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ハーメニア

作者:秋月 俊
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五人目のハーメニア-前編-

「踏み込みが甘いです。あと、肩に力を入れ過ぎで、振りが大きくなっています。そんなのじゃ、当たる攻撃も当たりませんよ?」

ミクがその場から一歩も動かず、俺の攻撃を防ぐ。先程からどれだけ経っただろうか、ゆかりと交代しながらミクに特訓をつけてもらっている。特訓方法は実に簡単、マンガやアニメなどでよくある、一発当てたら勝利というやつだ。ハンデとして、ミクはこちらに攻撃をすることができない事、そしてその場から一歩も動かないということを課せられているのだが……

「第一にですね、お二人共武器の特性を知らなすぎるんです」

とは言われても、生まれてこのかた、刀なんて扱ったことないし。中学生の頃に授業で習った剣道を思い出しながらなんとか振るっているので、これが精一杯だ。

「なら私の見解ですが、お二人の武器にあった戦い方をご教授しましょう」
「頼む」
「お願いします」

そう言うとミクはどこから出したのか、メガネを取り出し掛けた。

「まずマコトさんの刀ですが。刀身がそこまで長くありません。と言うことは、必然的に敵の懐に飛び込まなければなりません」

確かに。着物男が持っていた刀と比べて、この『紲月歌』は刀身が長くない。

「普通ならばそう簡単には踏み込ませてくれません。しかし、ここはステージの上。つまりは私たちには驚異的な身体能力が付与されます」

言いたいことはわかるが……

「それって相手も同じじゃないのか?」
「はい。ならば考えるのは一つ。相手よりも速く動けば良いのです」
「なるほど。相手はいつマコトさんが加速してくるかわからない。ならば不意をついて一撃を喰らわせる、そういうわけですね」

ゆかりの言葉にミクが頷く。とは言うものの、そう簡単ではないぞこれ。

「もし相手がそれに反応出来たらどうするんだ?」
「そこは……臨機応変に対処してもらえたらいいです。とりあえず、私から言えるのはマコトさんは高速戦闘を主体としての戦いが好ましいです」

……なんだか釈然としないが。とりあえずは相手より先に動けというわけか。

「次にゆかりさんですが。なんというかその……」
「大丈夫です。言ってください、うっすら分かってますが……」



ゆかりが死んだような目で答えた。余程ショックだったんだろうな。

「えっと、ゆかりさんのそのチェーンソーは恐ろしいくらい攻撃力が高いです。しかしその代償として、重たさがマコトさんの刀の数十倍と、すごい事になっちゃってますね」
「ええ、ステージの恩恵があっても扱いが難しいです」

ゆかりがブンッと水平斬りをする。しかしその重さに耐え切れなかったのか、バランスを崩してコケてしまう。

「ですので、振ると言うよりは、置く戦いかたのほうが合っていると思います」
「置く……ですか?」
「はい。カウンターと言ったが良いかもしれません。相手が踏み込んできたところに、それを置いておくんです」

たしかにそれなら力要らないが……

「もし敵が踏み込んでこなかった場合はどうするんだ?」
「あ~……。そこも臨機応変に」

……おい。

「し、仕方ないじゃないですか!私だって、どうやって使ったら良いかわからないんですから!とりあえず、マコトさん!私が教えたようにやってみてください」

ミクが刀を構える。まぁ、俺もあの武器にアドバイスをしろと言われてもなんと言っていいかわからんが……。

「よし、行くぞ!」

先ほど言われた通り、足に力を入れて、急速に加速する。

「先程よりも速いですが、単調な攻撃ですね」

ミクが剣で俺の刀を弾く。その勢いを利用して、後方へと退避する。やはり、直進して攻撃するだけでは一撃与えることができないな。

「そろそろお腹が空きましたね。よし、二人共まとめてかかって来てください」

挑発するように剣をくるくると、器用に回す。二人でかかってこいとは……舐めてやがるなあいつ。

「ならお言葉に甘えさせてもらうぜ。合わせろゆかり!」
「えっ、ちょっと!ああ、もうっ!」

もう一度加速し、ミクの前まで走る。先ほどと同じように剣で弾こうと、構える。しかしそれは俺の予想通りで、俺は刀と剣がぶつかる前にもう一度足に力を貯める。そしてそれをバネとして、ミクの上を飛び越える。その時偶然なんだろうが、ミクの剣を弾くことに成功した。俺はミクの後ろに着地し、身体を回し、その勢いを利用して回転水平斬りを放つ。

