだった。
「で、なんで私の家に入ろうと思ったの?」
侵入については殆ど諦めながら、樢は樢の部屋に向かう夢値の後を着いていった。
「取り敢えず家の中からの構造を大方把握しておきたかったというのもあります。……それに、」
夢値は樢の部屋の扉を開けた。
「立ち話も、なんですから」
部屋の中は物が雑多に置かれていてとても客人を招き入れる雰囲気ではなかった。
(ま、まぁ客人じゃないし)
「……さて」
夢値は慣れたような手つきで2人が座る分の床を確保した。
「僕がまず話したかったのは、ハンターの危険性についてです」
夢値がそう切り出していると母親がお菓子とジュースを持ってきた。
「お気遣い無く」「どうぞどうぞ」といったやりとりをしてから夢値が受け取ると、母親は笑顔で部屋から引っ込んだ。
「……お母さん、まさかあのままなんてことはないでしょうね?」
「多分大丈夫ですよ」
「多分って……」
「話を戻しますと、」
夢値は真面目な顔つきになった。
「ハンターは神出鬼没です。よっぽどの場所でない限り、どこにいても不思議ではありません」
樢は非現実で怪しげなワードを信用するか迷った。
「彼らはサンサーヴを手に入れる為にあらゆる手を使います。例えば、」
夢値はゆっくりと立ち上がった。
「もう、この部屋に忍び込んでいるかもしれない」
「え?」
「まぁ、もしそうならば……」
夢値は顔をしかめた。
「家主の許可も得ない、少し無礼な侵入者ということになりますけどね」
人の家の庭でラジオ体操していた人はそう呟くと辺りを見渡した。
「……いるの?」
樢は少し心配になってきて、立ち上がることにした。
「分かりません。ただ、彼らには常識が通用しません」
非常識な言動を繰り返す人はベッドを見た。
「これはぼくの仲間の話なのですが、ある日ベッドの下から物音がすることを不審に思った彼は、ベッドの下を覗き込んだのです。……するとそこには、デッキを構えてにたりと笑っているおじさんが!」
「怖いわよ!」
「ともかく、ハンターがいないだろうと思って油断していると思わぬ不意打ちに遭います。……例えば、」
夢値は机の方に顔を向けた。
「あの机の中で、ハンターが息を潜めているかもしれません」
「机に……」
樢は小学校の頃に買ってもらった、半ば物置となっている勉強机を凝視した。
見たところそこに人はいない。引き出しだって人の入れるものではない。だが、樢は悪寒がした。
「はい。一見何も無さそうでも、彼らはいきなり奇襲をかけて……」
「床の中から切り捨て御免!!」
何か背後で大きな破壊音がした。
「曲者!?」
「私の部屋がー!」
2人が動転している間にも事態は進んでいく。
「覚悟ぉ!!」
「へっ!?」
ガキィィィィン!
後ろを向くと、夢値と見知らぬ少女が遊戯王カードで鍔迫り合いをしていた。
「え、ちょっ、」
カードが悪くなるって!と言うのも呑気な、異様で切迫した空気。
よく見ると、2人の遊戯王カードは、それを包むように白い光が広がっていて、その光をぶつけあっているようだ。
キィン
「ぎゃぷっ」
樢は後ろに飛び退いた夢値に思い切り衝突したが、夢値はそれに反応せず目の前の少女と対峙している。
少女は以前現れたハンターより若そうに見えた。テーマパークみたいな忍装束に身を包んで、夢値をジッと睨んでいる。
「いや待って、さっきの光何!?なんでカードから光が出てくるの!? 」
「なかなかやるでござるな。しかし、これなら……」
今時の忍者はその口調なのだろうかなどとふと下らないことを考えていると、少女が扇を広げるように手を開くと、手品のように指の間に遊戯王カードが挟まっていた。
「剣1本では防げまい!」
少女はスナップを利かせながらそれらを一気に投擲した。
「……」
夢値はカードを右手に持ちかえると、左手でポケットのデッキらしきカードの束を引き抜いた。
ギギギギギギ
カードの束から広がる大きな光が、少女の投げたカード全部を盾のように押しとどめる。
「何!?」
「この位では……」
夢値はカードの束を振るった。
「傷1つ付けられませんよ」
跳ね返されたカード達は散り散りになって樢の部屋の壁にそれぞれ飛散した。
「私の部屋が傷ついてるじゃない!」
「……ふふふ、くふふふ」
少女は暗い目つきで笑うと、カードを構え直した。
「その余裕が、いつまで続くでござるかな……?」
「どうでしょう?当分大丈夫だと思います」
ガカガガカガカガガカガカ
2人の攻防は熾烈を極めた。少女が無尽蔵に飛ばすカードを夢値は確実に跳ね返していっている。
「ちょ、2人共、暴れるなら外でやっ……てギャー!ラツジュンのポスターがーぁ!」
