ソードアート・オンライン~連刃と白き獣使い~
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第九話 激突、«神聖剣»VS«二刀流»
翌日。
俺は朝からキリトと共にエギルの雑貨屋の二階に居た。因みにクレイは看板娘として此処で働いている。
キリトは揺り椅子にふんぞりかえって足を組み、店の不良在庫のお茶を不機嫌にすすっていた。
因みにそのお茶は«ラグレット»と呼ばれ、外で飲むと状態異常をランダムで起こす物だ。俺作。
どうしてこんな不機嫌になっているかと言うと、昨日の«事件»でアインクラッド中が騒いでいるのだ。
フロア攻略、ゲート開通だけでも十分すぎる話題だが、今回はオマケがある。曰く、«軍の大部隊を全滅させた悪魔»、曰く«それを二人で撃破した二刀流使いの五十連撃と暴風戦王の三十連撃»……。俺は対して影響はないが、キリトの場合は尾ひれが凄い。
しかも、どうやって調べたのか、個人のねぐらに早朝から様々な人が集まり、脱出するのに転移結晶を使うはめになった。
「引っ越してやる……どっかすげぇ田舎フロアの、絶対見付からないような村に……」
ぶつぶつ呟くキリトに、エギルがにやにやと笑顔を向ける。
「まぁ、そう言うな。一度くらいは有名になってみるのもいいさ。どうだ、いっそ講演会でもやってみちゃ。会場とチケットの手はずは俺が」
「するか!」
叫び、キリトは右手のカップを投げる。途端、投剣スキルが発動。輝くそれを、俺はブルークリムゾンを鞘ごと抜いて腹で受ける。カップは派手な壊れ方をして床に落ちて消滅する。
「エギルを殺す気か馬鹿」
いやまぁ、園内だからダメージも何も無いが、キリトはわり、と右手をあげてエギルに謝罪する。
エギルは今、俺とキリトが昨日の戦闘で手に入れたお宝を鑑定している。時々奇声を上げるのでレアな物も含まれているらしい。極め付きは「ぬぉおおお!?」なので何かしらヤバイもんでもドロップしたのだろうか。
下取りした武装及び下取りはクレイや«ドラゴン・ファング»の面々と分ける手筈になっている。実際、そうして成り立っている訳だから、うちはKoB等から一目置かれているわけなんだが。
エギルの鑑定が終わりに近づき、クレイが上に上がってきた頃、ドアが急に開かれる。登場したのはアスナだ。
「よ、アスナ……」
キリトが言葉を飲み込んだ。アスナは顔面蒼白になっており、目を不安そうに見開いている。唇を何度か噛み締めた後、
「どうしよう……キリト君……」
と、泣き出しそうに言った。
「大変な事に……なっちゃった……」
俺秘蔵の紅茶をストレージから出し、提供したのを一口飲んで、アスナは話始めた。
何でも、昨日アスナはギルドを一時脱退を申し入れたものの、今日の会議でかのヒースクリフが条件を出した。曰く、キリトと立ち会いたい……と。
「珍しいな、あの男が」
ヒースクリフの数々のギルドの噂を耳にする俺はそういう。
すると、キリトは言う。
「……ともかく、一度グランザムまで行くよ。俺が直接談判してみる」
「ん……。ごめんね。迷惑ばかりかけちゃうね……」
「何でもするさ。大事な……」
少し沈黙して言う。
「……攻略パートナーの為だからな」
とは言うものの、あの男がそう簡単に意見を曲げるとは思えないなとか思いながら二人を見送った。
「クウト君は行かなくて良いのー?」
普段着のクレイは俺をつんつんとつつきながら言う。
「……止めろ、うっとおしい」
「きゃー、おーそーわーれーるー」
「冗談でも言うなっ!!」
此方も此方で、頭が痛くなった。
「もーーーー!!馬鹿馬鹿馬鹿!!」
何これ、あんたら付き合ってるの?彼氏彼女の所業だぞそれ。
とか思いながら紅茶を飲む俺とクレイ。時間にして一時間そこら。帰ってくるや否や、キリトの座る椅子の肘掛けに乗っかってキリトを叩くアスナの構図が完成した。胸焼けする。これがリア充か。爆裂しろ、エクスプロージョン!!
「それ別のアニメー」
そして隣のクレイは俺の心を読む。あっれー、心が読まれるの何で?
