毒蜘蛛
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1部分:第一章
第一章
毒蜘蛛
ネットでだ。こんな話があった。
アメリカにいる毒蜘蛛の話だ。その蜘蛛は。
黒くかなり小さい。しかしその毒はだ。
噛まれれば死ぬ、あまりにも強烈な猛毒を持っているのだ。実際にアメリカでは噛まれてかなりの人間が死んでいる。それでついた名前は。
「ブラックウィドースパイダー。つまり」
日本語に訳すとだ。その名前は。
「クロゴケグモか」
そういう名前になるのだった。実に不吉な名前だ。
彼。日隈歩はネットでその蜘蛛の話をたまたま見てだ。恐怖を覚えた。
そしてだ。つくづくこう思ったのだった。
「日本にいてよかったな」
その蜘蛛はアメリカにはいない。だからだ。
そのことに神様と仏様、ついでにイエス様に深く感謝したのだ。彼の家は浄土真宗の寺でしかも跡取り息子だがそれでもあちこちに感謝するのだった。
日本に生まれていることに感謝して。それでその日は終わった。しかしだ。
次の日学校でそのことを皆に明るく話す。すると友人の一人がこう言うのだった。
「まああれだよ」
「あれって?」
「日本にいなくてもアメリカにいるからな」
それでだというのだ。
「行った時は気をつけろよ」
「ああ、アメリカには行かないからな」
これが彼の返答だった。
「行かなければ問題ないだろ」
「まあそうだけれどな」
その友人もだ。歩のその主張は正論だと答えた。
「それはその通りだよ」
「何だよアメリカって。そんな物騒な虫がいるのかよ」
「蜘蛛は昆虫じゃねえぞ」
「似たようなものだろ。しかも他にもいるよな」
「毒蛇もいれば蠍もいたしでかい熊や鰐にピューマとかもいたな」
「思いきり危険じゃねえか」
実はアメリカの自然は中々ワイルドだ。色々な猛獣や毒を持っている生き物がいるのだ。
そのアメリカの自然についてだ。歩はドン引きしながら言う。
「誰がそんな国に行くかよ」
「ニューヨークとかロスにもかよ」
「ああした街はああした街で危険じゃねえかよ」
その治安の話だった。今度は。
「銃が一杯だよな」
「アメリカだからな」
「それじゃあ南アフリカと変わりないだろ」
「流石にあそこまで物騒じゃねえぞ」
南アフリカを知る者は言う。あの国はまさに世紀末救世主の国だとだ。もヒカンがバイクで走り回っているのを見たという者すらいる。
「アメリカはな」
「そうなのか?」
「南アフリカって凄いぞ」
問題はだ。どう凄いのかだ。
「ヨハネスブルグで検索してみろ」
「ああ、それじゃあな」
歩は彼の言葉に応えてすぐに携帯を取り出した。それで検索してだ。
出て来たのは。恐ろしい話であった。歩はそれを見てもドン引きだった。
「恐ろしい国っていうか街だな」
「どうだ、世紀末だろ」
「地震が起こった後の関東みたいだな」
この場合は二つのパターンがあった。
「ナタみたいなジャックナイフ持ってる大男がいるか魔界都市か」
「そういう感じだろ」
「しかもバケモノみたいにでかい鼠もいるのかよ」
この鼠がだ。これまた問題だった。
「人間の子供襲って食うのか」
「なっ、凄いだろ」
「こんな世界にいたら生きていられねえな」
少なくとも平和に慣れた日本の高校生では無理だった。おそらく普通の国で暮らしている人間ならば誰でもであろう。その域にまで達していた。
「この国にはな」
「っていうか内戦状態か?」
「いや、戦争にはなってないぞ」
少なくともだ。そこまでは至っていないのだ。
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