バレンタインは社交辞令!?
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1部分:第一章
第一章
バレンタインは社交辞令!?
今年もこの日がやって来た。バレンタインである。
「つまりあれだよ」
サラリーマンの三橋浩太は休憩中のオフィスで同僚達と話していた。髪がさらさらとした細面の若者であった。身体も痩せていて青めのスーツがよく似合っている。
「お茶菓子が唯で配られる日だ」
「その通りだな」
同僚達も彼の言葉に笑って返す。
「この歳になったらな」
「もうチョコレートの一個や二個でなあ」
「うかれないからな」
「そうなんだよな」
浩太は自分の席で左手にペンを持って言う。彼は左利きである。
「学生の時はともかくな」
「そうそう」
「社会に出たら急に社交辞令になっちまうよな、バレンタインって」
「どっちかっていうと女の子が一方的に損だよな」
「あら、それはどうでしょう」
だがそれには眼鏡をかけたOLが反論してきた。丁度浩太の向かい側の席にいる。
「女の子ばかり損とは限りませんよ」
「そうか?」
「そうですよ。だって」
彼女はここでにこりと笑って言ってきた。
「お返しがあるじゃないですか」
「ああ、マシュマロとか飴とか」
「はい」
彼女はそれに答えて笑ってきた。
「それですよ」
「岩田さんマシュマロ好きだからねえ」
「やっぱりそれか」
「ギブアンドテイクですよ」
その眼鏡をかけた岩田さんはにこりと笑ってきた。そのうえで言う。
「こういうのは。いえ、世の中自体が」
「何か現金だねえ」
「全く」
皆その言葉に対して笑っている。どうやらここにいる全ての者がバレンタインというものの対して特に何も思っていないようであった。
「皆お茶菓子目当てか」
「まあチョコレートだしね」
男達は言う。
「家に持って帰ってウイスキーと一緒にとか」
「紅茶じゃないのかよ」
「やっぱり酒だろ」
太った男が笑いながら言う。
「冬だし寒いしな」
「御前そう言っていつも飲んでるじゃないか」
「夏は夏でビールで身体を冷やすとか言ってな」
「それはそれこれはこれだよ」
太った男はこう言ってそれを特に意識もしない。
「夏には夏の理由があるし冬には冬の理由があるんだよ」
「そうなのかよ」
「ああ、そうさ」
彼は平然として述べる。
「だから別にいいじゃないか」
「しかしウイスキーとチョコレートか」
浩太はそれを聞いて何かを思ったようであった。目をパチクリとさせている。
「何か面白い組み合わせだな」
「あれ、三橋さんて」
それを聞いた岩田さんが彼に声をかけてきた。
「ウイスキー駄目なんじゃ」
「まあね」
その言葉に答える。これは事実だ。
「アルコール度が強いと駄目なんだ」
「そうでしたよね」
「どういうわけか自分でもよくわからないけれど」
彼はアルコール度の強い酒は飲めないのだ。日本酒やワインまでならいけるのだがそれより上となると身体が受け付けない。自分でもわからないのだがそういう体質なのである。
「ちょっとね」
「そうでしたよね」
「何だよ、相変わらずかよ」
太った男がそれを聞いて笑って浩太に声をかけてきた。
「御前そんなんだからな」
「おい坂下」
浩太はここで彼の名前を呼んできた。
「それでも飲む量は御前と変わらないだろうが」
「あれっ、そうだったか」
「そうだよ。大体酒を飲む量なんか比べること事態間違いだろ」
「じゃあ仕事か?」
「そっちも何か一緒だしな」
浩太もこの坂下卓も仕事は同じようなものだ。だからそちらでも張り合う程のものではないのだ。それはそれでライバル関係を持てそうなものだが生憎彼等はそうした感情は持ってはいないのだ。
「じゃあチョコレートの量だな」
「だからそれはもうよ」
彼はまた話を戻した。
「皆義理チョコだろ。だったら意味ないだろ」
「それもそうか」
卓はそれを聞いて納得したような顔を見せてきた。
「そうだよ。本命とかそんなのはないだろうが」
「せちがらいね、どうも」
「そもそも御前そんなにもてるのかよ」
彼はそれを卓に言ってきた。
「もてるんだったらいいけれどよ」
「これでも大学時代はジゴロだったんだぜ」
「嘘つけ」
それはすぐに頭から否定した。
「そんな体格でジゴロかよ。柔道部に入っていたって聞いたぞ」
女の子にもてない部活の最右翼の一つである。他には相撲部等が候補であるとされている。
「柔道部でも俺は特別だったんだよ」
「何だ?特別持てなかったのか?」
「御前ねえ」
そのあまりにもきつい言葉に卓もちょっとむっとしてきた。
「幾ら同期でも言っていいことと悪いことがあるぞ」
「じゃあ一度手合わせするか?」
浩太は言ってきた。
「何なら」
「そっちも勝負にならないだろ」
だが卓は彼に対してこう返してきた。
「俺は柔道だし御前は合気道だし」
「まあな」
「仕掛けて来なけりゃ何の意味もないじゃないか。俺だって下手には仕掛けたりはしないぜ」
合気道は相手が仕掛けてくるのを応用して技をかける。だからこうした勝負は成り立たないのである。卓はそれを踏まえたうえで言ったのである。
「だからそれもなしな」
「わかったよ」
「それだからチョコレートだ」
「義理チョコの数でも競う合うか?」
「それでどうだ?」
卓は提案してきた。
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