「とはいえど、説明を受けた俺も馬鹿としか言い様無いな。なぜ受けた?」
「つい売り言葉に買い言葉で……痛い痛い、アスナ悪かったって!」
アスナの拳を握ると、アスナはようやく落ち着くが、頬を膨らませる。心なしか頬が赤い。
「とは言え相手は神聖剣だろ、大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、一撃終了ルールでやるから危険はないさ。それに、まだ負けると決まった訳じゃないし……」
「とは言え、お前の«二刀流»と«連刃»は別次元の強さを持つが、奴の«神聖剣»はその上をいく。奴の無敗の伝説は聞かない訳じゃ在るまい?」
「そうだよ!もし負けたらわたしがお休みするどころか、キリト君がKoBに入らなくちゃならないんだよ?」
「考えようによっちゃ、目的は達するとも言える」
「ん?それはどういう意味だ?」
その言葉に疑問を感じ、質問をする。
「その、俺は、あ……アスナといられればそれで良いんだ」
途端、その場の空気が熱と氷で別れた。熱はキリトとアスナ、氷は俺とクレイだ。マジで爆裂しろ、エクスプロージョン!!
「同意」
クレイに関してはアスナを見て怨めしそうな目をしている。
「ほんっとうに男って可愛い女子好きだよねー……。はぁ」
「ん?それは人それぞれだろ?」
クレイの呟きを、俺は聞き逃さずに言う。するとクレイ、俺に近寄って言う。
「じゃあさ、クウト君はどんなのが好みなの?」
「んー、好みねぇ……」
ボスッと頭を押さえると、クシャクシャしてやる。
「ふぁ……!」
「そんな顔するやつかな」
そういって、その部屋から退出した。
そしてまた翌日。
先日解放されたコリニア市ゲート区画は今朝から満員御礼だった。
何しろ、ユニークスキル同士の対決が行われるのだ、沸かない方が可笑しい。まぁ、その主催者が……。
「本当に儲けさせて貰ってますわ、クウトはん!」
「こう言うのはお祭りみたいにやるのが当たり前だがな、ダイゼン」
KoB経理担当のダイゼン。少なからず交友があり、今回の事で色々と相談を持ち掛けられていた。因みに売り上げ一割はドラゴン・ファングに送ると言う契約だ。
「それよりキリト来たぞ」
「主役のご登場ですか!ほな行ってきますわ!」
その腹を揺らしながら、キリト達に近付いていった。
「クウト君ー!」
代わりに近付いてきたのは私服のクレイ。フリフリのロリータファッションである。
可愛いーーーーと不覚にも思ってしまった。勿論、ロリコンではないぞ俺は。
「と言うかどんだけ買い食いしてるんだお前!?」
「クウト君の分もあるよー。はい!」
どちゃっ!と言う音と共に渡され、俺は困惑する。すると、試合開始を告げるアナウンスが響き、俺達は闘技場に入る。
場所は最前列、一番見やすい席だ。
既に観客は沸いており、「斬れー」だの「殺せー」だの物騒な事をいっているものたちもいる。
既に両者共に闘技場の真ん中に居るようだ。急いで席に向かうと、俺とすれちがう形で黒いフードを被った女の子と出会う。
「……ヒースクリフに気を付けなさい」
「え……?」
女の子を見ようとすると、消えていた。
「クウト君?」
「悪い、今行く」
頭のすみに置いておき、席につくと、既に二人は構えていた。
ヒースクリフは自然体でその剣を構える。キリトも自然体に近い形でその二刀を持つ。
二人とも、ウインドウは見ていない、にも関わらず地を蹴ったのは【DUEL】の文字が閃くのと同時だった。
最初に剣を動かすはキリト。滑空するように走り、ヒースクリフの前で回転する。右手の剣が盾に迎撃され、激しい火花が散るが、左の剣が素早く盾の内側に入る。二刀流突撃技«ダブルサーキュラー»。
左の剣は惜しくも剣に阻まれ、ライトエフェクトが虚しく散る。技の余勢で距離を取り、向き直る。
すると次はヒースクリフが盾を構えて突進する。
キリトは右のダッシュ回避を試みる。しかし、ヒースクリフは盾を水平にすると突き攻撃をキリトに放つ。キリトは咄嗟に両手の剣でガードし、数メートル吹き飛ばされる。右の剣で転倒を防ぎ、空中で一回転して着地する。
神聖剣は盾にも攻撃判定のあるユニークスキルだ。刀や片手剣を数本使う二刀流や連刃より癖のあるユニークスキルだが、ヒースクリフは見事に使いこなしている。
そんなヒースクリフは、キリトに立ち直る余裕を与えまいと、再度のダッシュで距離を詰める。剣がアスナの速度が何だと言う速度で放たれる。
キリトは防戦を強いられた。瞬間的反応だけで上下から放たれるそれを両手の剣でフルガードする。
