隠棲
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第三章
そしてだ、その宴から暫く経ってからだった。
韓信は張良から文を貰った、その文を見て彼の家臣達に言った。
「妙なことが書かれていた」
「妙なこととは」
「それは一体」
「英布殿、彭越殿にも同じ文を届けてあるというが」
韓信と同じく大きな功を挙げ王に封じられ多くの領地を持っている彼等にもというのdくぁ。
「すぐに王の位を返上し領地も出来る限り少なくして」
「そしてですか」
「そのうえで、ですか」
「隠棲すべきとだ」
「張良様の文には書かれている」
「そうなのですか」
「そうじゃ、文には書かれていなかったが」
ここから先だ、韓信が言うことはというのだ。
「ご自身の様にせよとな」
「その様にですか」
「張良様は仰っていますか」
「大王に」
「妙なことを言われる」
首を傾げさせてだ、韓信は言った。
「何故わしが退かねばならぬ」
「王の位を返上し」
「そして領地もかなり減らし」
「隠棲ですか」
「この世から」
「わしは漢の為に戦い大きな功を挙げたのじゃ」
確かな声での言葉だった。
「そしてその功によってじゃ」
「王になり」
「領地も多く貰い」
「こうした宮殿に住み」
「錦を着ておられますな」
「それに見合うだけのことはした」
美酒と馳走も好きなだけ楽しめるだけのというのだ。
「それで何故得たものを返上してじゃ」
「身を隠さねばならぬのか」
「わかりませぬな」
「全くじゃ、張良殿の智は天下一」
韓信も認めることだ。
「軍師として漢の天下を築かれた方というのに」
「妙なことを書かれていますな」
「この度は」
「わからぬ」
首を傾げさせてだ、韓信はこの文を無視することにした。そして後にかつて項羽の下で将軍であった旧知の者鍾離眜を匿ったが。
そのことを聞いた劉邦は眉を顰めさせただ、周りの者達に言った。
「鍾離眜は項羽の下で優れた将だった」
「はい、そしてです」
「陛下を苦しめられました」
「あの者がいると厄介です」
「それも楚王の下にいるなぞ」
「楚王はだ」
劉邦は暗い顔で言った。
「兵を率いさせれば無双じゃ」
「兵は多ければ多い程いい」
「縦横に操られますな」
「まさに戦になればです」
「楚王に勝てる者は」
「項羽は勝てた」
彼ならばというのだ。
「項羽ならば」
「しかしです」
「項王でないのなら」
「とてもです」
「勝てませぬな」
「その楚王の下にあの男がいる」
鍾離眜、彼がというのだ。
「これは厄介なことだ」
「はい、淮南王梁王といます」
ここで劉邦に皇后である呂后が言って来た。
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