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毒蜘蛛

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4部分:第四章


第四章

「本当に危なかったですよ」
「そうですよね。危ないところでしたか」
 それを聞いてだ。歩は今度はこんなことを言った。
「けれどですよ」
「けれど?」
「何であんな蜘蛛がいたんですか?」
 それが一番の問題だった。何しろクロゴケグモはアメリカにいるのだ。それが何故日本にいるのか。そのことを聞かずにはいられなかった。
「お陰で本当に死ぬところでしたけれど」
「それは多分ですね」
「温暖化ですか?」
「それ嘘ですから」
 医者は温暖化の否定から述べてきた。
「温暖化は嘘ですよ」
「えっ、あれ嘘だったんですか」
「そう、嘘なんですよ」
「けれどテレビとかでいつも言ってますけれど」
「テレビは嘘を吐くものです」
 医者は歩にこのことも話すのだった。
「絶対に信じてはいけません」
「信じたら駄目ですか」
「はい、駄目ですから」
 医者の言葉は続く。
「その温暖化もです」
「あれって本当に嘘なんですか」
「実際は寒冷化に向かっているという話もあります」
「あれ、地球は熱くなっているのじゃなくて」
「何十年か前の予言の本とか怪しいエコの本では寒冷化を言ってましたから」
 今はそれが温暖化になっているというのだ。時代が変わればそうした主張も正反対になったりするということである。
 それでだ。医者は歩にこうも話した、
「あのニュース番組のプロレスの司会あがりの」
「何かっていうと温暖化の影響って言うあいつですか」
「あいつは何度も嘘を吐いた前科がありますから」
「じゃあ絶対に信用できないんですね」
「そう、できません」
 まさにそうだというのだ。
「とにかく温暖化はです」
「信じたら駄目ですね」
「そういうことです。大体です」
「大体?」
「クロゴケグモってそんなに暑い場所にはいませんから」
「そもそも温暖化とは影響がありませんか」
「はい、ありません」
 その主張の根拠は甚だ怪しい温暖化ともだ。そもそも関係ないというのだ。
「そもそもがです」
「そうだったのですね」
「そうです。これは多分」
「多分?」
「木材やそういうのを輸出する時に紛れ込んだのでしょう」
 医者はそれで日本に来たのではないかというのだ。
「時々そういうことがあります」
「紛れ込んで、ですか」
「他には蠍も紛れ込んだりします」
「それって滅茶苦茶危ないですよね」
「危ないですよ。まあ貿易は欠かせないものですけれど」
「それでも。こうしたことがあったりするんですね」
「だから気をつけて下さいね」
 くれぐれもという。医者の言葉だった。
「本当に危ないですから」
「そうですね。いや、本当に今回は」
「死ぬかと思いましたか」
「タランチュラに刺されたかって思いました」
「あの蜘蛛はタランチュラよりずっと危ないですから」
 タランチュラは噛まれた場所が痛いだけだ。しかしクロゴケグモは死んでしまう。その違いはそれこそ天と地程違っているのだ。
「ずっと危ないですから」
「ううん、そうだったんですね」
「助かってよかったですね」
 こう話してだ。医者は笑顔で彼に言った。
 
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