八連撃の攻撃を凌ぎきると、間髪入れずにキリトのソードスキルが発動する。
「あれはっ!」
思わず声を出してしまう。キリトが放ったのは片手剣単発重攻撃«ヴォーパル・ストライク»。
ジェットエンジンめいた金属質のサウンドと共に赤い光ぼうが盾の中心に突き刺さる。
ガガァン!と炸裂音が轟き、今度はヒースクリフが弾き飛ばされた。盾を貫通するには至らないが、ヒースクリフのHPは僅かに減ったが勝負を決めるダメージではない。
ヒースクリフは軽やかな動作で着地すると、距離をとる。
「二人とも、凄い……」
「ああ……」
クレイの言葉は真実だ。仮に、俺とキリトが戦うとしよう。最大の反応速度と最大の攻撃速度が戦ったとするならば、最後に勝つのは恐らく最大の反応速度を持つ方だ。
そんなことを考えている間にキリトは地面を蹴る。ヒースクリフも構え直して間合いを詰める。
超高速で連続技の応酬が始まる。剣は盾に弾かれ、剣は剣に弾かれる。
様々な色彩の光が連続的に飛び散り、衝撃音が闘技場の石畳を突き抜ける。
時折互いの小攻撃がヒットして双方のHPがじりじりと削れ始める。例え強攻撃でなくともどちらかのHPが半分を下回ればその時点で勝者が決まる。
しかし、それを許さないと言うようにキリトの剣速が上がる。キリトは笑っていた。
双方の剣撃の応酬が白熱するに従い、双方のHPは更に減り続け、遂に五割と言うところに来た。
しかし、ヒースクリフは焦りの表情を見せた。
「らぁあああああっ!!」
途端、キリトが雄叫びと共に両手の剣を解放する。«スターバースト・ストリーム»、プロミネンスの奔流がごとき剣閃がヒースクリフへ殺到する。
ヒースクリフが盾を掲げてガードする。キリトは構わず上下左右からの攻撃を浴びせ続ける。心なしか、ヒースクリフの反応速度が遅れていく。
途端、右に振られ過ぎたタイミングで左の剣がヒースクリフに襲いかかる。
これが当たればキリトの勝ちだがーーーー
ーーーーそのとき、世界がぶれた。
「何だと……っ!?」
どう表現すべきか。時間が割り込まれた、或いは速まったと言うべきか。
右にあったはずの盾がコマ送りの映像のように瞬間的に左に移動し、キリトの攻撃を防ぐ。
ガードされたキリトは致命的な硬直時間を課せられ、ヒースクリフはその隙にデュエルを終わらせるダメージを剣の単発突きで与え、デュエルを終わらせた。
しかし、勝者になったにも関わらず、その表情は険しく、身を翻して控え室に消えた。
俺はヒースクリフを追おうとクレイを置いて闘技場の入り口に戻る。
「だからヒースクリフに気を付けなさいと言ったでしょう?」
その入り口の前で、女の子は居た。
「……何者だ、アンタ」
僅かに腰の刀を抜く。気を許しては行けない。本能がそういっていた。
「大丈夫、『今は』まだ敵ではないから」
クスッと微笑むと、フードを外す。
髪は銀色で、顔は何処か幼く感じる。
目の色は白と黒の二色で彩られており、ミステリアス感がある。
「名前だけは名乗るのが筋よね。私はシュラウド。ある団長の影であり覆い隠す者。今はそれくらいかな?」
フードをかぶり直すと、言う。
「と言うことだから、精々気を付けなさい、ヒースクリフには」
「クウト君!」
すると、入り口の方からクレイが駆けてくる。
「クレイ!?」
「どうしたの急に走り出して!!」
「……いや、悪い。何でもなかった」
クレイに言うと、ほっとした顔を見せる。
「全く……ヒースクリフに自分と戦え!なんて言いに行ってたらどうしようと考えてた私が馬鹿みたい……」
「悪い」
クレイの頭を撫でると共に、後ろを見る。
しかしそこに女の子は居なかった。
後書き
久しぶりの長文キター!!
ゼロ「お邪魔しまーす」
クウト「また来たのかアンタ」
まーまー、主人公同士仲良くせぇよ?
二人「「コイツとは馬があいそうにない。良かった俺も合わねぇよ」」
喧嘩すんなよ。
さて、最後の方に新キャラ、シュラウドの登場です。ぶっちゃけ、英語を日本語に訳すと狩人と黒の剣士やその他作品を見てくれている作者様方はわかるはず。
ゼロ「俺でもわかるし」
クウト「俺は分からない」
クウトは本編上最初の出会いだからねぇ。ゼロは分かったみたいだが。
ゼロ「え、分からない方が可笑しいの?」
いや、分からない方が普通の反応です。雷が本体の人(笑)さん。
ゼロ「何が雷が本体の人(笑)さんだ!!」
え、バナナの人でも良いよ?
ゼロ「良かねぇよ!?」
クウト「次回、連刃!追跡の風、黒き帳。よろしくなー」
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