それから暫くして、少女が動きを止めた。樢の雑多な部屋に無数の爪痕を残した戦いが、一旦止むことになった。
「成る程。ただの大口というわけではなさそうでござるな」
「そちらも、なかなかですよ」
2人共、疲労の色を見せながらも顔は笑っている。
「かくなる上は……」
少女が右手に持っていた数枚のカードを仕舞った。
「普通に決闘するでござるな」
「いいですよ」
「最初からやってくれない!?」
「先攻を頂きます。通常魔法、《吸光融合》を発動。デッキから……《ジェムナイト・フュージョン》を手札に加えます」
吸光融合通常魔法
「吸光融合」は1ターンに1枚しか発動できず、
このカードを発動するターン、自分は「ジェムナイト」モンスターしか特殊召喚できない。
(1):デッキから「ジェムナイト」カード1枚を手札に加える。
その後、以下の効果を適用できる。
●自分の手札・フィールドから、「ジェムナイト」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
(前に見たやつと違うのかな……)
樢が前回の決闘では見なかったカードによって、見なかったカードを手札に持ってきたようだ。
「《ジェムナイト・フュージョン》でござるか……」
忍者の装備に身を包んだ少女……灯木 稲紅というらしい……は思案げに夢値の手札を見つめた。
「吸光融合の効果の融合はしません。ぼくはカードを1枚伏せてターンを終了します」
「急がば回れ!拙者のターン、ドロー!……うぅむ、まずは《予想GUY》を発動。デッキから……《ジェムナイト・ガネット》を攻撃表示で特殊召喚するでござる。更に、《ライトロード・アサシン ライデン》を通常召喚。そして、《ライデン》の効果発動。デッキの上から2枚……《ライトロード・マジシャン ライラ》と《ジェムナイト・オブシディア》を、墓地に送るでござる。墓地に送られた『ライトロード』は1体、よって《ライデン》の攻撃力は200上がるでござる」
ライトロード・アサシン ライデン 攻1700→1900
「どっちも『ジェムナイト』ってカードを使うのね」
樢はぽつりと呟いた。だが、モンスターを出さなかった夢値に対して稲紅はモンスターを並べていく。
予想GUY 通常魔法
(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。デッキからレベル4以下の通常モンスター1体を特殊召喚する。
ジェムナイト・ガネット 通常モンスター
星4/地属性/岩石族/攻1900/守0
ガーネットの力を宿すジェムナイトの戦士。
炎の鉄拳はあらゆる敵を粉砕するぞ
ライトロード・アサシン ライデン チューナー/効果モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1700/守1000
「ライトロード・アサシン ライデン」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分メインフェイズに発動できる。自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。
この効果で墓地へ送ったカードの中に「ライトロード」モンスターがあった場合、このカードの攻撃力は相手ターン終了時まで200アップする。
(2):自分エンドフェイズに発動する。自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。
「いくでござる!まずは、《ライデン》でプレイヤーにダイレクトアタック!」
「うーん、多分、いい……、かな、いきましょう」
夢値は揺れる手で自分が伏せたカードに手をかけた。
「通常罠カード、《トゥルース・リインフォース》を発動します。デッキから特殊召喚するのは、《X-セイバー パシウル》。守備表示」
「何っ!?」
トゥルース・リインフォース 通常罠
デッキからレベル2以下の戦士族モンスター1体を特殊召喚する。
このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。
X-セイバー パシウル チューナー/効果モンスター
星2/地属性/戦士族/攻100/0
(1):このカードは戦闘では破壊されない。
(2):相手スタンバイフェイズに発動する。
自分は1000ダメージを受ける。
「戦闘破壊耐性持ちだと!?」
「僕の場にモンスターが増えたので、戦闘の巻き戻しが起きます」
(ま、巻き戻し?)
