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アイドルになるには

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1部分:第一章


第一章

                       アイドルになるには
 雑誌の広告にだ。それはあった。
 それを見てだ。柳田彩奈は思った。
「私もアイドルになれるかな」
 こうだ。無邪気に思ったのである。
 小柄で少し太めだがだ。カマボコ型の少し大きい目の童顔で口も程よい大きさだ。黒髪を伸ばしそこに微かに茶色をかけている。
 眉は細く長い。それで緩やかなカーブを描いている。確かに小柄だが胸は大きいしひらひらのミニスカートから見える脚もいい。
 その彼女がだ。ある雑誌のタレント募集の広告を見て思ったのである。
「若しかすると」
 それは家で思いついつい口に出していた。そしてだ。
 たまたまそこに母親もいた。顔は彼女と生き写しだ。背まで同じく小柄だ。
 その母親がだ。娘に言った。
「じゃあオーディション受けてみたら?」
「募集に応えてよね」
「そうよ。駄目で元々じゃない」
 母親は実にあっけらかんとして娘に言う。
「だからよ。どう?」
「ううんと。結構大きな事務所だけれど」
 彩奈どころか誰でも知っている様な事務所である。その広告を出しているのは。
「受かるかな」
「大きくても小さくても同じよ」
「事務所は?」
「受かる受からないはあんたの資質よ」
 それによるというのだ。
「それ次第よ」
「私の」
「そう。人は見るから」
 彩奈がだ。アイドルになれてそれでどうかということをだというのだ。
「だからね。大きい事務所でもよ」
「怯まずに、なのね」
「いい?アイドルとは何か」
 母親は熱い口調になった。
「それはね。聖子ちゃんや明菜ちゃんみたいにね」
「何か古くない?」
「じゃあ高橋由美子ちゃんとか深田恭子にしとく?」
「その人も昔の人じゃない」
「それじゃあ誰がいいのよ」
「今はAKBの時代だから」
 彩奈が話に出すのは彼女の時代の話だった。つまり今である。
「だから。渡辺麻衣ちゃんとか峰岸みなみちゃんとかね」
「ああした娘達みたいになりたいのね」
「そう。ひらひらの服を着て歌って踊って」
「それ昔もだから」
 そうした意味ではアイドルは今も昔も同じであった。
「聖子ちゃんや明菜ちゃんもね」
「お母さんの年代はそうなのね」
「丁度お母さんが中学校の頃が聖子ちゃんや明菜ちゃんの黄金時代だったのよ」
 何気に自分の年代もばらしてしまっている。
「もう凄かったから」
「ううん、ちょっとわからないけれど」
「とにかく。アイドルになりたいのならよ」
「まずはオーディションを受けることなのね」
「履歴書書きなさい」
 最初の一歩はそれだというのだ。
「いいわね」
「うん、それじゃあ」
 こうしてだ。彩奈はまずは履歴書を書いてそれを事務所に送った。程なくしてオーディションの時間と場所を書いたパンフレットが送られてきた。
 それを受けてだ。彼女は意気込んでだ。
 オーディションの会場に向かった。そこには母も付き添っている。その母にだ。
 彼女はだ。首を傾げさせて尋ねた。
「何でお母さんが?」
「だって。心配だから」
「私がアイドルになれるかどうか?」
「そう、だからね」
 それでついてきたというのだ。
 
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