「うそでしょ!?」
「こいつで、決まりだぁぁぁぁぁ!」

ミクに『紲月歌』が入る直前に、何かが『紲月歌』を弾き飛ばした。

「な、ゆかり!?」
「なんか助かったみたい!ハッ!」

俺の眼前に剣が現れた。

「あっぶな!」

身体を反らせ、それを回避する。もしミクにハンデがなければ、俺の目は両方共潰されていただろう。

「ごめんなさいマコトさん。私のせいでチャンスが……」
「大丈夫だ。それよりも、少し考えついたことがあるんだが」

ゆかりにそのことを伝える。

「ってことだ。出来そうか?」
「わかりません。でも、やってみる価値はあると思います」

よし、恐らくこれがラストチャンス。そして、これが今一番ミクの意表をつき、一撃を入れることが出来る最善の策だろう。

「頼むぞゆかり!」
「はいっ!」

刀を下段に構え、足に力を貯める。そしてそれを開放し、ミクに肉薄する。先程とは違い、全神経を集中させる。

「また直進ですか。あんまり言いたくないけど、馬鹿ですかマコトさん」

馬鹿で結構さ。元々何かを考えるのは得意じゃないしな。それに、そんな調子じゃ俺らの策は打破することは無理だろう。

「くらい……やがれぇぇぇぇぇ!」

『紲月華』を下から振り上げる。しかしミクは予想していたのか、剣を斜めにし、それを防ぐ。しかし、それこそが俺の、俺達の待っていた行動だったのだ。

「チェンジだ、ゆかり!」

そう叫んだ瞬間、俺の手に握られていたのは『紲月華』ではなく、ゆかりが持っていたはずのチェーンソーであった。その重さはミクの言っていた通り、『紲月華』の数十倍。当然、それはミクが予想していなかったことで

「くっ!防げ……っないっ!」

チェーンソーを防いだ剣にヒビが入り始める。

「押しきれぇぇぇぇぇぇぇ!」

全力で押し切る。そしてついに、ミクの剣を折ることに成功した。そして

「今だゆかりっ!」

俺の声ジャストでゆかりが俺と入れ替わるように懐に突入する。ゆかりの手には『紲月華』が握られている。

「これで、決まりですっ!」

ゆかりがミクの身体を二つに割る勢いで『紲月華』を振り抜く。

「ストーーップ!」

ミクがギリギリのところでジャンプして回避する。

「あっぶなかったー」
「ご、ごめんねミクちゃん。大丈夫?」
「あはは、大丈夫です。それよりも1発、入れられちゃいましたね」

ミクが剣を消しながら言った。ということはつまり?

「合格ですっ!」
「「やったーーーーーーーー!」」

PM18:00

ゆかりがステージを消し、やっと外の空気を吸うことが出来た。ふぅ、時間は進んでないはずなのに2時間くらい経った気がする。

「それにしてもこんなに早く合格するなんてびっくりしました」
「大分一カバチかだったんですよ?マコトさんから響器を取替えれないかと聞かれた時はびっくりしましたけど、なんとかうまく行きました」
「ゆかりがちょうどのタイミングで懐に踏み込んでくれたからだよ。本当に助かった」

ゆかりと顔を見合わせる。お互い照れくさくなり、笑いながら目を逸らした。



「お2人ともほんとに仲がいいですよね。それよりも、もう帰りましょうか。お腹が空きましたし」
「ですね。お2人とも、お疲れ様でした」
「お疲れ様。また明日な」

そう言って俺達3人は解散した。

PM21:00

「それにしても今日はほんとに疲れたな」

食べ終わった晩御飯の皿をシンクに置いて、ベッドに座る。なんとなしにテレビをつけると、jamバンドが何かのインタビューを受けていたところだった。インタビューの内容は、何故このバンドを組むことになったのか、か。

『なんでバンドを組んだですか。そうですね、私達がこのバンドを組むことになったのは、ある男の子が私に力を与えてくれた事が関係してるんです』

マキが司会者の方を向きながら答えた。

『私が母親を亡くして自暴自棄になってた時に、その子が言ってくれたんです。お母さんとの約束をまもるんだろ?だったらこんなところで終わるのかよって。』

そう、あれは今から11年前。マキのお母さんを病気でなくしてしまって、母親の影響で始めたギターをやめようとしてしまったんだ。だけど、マキからずっと聞かされていた夢。それは母親が教えてくれたギターでプロになるっていう夢だった。だから俺はマキを鼓舞した。

『だからその子には感謝してるんです。その言葉は今でも大切で、その子も私にとっては一番大切な男の子なんです』

マキがニッコリと笑った。それはしっかりとカメラを向いていて、とても魅力的な笑顔だった。

(もしかしたら、マキにも被害が及ぶかもしれないんだよな)

敵の攻撃はいつ、どこで俺の関係者に降りかかるかわからない。だから俺は強くなるんだ。ゆかりやミク、親父。そして何よりも、マキを守るために。


続 
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