樢は分からないので取り敢えず聞き流すことにした。
「巻き戻しても改めて戦闘する意味が無いでござるな。メイン2に移るでござる……だが、」
稲紅が顔を夢値の方に向けた。
「覚悟するでござる。忍の足は、大樹すら飛び越える。壁なんぞ尚の事!拙者は、レベル4の《ガネット》と《ライデン》で、《ライトロード・セイント ミネルバ》を攻撃表示でエクシーズ召喚でござる」
ライトロード・セイント ミネルバ エクシーズ/効果モンスター
ランク4/光属性/天使族/攻2000/守800
「ライトロード・セイント ミネルバ」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送る。
その中に「ライトロード」カードがあった場合、その数だけ自分はデッキからドローする。
(2):このカードが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送る。
その中に「ライトロード」カードがあった場合、その数までフィールドのカードを選んで破壊できる。
「拙者はエクシーズ素材となった《ライデン》を取り除き、《ミネルバ》の効果を発動!デッキの上から墓地に送るのは……《ジェムナイト・フュージョン》、《ライトロード・ビースト ウォルフ》、《零式魔導粉砕機》!」
「《零式魔導粉砕機》!?」
夢値は目を丸くした。
「ふぉっふぉっふぉ。暴かれてしまっては仕方無い。とくと噛み締めるがよい、このデッキの真の力を!だがその前に《ミネルバ》の効果で墓地に『ライトロード』が1枚落ちたので1枚ドローでござる。そして、デッキから墓地に送られた《ウォルフ》の効果を発動。《ウォルフ》を攻撃表示で特殊召喚するでござる」
ジェムナイト・フュージョン 通常魔法
(1):自分の手札・フィールドから、「ジェムナイト」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
(2):このカードが墓地に存在する場合、自分の墓地の「ジェムナイト」モンスター1体を除外して発動できる。墓地のこのカードを手札に加える。
ライトロード・ビースト ウォルフ 効果モンスター
星4/光属性/獣戦士族/攻2100/守 300
このカードは通常召喚できず、カードの効果でのみ特殊召喚できる。
このカードがデッキから墓地へ送られた時に発動する。このカードを墓地から特殊召喚する。
零式魔導粉砕機 永続罠
手札の魔法カード1枚を捨てる事で、相手ライフに500ポイントダメージを与える。
「何?あの零式なんちゃらってやつ、そんなやばいの?」
「おそらく相手のデッキは、通常魔法の《ジェムナイト・フュージョン》を何度も墓地から回収して、それを《零式魔導粉砕機》で何度も捨てることによって、ぼくのライフを削りとるデッキでしょう。相手のデッキの回り方次第では、脅威となりえます」
「壁ですら、忍の技は、飛び越える」
稲紅は満足げにニッと口元を歪めた。
「《パシウル》は戦闘で破壊されないでござるが、それでも敵のライフを0にすることが可能!これぞ忍法、零式魔導粉砕機の術でござる!」
「いやどこが忍法なのよ」
「シュパパっとしてるでござるからな」
「よく分からないわよ!」
「墓地の《オブシディア》をゲームから除外して、《ジェムナイト・フュージョン》を手札に加えるでござる。では、カードを2枚伏せてターンエンドでござる。さぁ!」
稲紅は夢値をビシっと指差した。
「出来る限りの権謀算術を張り巡らせるでござる!だが、拙者は絶対にそれを超えてみせる!」
「……」
夢値は、少し黙った後、小さく口を開いた。
「絶対、ですか」
後書き
この決闘の終わらせ方は考えているのですが、もう少しエレガントに勝つ方法を模索中です。
もしかしたら、この章もいじる可能性が無きにしもあらずです。ご了承下さい。
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